(17)夜の宴その一
マリアは夜に声を聞いた気がして目を覚ました。まだ寝てからそれほど時間は経っていない。
マリアの改造テントは結構物騒なものになっている。テントの繋ぎ目を補強し、内側には全体に皮を張ってある。つまり、そう簡単に破って入られないようにしてある。支柱も太く強いものに変えてあった。更に、テントの入り口には刺針の罠もある。
更に、マリアは皮鎧を着けて、剣を横に置いて眠っている。夜這いの防止策にしては非常に物々しい。
これらはマリアの実体験から来ている。マリアが十代の頃は遠征訓練の度にテントに忍び込もうとする男がいた。それを防止するために作り上げたのが今のテントなのである。マリアは他の平民の女性近衛隊にもこのテントを無償で引き渡している。それでも性被害は全くなくならないのだが。
マリアはしばらく様子をうかがっていたが、何も聞こえなかった。
気のせいかとも思ったが、マリアは何か違和感を感じた。意を決して剣を構えたままテントを滑り出た。
マリアは警戒して周りを見渡すが、誰もいなかった。声も聞こえない。焚き火だけが大型テントの前で燃えている。
異変は感じなかった。マリアはテントに戻ろうとして足を止めた。見張りの姿が見当たらなかったからである。
見張りは松明を持っているから見渡して視界に写らないはずはない。
マリアは一番近くに見えるドナルドとケネスのテントに足を向けた。
あまり近寄らずに闇の中で目をこらすが、変化はなかった。
次に大テントの方に進む。
すると、何か風の塊にぶつかった。そこに触れた途端に男女の会話が聞こえた。
マリアはすぐにその塊を越えて進んだ。空気が変わった。臭いも。
男女の会話の声は聞こえず、替わりに騒がしい悲鳴が聞こえる。男の声と女の悲鳴だ。
〈やっぱりこうなったか〉
マリアは大テントに向かって走り出した。
その瞬間マリアは、後ろから体を押さえられた。
〈まさか!〉
マリアは驚愕する。油断はしていなかった。それなのにいつの間にか背後を取られていた。しかも一瞬で口を押さえられ、両腕ごと体を締めつけられている。
マリアは暴れて逃れようとするが、ずるずると引きずられていった。
体が大きく力も強いマリアが、なすすべ無く押さえつけられ、まったく身動きできない。こんなことができる奴を混乱する頭で考えるが、竜討伐隊の中からは該当者が出てこない。
〈ならば夜盗か〉
マリアは全力で抵抗した。しかし、抵抗むなしくマリアはそのまま自分のテントまで運ばれていった。
※
キャロンは臨時部隊のポールを連れて戻ってきた。彼は一順目の見張りで外にいたので、今夜の相手として捕まえ、大テントに向かっていた。ちなみにもう一人の見張りはトマスなので、すでにベアトリスと影に消えた。外で○○するらしい。アクアはもう大テントに突入して楽しみ始めている。
キャロンはそれほどがっつくタイプでもないので、一人外で真面目に見張りをしていたポールを連れてきたのだ。
しかしそこで立ち止まって背後のマリアのテントを見た。テントに動きがあったことに気がついたのである。
キャロンはマリアのテントのそばに探知魔法を仕掛けていた。彼女だけ、ベアトリスの支配下にない。夜中に起きられたら迷惑なので、わかるようにしていたのである。
キャロンはポールをテント内で待っているように指示して、一人マリアのテントに向かった。
キャロンが影から見張っていると、マリアがテントから出てきた。様子を見る限り、たまたま目を覚ましたという感じではない。
そのまま自分のテントに戻ってくれることを祈っていたが、彼女は当たりを見渡すと、大テントの方に近づいていく。キャロンは舌打ちした。結界の外からなら中で何が起こっているかはわからない。大声が上がっていても明かりが付いていても見えなくなっている。 しかし結界内に入れば違う。結界は魔獣よけにもなっているので、魔獣は近づけないが、人間なら普通に入れてしまう。
マリアはとうとう結界内に入ってしまった。何か感じたのか戸惑っている。
「体内の魔力が強いせいで、結界の存在にも気がついたようだな。やれやれ。今日は男達は諦めるか。その代わり、マリアには頭のねじが焼き切れるくらいの快楽を味わわせてやろうか」
マリアは大テントに向かって走りだしている。キャロンは背後からマリアに近づいた。




