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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(16)二日目

 マリアは朝から大忙しだった。装備の持ち込みチェックや備品の確認。御者は雇っていないので、馬の具合まで見なくてはならない。

 臨時部隊をこき使いながら、着々と遠征の準備を整えた。

 それに加えて寝不足で調子も良くない。


 用意した馬車は六人立てで三台。御者はマリアとドナルドとトマス。そのうちドナルドの馬車は荷物のみで人が乗る予定はない。

 昼近くになってだいたい準備が整った。臨時部隊も丈夫な革鎧を手配され少し浮かれた感じである。防御面で言えば金属鎧の方が良いのだが、さすがに人数分手配できなかった。


 朝から頑張ったかいもあり、準備は早々に整った。

 マリアが一息ついていると、ジェイムズ総長とサミュエル隊長が現れた。

 ジェイムズ総長とは近衛隊の統括責任者であり、事実上のトップだ。形式上ならその上にエドワード王子がいることになる。近衛隊はジョージ王が自ら手配した組織であるため、王直轄の部隊とされている。現在はエドワード王子がそのトップと言うことだ。

 そしてサミュエルは第一近衛隊の隊長。マリアの直属の上司に当たる。

 二人が現れたので、マリアはすぐに立ち上がって敬礼した。

 サミュエル隊長も敬礼する。

「もう準備はできたか」

「はい。大丈夫です。わざわざありがとうございます」

 マリアは自分の上司はともかく、総長まで来るとは思っていなかった。今回の仕事は近衛隊にとっては外れ仕事である。竜退治などという仕事は近衛隊の仕事ではない。まさしく冒険者の仕事なのだ。


 近衛隊の仕事というのは多岐にわたるが、その全ては対人、対国を相手にしたもの。魔獣を相手にする仕事など、管轄外も良いところなのだ。

 しかし、エドワード王子は自分の宝である人工魔石を奪われた怒りから、竜討伐を指示してしまった。指示されたジェイムズ総長は、仕方がなく第一近衛隊から選抜しようとしたが、さすがにサミュエル隊長は抵抗した。うまくいくかもわからない仕事に、第一近衛隊から多くのメンバーをだすのは迷惑だったのだ。

 結局、各近衛隊から数人ずつメンバーを集めることになったが、その事を形式的にエドワード王子に報告すると、第一近衛隊からはマリア副長をだすように指示があったのである。


 ジェイムズ総長はなぜマリアが指名されるのかまるでわからなかったが、口を挟めば怒りを買うことがわかっていたので、その事をサミュエル隊長に指示した。

 サミュエル隊長もこのような仕事にマリア副長を出したくはなかったが、王子命令となれば仕方がない。第一近衛隊の代表としてはマリアが出ることになったのである。

 ちなみに第二、第三近衛隊の隊長も明らかにこれが外れ仕事であると気づいたらしく、落ちこぼれの隊員を推薦してきた。失敗して処罰される人材は無能者で十分である。


「ルーファスが早く帰ってこいと言っていたぞ」

 サミュエル隊長が笑いながら言う。

「私がいないと仕事が倍になりますからね。せいぜい早めに終わらせてきますよ」

「例の冒険者達はいないのか」

 ジェイムズ総長が言う。

「そろそろ来るでしょう」

 臨時部隊やドナルドと違い、冒険者は指示された時間にしか表れない。

 と、その矢先にざわめきが起こった。



「何にやにやしているんだ。ベアトリス」

 アクアがベアトリスに言う。

「いや。マリアがどんな顔しているのかと思って、きっと眠れなかったんじゃないかしら」

「また悪趣味なことをやったな、ベアトリス」

 三人は近衛隊の守衛所に赴いたが、すぐに中に通された。入っていくと人だかりがあるので、場所はわかる。

 今まではせいぜい第一近衛隊事務所への行き来だったから、それほど目立たなかったが、今回は、他の部隊もたくさんいる。

 当然全員が現れた三人の美女に注目した。


 体にしっかりフィットした皮鎧を着けるキャロン。全身をマントで包み、白い腕だけ見せているベアトリス。そしてビキニアーマーのアクア。特にアクアは誰でも注目してしまうかなりぎりぎりの格好だ。

 三人はマリアを見つけた。マリアは二人の上官と話をしていたようだ。今はこちらを向いて目を剥いている。

 三人はマリアの方に歩いて行った。

 キャロンが声をかける。

「もうそっちの準備は整っているようだな」

 ベアトリスが可愛らしく首をかしげながら続ける。

「ちょっと遅かったかしら?」


 残念ながら、マリアはベアトリスを見ても顔色を変えなかった。ベアトリスは内心がっかりする。わざと声を聞かせたので、ベアトリスと気づいているかと思ってた。やっぱり○○のときの声と、地声は違って聞こえるのだろうか。

「いや、時間通りだ」

 マリアは短く答えると、すぐに上官達の方に振り返った。

「紹介しよう。こちらが我が第一近衛隊隊長のサミュエル。そしてこちらにいらっしゃるのがジェイムズ公爵。近衛隊の総長をしていただいている」


 アクアが素直に驚いた。

「うわっ、すげぇお偉いさんかよ」

 確かに彼は軍人のようには見えない。

「今更取り繕う必要も無いだろう。私達は貴族ではない」

「そうそう。私達はただの冒険者」

 キャロンとベアトリスは言う。

「私はキャロンだ。今回の竜討伐に参加することになった」

 最初にキャロンが挨拶をする。

「私はベアトリス。お見知りおきを、ね」

 アクアも習う。

「私はアクアだ。よろしく頼むぜ」

 三人の物怖じしない無礼な言い方にマリアとサミュエル総長は渋い顔をしていた。しかし、ジェイムズ公爵は顔色を変えずに一歩前に出て、三人に言う。

「今回名乗り出てくれた冒険者は君達だけと聞いている。期待しているぞ」

 それは品定めをしているような探るような視線だった。キャロンはそれを平然と見返す。

「金で働くのが冒険者だ。金をもらった以上、仕事は果たす」

 マリアは何か言いたそうな顔をしていた。それはそうだろう。相手は公爵である。王族に次ぐ地位の人物。普通なら口もきけない相手なのである。

 マリアが割り込んできた。

「では、ジェイムズ総長。行って参ります」

「うむ。気をつけてな」

 マリアは三人を追い立てるように馬車に向かった。

 ベアトリスは愛想良くジェイムズ総長に手を振っていた。


 馬車の準備はしっかり完了していた。荷物のチェックも終わっているようだ。

「よし、臨時部隊は真ん中の馬車に乗れ、一人はドナルドの馬車だ。冒険者達とケネス殿は私の馬車に乗ってもらう」

「御者はいねぇのか」

 御者席に臨時部隊のトマスと近衛隊のドナルドが座っているので、アクアが尋ねた。

「こちらも人員には限りがある。近衛隊員は御者ができる奴が多い、たいていは自分たちでやる」

 続けてベアトリスが尋ねる。

「ねぇ、ドナルドさんの馬車は一人だけなの?」

「貨物用だ。今は遠征の荷物が積み込んである。それを見張るために一人だけ乗る」

 キャロンも続ける。

「それじゃ、窮屈だろう。見たところ六人だての馬車だ。荷物を分散させればもっと余裕を持って座れる」

「こちらのやり方に口を挟まないでもらおうか」

 マリアはにべもなく言った。しかしこのままでは臨時部隊との接点がなくなる。ベアトリスとキャロンは目配せする。


 マリアが御者席に乗り込もうとしたとき、ベアトリスが大声で言った。

「私達、向こうの馬車に乗っていいかしら?」

 マリアは振り返って眉を寄せる。

「あまり薦めないな。できるだけ人選はしたつもりだが、それでもおまえ達は魅力的すぎる。部隊で問題は起こしたくない」

 つまり、囚人達に美女は刺激が強すぎると言うことだろう。しかしそれは今更である。

「一緒に戦う仲間。それに何日も一緒に過ごす相手だ。コミュニケーションを取った方が良い」

「今回の遠征で一番大切な武器や道具は、マリアのそばにあった方が安心だろ。荷物はこっちに運び込もうぜ」

 キャロンとアクアも続けた。

「おい、待て」

 マリアは焦っている。しかし止められてはまずい。三人はすぐにドナルドの馬車に行って荷物を運び始めた。真ん中の馬車に乗り込んでいる臨時部隊は目を白黒させていた。荷物を運び込んでくる三人にマリアは強く言った。

「これは規律の問題だ。こちらの指示に・・・」

 しかし負けてはいられない。アクアが遮る。

「関係ないね。こっちは冒険者の流儀でやらせてもらうぜ。冒険者が行儀良く男と女に別れて過ごしているわけねぇだろ」

「マリア副長。あんたの気遣いは感謝する。だが、その考えは私達には合わない。むしろコミュニケーションを取らせようとしないあんたの方針の方が疑問だ」


 三人の動きは止まらない。あれよあれよといううちに、荷物を移動させると、臨時部隊の馬車に走っていった。

 貨物用の馬車の御者席に座っていたドナルドも何事かと驚いて固まっている。

「おまえ達、一緒に行こうぜ」

「ほら三人ずつ別れて、別れて。私はこっちに乗るわね」

「じゃあ、私は後ろだ。私と一緒に乗りたい奴はいないか」

 アクアとベアトリスが言う。

 臨時部隊は顔を見合わせると、歓声をあげた。

 彼らは勝手に別れて馬車に乗り込んでいく。

 マリアはそんな彼らを見ながらため息をついた。いまさら止めることはできなさそうだ。これ以上もめれば出発が遅れる。

「すぐ出るぞ。遅れるな!」

 そしてマリアは御者席に戻った。



「へぇ、すごいじゃないの。格好良いわぁ」(ベアトリス)

「不安になる必要は無い。あんた達は十分に強いよ」(キャロン)

「そんなにうじうじするなよ。盛り上がったもんが勝ちだって」(アクア)


 三人はそれぞれの馬車で、積極的に臨時部隊に関わった。初めは単なる女と言うことで盛り上がっていた男達も、彼女たちそのものに惹かれていくようになる。

 ベアトリスはしなだれたり、ボディタッチをしながら、着実にコインを彼らの背中に貼り付けていった。

「ここ、ちょっと狭いから、御者席の隣に座らせてもらうわね」

 馬車の近衛隊達に全員コインを貼り付け終わると、ベアトリスは立ち上がって、滑るように御者席の隣に移動した。途端に残った部隊員達からブーイングがでる。


「ひどい仕打ちだな。まるで、私じゃ不満みたいだ」

 残ったキャロンがつぶやくと、慌てて三人の臨時兵はキャロンに向き合った。

「そんなわけないさ」

「そうだ、キャロンもすごく良い」

 近衛隊達はキャロンを褒めそやす。キャロンはにやりと笑う。

「冗談だ。あんた達は剣をやっているんだろ。やはり修行はきつかったんじゃないか」

 キャロンが会話を続ける。

 そして、ベアトリスは御者をやっているトマスの隣に座って積極的に話しかけた。何しろトマスはベアトリスのメインターゲットの一人だ。


 途中でトイレ休憩があった。全員馬車から降りる。アクアに肩を組まれて鼻の舌を伸ばしている臨時部隊が降りてくる。ベアトリスと手を取り合って御者席からトマスが降りてくる。キャロンに励まされて、目の少し潤んでいた臨時部隊が降りてくる。三人は完全に臨時部隊を籠絡していた。


 降りるとこちらをにらみつけて立っているマリアがいた。

「少々うるさいようだな。緊張感が足りん」

 アクアが男達から手を放してマリアに向く。

「安心しろ、ちゃんと警戒はしているぜ。長い旅路だ。緊張ばっかりしていても仕方がないだろう。マリア副長も今度はこっちに乗ったらどうだ。リーダーなら隊員とのコミュニケーションは重要だろ」

 しかしマリアは冷たく言う。

「浮かれて騒いでいる奴を信用する事はできん。この街道が絶対に安全と言う事はない。肝心なときに準備ができてないと言われても困る」

 するとキャロンが口を挟んできた。

「さみしいのなら、午後は私があんたの馬車に乗ろう。あんたや竜博士のことも知りたいしな」

 キャロンと一緒に乗っていた臨時部隊が不平の声を上げた。

「だったら私が今度はそっちに乗るぜ。ベアトリス、交代しようぜ」

「良いわよ。そちらの臨時部隊の方ともお話ししたいわ」

 マリアは苦々しく部隊員達を見ていた。しかし諦めたように吐き捨てる。

「好きにしろ。しかし、騒ぐのは大概にしろよ。遊びじゃないんだ」


 再出発したが、結局後ろの二つの馬車の騒ぎは収まらなかった。ベアトリスとアクアがしっかり彼らの心をわしづかみにしている。

 そして先頭の馬車では、ケネスがキャロンによって手懐けさせられていた。

 しかしこれはマリアにとっても好都合だった。

 実はさっきまで、ケネスはずっとマリアに竜の話をし続けていたのである。初めこそなにやら書き物をしていたようだが、道は悪いし良く揺れるので諦めて、マリアに話し相手を求めたようだった。興味の無いマリアにとっては拷問でしかない。曖昧に返事をしながら、必死に耐えていた。

 しかし今回はキャロンがケネスの聞き役になっている。キャロンは特に否定的な意見を言うでもなく、うまくケネスの言葉を引き出している。たまに鋭い意見をキャロンが言うと、ケネスが考え込むということもある。

 マリアにとって、初めてこの冒険者達を雇って良かったと思えた瞬間だった。


 そして夕方。マリア達の一行は広い草原にたどり着いた。その場所は、街道から少し横に入ったところにあり、休むに丁度良い条件を満たしている。

 近衛隊が迷わずこの場所を選んだのは使用経験があるからだ。


 馬車は止まり、全員が馬車を降り、荷物を下ろし始める。

 キャロンがベアトリスに近寄って声をかける。

「守備はどうだ?」

「ばっちり。残りはケネスとマリアだけね。ケネスは何かのタイミングでつけられそうだけど、マリアはどうかな」

「かなり警戒度が上がっているな。今は不意に近づかない方が良さそうだ」

 アクアも話に入ってくる。

「結構好き勝手やっちまったからな。嫌われるのも仕方がねぇさ」

 三人はそれぞれ鞄一つの荷物である。特段やる事は無い。

「それにしても盗賊が出ねぇな」

 アクアが残念そうにつぶやく。一暴れしたいらしい。

「近衛隊の馬車を襲う盗賊はそういないだろう。報復されるのが落ちだからな」

「ああ、それで豪華な紋章が馬車に着いているのね」

「仮に盗賊が出ても前に出て戦うなよ。あくまでサポート程度にしておけ」


 部隊員達はマリアの指示でてきぱき動いている。

 ドナルドには三頭の馬を外し、馬を木に繋いで餌と水を与えていた。それから、馬車を並べて、壁替わりにしている。

 臨時部隊は自分たちが使う大テントの準備である。マリアは自分のテントを組み始め、ドナルドは自分とケネスが使うテントを立て始めた。ケネスはやることなく立ち尽くしている。

 冒険者達も手伝いに入ろうとしたが、マリアはかたくなに拒否した。仕方がないので、ドナルドや臨時部隊の手伝いをする。

 ドナルドとケネスのテントは大テントと向かい合わせに立てられた。大テントは十人用テントで、五人ずつで仕切られている。マリアのテントはケネスとドナルドのテントからも離れ、馬車の並びとその先の馬置き場に近い場所に立てられた。

 テントが組み上がると大テントとドナルド達のテントの間に焚き火がたかれた。


「ねぇ、マリア副長。焚き火で何か料理するの?」

 ベアトリスが近づいてくる。マリアは少し後ろに下がってベアトリスを警戒しながら言う。

「この火は明かりのためだ。夜間の見張りに使う」

「じゃあ、夕食って何?」

 マリアは答えずに、部隊員の方に歩いて行った。皆焚き火の周りにいて、冒険者達と語り合っている。その輪の中にドナルドもいる。一方でケネスはその輪には入れずに縮こまっていた。


「今日はご苦労だった。明日も馬車の旅が続く。早く休むように。食事は今から配る。おい、ドナルドいつまでもサボっているな」

 ドナルドは急いで、荷物の場所に走り、袋をつかんで持ってきた。

「え、と、今日の分の食事です」

 そして携帯食を配り始める。それは干し肉だった。冒険者達にも渡される。皆がっかりしたような顔だったが、ある意味当然でもある。荷物になるのであまり豪華な食事は持ち歩けない。

「食べながら聞け。明日は朝飯を食べたら、ダスガンに向かうことになる。ダスガンはこの遠征でよれる最後の町だ。竜討伐の為の食料を買いつける。その間おまえ達は待機だ。買い付けが終わった段階ですぐ出発し、目的地に向かう。今日遊び半分だったものは明日はしっかり気を引き締めておけ。質問は」

 マリアは全体を見渡す。日が落ちて一気に暗くなってきた。誰も質問しない。


 マリアは冒険者達を見た。

「おまえ達は私のテントで眠れ」

 そして臨時部隊の方を見て言う。

「こういう遠征では、必ず女のテントに入り込む不心得者がいるが、私には通用しない。もし見つけた場合はその場で処罰する」

 マリアが冷たく言うと、全体がしんと静まった。

 そしてマリアは続けた。

「見張りは二人ずつ三交代だ。トマス。人選して順番を決めてくれ。今回担当にならなかった奴は明日の担当にしろ」

 

 冒険者の三人は顔を見合わせる。このままでは夜のお楽しみができない。ベアトリスは静かに口を開いた。

「それは賛成しにくいかしらね」

 マリアがベアトリスをにらみつける。まだマリアにコインを貼り付けていない。隙が無くてできない。キャロンが続けた。

「私達は冒険者だ。普段は何日もこんな環境で過ごしている。それなのに、なぜ私達が夜の見張りから外れる必要がある? もちろん彼らはあんたの部隊だから、その指示で良いかもしれないが、私達に適用して欲しくはないな」

 ベアトリスが言った「それ」は「マリアのテントで寝ること」だったはずだが、キャロンは「見張りを臨時部隊に任せること」に置き換えて話を続けた。

 マリアが怪訝な顔をする。

「おまえ達も見張りに出るというのか?」

 そこにアクアも乗ってきた。

「他人に任せるのは性に合わなくてね。私達はいつも三人で旅をしている。夜の見張りなんて日常行為だぜ」

 キャロンが言った。

「安心しろ。準備はしてきている」

 更にマリアは顔を渋らせる。

「準備しているようには見えないがな」

 三人の荷物はそれぞれ鞄一つだけ。身軽と言えば聞こえは良いが、長旅をするには軽装すぎる。

「魔法で寝床を用意できるのよ。何ならマリアも私と寝る?」

 ベアトリスはわざとイヤラシい言い方をする。マリアはフンと顔を背けた。

「だったら好きにしろ。せいぜい気をつける事だ」


 その後、トマスが臨時部隊を集めて夜交代のスケジュールを立てていた。

 マリアはケネスとドナルドのテントに入り、なにやら打ち合わせを始めた。


「うまくいったわね」

「危なかったな。これで夜自由に動けるぜ」

「マリアが自分のテントに入ったら、マリア以外の部分を全部結界に包むか。ケネスにはコインをつけたのか?」

 キャロンが聞く。

「当然。さっき一人で孤独そうだったから声をかけたわ。でもあのおじちゃんは私パスね。タイプじゃない」

「私も嫌だぜ。全然体力なさそうだ」

「私も止めておこう。それほど面白い反応はなさそうだ」

 口々に言うと、ベアトリスは笑う。

「じゃあ、彼は一晩中ぐっすり眠るって事で」

 ベアトリスが続ける。

「それから、私はドナルドとトマスをもらって良いでしょ」

 キャロンは考えながら言う。

「私はどうするかな。見張りの奴からいただくか」

「じゃあ、残り全部私な」

 アクアは当然のように言うと、ベアトリスが呆れたように言った。

「相変わらずね。アクアは」

 そして、夜の宴が始まった。

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