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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(12)トマス

 コーネス伯爵が治めるコーネス領はダグリス王国の中では東端の、あまり大きくはない領地である。ここはダグリス王家が興る前からコーネス一族が支配している場所であり、百年ほど前にダグリス王国の一部となるまでは、独立した国でもあった。コーネス伯爵家は伝統と格式のある貴族の家系として、貴族の中でも一目置かれていた。


 しかし、コーネス領はそれほど裕福な地域ではなかった。もともと特定の産業が盛んというわけでもなく、ダグリス王国の中で特に目立つような地域ではない。それなのに、税金は他の領地に比べて高く、平民達の生活は楽ではなかった。

 コーネス伯爵は過去の領主と同様、豪奢な生活をしており、周辺国の状況が変わろうと、特段生活の水準を落とすことはしなかった。それでいて、領主として地域産業の発展に貢献するような政策も行なっていない。過去から現在まで変わらないこと。それがコーネス伯爵家の伝統であった。


 現ダグリス王ジョージが父親ヘンリーから王位を継いだ後、ジョージは数年をかけて、自分の領地を巡回した。もちろんそれは自分の王権を確かなものにするための視察である。王位を継いだからと行って、地方の有力貴族が今まで通り従ってくれるとは限らない。特に、今回のヘンリー王からジョージ王の政権移行では、支持する貴族の顔ぶれが大きく変わった。態度を曖昧にしている貴族も多く、ジョージ王としては国内の引き締めが必要だった。

 視察時の貴族の忠誠度を測る方法として、ジョージ王は各領主が持つ宝物を自分に譲るように迫った。もともと、ジョージ王は宝物に目がなく、収集癖があったので、一石二鳥の施策だった。たいていの領主は、やむを得ずジョージ王に従った。抵抗すれば反逆の意志ありとして、取りつぶされる恐れすらあったのである。


 当時のコーネス伯爵はもともと態度を明確にしていない貴族であったが、ジョージ王の要望を明確に拒否した。伝統と格式を自認するコーネス伯爵にとっては、相手が国王であるとは言え、代々守られてきたコーネス家の宝物を、みすみす譲るような真似はできなかったのである。

 そして、それまでのダグリス王家であれば、コーネス伯爵の意志を尊重するのが当然だった。


 しかし、視察から数年後、コーネス伯爵は近衛隊に逮捕された。脱税の容疑だった。コーネス領は取り上げられ、コーネス家と関係の無い中央の貴族の所轄地にされた。

 コーネス伯爵はこれを屈辱に思い、妻共々自害した。


 コーネス伯爵の息子達は貴族の地位を剥奪されたが、逮捕されることも命を取られることもなかった。これは他の貴族からの口添えでなんとか認められたことだった。

 別に他の貴族がコーネス伯爵の血筋を守りたいと思ったわけではない。あまりにも強引なジョージ王の措置に、明日は我が身と警戒したからである。



 コーネス伯爵の長男トマスは、弟たちと違い、平民に下るのを潔しとしなかった。トマスは伝統のある貴族の一員として、英才教育を受けており、素直に自らの処遇を受け入れることはできなかったのである。

 弟たちを説得しても彼らはすでに諦めており、トマスに習おうとはしなかった。知り合いの貴族を何人も頼ったが、ジョージ王を恐れる貴族は快い反応をせず、ただ保留された。

 それならばと、領民の支持を得るため町で演説を行い必死の奮闘をしたが、領民はコーネス伯爵家を大切にしようという意志はなかった。むしろトマスを非難する声の方が大きかった。

 最終的にトマスはダグリシアに赴いて、ジョージ王に直訴することにした。


 トマスにとっては、不当な罪で土地を取り上げたジョージ王を恨む気持ちもあったが、何もなさずに自害した両親も、素直に平民に成り下がった弟たちも許しがたいと考えた。

 だから、トマスにとってはジョージ王に頭を下げるのは屈辱ではなかった。伯爵からの降格も仕方がないと考えた。とにかく、自分が貴族であり続けることが大切だった。


 しかし、コーネス領を取り上げた今となっては、ジョージ王にとってトマスの言い分は聞く必要の無いものだった。だからといって、一度罪はないと判断した相手を処分する気も無かった。ジョージ王はしつこく謁見を求めるトマスを無視することに決め込んだのである。

 何年も謁見を認められなかったトマスはそれでも諦めなかった。騎士として鍛えた腕を示して近衛隊に入る道を探ったり、中央の貴族に取り入って便宜を図ってもらえるようにお願いしたり、考え得る様々な方法で、貴族への返り咲きを狙った。



 転機が訪れたのは、ジョージ王が表舞台に出なくなり、息子のエドワード王子が国政の中心となった頃だった。

 初めてトマスはエドワード王子との謁見を許されたのである。トマスは歓喜し、必ずこのチャンスを活かそうと準備をした。


 謁見の日。トマスはエドワード王子に跪き、最大限へりくだりつつも、自ら役に立てることを示し、貴族の一員に加えてもらえるようお願いした。自分でも完璧と言える懇願だった。

 しかし、エドワード王子はトマスの話を途中まで聞くと、すぐにトマスを逮捕させたのだった。



「なぜこのような・・・」

 エドワード王子の面前で体を押さえられ、トマスは愕然としたままエドワード王子に問いた。

 エドワード王子は面倒そうに言った。

「たしかおまえ、コーネス家の者なのだろう。コーネス領の宝物はろくでもない欠陥品ばかりだった。あんなものを私に送るというのはダグリス王家を馬鹿にしているとしか思えん。いつかあの関係者を処罰したかった」

「送った? わがコーネス家の宝物は全て敷地と共に王家に差し押さえられたもの。私が何かをしたと言うことはありません」

「あんな地味なものを集めるような一族は貴族には不要だ」

 意味不明の断罪だった。

 呆然としたまま、トマスは引き立てられたのだった。



 コーネス家の宝物は、別に悪いものではない。しかし、家具や食器といった実用品が多く、装飾品は少なかった。更に、作りも色も地味で華美なものはなく、渋みと深みが特徴であった。通をうならせる逸品と言える。しかし、エドワード王子は美しく豪奢で華やかな装飾品・芸術品が好きだった。


 ジョージ王の視察の時、まだ若かったエドワード王子も付いていったが、コーネス家の宝物にはまったく興味を持てず、記憶にすら残らなかった。

 しかし、宝物庫を見回ったときに、あまりにも場違いで飾り気のない宝物が納められていることがもともと気に入らなかったのだ。ジョージ王の持ち物なので処分はできなかったが、いつか自分のものになったら廃棄しようと考えていた。

 そして最近ジョージ王から実権を奪ったエドワード王子は、自分が気に入らない宝物を処分すると共に、そのようなくだらない宝物を奉納していた貴族には、改めて別なものを納めるように指示してた。宝物庫を自分のお気に入りで固めてしまいたかったのだ。

 しかし、コーネス家はすでに無くなってしまっているため、それができなかった。そんなおり、トマスというコーネス家の男がしつこく謁見を求めていると知り、腹いせで処罰したのである。


 牢に入れられてもトマスは諦められなかった。そもそも自分に覚えのない不当な処遇である。

 そこに閉じ込められた貴族の息子達はすでに諦めている者が多かった。

 初めはどうにか親に連絡を取って救い出してもらおうとしているのだが、長年牢から出されないと諦めて大人しくなっていく。

 その中でトマスは鍛錬を続け、無実を訴え続け、常に出ることを模索していた。


 そして今日。奇跡が起こった。

 牢獄に近衛隊が現れたのだ。リーダーはどうやら女性のようだった。しかし初めはよくわからなかった。それほど女性離れした体格だった。

 彼女はマリア副長と名乗った。女性で副長というのは意外だが、見た目からして屈強な戦士のようである。ある意味納得できた。

 マリア副長は竜討伐に参加する者を募った。竜討伐で活躍し、生きて帰って来れた者は罪が許されると演説した。

 当然トマスを始め囚人達は驚喜した。だからほぼ全員が立候補した。しかし、体を壊している物や年を取り過ぎている物はすぐに外された。

 トマスは自信があった。

 そして、必ずやこのチャンスを生かすと心に決めたのだった。

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