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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(32)美女達の悪のり

 マリアが出て行くと、エドワード王子は椅子に座ろうとして慌てて振り返る。すぐに側近により変わりの椅子が運ばれてきた。先ほどの椅子に比べて非常に安っぽい。


 エドワード王子は中央に立つ冒険者達に言った。

「何でも、と言ったな。ではその場で裸踊りでもしてもらおうか」

 エドワード王子がにやりと笑う。

「あら、そんなことで良いの?」

 ベアトリスが言うと、すかさずキャロンが言った。

「その前に決めておこう。いくら分働かせるつもりだ?」

「一億ゴールドだな」

 エドワード王子が答える。しかしキャロンは言い返した。

「悪いがあの椅子にはそれほどの価値はない。せいぜい一千万ゴールドだろう。まぁ、五千万ゴールドにまけといてやるか」

 エドワード王子が足を踏みならす。

「私が一億と言えば一億だ」


 しかしキャロンは鼻で笑う。

「まだわかっていないのか。ふっかけようとしても無駄だと言っただろう」

 そしてまた人差し指を上に向けその先から火花を散らせる。

「どうしてもというのなら、一億になるくらい先に壊させてもらうか」


「き、貴様!」

 エドワード王子が叫ぶ。

「きっと、まだ私達の力がわかっていないのね。こんなこともできちゃうのに」

 ベアトリスが指をパチンと鳴らすと、三人を囲うように立っていた近衛隊達がその場に倒れた。

「なんだと!」

 ジェイムズ総長が叫ぶ。精鋭達があっさりと無力化されてしまう。


 キャロンがアクアに言う。

「あんたはやるなよ。また被害が大きくなる」

「だから、椅子壊したのはおまえだろ」

 アクアは文句を言う。


「何をした」

 ジェイムズ総長はベアトリスをにらむ。周りにいた近衛隊達が倒れた近衛隊に駆け寄った。

「ちょっと眠ってもらっただけよ。だって、あんまり側にいるから、ね」

 ベアトリスが答える。


 キャロンはエドワード王子を見た。

「それで、どっちにする。一億分私達が壊すのか、五千万で手を打つのか。好きに選べ」

 エドワード王子は唇をかみしめて三人をにらんだ。

「五千万で手を打ってやろう。その代わり、ただで返せると思うな」

 ベアトリスが笑う。

「じゃあ、まずは裸踊りだったかしら。いくらもらえるのかしらね」

「そいつは金額次第じゃねぇか。高ければその分サービスしてやるぜ」

 アクアが胸を振る。


 エドワード王子は言う。

「いや、その程度じゃ気が済まん。吠え面をかかせてやる。やらせることが決まったらすぐに呼び出すからそのつもりでいろ」

「じゃあ、この建物に泊めさせろよ。命令し放題だぜ。いつでもどこでも相手してやるぜ」

 アクアが挑発的に言う。

「良いだろう。バーナード、準備をしろ。当分こいつらを飼い殺すぞ」

 そこでキャロンが釘を刺した。

「どんな依頼でも受けるが、殺しだけは受けない。これは冒険者の共通ルールだ。いくら王族でも従ってもらう」

「ふん、そんなつまらぬ真似などさせんさ」

 エドワード王子は言った。そしてこの異例の謁見式は終わりとなった。



 まずエドワード王子は、王宮の掃除や納屋の整理など、大量の雑用仕事を押しつけた。

 当然一日では無理な量を押しつけてくるが、キャロンが交渉無しに受け入れるわけがない。金額をつり上げて、妥協できるところで受ける。

 本来、冒険者の仕事なんて雑用仕事ばかりである。だからエドワード王子の依頼程度は大したものではない。三人はある程度手を抜きながら魔法も活用して、手分けをしながら期限内までにさっさと仕事を片付けた。


「こういった、仕事も新鮮だな」

 キャロンが言うとベアトリスがジト目で見た。

「何言っているのよ。E級の仕事なんてこんなのばっかりじゃない。私からしてみたら懐かしいわよ」

 するとキャロンは考えるように言う。

「うーん、私はその頃から仕事を選んでいたからな」

「私もやったことはあるな。まぁ、だいたい怒られて終わったけどよ」

 アクアもあっけらかんと言う。


 エドワード王子は嫌がる仕事を与えようと頭をひねっていたが、三人は無理な事であれば無理とはっきり断る一方で、誰でも嫌がるような汚い作業でも、かなりの労力を使うような疲れる作業でも平然とこなしてしまう。


 あるときエドワード王子が彼女たちを呼びつけて言う。

「宝石で飾られた椅子を作成しろ。おまえが壊した物以上のな。期限は明日までだ」

 エドワード王子がにやついていると、キャロンはぴしゃりと言う。

「そんな物は職人に作らせろ。冒険者の仕事じゃない」

 すると、エドワード王子は嬉しそうに笑った。

「できないのか。何でもすると言っただろう。契約違反だな」

「おまえは馬鹿なのか」

 キャロンが平然と言う。エドワード王子は立ち上がった。

「何だと貴様!」

「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い。椅子の作成など職人の仕事だ。そんなものを冒険者に依頼する馬鹿はどこにもいない。作成に使う宝石を集めてくるというのならわかるが、作成しろという奴は馬鹿としか言いようがない。馬鹿王子の依頼は受けられないな」

 キャロンが答えると、ベアトリスやアクアも続く。

「冒険者に椅子作りを依頼するって? 笑える。それじゃ、椅子作りの職人なんていなくて良いわよね。全部冒険者で足りちゃうわ」

「あったま悪いんじゃねぇの」


「私を侮辱して許されると思っているのか!」

 エドワード王子は腰の剣を抜いた。その瞬間アクアが手で剣を打ち付け、エドワード王子の剣が吹き飛ぶ。

「おまえみたいな素人が剣を振り回しても怖くなんてないんだよ。それとも私達に剣の修行でもつけて欲しいのか。それなら依頼を受けるぜ」

 エドワード王子は歯をむき出しにしてにらみつけた。

 キャロンがアクアを押しのける。

「まだたっぷり借金は残っている。好きな依頼をしろ。まともな奴を頼むぞ」


 その後に依頼を受けたのは王宮に出る鼠を退治することだった。それなりの金をふんだくり、早速退治に向かう。とはいえ、やり方は難しくない。

「ベアトリス。どうだ。見つけたか」

 ベアトリスは厨房の壁に手を当て、呪文を唱えていた。そして顔を上げる。

「いたわよ。キャロン。今範囲を絞り込んでいる」

 そして少しすると、壁の隙間から追い出されるように二匹の鼠が出てきた。見えない壁に囲まれて動けないようだ。

 アクアが言う。

「それで、こいつらをどうするんだ」

「退治はベアトリスに任せるさ。私はこいつらを使って、探知を行う」

「前に言っていたオリジナル魔法って奴か」

「ああ、同類を探すのに役立つように作った奴だ。ベアトリスのように魔力を察知するのは私には無理だからな」

 キャロンは鼠に手をかざす。そして呪文を唱えた。

「これで、この鼠の魔力タイプを覚えた。もういいぞ、ベアトリス」

「じゃあ、可哀相だけど。お仲間に毒をばらまいてもらおうかしら」

 ベアトリスが手を伸ばして鼠の一匹の首に指を当てる。そしてすぐに解放した。

「バイバイ」

 それから二日以内に鼠は全滅した。



 エドワード王子は無理難題を考えていたが、結局アンダーソン侯爵を呼び出して丸投げした。

 アンダーソン侯爵は苦悩した。初めはエドワード王子のように3K仕事を依頼したものの、別に嫌がる素振りもなく片付ける。仕方がないので、雑用を申しつけると、今度は使用人達の仕事がなくなり、彼らから不平が出る。

 しかも、冒険者達はいちいち金銭を確認してくるので使うのも面倒くさい。


 一週間頑張ったが、もうやらせることを考えることの方が苦痛だった。伯爵は処罰されることを覚悟でエドワード王子に泣きついた。

「この無能が」

 エドワード王子はアンダーソン侯爵に文句を言ったが、処罰することはなかった。それよりも気になることがあったのだ。


「アンダーソン。仕事をしていないときのあいつらは何をしている?」

「何と申しましても、自由に過ごしているようですが」

 エドワード王子は舌打ちした。

「どうにも、最近、仕事もせずに浮ついた奴が多いな! あいつらがうろついているせいじゃないのか!」



 それは当然だった。そもそも三人の目的は貴族達を籠絡することだ。与えられた仕事はさっさと済ませ、空いた時間を貴族達の誘惑に使っていた。

 三人が王宮に住んでいれば、その美貌に邪な考えを持つものが当然いる。むしろそういう考えの者の方が多い。それこそが彼女たちの狙いだった。


 忍び込んできたメイドやお抱え騎士など、手近なところから食い始め、今では侯爵や公爵夫人まで手を出している。


 アクアは毎晩のように様々な貴族の部屋に押しかけて、好色な貴族達を手玉にとって遊び尽くす。もともと性にだらしない貴族達であるが、貪欲で、好色で、淫乱なアクアの○○に毎日搾り尽くされた。彼らは毎日青白い顔を見せながら、また夜に出会えるであろうアクアの体を思い浮かべるのだ。


 ベアトリスは若い貴族達の心を次々と奪っていった。認識を阻害する魔法を使っているので、ベアトリスが複数人と同時に付き合っているなど誰も思わない。彼らはベアトリスの優しさに触れ、ベアトリスの○○テクニックに触れ、執務もおろそかになるほどベアトリスに溺れていった。彼らは全員自分だけがベアトリスに愛されていると信じて疑っていなかった。


 キャロンは毎日必ず一人か二人を口説いて夜に誘っていた。結構手当たり次第で、身分の上下は気にしなかった。甘い言葉に誘われてベッドを共にした者たちは次の日には生きる屍になり、一日中身動きが取れなくなった。中には数日寝込むものもいた。しかし、誰一人として、キャロンとの夜のことを口外する人はいなかった。



 結果、ベアトリスに虜になりふぬけになる者、アクアとの逢瀬でまともに仕事ができないくらい消耗させられる者、キャロンに誘われたせいで人格崩壊が起こった者などが多数生まれる。


 噂が広がってくると、爵位のある貴族は、三人を呼びつけるようになった。

 平民の冒険者など、いつも通りもて遊んで捨てれば良いと考えていたからだ。今までも多くの若い平民女性を連れ込んでは、無抵抗になるまで追い詰めた上で、ぼろぼろにして捨ててきた。


 しかし、それが更に事態を悪化させた。三人は高位の貴族達であっても、素直に命令に従うようなことはなかった。結局○○の主導権を奪われた高位の貴族達は、心ならずも自らの隠された性癖を開拓され、自分の方がぼろぼろにされていくのだった。



 ある日、久しぶりに三人はエドワード王子に呼び出された。

「最近は、仕事の依頼が少なくて困る。まだ借金は残っているんだ。いくらでも仕事を申しつけてくれ」

 キャロンは控えもせず、ぶっきらぼうに言った。

「本当ね。やりがいがなくて困っちゃう」

 ベアトリスも続けた。

「私は楽しんでいるからこのままでも良いけどな」

 アクアだけが内情を暴露していた。


 エドワード王子は鼻で笑った。

「相変わらず生意気な女どもだな。聞いたぞ。おまえ達、どうやら盛大に男達を手玉に取っているようだな」

 ベアトリスがしなを作ってウインクする。

「フリーの時間は恋愛タイムよ。王子様も、どうかしら」

 するとすかさずキャロンが言った。

「やめとけ。あの程度の奴は大したものは持っていない。他にもっといいものを持っている奴らがいる」

 エドワードは立ち上がった。

「何だと、貴様ら。私を馬鹿にするつもりか!」

 アクアが言った。

「虚勢を張るのは止めた方がいいぜ。まぁ、望むならかわいがってやるよ。あんた一人じゃ全然もの足りないがな」

 エドワード王子の頭に血が上る。

「貴様ら、許さんぞ! 私を馬鹿にした人間が生きてここから出られると思うな!」


 キャロンが笑いながら応えた。

「それは申し訳ない。お詫びに今夜は私達三人で王子の言いなりになろうじゃないか。あんた以外の貴族達は私達の体をさんざん味わったんだぞ。あんたも、私達を屈服させたいだろう」

 エドワード王子はキャロンをにらみつける。

「言ってくれるな。二度と表に出られないようにしてやる」


 もちろんエドワード王子も初めから彼女たちの体に目をつけていた。無理難題で根を上げた彼女たちを自分の○○奴隷にしようと企んでいたのだ。しかし、彼女たちは全く根を上げることもなく、むしろ、他の貴族達と夜を楽しんでいるようだった。

 自分だけが、彼女たちを手に入れていない。エドワード王子の自尊心は大いに傷ついていた。だから、今夜は彼女たちを奴隷のように扱い、自分の欲望を満足させようと意気込んでいた。

 エドワード王子は配下の男女を侍らせ、更に自分は精力剤を飲んで準備万端の状態で夜に挑んだ。


 そこで何が起こったのかは誰も知らない。

 一緒に参加させられた騎士達、女性貴族令嬢達は、その夜のことを一切口にすることは無かった。



 次の朝、エドワード王子は執務を行わなかった。ベッドから出ずに一日中を過ごした。


 更に三日間。エドワード王子は表舞台に姿を現さなかった。

 その間、美女戦士三人は貴族達を思う存分弄んだ。執務は滞り、王都ダグリシアの貴族街は混乱に陥った。


 王宮では緊急会議が開かれた。議題は王宮に住み着いた厄介な冒険者達をどうするか。しかし、会議はなかなか進まない。皆一度以上は彼女たちと楽しい夜を過ごしている。なかなか先陣を切った意見が出せない。

 最終的に、エドワード王子にゆだねられた。

 執務から逃げていたエドワード王子も、このままではいけないと、心に決めた。



 再度、三人が呼び出される。

 前に立つエドワード王子は以前のように横柄ではいられない。むしろ恐怖の視線で三人を見ている。


 キャロンはすっとぼけて聞く。

「今日はどんな依頼だ。まだほとんど返済が終わっていないしな。良い仕事を期待したいところだ」

 エドワード王子が叫ぶように言った。

「全て終わりだ。もうおまえ達は解放する。とっとと出て行け!」


 周りの貴族達もエドワード王子の言葉に力をもらった。このまま出て行ってもらえれば、また平穏な一日がよみがえるからだ。初めは楽しかった彼女たちとの逢瀬も、もはや災厄と言える様相を呈している。

 しかし、キャロンは悪い笑みを浮かべた。

「それはダメだ。私達は冒険者だ。金の分だけしっかり働く。五千万ゴールドのうち。現在の所、一万一千九十七ゴールドしか返済していない。まだまだ、ここで仕事をしなくてはならないな。私達B級冒険者の沽券に関わる」


 謁見の間に、静寂が訪れる。五千万のうち、まだ彼女たちは一万少ししか返済していないことになる。このままだと数十年は居座る可能性がある。

 アクアが口を開いた。

「だからよ。早く依頼をしてくれよ。そういえば、毎日、飯食わせてもらっているよな。その分は借金にしておくか?」

 貴族の中で悲鳴が上がる。

「そういえばそうだな。部屋も借りているし、その分も差し引く必要があるか」

 キャロンもつぶやく。


 エドワード王子は大声で言い渡した。

「借金など無い。もう、おまえ達は全てを返し終えた。さっさとここを立ち去れ。これは命令だ!」

 しかしそんな大雑把な発言でキャロンがひるむことはない。

「計算がおかしいな。そんなことでは、私達も納得できないぞ。仕方がない。だったら今までの仕事が安すぎたことにしておいてやろう。実際にかなり値切られたような気もするしな。よし、提示価格の五千倍が正規の価格だったことにしてやるが、それでどうだ」

 実際にはキャロンはそのつど交渉していたので値切られたことはない。むしろがめつく奪い取ったから、たった一月で一万ゴールド以上の収入という計算になっているのである。もちろん先ほど言った滞在費や食費が含まれていないので、かなり暴利をむさぼっている。

「それでいい、さっさと出て行け!」

 エドワード王子は応じた。三人は顔を合わせて笑う。


 ベアトリスが応えた。

「わかったわ。B級冒険者として、その提案に応じましょう。すなわち、私達の今回の仕事の報酬は一万一千九十七ゴールドの五千倍である、五千五百四十八万五千ゴールドね」

 アクアが続ける。

「そこから五千ゴールドは差し引いてやるからよ。五百四十八万五千ゴールドを支払ってもらおうか」


 辺りが静まった。

「貴様。ふざけるな!」

 エドワード王子が怒声を浴びせる。しかしキャロンは平然と言い放つ。

「あんたが言ったんだ。五千倍で良いのだろう。報酬を支払ってもらおう」

 三人は胸を張ってエドワード王子の前に立つ。彼女たちの実力はすでに知れ渡っている。強引に追い出すことは難しかった。

 しかし彼らもこんな傲慢な話を受け入れることはできない。


 キャロンが人差し指を立たせる。

「もう一度借金でも作ろうか?」

 指先に火花が生まれた。

 その場にいた全員が息をのむ。

「止めろ!」

 エドワード王子が言う。そして三人の美女をじっとにらみつけた。


 長い沈黙の後、とうとうエドワード王子は応えた。

「払おう・・・」


 そしてその場は解散となった。


※※


 マリアは、エドワード王子との謁見の後も今まで通り第一近衛隊副長としての仕事をこなしていた。本来ならもう辞めているはずなのだが、その後のドタバタでジェイムズ総長に会うことができず、延び延びになっている。

 本来であれば、新所属の近衛隊が来る前に辞めたかったのだが、それもかないそうにない。新所属の近衛隊が来ると副長として挨拶しなくてはいけないので、辞めにくい。


 マリアは、とりあえず、近衛隊員とケネスについては、恩赦を依頼してくれるようにお願いした。別に彼らを好ましく思っているわけではないが、だからといって、処刑されるほどのこととは思わなかった。


 マリアは冒険者達を訓練場に連れて行ったとき、逃げた近衛隊がいたことを思い出し、彼に話を聞いた。結果、マリアの予想通りだった。彼はアクアと面識があり、かなりひどい目に遭ったらしい。そして隣の部屋のアンドリューにも話を聞いた。彼はばつが悪そうに、ベアトリスを宿舎に招いたことを白状した。


 とはいえ、マリアは二人を罰するつもりはない。そもそも自分自身がかなり彼女たちに毒されている。


 王宮の風紀は彼女たちのせいでかなり乱れているようだ。

 マリアは我関せずという態度を取っているが、近衛隊の中でも話題に上っている。近衛隊の中にも朝からやつれている奴が続出しているので、彼女たちの魔の手に捕らわれたことが想像できる。

 マリアは、そんなことに気がつかない振りで、通常業務をこなした。


 ギルバート侯爵からの誘いもなくなった。これは単にギルバート侯爵がエドワード王子のご機嫌取りに奔走しているからだ。囚人であるトマスの悪事が明るみに出て、立場が弱くなっているらしい。

 マリアにとっては夜伽に行かなくなったので安心できている。このまま呼ばれないうちに近衛隊を辞めたいと思っていた。


 そんな日々が一ヶ月間続いた。


 マリアはいつも通り、仕事を終え、宿舎に戻ってきた。

 業務自体は順調だった。竜退治の件で自分の力不足を感じたのでマリアは、訓練もきつめにしている。剣に魔法を込めるというのも、自主的にトレーニングしている。


 マリアがベッドに寝転んでいると、急に悪寒を感じた。

 すぐに起き上がって、窓と扉を確かめる。しかし何もない。部屋の隅に目をやる。何か違和感がある。

 じっくり見ていると、何かが置いてあることに気がついた。

「あれは、服? 鎧?」

 自分の物では無いものがいつの間にか置いてあった。マリアは剣をつかむ。途端に声がした。


「相変わらず勘が良いの。脅かそうと思ったのに」

「普通にドアから入れば良いだろう。変に凝るな」

「ベアトリスのアイディアに乗ったのが失敗だったぜ」


 後ろからだった。慌てて振り返ると、部屋の隅に黒く濃い闇があった。

 マリアは気がつく。こんなことができるのは奴らくらいだ。


「何の用だ。アクア、ベアトリス、キャロン」


 マリアは改めて魔術師の恐ろしさを感じた。

 三人の冒険者が闇から出てくるが、マリアはすぐに目を覆った。心で舌打ちする。


〈本気か、こいつら〉

 三人とも全裸だったのだ。マリアは彼女達が何をしに来たのかすぐに推察できた。


「実はね。とうとう王宮から追い出されることになっちゃったの」

「根性ねぇ奴らでよ。もっとこき使うネタは思い浮かばなかったのかね」

「まぁ、予定通り十分楽しませてもらったし、もうけさせてもらった」


 三人の言い分はマリアが聞いている話と一致している。隊長によると、エドワード王子はもう彼女たちを追い出そうとしているということだ。


 マリアは無駄だと思いながら、彼女達に言った。

「じゃあ、なぜここに来た」


 ベアトリスは裸身を晒しながら、妖しく微笑む。

「それは当然、最後にね」


 アクアが舌なめずりしながら胸を震わせて歩き出す。

「もう一回味わいたいと思ってな」


 キャロンが妖しい視線でマリアを見る。

「たまたま私達の意見が一致したんだ。喜べ」


 マリアは抵抗した。当然精一杯逃げようとした。でもわかっていた。今日は廃人にされるだろうと言うことを。

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