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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(23)五日目のマリアの竜退治

 マリアが気がつくと朝だった。

 昨日の饗宴の名残はそのままだった。女の匂いがテント内に充満している。

 当然冒険者達はいない。


 マリアはタオルで体を丁寧に拭いて、服を着るとテントを出た。

 外の様子も昨日のままだった。マリアが暴れ、激しく抵抗した跡が色濃く残っている。


 マリアは外された鎧を集めて装着し、腰に剣を差した。

 それから部隊員達のテントにいった。下半身丸出しで倒れている男達がいた。


 たぶん生きているのだろう。マリアは殺すかどうか迷う。彼らのやったことは本来ならその場で殺すべき重罪である。

 しかしマリアは、そのままテントを閉じた。

 マリアの頭にキャロンの言葉が思い浮かんだからだ。確かにマリアは彼らを全く信用していなかった。きっとそれは彼らにも伝わっていたのだろう。信頼がなければ裏切られる。自分にも少しは問題があったのだろうと考えた。


 マリアは自分のテントを含め、不必要なものはすべて燃やした。

 残ったのは部隊員達のテントと空の荷台のみ。ベアトリスの魔法のせいだろう。かなり激しい音がしているのに部隊員達は起きてこなかった。

 マリアは全てを片付け終わると、武装したまま竜の卵のある平地に向かった。


 マリアはまだ諦めていない。ガイ達は王都に付けば何かしらの報告をするはずだ。場合によってはマリアだけが犯罪者扱いされているかも知れない。それでも任務を全うできれば言い訳は立つのだ。


 マリアは竜の卵の前に戻ってきた。

 穴の開いた卵が、ぽつんと立っている。


 マリアは近づいて予備の剣を卵のそばに転がした。幼竜が固かったとしたら、剣が壊れる可能性がある。壊れたらすぐに持ち替えられるための準備だ。


 そしてマリアは自分の武装をしっかり確認し、卵に挑むことにした。

 ハンマーを手にとって振りかぶろうとしてマリアは気がついた。

 卵の穴が昨日より大きい。ヒビも広がっている。


 マリアはハンマーを降ろして、剣に持ち替えた。そして卵から距離を取る。

 マリアは全力で走り込み、その勢いのまま穴に剣を突き刺した。


 石に当たったような固い感触があった。卵が大きく揺れ動いた。

 いける。


 マリアは再度卵から距離を取り、さっきより離れた距離から走り出した。全ての力を切っ先の一点に込めて、卵の穴の中に剣を突き立てた。中から何か手のようなものが出てきたが、もう遅い。しっかりと体重をかけて剣を深く突き刺した。


「ぐぎっ」

 剣を抜こうとしたが抜けなかった。マリアはあっさりと剣を手放す。予備などいくらでもある。

 マリアは別の剣を手にとって、また大きく後ろに下がる。


 卵の中で十分に成長しているのなら、簡単に殻を割るだろう。しかし穴が広がった程度でしかないと言うことは、まだ殻を割るまで成長できていないという事だ。


 マリアは再度助走をつけ、穴の中に剣を突き出していった。

 二本目の剣が殻の内側に差し込まれると同時に穴から炎が吹き出してきた。マリアは間一髪転がって避ける。おかげで十分に剣を差し込む事はできなかった。


「ぐぎっ、ぐぎぃ」

 中ではうなり声が聞こえる。いきなりの火にマリアは驚いたが、大して威力のあるものではなかった。中からは苦しそうなうめきが聞こえる。

 マリアは改めて剣を構え、全力疾走で卵に突進した。


 しっかりと今度は剣を突き刺した。やはり抜けなくなるので手を離して離脱した。

 もう一本の剣を手に取ると、卵が激しく揺れ始めた。

 殻の別なところに穴が開く。


 とうとう孵るのか。

 見ていると下に開いた穴から出てきたのは足のようだ。マリアは剣を捨てると素早くハンマーを拾い上げ、その足に向かってハンマーを打ち下ろした。

「ぎゃっ」

 足が引っ込み卵が揺れて倒れた。


 卵は初めの大きな穴の方を下にして倒れた。ちょうどそれで安定したのだろう。そのまま動かなくなる。

 マリアは再度剣に持ち替え、足の出ていた穴にダッシュする。そしてそこに再度剣を突き立てた。

 固い音が響く。今度は剣が通らない。

 しかし、繰り返し何度も全速力を乗せて剣を穴に突き刺し続けた。


 卵にまた穴が開いた。穴の開いた位置は今攻撃している穴の逆側。

 そちらに回るとやはり足が出ていた。逃げようとしているのかわからないが、地面を蹴って動こうとしている。その足に向かってマリアはダッシュした。

 まっすぐ突き刺すが、切っ先も通らない。

 代わりに全力で振り下ろした。石に当たるような音しかしない。それでも夢中に剣を振り下ろす。

 足一本くらい切り落とさないと、この先戦い続けられない。

 しかし剣の方が持たなかった。剣は刃こぼれしてただの鉄の棒になる。


 マリアは四本目の剣を取りに戻った。あれだけ討ったのに、皮を多少削った程度の傷しか与えられていない。

 マリアが剣を持つと、とうとう殻は崩壊し始めた。


 出てきたのは紛れもなく竜だった。予想通り人間程度の大きさで、迫力はない。

 太くて短い足と腕、人間の二倍程度の頭。昨日の骨竜を小さくして、肉付きをよくしたような竜。違いがあるとすれば羽が短く、飛べそうにない。


 剣を二本ほどくわえていた。マリアが差して抜けなくなった剣はどうやら口に入っていたらしい。両手で抜こうともがいているが、手が届かないのでただ頭を振り回しているだけだ。

 抜けないだけで致命傷ではなさそうだが。

 ここからが本番だった。マリアは両手で剣を握って幼竜に斬りかかっていった。



 どれだけ剣を当てたのだろう。マリアは体中から汗を流し、肩で息をする。何度か至近距離で竜の爪を受けたり、予想外の尻尾の攻撃を受けたりしたが、それ自体は大して問題はない。


 戦いそのものはマリアが優位に立っている。竜はそれなりに機敏に動くのだが、手足が短いので、攻撃には十分対処できるのだ。尻尾の存在を忘れがちになるのが困るくらいだった。

 ファイアーブレスも口の中に剣が二本刺さっているせいか口の周りで燃えるだけになっている。


 この有利な状態で苦戦している理由は、やはり堅さだ。これだけ剣を振っているのにダメージが入ったように思えない。

 だんだん剣を持ち上げるのですらきつくなってくる。時間が経てばマリアの方が不利になるだろう。


 その時竜が飛んだ。

 マリアは驚いて逃げると、その場所に幼竜は落ちてきた。大きくは飛べないようだ。


 幼竜は立ち上がろうとしていたが、今がチャンスだった。マリアはうつぶせになっている竜の首をめがけて、剣を何度も振り下ろした。

 全然刺さっていかなかった。ムキになって打ち下ろしているとマリアは横から殴られて吹き飛ばされた。

 マリアは尻尾を見落としていた事を思い出す。幼竜はすぐに立ち上がった。

 マリアも立ち上がる。

 もう昼が過ぎていた。マリアはすでに三時間以上は戦っている。いくら体力に自信があるマリアでも限界はある。


 また幼竜は飛んできた。マリアは逃げる。

 竜は羽で飛ぶ事を覚えようとしている。今は精度の低いジャンプくらいしかできないが、経験を積めば滑空できるようになるのだろう。戦いながら学んでいるようだ。


 力尽き、あの体に潰される未来を想像してしまうが、マリアは頭を振って弱気になる自分を追い払った。


〈腹が減っているからだ。絶対に勝つ方法があるはずだ〉

 マリアは走り回って、竜を翻弄しながら、荷物の場所に戻り、残っている僅かな携帯食と水を手に取った。

 そして逃げ回りながら、携帯食と水を喉に流し込む。


 少し力が戻ってくる。マリアは立ち止まって幼竜を見た。またこちらに飛びかかってこようとするところだった。

 マリアが逃げると、幼竜は卵の殻にぶつかっていった。


 あの固い殻に当たればどうにかなるかと思ったが、壊れたのは殻の方で、竜は無事だった。竜はそこで変な行動を取り始めた。殻を食べようとしたのだ。口を開けて殻に向かって噛みついている。しかし口の中の剣が邪魔で食べられず。地団駄をふんでいる。

 その姿が滑稽でマリアは場違いにも笑ってしまった。


 そこで記憶の隅に残っていた話を思い出した。

 竜は殻を食べて成長する。竜が殻を食べ物と見なしているのはあの行動から見て間違いない。殻を食べさせるのは危険と言うことだ。


 マリアは剣を持ち直す。少し落ち着きを取り戻した。あの冒険者達を思い出す余裕が出てきたのだから。

 思い出したのはアクアの昨日の戦いだった。アクアは骨竜に剣を振っていたが、今の私のように全く歯が立っていなかった。それなのに、全く同じ動きでいきなり竜の腕を切り落としたのだ。

「あれは魔法なのか?」

 彼女達は全員魔法が使えると言った。しかし、マリアはアクアの魔法だけは見ていない。


 そしてまた思い出す。ベアトリスはマリアの体の魔力を動かしたときに言ったのだ。魔法が使えるようになるかもと。


 ご都合主義で無理矢理繋げているのはマリア自身でもわかっている。しかし決定打のない今できることはそれしかないように思えた。


「魔法を使って剣を振れば斬れる・・・かも」

 魔法の使い方なんてわからない。でも何となく自分の中に血液のような、よくわからないものが流れているのを感じる事はできるようになった。性感と共にではあるが。

 マリアはそれを意識してみる。


 竜は殻に夢中でこちらに気づいていない。


 よくわからないものの、よくわからない流れがある。そう言うのが体の中にある事だけは確実にわかる。

 これを動かすというのもまたよくわからないが、とにかく動くようなつもりで考えた。考えていたらなんか動いているような気分になってきた。

 本当かなんてどうでも良い。そのつもりでやるしかない。

 なんか動いていると自分に言い聞かせながら、剣を握りそっと竜に近づいていった。

 もう竜はマリアの事を忘れているようだ。


 至近距離まで来て、もう一度なんか流れているものを復習する。そしてそれが剣に伝わった事にして、ダッシュと共に竜の首に突き刺した。


 やはり固い音がしてはじかれる。

 当然そううまくはいかない。

 それでも隙だらけの竜に対して攻撃するチャンスである事は変わらない。


 マリアは夢中に剣を振った。

 竜もこちらを向いて襲いかかってきた。卵が食べられなくてイライラしていた事だろう。そのまま飢え死にしてくれれば良いが、そう都合が良い事を考えても仕方がない。


 マリアの狙いは首一点。魔法を使っているつもりで剣を振り続けた。

 

 竜は抵抗していたが、どうにも先ほどまでの勢いがなかった。かなり凶暴になっているが、それでも、殻が気になるのか、その場を動こうとしない。


 マリアはいったん下がる。やはり竜は追ってこない。殻を護るように立っている。


〈もしかして本当に飢えているのでは〉


 マリアが食糧を補給して回復できたように、幼竜も生まれたてで腹が減っている可能性がある。


 マリアが竜から離れると、竜は再度殻を食べるのに挑戦し始めた。

 マリアは剣を新しいものに取り替え、ハンマーを手に取った。


 竜はあんな牙と戦闘力を持ちながら魔獣しか食べない。人間は餌ですらなくうっとうしいハエのようなもの。そんな竜を殺すというのは完全に人間のエゴだ。あの幼竜が何か人間に害を与えたと言う事はないのだから。


 マリアは先ほどの魔法をイメージしながら再度幼竜に挑戦した。

 剣ではなくハンマーを掲げると、竜に向かって、体当たりのように体をぶつけていった。そして、横殴りにハンマーを振る。

 完全に背後からだ。

 そして効果があるかはわからないがさっきの要領で、魔力を込めたつもりになっている。


 大きな頭を殴られて竜はよろけた。

 竜が振り返ろうとする時を逃さずに、今度は竜の左膝めがけてハンマーを振り切った。

 竜は仰向けに倒れた。


 マリアはハンマーを投げ捨て剣に持ち替える。そして両手で構えて剣を首に振り下ろした。 また石に当たるような音。

 でもマリアはやめない。

 仰向けだから尻尾や羽は使えない。腕だけだ。その腕は容赦なくマリアの足をへし折ろうとする。

 マリアはその腕を避けるように、腹に乗ったり顔面を蹴りつけたり、口に刺さっている剣を更に押し込んだりしながら、動き、執拗なまでに首に切りつけた。


 竜は尻尾を使って、うつぶせに転がった。今度はしっぽを避けながら、マリアはやはり首を切りつける。


〈魔法だ。私は魔法を使っている〉


 マリアは自分に言い聞かせる。もう二度と起き上がらせたくない。ここで必ずとどめを刺す。

 腕と足で四つん這いになろうとする竜の首に渾身の剣を討つと、竜の動きが少し弱まった気がした。目の隅に投げたハンマーが見えたので、すぐに拾ってきて、腕の関節を打ち付ける。更に足の関節にも。転がったところに更にハンマーで殴って転がす。

 再度仰向けだ。


 マリアはまた剣に持ち替えて、魔法のこもったつもりの剣を振り下ろす。

 夢中で振る。夢中で振る。全力で振る。


 やがてマリアは気がついた。竜が抵抗していない。剣の刺さったままの口を殻の方に向けてあごを動かしている。


 あれを食べたいのだろう。生まれたばかりの竜だ。あれが人間で言う母乳の代わりなのだと思う。


 マリアはそれでも剣を振った。手応えを感じていたから。確実にマリアの剣は竜の首を削り始めていた。

 それはやはり魔法だったのだろう。マリア自身うまくいったと感じるときは首が削れた感触がある。それ以外のほとんどははじかれる。

 マリアは感覚をつかむ練習のつもりで、無心になって剣を振り続けた。



 日が沈みかけていた。

 マリアは地面に座り込んで放心しながら幼竜を見ていた。

 幼竜は骨になりかけていた。


 竜は死ぬと骨だけになる。マリアの腕が良ければ、一瞬で死に、一瞬で骨に変わっていたはずだ。

 しかしマリアは首を落とすところまで剣を刺せなかった。その手前で剣すべてを潰してしまっていた。

 ただ、マリアの攻撃は幼竜にとっては致命傷だった。竜は苦しみながら、骨に変わるところだった。

 マリアはそれを見守っていた。


 幼竜が完全に骨に変わってもマリアはすぐに動けなかった。全ての力を使い果たしてしまっていた。しかしマリアは日が暮れる前にはこの場を去りたかった。

 やっとマリアは立ち上がると、幼竜の骨に近づいた。そして幼竜の頭を持ち上げた。嘘のように簡単に胴体から外れた。


 マリアは広場を出ようと歩き出した。

 その時マリアは胸に衝撃を受けて地面に転がった。


「な、なんだ?」

 身を起こすと、落ちた竜の頭を拾っている男がいる。

「貴様、トマス!」

 マリアが叫ぶと、トマスは見下すような視線を向けた。

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