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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(21)四日目の竜討伐隊の竜退治

 朝マリアが起きたとき、もうベアトリスの姿はなかった。キャロンの時と違って、昨日の乱れた痕跡が残っている。

 マリアは飲み水で濡らしたタオルで体中をぬぐう。そして、なんとか後始末を終えてテントを出た。

 もう日は昇っていた。少し寝坊気味だが、離れた他のテントを見ても動きはない。

 マリアは昨日と同様に見張りの部隊員であるスタンレーに近づいた。


「おい、様子はどうだ」

 スタンレーの顔はかなりやつれていた。マリアは彼が昨日キャロンと一緒にいた事を思い出した。見るからに生気を失っていた。


「マリア副長。問題ありません」

「寝不足か? 調子が悪そうだが」

「いえ、まぁ、夜中に起こされて夜番をやっていますから多少は」


 どうやら本人達は夢だと認識しているようだ。

 マリアは舌打ちする。今日が本番だというのに全員が○○でやつれているとしたら問題である。

 実際にマリア自身も疲れがとれていない。


「あの冒険者達はどこだ」

「いえ、私は見ていませんが」


 マリアは見張りから離れて、野営地の中央に戻った。

 やはりというか、あの三人が森から出て歩いてくる。


「また狩りか。精が出る事だな」

 マリアは少し嫌みを言う。

 夜中乱痴気騒ぎをしておいて、朝から元気に歩き回るのは異常である。


「○○まみれだったからな。川で洗い落としてきたのさ」

 アクアが言った。

「ついでに狩りをしてきたといったところだ」

 キャロンが続ける。

 小さな獣を二匹担いでいる。


 マリアはため息をついた。昨日までと違って冒険者達は隠す素振りがなかった。ベアトリスの魔道具に支配されているという事を知っているからだろう。

「ベアトリス。私達のメダルを外せ」

 マリアはいきなり言った。昨日の夜。ベアトリスから種明かしをされたので、自分たちがどのような魔法をかけられたのかは知っている。

「いやよ。今夜も楽しみたいもの」

「今夜はどうでも良い。今日の戦いを邪魔されたくない」

「竜退治の事? そんなときまで認識阻害するわけないでしょ。今までだって昼間は手を出していないわよ」

 ベアトリスはマリアのそばに寄ってきて髪に触れた。マリアはすぐに距離を取る。


「確証がない。戦いの途中で手を出された全滅する」

 マリアはこの冒険者達をまだ怪しんでいた。本当に男が望みで遠征に参加したとは考えにくいからだ。


「ベアトリス。回収してやれ」

 キャロンが言った。

「そうだな。こいつに疑われて、難癖つけられるのは面倒だ。どうせ夜しか使っていないんだし、回収しておこうぜ」

 アクアも言う。


 ベアトリスは頬を膨らませた。

「ちゃんとマリアとは、わかり合えたと思ったのに。きっと一昨日のキャロンが悪いのよ。キャロンはやり過ぎるから」


 ベアトリスは手を宙に上げた。すると、テントの中から光る物がどんどん飛んできた。そしてマリアの肩の後ろからも何かが剥がれてベアトリスの手に吸い込まれていく。


 ベアトリスは手の中のメダルをマリアに見せた。

「十三枚。数えてみる?」

「まさかケネスにもか」

 アクアが笑う。

「メダルをつけた奴全員と○○たわけじゃねぇよ。あのじいさんは体力がなさそうだ」

「ずっと寝ていて欲しかったから念のためね」

 ベアトリスはマリアにウインクした。

「今日が本番だというのに、おまえ達のせいで、戦えなかったらどうするつもりだ。しっかり回復魔法は使えるんだろうな」

「これくらいで動けなくなる方が弱いのさ。もっと腰鍛えとかないとな」

 マリアはアクアをにらんで、その場を去った。



 テントから出てきた臨時部隊の面々は、本当にぼろぼろだった。顔がやつれて、腰をさすっている。マリアは目の前が真っ暗になった気分だった。

 しかし女冒険者達による手料理で、みんなの顔に表情が明るくなり、たらふく食べ終わった頃には生気が戻っていた。

 冒険者達は残った肉を全て焼いて今日の午後の食事用に加工していた。そして食糧を管理しているドナルドに手渡していた。

 ガイとルーイスはいなかった。


 食事の後、テントを片付けて馬車に積み込んだ。

 本来なら馬や馬車のために見張りをつけるべきだが、この部隊にはそんな余裕はない。その代わり、現地で役立ちそうな物は全部持っていく事になっていた。予備も含めた武器防具、救急道具、水と食料などだ。なので、持っていく荷物が結構多い。

 ドナルドが先頭に立ち、草をかき分けながら部隊を導く。マリアとケネスが最後尾だ。


 しばらく進むと、遙か先方でガイとドナルドがこちらに手を振った。合流するとすぐにベアトリスが、今朝料理してきた焼肉を差し出す。彼らは喜んでそれらをほおばった。

 マリアはため息をつく。本当に男を手懐けるのがうまい。

 そしてそのまま竜の卵のある広場へと進んだ。



 ガイの言う通り、そこは十メートルほどの円形の広場ができていた。そこだけ草が生えていない。そして中央に卵形の石があった。

 石は一メートルほどの卵形で、直立している。少しくすんだような白色に黄色の筋模様があった。


「こいつが例の卵だ。竜の専門家さんよ。これで間違いないか?」

 ガイが言う。

 ケネスは興奮したように歩き出し、卵のようなものをぺたぺた触りだした。

「おー、これが」

 卵の周りをぐるぐる回りながら、棒のようなものでたたいたりひっかいたりする。

「ほうっ。素晴らしい」

 今度は地面に触り、卵の周辺の土を集めている。


 どうにも終わらなそうなので、マリアが言った。

「ケネス殿。それが卵で間違いないんだな」

 ケネスはそれでもぶつぶつ言いながら、手のひらで卵をペチペチたたいている。

「ケネス殿!」


 やっとケネスはマリアの方を向いた。

「実に素晴らしい。間違いなく竜の卵です。ここいら一帯だけ草が生えていないでしょう。竜は産卵場所を自ら作ります。残念ながら、成竜の残滓、竜の灰は残っていないようですが。これを運ぶことはできませんか。これは貴重なものです。ぜひ研究材料としたい」

 訳のわからないことを言い出した。

「本物とわかればそれでいいです。ではガイ、ルーイス、トマス。準備を始めろ」


 ガイが問答無用でケネスを卵から引き離し、トマスは卵の周りに最初のハンマー担当を配置する。


 先行のハンマー隊はトマスを含む臨時部隊四人とルーイス。

 彼らはハンマーを構えて卵を囲んだ。

 その後ろには剣を構えた残りの臨時部隊とガイ。


「始めろ」

 マリアの合図と共に、ハンマーが振り下ろされた。


 始まった当初は剣を持つ者達も緊張した面持ちだったが、そのうち剣を降ろし、警戒を解いた。

 反面、ハンマー隊は必死だった。何度も何度もハンマーを卵にたたきつける。

 とにかく卵は固かった。屈強な男達がハンマーを振るってもなかなか傷が付かない。


 ケネスは荷物が置いてある広場のへりに立って卵を眺めていた。ドナルドはケネスが出て行かないように監視している。



「時間がかかりそうだな。私達は周辺を調べてくる」

 キャロンがマリアの後ろから声をかける。

「ああ、そうしてくれ。魔獣が近づいてくるようなら教えて欲しい」

「任せて。マリア」

 ベアトリスがそっと近づいて耳元で言う。


 マリアは追い払おうと手を振るが、ベアトリスはかわして下がった。

「マリア副長だ。おまえらでも無礼は許さんぞ」

 マリアににらまれて、三人は広場を出て行った。


※※


「あれ、無理ね。卵でも物理攻撃だけじゃ壊せないみたい」

 ベアトリスが肩をすくめる。

「じゃあ、まずくねぇか。変異体が出てこないぜ」

 アクアがつぶやく。

「私がエンチャントをかけておくか。ドナルドにばれない程度にはなるが」

 そしてキャロンは小さく呪文を唱えて、彼らのハンマーに魔法をかけた。


※※


 一時間経っても卵は割れなかった。マリアは部隊を入れ替え、卵割りを続けさせた。

 ハンマーを振っていた面々は地面に座り込んで肩で息をしている。ハンマー隊以外は剣を構えて卵を警戒する役割だが、今はそれどころじゃなさそうだ。ドナルドが回復の魔法をかけて回っている


 結局このターンでも卵を割ることはできず、再度部隊を入れ替えることになった。


 一通り休憩者の回復を終わらせたドナルドがマリアに近寄ってくる。

「マリア副長。あれは卵ではないのでは? ただの石なのかも知れませんよ」

 マリアは目でケネスを探すと、立っている事にも疲れたのか、荷物の辺りで座り込んでいる。

「いや。間違いなく卵のようだな。今回持ってきたハンマーはもともと採掘用だ。それを五人がかりでたたきつけて壊れない方がおかしい。ただの石や岩なら粉々になっているだろう」


 その時声が上がった。

「やった、割れてきたぞ!」

 部隊員達から歓声が上がる。

 マリアが近づくと、一部が削れて縦に亀裂が入っていた。


「よし、休んでいた者は剣を持て。もうドナルドに回復してもらっただろう。ハンマー隊はその亀裂の辺りを中心にハンマーを打て」


「私にも見せてください」

 ケネスも近づいてきた。

「貴公は近寄らないでくれ。危険だ」

 ドナルドがケネスの前に立ちふさがった。それでもケネスは目を輝かせながら卵を見ている。

 一体竜の何が良いのだろうか。マリアはケネスの感覚がいまいちわからない。


 それからは見違えるようにハンマー隊の生気がよみがえった。終わりのない作業は士気を落とすが、終わりが見えてくると今まで以上の力を発揮する。

 亀裂はだんだん大きくなり、とうとう卵に穴が開いた。

 更に歓声が上がる。

 ただ、中から液体がこぼれてこない。すでに孵化寸前まで育っている可能性がある。


 穴の周辺に向けてみんながハンマーを振るい、穴はハンマー二つ分の大きさになる。

 その時、穴の中から手のようなものが飛び出てきた。


 ハンマー隊は驚いて、後ろにさがり、何人か転倒した。

「気をつけろ。中の幼竜はすでに動ける状態のようだぞ」

 マリアは声を上げる。普通孵化寸前の卵は柔らかくなっているはずだが、竜には当てはまらないらしい。


 腕は卵の中に引っ込み、マリア達は様子を見る。

 しかしそれから変化は起こらなかった。


 まずは完全に卵を壊して、中の幼竜を引きずり出さ無くてはならない。幼竜でもブレスをはけるため、これからは注意が必要だった。

「よし、穴に注意しながら、その周辺を壊して、完全に殻を破れ。ルーイス、トマス。おまえ達は剣に持ち替えて待機だ」


 マリアが指示を飛ばす。恐る恐るという体で、残りの部隊員達が卵に近づいていく。


※※


「やっと割れたわね。時間かけすぎじゃない」

「エンチャント効果は持続性を中心にかけたんでな。威力の方はそれほど上げていない。つまり、それだけ頑丈だったってわけだ」

 離れたところでベアトリスとキャロンが話す。

「おっ、おいでなすったようだぜ」

 空を見上げていたアクアが言った。

「やれやれ、これで何とかなりそうだ。出てこなかったら困ったことになってた」

 キャロンもそちらの方向を見て言う。

「本当! 全然魔力の気配が感じられない。これは逃がすわけにはいかないわね。じゃ、行きましょか」

 ベアトリスが陽気に言った。


※※


 マリアのそばにキャロンが駆け寄る。

「良いところで悪いが、でかいのが来るから警戒しろ」

「でかいの?」

 マリアが言うと、キャロンは杖を上に向けた。マリアがそちらの方を見ると、何かがこちらに飛んできている。


「何か来る。卵を割るのは中断だ。みんな剣を持て」


 しかし皆が反応する前にそれは落ちてきた。卵から数メートル離れたところで大きな土埃が上がっている。


「ドナルド、防御膜だ、みんな、剣を持って下がれ!」

 マリアは大声で指示をした。


 全員動きだし、ドナルドの防御膜が全体を覆うと、土埃の中から魔獣が姿を現した。

「なんだ。これは」

 マリアはそれを見て思わずつぶやく。

 土煙の中から現れたのは巨大な骨の魔獣。大きさは三メートルくらいありそうだ。骨と言うよりは骨のように痩せこけた竜の化け物。胸の辺りが赤く光っている。


「ぐぎゃー!!」

 その体に似つかわしくない大声を上げ、その魔獣はしっぽを振り回して地面を討った。飛んできた石は防御膜に当たって落ちる。


 しかし、その単なる威嚇で、剣を構えていた部隊員達は戦う気を失った。皆、剣を放り投げて逃げ出したのだ。

 それを見てマリアは慌てる。

「逃げるな。迎え撃て」

 マリアが叫ぶ。しかし皆の足は止まらない。

 マリアは剣を抜き、逃げようとする部隊員の前に立ちふさがった。

「死にたくなければ戦え!」

 だが臨時部隊はもう逃げる事しか考えていないようだった。

 

「無理だ。あんな化け物とは戦えねぇ。約束が違う」

「剣が届くわけねぇだろ! あんなのに殴られたら死んじまう」

 マリアは彼らの前で剣を振った。数人が立ち止まって後ずさりする。


「あいつらだって逃げてるじゃねぇか」

 震えながらマリアと骨の竜を見比べた部隊員が言う。


 マリアが振り返ると、ガイとルーイスとドナルドはすでに逃走していた。その後ろをケネスが追っている。

 その隙を突いて、隊員達はマリアの横を抜けて逃げ出した。


 マリアは舌打ちした。

 そして、マリアは骨の竜に向かって走った。竜は卵のそばで立ち止まっていた。


 マリアはあの骨の竜のことがさっぱりわからなかった。ケネスの話と違うからだ。ケネスは卵を産むと竜は滅びると言っていた。しかしあれはどう見ても滅び損ないの竜だ。


 骨竜は卵の周りを、腕を振ったり奇声を上げたりしながらうろついていた。

 マリアが剣を持って飛び込んでいくと、その前にアクアが立ちふさがった。

「じゃまだ!」

 マリアは立ち止まらずに剣を構えて進んだが、アクアはあっさりマリアの剣をはじき飛ばしてしまった。


 マリアはアクアの前で立ち止まるしか無かった。

「おまえじゃ無理だろ。おまえも逃げとけ」

 そしてアクアはマリアに背を見せると竜に斬りかかっていった。

「貴様!」


 マリアははじかれた剣を探し拾い上げた。すぐに追いかけようとして、マリアは動けなくなった。

 アクアと竜の斬り合いを見たからだ。見事と言う他なかった。振り回される腕や尻尾を避け、何度も胴に斬りかかっている。剣が竜の体に当たると、大きな金属音が響いた。

「ふふん。良い感じで固いな」


 マリアは剣を持ったまま立ち尽くす。そのマリアの腕をつかむ奴がいる。

「ほら、速く逃げて。今なら私の結界で護られているから安全に逃げられるわよ」

 ベアトリスだった。

「ふざけるな。おまえ達に任せておけるか!」

 キャロンがマリアの前に来た。

「そろそろ火が来るぞ。あんたにあれの相手ができるか?」


 マリアが竜を見るとそいつはこちらに向けて口を開けていた。竜の必殺武器ファイヤーブレスだ。

「危ない!」

 竜の真正面にいたアクアは、至近距離からのファイヤーブレスを難なく避ける。次は延長上にあるこちらだ。だがアクアのように動くのは難しい。

 マリアは横に逃げようとしたが、ベアトリスはマリアをつかんだままだった。


 ファイヤーブレスが当たる瞬間、炎は弾かれたように消える。

「今は私の結界があるからね。横に逃げた方が危険よ」

 ベアトリスがマリアの腕から手を離して歩き出した。

 キャロンも無造作に歩いて行く。

 キャロンが杖を振ると何本もの光の矢が骨竜に突き刺さった。初めは気にしていなかった竜は何本も刺さってくるとさすがに悲鳴を上げた。


「ぐぎゃー!」

 その間にもアクアの剣が、竜の体を削っていた。

「あんたは邪魔という事だ。私達はそもそもあいつを倒すためにここに来た。竜の卵を壊そうとすれば、あいつが来るんじゃないかと思っていた」

「そうじゃないと見つからなかったのよ。あれ、死に損ないだから、魔力を探知できないしね」


 彼女らの言葉にマリアは驚く。

「どういうことだ。答えろ!」

 しかし彼女達はもうマリアを見ようとしなかった。

「アクアだけ楽しませていても仕方がないし、そろそろ加勢しよう」


 アクアは巨大な骨竜相手に完全に互角に打ち合っていた。力負けする事もなく、至近距離で戦い続ける。

 確かにあの戦い方はマリアには無理だし、ましてや部隊員達ならあっという間に死ぬだろう。そう認めるしかなかった。

 と、いきなりベアトリスが走り出して宙に舞った。そのまま片足で骨竜の肩に乗り、頭を蹴りつける。

 竜はのけぞって後ろに下がった。

 あり得ない事である。普通なら足の方が砕けるだろう。


 キャロンも至近距離に近づいていた。そしてアクアが骨の竜の胸に剣を突き刺すのと同時に、杖をたたき込んだ。骨竜は今度こそ倒れた。

 三人は連携を取らない。前衛と後衛に別れることもない。ただ自分勝手に腕を試すだけ。相手が三メートルほどの大きさもあって、三人でやっていても窮屈ではない。


 アクアは剣の魔力をどれくらい入れれば斬れるのか試しながら、戦っていた。そして至近距離からの攻撃に自分が身につけた体術で回避できるのか挑戦していた。

 ベアトリスは手足を魔法で強化することで、暗殺技が効果あるのか試していた。また、結界でどれくらい相手の動きが封じ込められるのか調べていた。

 キャロンは魔法を打ち込みながら、どんな攻撃が通用するのかをテストしていた。それと同時に最近は魔法特化だったので、アクアやベアトリスの攻撃に合わせられるか体の動きを試していた。


 骨の竜の腕やしっぽは避けられ、時にアクアの剣、キャロンの杖、そしてベアトリスの素手で止められる。

 ファイヤーブレスはほぼ当たらないか。当たってもあの三人は無傷だった。

 いきなりアクアの剣が光り、竜の片腕を切り落とした。

「やべっ。斬っちまった。魔力込めすぎたか」


 竜は悲鳴を上げて、尻尾を振り回してきたが、その尻尾をベアトリスの両手が止める。

「うんうん、これで全力ね。やっぱ魔法で強化していても直接受け止めるのは面倒だわ」

「吹っ飛べ」

 そのすきにキャロンが、竜に迫って胴に手を置く。その瞬間、骨竜は大きく吹き飛ばされた。

「ベアトリスもこうして使えば良い。体術にこだわるから疲れる」

「あなたほど魔力は多くないの。それに押し返すだけに魔法使うのも面倒でしょ」

 竜はなんとか立ち上がり、また吠え声を上げた。

 そこに三人が走り混んでいく。竜は空に舞った。三人が立ち止まっていると、空中で口を開ける。


「魔力が多くないから、こういう戦い方でも良いわけよ」

 ベアトリスが素早く宙に浮いて竜に接近し、竜のあごを蹴り上げて無理矢理の口を閉じさせた。

 竜の口の中ではじける音がして煙がでる。その頭に電撃が落ちた。

「炎を吐く前に近寄れるのはあんたくらいだろう。普通はこうやって魔法で攻撃する」

 キャロンが杖を掲げていた。

 竜はそれでも落ちなかった。

「やっぱ魔法一辺倒じゃダメなんじゃねぇの」

 アクアが言う。

 竜はしばらく上に舞っていたが、とうとう逃げ出した。

「わざとだよ。作戦を覚えていないのか」

「そういうことにしておくか」

 そして三人はマリアの方を振り返る。


「竜を、撃退した・・・」

 マリアは唖然としてつぶやいた。

「じゃあ、私達はあの竜を追うから、後はよろしくな」

「マリアの体が名残惜しいけど、ここでさよならね」

「あの竜の卵は好きにしろ。あいつは倒すから、もう邪魔には現れないだろう」

 そして三人は平地を後にした。


「ま、待て!」

 マリアは叫ぶが、すでに三人は見えなくなっていた。

 マリアはしばらく呆然としていたが、やっと我に返って辺りを見渡した。

 もう残っているのはマリアだけだった。もしかしたら逃げた臨時部隊がこちらを伺っているかも知れないが、よくわからない。


 アクアはまず卵に近づいた。警戒しながら穴をのぞき込む。だが暗くて見えない。

 マリアの今回の指命は竜を退治する事だ。恐らく、さっきの骨竜でもこの中の幼竜でも死んだ証明を持って帰れば成功だろう。

 骨竜はとてもじゃないが戦えないし、冒険者達が追っていったのだから、もう回収不可能だろう。

 つまり、この任務を遂行するにはこの幼竜の首を取らねばならない。


 マリアはふと気がついて、切り落とされた竜の腕に近寄った。

 魔獣特有の現象が起きており、すでにその腕は真っ白な骨だけになっていた。

 竜のように魔力の塊のような魔獣は、死んだ後、骨しか残らないという。それ以外は魔力に戻って大気中に消えてしまうらしい。


 マリアは再度竜の卵を見た。

 竜の首を持ち帰らなければこちらが処刑される。


 マリアはハンマーを回収し、卵のそばに置くと、部隊員達が落としていった剣を拾い集めた。そして荷物のほとんどを一カ所に集めてその場に置いておく。

 かなりの量を持ち込んだので、そもそも一人で持ち帰るのは無理である。

 マリアは荷物の中から、今日と明日の食料と水だけ持って、広場を後にした。

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