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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(19)三日目の午後

 午後も竜討伐隊は途中で休憩を挟みながら、先に進んだ。

 なぜか盗賊も現れ無い。確かに近衛隊の赤い馬車は狙われにくいが、一度も襲われないというのはさすがに異常だ。特にダグリシアから離れれば離れるほど襲われる危険性は高くなる。

 だいたい近衛隊の遠征訓練でも、二日目、三日目の方が襲われる頻度が高かった。

 しかし結局盗賊達は現れず、馬車は順調に目的地であるマガラス山麓の野営地までたどり着いた。

 当然午後もマリアの馬車以外は大いに盛り上がっていた。午後にマリアの馬車に乗ってきたのはアクアだった。さすがのケネスもアクアの露出過多の体に近寄られてはお得意のおしゃべりができないようで、もごもごと話すに留まる。それにアクアはあまりケネスの研究には興味が無いようで、ケネスに下品な下ネタばかり話しかけていた。

 マリアはここまであからさまだと逆にすがすがしいとまで思う。もちろん彼女たちの言動を認める気はないが。


 野営地に着くともう、日が暮れかけていたので、マリアはすぐに臨時部隊にテントの設営を指示した。そしてドナルドを呼ぶ。

「ドナルド。すぐにガイとルーイスを呼びにいけ。奴らをここまで連れてくるんだ」

「えっ、今からですか? 明日で良いんじゃ・・・」

 途端にマリアの怒声が響く。

「馬鹿を言うな。明日が本番だぞ。今夜打ち合わせなくてどうする!」

「えっ、あ、ハイ、わかりました」

 ドナルドは慌てて去って行く。マリアはフンと鼻を鳴らしテントの設営に入った。


 今回は大テントとドナルド達のテントを隣り合わせに並べ、マリアのテントのみ、焚き火を挟んで少し離れた正面に立てた。馬と馬車は大型テントの斜め向かいに置く。つまり、マリアのテントだけが少し離れて置かれている形である。



「やっぱりマリア、疑っているわね」

 ベアトリスがキャロンにそっと言う。

「そうだな。この位置だとマリアのテントから全貌を見渡せる。昨日のことが夢じゃないと考えているんだろう。だが、今夜はベアトリスのメダルがあるからな。はっきり夢の中の出来事だと信じるんじゃないか」

「そうね、私の魔法が発動すれば、昨日のことも夢だと信じると思うわ。ちょっと様子は見なくちゃだけど」



 テントの設営が終わり、すぐに食事の準備に入る。ドナルドが買い出しをしてきた携帯食があるので、昨日と同じようにそれを配っていった。

 そこに大きな鍋を持ったキャロンが現れた。そして焚き火で暖め始める。

 マリアがキャロンの前に立った。

「おい、何度言ったらわかる。そんなもの必要ない」

 すると横からベアトリスが現れる。

「今朝の肉がまだ余っているの。食べちゃった方が良いでしょ。火は通してあるから悪くなっていないけど、これ以上は保たないわ。煮れば肉も軟らかくなって食べやすいしね」

 アクアが手際よく野菜を刻みながら言った。

「この鍋はさっきの町で買ってきたんだ。安物だし、そのままおまえらにくれてやるよ」

 キャロンは火加減を調整しながら言う。

「水も買い足しておいた。私達のおごりだ。気にするな」


 マリアはキャロンの手をつかんで立ち上がらせた。

「やめろと言っているんだ」

 キャロンはその手の上に手を当てた。マリアは慌てて手を放した。昨日の感覚が残っているのだろう。もちろんキャロンはそれを意識して触ったのだ。

「私達も言っただろう。冒険者には冒険者の流儀がある。あんた達が食べようと食べなかろうと私達は料理を作って食べる。その余りを仲間に振る舞って何が悪い」

 ベアトリスは今朝の猪の肉を叩いてほぐしながら言う。

「温かい食事をみんなで囲んで食べれば、チームの一体感も高まるわよ」

 手際よく、包丁を振りながら、アクアが言った。

「明日が本番なんだろ。肉を食って精をつけようぜ」


 マリアが周りを見ると、部隊員達はみんな羨望の目で彼女達を見ていた。温かい食事は部隊員達の心を確実に捉えた。

 マリアは止めることができないと感じた。そのすきにキャロンも食事の準備に戻り、三人は手際よく、肉や野菜を煮込んで料理を作った。


「何だ。すげぇ良い匂いがする」

「うわっ。女がいる。女だ!」

 そこでいきなり下卑た声が聞こえてきた。


 やっとマリアは調子を取り戻す。どうにも彼女たちの社交性に振り回されっぱなしだ。もっと、部隊としては厳格に行きたい。


 マリアが振り返ると、馬を引き連れたガイとルーイスがドナルドと歩いてきていた。

「ご苦労だったな。ガイ、ルーイス」

「どういう状況なんだ? 女と、料理?」

「あの女達は・・・」

 マリアが説明しようとすると、すぐに後ろから言葉をかぶせられた。


「雇われ冒険者さ。よろしくな。私はアクアだ」

 マリアのすぐ横にアクアが来ていた。

「私はベアトリス。皆さんをお迎えするために料理を作って待っていたわ。なーんて。嘘だけど」

 ベアトリスがその後に続く。

「ちょうどできたところだ。ぜひ食べてくれ」

 キャロンは鍋のそばにいて、椀に料理をよそっていた。


 全てが先回りされている。マリアは危機感を覚えながらも、認めるしかなかった。

「まぁ、そう言うわけだ。せっかくだし、彼女たちのごちそうになるとしよう。話し合いはそれからだ」



 三人の美女がいれば当然わいわいと楽しげな宴になる。

 マリアは少し離れた場所に座り、冒険者達の様子を見ていた。

 冒険者達はかいがいしく動いて、臨時部隊や近衛隊達をもてなしている。

 ケネスですら鼻の舌を伸ばしている。ケネスだってまだ四十代半ば。女性に興味が無いわけはない。


「マリア副長もお代わりはいかが?」

 ベアトリスが椀を持って近づいてくる。マリアは手で断りを入れる。マリアにとって彼女たちは信用できる相手ではない。マリアは彼女たちが自分の実力を隠していると確信していた。しかしその目的がわからないので警戒している。

「十分だ。それよりそろそろ片付けろ。日が沈んだ。早く打ち合わせをして明日に備えたい」

 マリアが立ち上がる。そして焚き火のそばに近づきながら叫ぶ。

「集まれ、明日の打ち合わせを行う。アクア、ベアトリス、キャロン。感謝する。皆も礼をしろ。普通の遠征ならこんなものは食べられない」

 部隊員達は素直に冒険者達に礼を言った。そしてマリアは後片付けを彼女達に任せ、部隊員達を集めた。


「ガイ、ルーイス。まずはおまえ達から報告を聞こう」

 マリアが言うと、ルーイスは舌打ちした。ガイが口を開く。

「大して報告することはねぇよ。卵みたいな石は全く動いていない。暇だから剣で何度かたたき切ってみたが、びくともしなかった。結構周りも探ったんだが、あの石以外に竜の手がかりはなかったよ」

 ケネスが身を乗り出した。

「どのような場所なのです。卵の色や大きさは。竜の灰はなかったのですか」

 ガイとルーイスが顔を見合わせる。誰だこいつ? という顔だ。

「済まない。紹介を忘れていた。この方はケネス氏。前にも話したが、竜の専門家だ」

 ルーイスが呆れた顔をする。

「そんな馬鹿な研究している奴もいるんだな」

 ガイは続けた。

「場所か。行けばわかるがちょっとした広場だな。周りに草も生えていないからちょっと違和感あるぞ。その真ん中に卵形の岩がぽつんと立っているのさ。卵は全体に白いが黄色い縞模様がある」

「そうです! それです。私も以前に見たことがあります。竜は卵を産む前に辺りを焼き尽くし平坦な土地を作った後、中心に卵を産み、傍らで崩れるのです。その卵の周辺に塵が積もったようなものがあったはずです。それが竜の灰です」

 ケネスはつかみかかりそうな勢いでガイに迫った。

 ガイは乱暴にケネスを押し返す。

「灰って言うのは見てねぇよ。風で飛ばされちまったんじゃないか。そもそも俺達はずっとあの石を見張っていたが、卵とはどうしても思えなかったぞ。ただの丸い岩だ」

「いえ。お話に聞いたかぎり、それは竜の卵です。奇妙な岩に見えますから、誤って持ち運ぶ者もいたそうです。私も持ち帰れるものなら持ち帰りたい」

 ルーイスが鼻で笑った。

「気が知れねぇな。そもそも持ち運ぶなんて無理だ。押してもびくともしねぇ。どんだけ重さがあるかもわからんぞ」


 マリアはずっと彼らの会話を聞いていたが、そこで話を終わらせることにした。

「ご苦労だった、ガイ、ルーイス。我々の使命は竜討伐だ。相手が卵の状態であるのなら、ありがたい。生まれてしまっていた後の方が厄介だった」

 ケネスはまだ話したがっていたが、マリアが話し始めると口を閉ざした。


「さて、それでは明日の作戦を説明する。ガイとルーイス以外にはもう話したと思うが、復習のつもりでしっかり聞け」


 そしてマリアは出発前に説明した戦術を説明した。すでに片付けを追えた冒険者達も聞いている。

 マリアの説明はほぼ前回と同じだが、相手が卵とわかっているので、卵割りバージョンのみの説明だった。持ってきていたハンマーを各自に握らせる。ついでに、竜を切るための剣にも触れさせた。


「げっ。俺達もやるのかよ」

 ルーイスが不満を口にした。

「そうだ。どっちが先に卵割りに入るか決めておけ。トマス、おまえ達もだ。初めの四人の人選をしておけ」

「おまえは何もやらないのかよ。それにドナルドやあの冒険者達は」

 ルーイスは文句ありげな様子で言ってくる。

「ドナルドやあの冒険者達に力仕事ができると思うか。それに私は指揮だ。加われるわけがないだろう。ドナルドや冒険者達には周辺警備とケネス氏の護衛をしてもらう。もちろん、ドナルドやあの冒険者達は魔法が使えるから、サポート魔法は使ってもらうがな」


 ルーイスは舌打ちした。

「それ以外に質問はあるか。無ければそろそろ休め。トマス、昨日と同じように夜の見張りを三交代で頼む」

 そしてマリアはガイとルーイスを見た。

「おまえ達は戻れ。卵に変化があったらすぐに知らせに来い」

 ガイの顔が険しくなった。

「また俺達に向こうで野宿しろって言うのか。今まで全く変化してねぇんだから変わらねぇよ。今からあんな所までいけるか」

 もうあの場所に何日も留まっていたのである。これ以上はごめんだ。一度、騒げる場所を知ってしまえば、ただの見張りに戻りたいわけはない。

「あれは卵だ。いつ生まれるかは誰もわからない」

 しかしマリアは冷たく言う。だがそんな正論だけで人が動くわけじゃない。


 ルーイスがマリアの襟につかみかかってきた。彼は大柄でマリアよりも大きく感じる。

「ふざけんじゃねぇぞ、マリア。そんなのはおまえみたいな平民女の仕事なんだよ!」

 その途端、マリアの左手の裏拳がルーイスの顔を跳ね上げ、マリアの全力の右拳がルーイスの顔面に入った。

 ルーイスは吹っ飛ばされて、大地に転がった。あまりの全力の攻撃に、周りがしんと静まった。

 静まった中、静かにマリアは語った。

「平民と呼ぶのは別にかまわん。事実だからな。だが私は、マリア副長だ。何度言ったらわかる。おまえの頭は記憶もできないくらい空っぽか」

「っくそっ」

 ルーイスは鼻を押さえながら立ち上がった。血が流れている。マリアは治療も許しそうに無い。

「早く行け」

 マリアの言葉に、仕方がなくルーイスは歩き出す。ガイもそれに着いていく。

「馬は置いていけよ。こんな夜道を歩かせられないからな。どうせ歩いても大した距離じゃない」

 マリアは追い打ちを掛けるように、ルーイス達に言った。また舌打ちが聞こえて、二人は野営地を去って行った。

 マリアが振り返ると部隊員達が何かつぶやいていた。平民?という声が聞こえてくる。

「では解散する。明日は朝から力仕事になる。しっかり休むように」

 マリアの合図で臨時部隊はばらばらと動き出した。トマスは皆を集めて、見張り順の確認をした。


 マリアは冒険者達に顔を向けた。それを見てアクアが近づいていく。

「私達にも何か話か?」

 するとマリアは三人をじっと見回しながら言った。 

「今夜もおまえ達は勝手に見張りをするのか?」

 キャロンも歩いてくる。

「そうだな。夜しか捕れない獲物もいるし、周辺のチェックも欠かせない。交互に寝ながら、調査がてら散歩してるさ」

 軽い受け答えだったが、マリアの視線は鋭いままだった。

「ここを離れるときは、我々の部隊の見張りにも声をかけていけ」

 マリアは見張り達が彼女たちをまったく見ていないと言うことに疑問を感じていた。釘を刺すことで、彼女たちの動向を探ろうとした。

「いいぜ。じゃあ、ちょっくら行ってくる。フィリップ、私達は周りを探ってくるよ。見張り頑張ってな」

 アクアは気軽に第一班の見張りであるフィリップに声をかけて歩いて行った。ベアトリスもキャロンも勝手に離れていく。


 マリアは冒険者達が消えるまでじっと見ていたが、その後で、テントに入ろうとしていたドナルドを呼び出す。


「どうしたんですか?」

 ドナルドは少しおびえていた。マリアが尋ねる。

「昨夜何か気づいたことはあるか?」

 ドナルドは少し考えて答える。

「早く眠ってしまいましたので。何かあったんですか?」

「夜、この野営地には魔法をかけられる。たぶんキャロンだ。どのような効果のものかはわからん」

 マリアが言うと、ドナルドは当惑した。

「本当ですか? 私は魔力の流れを感じなかったのですが。野営地を覆うような魔法なら私は寝ていても気がつくと思います」

「知らん。恐らく、私とおまえのテントは除外されていた。私が焚き火の方に行こうとしたときに感じたんだ。私は魔法はつかえないが魔力は強いらしいからな。それで感じたのかも知れん」

 ますますドナルドは難しい顔をする。

「本当ですか。何のために。それにどうしてそれがキャロンだと」

「あいつらの考えていることなどわからん。だがいろいろと彼女達は不審だ。警戒するに越したことはない。おまえのテントをわざと大テントの隣にし、私のテントはここから大きく離した。私は夜中に問題が無いか確認することにする。おまえも夜一度起きて、異常が無いか確認するんだ。特にあの三人が何かやっていた場合は、すぐに取り押さえろ」

 ドナルドは少し考えてから答えた。

「わかりました。そもそも魔法が使われれば私は気がつくでしょう。もしかしたら単に安全のための結界を使っているだけかも知れません。結界魔法は冒険者には良く広まっているものですから。彼女達は悪さをしませんよ。一緒にいてよくわかります」

「だと良いがな」

 ドナルドも十分彼女達に懐柔されていることをマリアは苦々しく感じた。しかし、ドナルドはこの部隊の唯一の魔術師なので、マリアはドナルドにたよるほか無かった。

 マリアはドナルドと別れて、自分のテントに戻っていった。

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