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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第3章 よくわからないけど子供を拾ってみた

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(9)緑の石、三日目

 ログはシーツを洗いながら、日に日に濃くなる霧に不気味さを感じていた。ログがこの小屋に来たときに比べると明らかに霧が濃く、遠くの道は見えない。

 とはいえ、時間を掛けていても仕方がない。夜の営みで激しく汚れたシーツを丁寧に洗うと、ログはシーツを干すために小屋の裏手に回った。

 そこでログはアクアを見た。物干し台よりも離れた場所で、剣を振っている。

 いつもなら、この時間は部屋で仮眠を取っているはずだから意外だった。

 ログはすぐにシーツを竿に干して、アクアの元に向かった。


 アクアは敵と戦っているような動きで剣を振っていた。うかつに近づけば切り刻まれそうだ。まるで演舞のように、なめらかに動き、剣を振る。下から振り上げたかと思えば、すぐに横に飛び、水平に切る。ひとしきり剣を振ってからアクアはログを見た。

「剣の練習?」

「昨日は徹夜じゃなかったからな。眠くないんだ。暇つぶしさ」

 ログはそんなアクアを見て目を輝かせた。ログは剣に悩んでいた。もっと強くなりたいのに、思ったほど腕が上がっていない気がする。

「じゃあ、僕にも剣の修行をつけてよ」

 ログが言うと、アクアは肩をすくめた。

「やめとけ。今だから言うが、私はもともとおまえに教えるような剣術を持っていなかったし、剣の修行方法なんて知らなかったよ。何しろ私は目で見て剣を模倣しながら覚えた口だからな」

 四年前、ログはアクアの剣術の弟子になった。だが、アクアの修行でログの剣術が向上したかと言えば微妙だった。

「目で見ただけ?」

「ああ。騎士たちの剣を見よう見まねで覚えて、それから冒険者たちにくっついていって奴らの剣術を盗んだ。私は技を体になじませるのが早いほうでな。ある程度練習すれば使いこなせるようになるのさ」

 それは普通ではあり得ないことだろう。見ることと実際に行動することは違うのだから。見ただけで身につくというのなら、それはよほど優れた剣術のセンスを持っていることになる。

 アクアは続けた。

「だが、それだけじゃやっぱり限界は来てね。一昨年、正式に剣の修行をやり直したところさ。今のはその時私に向いている練習法だと言って教わったものだよ。まぁ、おまえにゃ無理だ」

 ログは食い下がった。

「なんで無理なのさ。できるかも知れないじゃないか」

「無理なものは無理。今は二人の敵を仮想し、二人同時に切る事を目的とした訓練だぜ。過去に戦った相手の動きを正確に覚えていないといけないし、狙い通りに剣をコントロールできる自力がないといけない。そして動きがなめらかに繋がるように、客観的に自分の動きを捕捉する視点も必要だ。これらが全部できていないと、ただのごっこ遊びになっちまう。私に向いていると言っただろ。私に教えた人はすごく優秀でな。私の戦い方を見せたら私に合う訓練法をいろいろ考えてくれたのさ」

 アクアが小屋に戻ろうとしたので、ログは先に小屋に戻って置いてあった剣を持ち、すぐに小屋を出た。

「僕の剣を見て」

 ログは剣を前に構えた。アクアは少し後ろに下がった。

「ま、斬りかかってきてみろ」

 アクアは笑いながら言う。ログは剣を大きく振りかぶった。その途端首元にアクアの剣が置かれた。

「終わりだな」

 ログには全く見えなかった。アクアは剣を構えていなかったのだ。それなのに先にログの首に剣を当ててしまった。

 ログは剣を下げた。

 アクアはそのまま小屋に戻っていった。


 ログはその後、夢中で剣を振り続けた。

 悔しいと思った。なぜ強くなれない。

 さっきのアクアの行動で過去を思い出した。昔、父親にも似たようなことをされたのである。剣を早く動かせないのは、余計な力をかけているからだと言われた。だがログには理解できなかった。


 ログがずっと素振りを続けていると、小屋から声がかかった。

「おい、弁当を作ったぞ。持っていけ」

 ログが振り返ると、アクアが小屋から顔を出してバスケットを持っている。

「わかった」

 ログは剣を置いて、バスケットを受け取り、そのまま鉱山の方に向かった。


 ログが鉱山に着いたとき、まだバレルたちは岩を砕いていた。

「昼食を持ってきました」

 ログが声をかけると、彼らは手を休めて戻ってくる。

 ログは絞った布を彼らに渡した。

「おう、ご苦労だな。坊主。おまえ汗だくじゃねぇか。もしかして昼間っからアクアとやっていたのか」

 バレルが言うと、他の三人は不満そうな顔をした。

「違いますよ。素振りをしていたんです」

「ん。そうか。アクアはおまえの師匠だっけ。剣の師匠って事か」

 バレルが言う。

「そうなんですけど、今回は修行をつけてくれなくて。雑用ばかりやらされてます。仕方がないので、一人で剣を振っていたんです」

 彼らは座ってバスケットを開けた。

「そうそう。これだ。おまえら夕食も期待しておけ。アクアは料理がうまいんだ」

「じゃあ、僕は戻ります」

「ああ、ご苦労さん」

 ログは、嬉々としながら昼食を取っている彼らと別れ、小屋に戻った。


 ログが小屋に戻るとアクアは椅子にだらしなく座っていた。

「戻ったよ」

「ん、ご苦労さん」

 アクアは立ち上がった。

「今日辺りキャロンが来るはずだから。キャロンが来たら、あの石を渡してくれ。私は買い出しに行ってくる」

「買い出しなら僕が行くけど」

 ログが言うと、アクアは笑った。

「おまえの足で街まで往復してたら日が暮れちまうよ。それとも抱いて連れて行って欲しいか」

 ログはむっとしたが、事実でもある。以前ログはアクアにおんぶされて運ばれたことがある。とても常人とは思えない速度でアクアは走った。

 それなりに成長しているログでも、アクアほど早く走れるとは思えない。

「そうふてくされた顔をするな。まだ少し時間はあるし、こんな固いもの見せられたらまずは食いたくなるな」

 アクアがいきなりログの○○を触る。

 そして、ログが望んでいた、アクアの悪ふざけが始まった。


 しかし、その戯れは突如中断された。

「まったく、昼間から男を連れ込んでいるとはな。お仕置きしてやる」

「や、やめ」

 アクアの背後から忍び寄った誰かが、アクアに○○をし始めたのである。ログはそれを呆然と見ていた。


 その相手はキャロンだった。キャロンに弄ばれて、一気に失神させられたアクアだったが、すぐに回復する。

「ったく、いきなりはやめろ、いきなりは」

「あんたが遊びほうけているからだ。私やベアトリスばかりに働かせて」

「それは言いがかりだって。おまえもベアトリスもひでぇな。適材適所だよ。おまえらは料理なんて作れないんだから、おもてなし係は私が向いているだろ。おまえらは○○も嫌だって言ったじゃねぇか」

「だからといって一日中遊んでいるのを見るのは腹が立つ」


 二人は言い合いを続ける。ログはおずおずと口を挟んだ。

「あの、キャロン。久しぶりです」

「ん?」

 すると、キャロンはログを見て眉を寄せた。

「どこかで会ったか?」

 アクアが助け船を出す。

「ログだよ。覚えているだろ」

 しかしキャロンはまた考える。

「ログ?」

 キャロンの態度に、ログは傷ついた。まさか完全に忘れ去っているとは。

「ほら、昔この町の近くで兄妹を拾っただろ」

 アクアがそこまで言うと、やっとキャロンは思い出した。

「ああ、オウナイ一味の時か。懐かしいな。そういえばモンテスと関わるようになったのもあのときからか」

「忘れっぽい奴だな。あのときは毎晩さんざん○○しまくったじゃねぇか」

「○○した相手をいちいち覚えているわけじゃないしな。そもそもログと、その妹は確かおまえとベアトリスの弟子になったんだろ。私はそれほど関わっていない。思い出してきた。あのときも私ばかりに働かせてあんたらは遊びほうけていたんだっけな」

「遊んでねぇよ。修行をつけていたっての」

「修行の中身はろくなものじゃなかっただろ」

 そしてキャロンは床に脱ぎ捨てられていた服を着け始めた。ログも服を着る。

 アクアはビキニアーマーを手につかんだまま裏口に向かった。

「結構貯まったぜ。見てくれ」

「ああ」

 キャロンがアクアの後に付いていった。ログもそのまま追いかけた。

 キャロンはワゴンに積んである緑色の鉱石を見ていた。アクアがビキニアーマーを身につけながら言う。

「奥のが一昨日で、手前のが昨日の分だな」

「なかなかのもんだな。昨日の方が少し少ないか」

「二人ほど帰っちまったからな。ベアトリスから聞いていないのか」

「昨日はベアトリスとは会っていない。あいつもたまにサボるからな」

「ああ、昨日の午後はログとずっと○○していたし、あまり鉱石を集められなかったんじゃねぇの」

「まったく、あんたといい、ベアトリスといい」

 キャロンはため息をつく。

「さて、やるか」

 キャロンは口の中で呪文を唱えた。そして緑色の鉱石に向かって手をかざす。みるみる緑色の鉱石は形を崩していった。砂のようになった鉱石の中に、深緑の石だけが残った。

 キャロンはログを見て袋を投げつけ。ログは慌ててそれを受け取る。

「男がいてちょうど良かった。ログ。その袋にあの緑の石を集めて入れろ」

 ログは不満だったが、仕方がなくワゴンの中を探って、緑の石を集めた。緑の石は少し柔らかい感じがする。

 二つのワゴンを探って全ての緑の石を集めると、袋はいっぱいになった。

「これでいい?」

 ログはキャロンに袋を渡した。

「ああ、上出来だ」

 キャロンは袋を手にとって重さを確かめる。そしてアクアを見た。

「アクア、今回の分で足りそうだ。今日で終わりにしていい」

「そうか。そろそろこの生活にも飽きてきたところだしな。ちょうど良かったぜ」

「差し入れが無駄になったな」

 キャロンが言う。

「差し入れ?」

「あんたが買い出しに行く手間を省いてやろうと、食材を買ってきてやったんだよ。入り口に置いてある」

「気が利くじゃねぇか。どのみちこの小屋を片付けていくから、明日で終わりってわけにもいかないしな。むしろ丁度良いさ。いや、余るかな。どうせならキャロンも食ってけよ。夜の相手もよりどりみどりだぜ」

 キャロンは首をすくめる。

「えらく魅力的な提案だ。あんたの料理と男か。だが、やることも多い。今夜辺りはベアトリスも鉱石を届けに来るだろうし、あんたの依頼を取り下げなくちゃいけない。とっととこの仕事も終わらせたいしな」

「ま、気が変わったらいつでも来てくれ」

 アクアが言う。するとキャロンはすぐに裏口から家に入っていった。

 アクアがログを見て言った。

「ワゴンの中を空にして洗っておけ」

 そしてアクアもキャロンに続いた。

 ログは言われた通り、ワゴンを片付け始めた。


 ログの胸にはもやもやしたものがあった。それはアクアの仕事が今夜で終わってしまうということだった。

 ログはアクアとこの先もずっと一緒にいたいと思っていた。アクアがソロなら可能性はあったが、いつもの三人で行動しているのなら拒否されるかもしれない。

 ログが小屋に入ると、アクアは料理の下ごしらえを始めていた。

「ログ。そっちの余った野菜をしまっておけ。今夜はちょっとばかり豪華にするぞ」

 ログがアクアと二人きりでいられる時間は残り少ない。明日の朝の便でバレルと共に追い返される事だってあり得る。

「アクア、あの石はなんなの?」

 ログは野菜を片付けながら尋ねた。

「知らねぇよ。キャロンならわかるんだろうけどな」

「なんか柔らかくて、不思議な石だった」

 ログは感想を言う。

「特殊な石みたいだぜ。女が触ると質が落ちるんだとよ」

 ログはちょっと驚く。

「それ、どういうこと?」

「知らねぇって。とにかく女は触っちゃいけない石なんだとよ。キャロンでもダメみたいだぞ。あの袋に入れないと、質が悪くなるんだとさ。あの袋はベアトリスの魔法が組み込んであるんでな」

 ログはやっと理解できた。そもそも鉱石の発掘など、アクアが本気を出せば一瞬で終わるだろう。それなのに、自分でやらなかったのは男の力が必要だったからだ。

「でも、もうこの仕事は終わりみたいだね」

 ログは言葉を続ける。。

「そうだな。今晩が最後になりそうだ。最高の夜にしないとな」

 アクアは嬉しそうに言った。夜の○○パーティを待ち望んでいるんだろう。昨日の夜はあまり満足していないようだった。

「アクアたちはずっとこの町で仕事をしているの?」

「私たちの拠点はグレスタじゃねぇよ。この仕事が終わればとっとと帰るさ」

 ログは少し落胆した。もしここが拠点なら、ログもここを拠点にしようと思っていたからだ。ログが続けて話しかけようとしたところで、アクアが言った。

「おっとおしゃべりはここまでだ。暗くなる前に。布団を取り込め。まだ干しっぱなしだろう」

 ログは渋々布団を取りにいった。


 ログは作業を終えてからまた台所に戻った。アクアの料理はもうできたみたいだ。肉と野菜のソース煮込みのようだ。

「あの、アクア」

 ガタン。

 ログが話しかけようとしたとき、外で音がした。

「おや、もう帰ってきたか。早すぎじゃねぇか。まぁ、十分に鉱石は集まったからいいんだけどな」

 アクアが歩いて行き、扉を開けるとすぐに男たちが現れた。

「戻ったぞ。アクア」

 バレルである。アクアが少し笑いながら答えた。

「ちょっと早すぎじゃないか。ペナルティだぜ」

 しかしバレルも不敵に笑った。

「それはちゃんと見てから言ってもらおうか」

 そしてバレルは裏手に回っていった。アクアも扉を閉じて、裏口から小屋を出た。ログも当然ついていった。

 バレルはワゴンの横に立っていた。そしてそのワゴンには緑色の鉱石が山のように積まれていた。

「もうこれ以上詰めないからな。切り上げてきたのさ」

 アクアは呆れた顔をする。

「夜の力を残しておけと言っただろう。そんなに頑張って採掘してどうする」

「ふっ、安心しろ」

 そしてバレルの後ろの男たちも前に出てきた。そして胸を張る。

「体力なら俺たちはまだ十分に有り余っているぜ」

 確かに一日中働いたというのにバレルたちはそれほど疲れている様子ではない。バレルが種明かしをした。

「こいつらは俺の古い知り合いでタブ、ペール、バケット。元採掘工だ。冒険者じゃねぇのさ。そして俺も採掘は三度目だ。もうすっかり慣れちまったよ」

 一人の男が前に出る。

「俺がガキの頃はこれ二つ分を一日で掘らされたぜ。冒険者にはきつい仕事かも知れねぇが、俺たちにとっちゃたやすい作業さ」

 アクアが感心する。

「なるほどな。本当は私も工夫を雇いたかったんだ。でも、もうそういうギルドも無くてな。仕方がなく冒険者の宿を頼ったのさ。初めからおまえたちにたどり着いていれば、もっと早く仕事が終わったかもな。だが、冒険者じゃないとなると、この仕事を受けるのは問題じゃないか」

「今日のためだけに冒険者登録したぜ。これが終わったらやめるけどな。多分若手では俺たちが最後の採掘工だぜ。引退した年寄りはたくさんいるだろうけどよ」

 男たちは元気そうに答えた。

「実はこの仕事は今日でおしまいだ。バレルも今までご苦労だったな。さすがに三回も来た奴はおまえだけだよ」

「二回目の時は覚えてもらえてなかったからな。悔しいからまた来たのさ。最後に間に合って良かったぜ」

 アクアがバレルの肩を叩く。

「それなら今夜はめいっぱいご褒美を上げなくちゃな。しっかり食べて体力をつけな。いつもと違ってまだ時間も早い。水浴びでもしてきたらどうだ。私はうまい料理の仕上げといこう」

「それなら言葉に甘えさせてもらうぜ。まぁ、夜は夜で汗だくになるだろうがな」

 彼らはすぐに湖の方に行ってしまった。

「さて、私もやるとするか」

 アクアは楽しそうに言いながら小屋に戻っていった。ログは取り残されて一人寂しそうにアクアを見ていた。


 夜の宴は、今までにないほど立派で、そしてその夜の騒ぎも最高潮だった。

 ログはただそれを見ながら眠れぬ夜を過ごした。

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