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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(29)マリアの帰還

 マリアは日が沈んで間もない頃、王都ダグリシアの通用門にたどり着いた。

 かなりの早さである。もう馬はすでに限界のようだった。


 マリアはトマスに出会わなかったことを疑問に思っていた。相手が歩きである以上、必ず追いつくはずだった。


「ちょっと良いか」

 マリアは通用門に行き、立っていた衛兵に声をかけた。

「マリア副長、生きていらっしゃったのですか!」

 その衛兵が声を上げる。マリアは安堵の顔をした。

「今日の町警備は第一近衛隊だったか。丁度良い。アンドリュー、私の前に戻ってきている奴らはどうしているのだ」

 アンドリューは少し口ごもると、すぐに別の近衛隊員を呼んだ。男が走ってきてマリアの前に立つ。

「マリア副長。やはり生きていたんですね。しかしまずいときにお戻りになりました。まずは中へ入ってください。すぐにサミュエル隊長を呼んできます」

 そして男はすぐに戻っていった。

「チャールズが慌てていたが、やはり何か合ったのか」

「まずは隠れましょう。中に入ってください。馬は預かります」

 アンドリューが言ってマリアを中に招いた。


 マリアは通用門の待合室に通される。

 マリアにはこの騒ぎがドナルド達によって起こされたものだとわかっていた。恐らくマリアは死んだことになっているはずだ。

 色々考えていると、サミュエル隊長が現れた。

「やはり生きていたか。おまえほどしぶとい女はいないから大丈夫だとは思っていたが」

 すぐにマリアは立ち上がる。

「しぶとさだけが取り柄ですので」

 サミュエル隊長は椅子に座りもせずに言った。

「まずは場所を変えよう。おまえがいることを知られたくない」

 マリアは怪訝な顔をする。

「何かありましたか」

「詳しい話はジェイムズ様のところで話す」


「わかりました。その前に、私が竜討伐に連れて行ったトマスが、私の打ち倒した竜の頭骨を持って戻ってくる可能性があります。すぐに捕まえるように手配して欲しいのです」

 トマスを追い抜いてきたとしたら、これからトマスは竜の首を持ってここに現れるはずだ。

 サミュエル隊長は驚いたように目を開いた。

「おまえが、倒したのか?」

 マリアは素直に答える。

「私の管理不足で、連れて行った部隊員達は皆離反してしまいました。やむを得ず私が単身で戦うことになりました。丸一日かけて何とか竜の首を切り落とすことはできたのですが、力尽きているところでトマスに首を奪われました。証拠になるかわかりませんが、他の竜の骨と竜の卵の欠片、そして使い潰した剣を持ってきております」

 サミュエル隊長は苦い顔のままマリアを見ていた。そしておもむろに口を開く。

「トマスは今日の昼に戻ってきた。すでに殿下の耳にも入っている」

「何ですって!」

 マリアは驚いた。そんなマリアをよそに、サミュエル隊長は言った。

「まずはジェイムズ様の所に行くぞ」



 マリアは馬車の中に隠されてジェイムズ総長の屋敷に運ばれた。

 馬車から降りて、素早くマリアとサミュエル隊長は中に入っていく。


 廊下を進んでいると、突然メイド達がわらわらと集まってきて。サミュエル隊長を囲んだ。

「何だ。早々にジェイムズ総長と謁見したい」

 すると一人のメイドがサミュエル隊長に耳打ちした。サミュエル隊長は振り返ってマリアを見る。そして顔をしかめた。

「できるだけ早く身支度して謁見室に来い」


 今のマリアの格好はひどいものだった。遠征から帰ったばかりで、汚れてぼろぼろ。顔も体も汗でべったりとしており、離れていても嫌な臭いがする。馬車でもサミュエル隊長が離れて座ったほどである。

 このまま公爵であるジェイムズ総長の所に行くのはさすがに無理があった。

 マリア自身もそのことに気がついていたが、自分からは口を挟めないでいた。


 マリアの両脇をメイドが固める。それを見て、サミュエル隊長は先に行ってしまった。マリアは浴室に連れて行かれた。


 マリアは無理矢理鎧を脱がされ、服を剥がされ、そのまま浴室内に連れ込まれた。自分で洗いたかったが、どうにも許してくれそうに無かった。

 何かしら怒りのようなものを感じる。とりあえずマリアは言ってみた。


「自分でも洗えるんだが・・・」

「そのような格好で、ジェイムズ様の元にお連れすることはできません。近衛隊の方は本当に汚い格好でここに来るのですから、いい加減にして欲しいのです」

 メイド達は普段から汚い格好で入ってくる近衛隊達に辟易していた。今回のマリアの格好はさすがに見過ごせなかったのである。

 体中を泡だらけにさせられながら、マリアは言った。

「ああ、今後は善処する」


 マリアはかなりきつく磨き上げられて、浴室から出された。

 更衣室には新しい近衛隊の制服が用意されていた。若干サイズは合っていなかったが、それは仕方がない。マリアの体が大きすぎるのだ。

 そしてやっとマリアは浴室を出て、メイドに案内されながら、謁見室に向かった。


 マリアが謁見室に入っていくと、ジェイムズ総長が立ち上がって向かえた。脇にはサミュエル隊長もいる。

「良く戻った。マリア副長」

 マリアは深く礼をした。

「ありがとうございます」

 そしてマリアは指示された通り、椅子に座った。

「まずは貴公の話を聞きたい」

 すぐにジェイムズ総長が切り出してくる。当然マリアも全てを話すつもりだったので、一旦頭で整理した後、経緯を話した。


 その激しい体験の経緯を平然とした口調で話すマリアに、サミュエル隊長もジェイムズ総長もどん引きしていた。


「部隊員達に殺される寸前で、戻ってきた彼女達に助けられました。とはいえ、彼女達は戻ってくるつもりはなく、骨竜を退治したので、様子見に立ち寄っただけのようでしたが」

「その後、彼女達はどうしたのだ」

「部隊員達を全員魔法で眠らせて去って行ったようです。私はもうぼろぼろの状態でしたから、そのままダウンしていましたよ。朝起きた時はまだ部隊員達は眠っていました。その場で全員斬っても良かったのですが、その気力も起きずに、武器や荷物を全部持って、単身で竜の卵に向かいました。あの骨竜が現れないなら、一人でも幼竜を倒せると思ったのです」


 マリアにとってのミスはこのとき彼らを殺さなかったことだろう。


「竜は孵る寸前で、私が卵を割ろうとしたときには内部からも削られていました。そこで私は昨日開けた穴の中に剣を突き通して竜を殺そうとしました。殻から出さずに殺すつもりでした。結局途中で卵は割られてしまい作戦自体は失敗しましたが、このとき刺した剣が二本竜の口に刺さったことが幸いでした」


 口を剣で塞いだ事で、竜のファイヤーブレスは勢いを失い、竜は殻を食べられずに飢えた。あれが無ければ、恐らくマリアは勝てなかった。


「丸一日首を集中的に切りつけることで、徐々に竜を削ることができ、最後には殺すことができました。そしてその首を外したところで、私はトマスに蹴り倒されたのです。一日中戦っていた私はすぐに反撃することができず、そのままトマスに首を持ち逃げされました。しかし、トマスは徒歩ですから、必ず追いつけると考え、残りの骨と殻、そして剣をかき集めてから野営地に戻りました。野営地では二人の部隊員が死んでいました。そしてダスガンまでの道で残りの五人が死んでいました。誰がやったのかはわかりません。トマスは剣を持っていませんでしたが、五人は剣で切られて死んでいました」


 しかし夜盗はいなかったから可能性はトマスしかいない。どこかで剣を手に入れたということだろう。


「ダスガンまで歩き、そこで馬を買い、全速力で帰って参りました。途中でトマスに必ず出会えると思っていたのですが、なぜかトマスを見つけることができずに、ダグリシアに着きました。私の話は以上です」


 トマスが先に帰ってきたと言うことは、剣だけではなく馬も手にいれていた可能性がある。マリアはそこまで読むことができなかった。


 サミュエル隊長もジェイムズ総長もしばらく黙っていた。そこでマリアは気になっていたことを尋ねた。

「それで、ガイ、ルーイス、ドナルド。そしてトマスはどうなったのか聞かせてください」

 すると、ジェイムズ総長は静かに話し出した。

「ふむ。全ては今日起こったことだ。私も今日は一日中王宮にいたのでな、目が回るほどの状況だった」


 そしてまず朝の出来事から話し出す。

「早朝にモンテスという老人が現れて、新しく作られたエドワードの奇跡の石を献上したのだ」

「どういうことですか。そんな話は聞いていませんが」

 マリアが思わず口を挟む。そもそもその石が発端だったはずである。その石が竜に飲み込まれたので、マリア達は竜討伐に向かうことになった。

「おまえが呼び出された後のことだ。モンテスという男はグレスタの魔法技師だ。その先祖があのエドワードの奇跡の石を作ったと言うことだ。十日ほど前に殿下はモンテスを呼び出して、新しいエドワードの奇跡の石を作るように命じたのだ」

 ジェイムズ総長が答える。

「その魔法技師が本当に作ってきたと」

「初めは作れないと言っていたのだけどね。今日もこれが最後でもう作れないと言っていた。どこまで本当なのかはわからないが」

「それ自身はそんなに悪いことではないですね」

 マリアが言うとジェイムズ総長は大きくうなずいた。

「その通りだ。殿下はこの上なくエドワードの奇跡の石を気に入っていたからな。箱から出さないようにと言われたのに、その後も何度も箱を開けてみていたよ。まぁ、確かに幻想的で美しい石ではある。問題はその後のことだ」

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