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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(10)アクアの場合

「よっ、ひっさしぶりぃ」

 第二近衛隊のロバートはいきなり背中を叩かれて振り返る。そして驚きの声を上げた。

「あ、アクア。おまえ、戻ってきてたのか!」

 アクアは空いている席に勝手に座った。

 ここは大衆居酒屋で、近衛隊がよく使う場所だ。実際ロバートの他にも多くの近衛隊員がいる。

 アクアの姿は目立つ。何しろビキニアーマーしか身につけていない。裸の女が入ってきたようなものである。

「デイヴィッドも元気だったか。アルフレッドとジョナサンはいないみてぇだな」

「当たり前みたいに座っているんじゃねぇよ。アクア。おまえがいると目立つんだよ」

 ロバートが怒鳴る。もっとも怒っているのではなく、ノリで突っ込んでいるようなものだ。

「おい、知り合いか。この女」

 ロバートの隣の男が尋ねる。

「ああ、名物女だよ。ここじゃまずいな。後で場所変えてからにしようぜ」

「いいね。久々に楽しみたくてよ。思わずここに来ちまったぜ」

 アクアは笑顔で言う。


 デイヴィッドはそんな二人を見て苦笑した。

「相変わらずだな。アクア。アルフレッドはもう近衛隊を辞めたよ。ジョナサンは呼べば来るとは思うが」

「何だ、アルフレッド、辞めちまったのかよ。結構いいもの持っていたのにな」

 アクアは意味深なことを言う。

「言っておくが、俺はパスだぞ。明日朝から忙しいんだよ。おまえと関わるとダメージが深い」

「そんな事言うなよ。デイヴィッド。大分たまっているんじゃないか。発散しないと破裂するぜ」

「うるせぇよ。代わりにこいつが相手をしてくれるってよ。な、ピーター」

 デイヴィッドは隣の男の肩を叩く。

「おまえら何の会話しているんだよ。わけわかんねぇ」

 ピーターがわめく。

「いいね。楽しみだぜ」

 アクアが舌なめずりする。


「まじい。注目されちまってる。場所変えるぞ」

 ロバートが金をテーブルに置いて立ち上がる。

「お、おい、まだ始めたばかりだろ」

 ピーターが言う。

「ほら、全部喰っちまえ。近くにいい店があるんだよ。そこで二次会だ。三次会が一番楽しいんだからしっかり力つけとかねぇとな」

「私も喰うのは手伝うぜ」

 アクアが手を伸ばしてテーブルにあった食事を食べ始める。

「デイヴィッドも二次会には絶対参加な」

 ロバートが続けた。デイヴィッドは嫌そうな顔をする。

「行くと三次会までなだれ込みそうで嫌だ」

「うるせぇ。おまえが抜けるなら替わりを呼べよ。こいつは二人がかりでも無理なんだよ」

「ったく。替わりを呼べばいいんだろ」


 デイヴィッドは立ち上がると隣のテーブルに行って何やら話し始めた。

 その間にアクアは食べ物と飲み物を全て平らげる。

 デイヴィッドは戻ってきて二人の男を紹介する。

「アイザックとジェイコブだ。こいつらを任せるよ」

 二人の近衛隊は何か期待に充ちた顔でアクアを見ていた。

 アクアは唇を舐める。

「良いね。最っ高の快感を味合わせてやるぜ。さて、行こうか。いつものあの店だよな」

 するとロバートが言う。

「あそこならあまり近衛隊も来ないし、おまえも目立たないからな」

 次に行く店は露出度の高い女性が接待するような風俗店なのである。アクアは女性とも○○するので、そういう店は大好物だ。猥談で大いに盛り上がれるのも良い。

 ロバート達はすぐに店を出て行った。


 二次会でアクアはロバート達の愚痴をあおり立てるように情報を聞き出した。デイヴィッドの代わりにアイザックとジェイコブが来たので、彼らもあおってどんどん悪口を言わせる。

 そして適度に酔ったところで、アクアは四人の男を連れてホテルに入っていった。



 翌日の夜もアクアはロバートを探しに行った。

 しかし飲んでいたのはデイヴィッド一人。

 アクアはデイヴィッドの前に座る。

「何だ、デイヴィッド一人かよ」

 デイヴィッドはあきれ顔で言う。

「また来たか。おまえ、やりすぎだぞ。ピーターは今日使い物にならなかったぞ。第二近衛隊にも聞いたが、ジェイコブもアイザックも同じみたいだったようだ」

「結構楽しんでいたと思うぜ。やる気いっぱいだったしな。ロバートは手を抜いていたみたいでむかつく」

 アクアが言う。

「あいつは経験者だから要領を得ているんだろうよ」

「今日はどうだ。デイヴィッド。久々にやりてぇだろ」

 アクアが目をぎらつかせるが、デイヴィッドは顔を背ける。

「そんな顔をしてもダメだ。おまえ、手加減しねぇじゃねぇか。けっこう体がきついんだよ。他のテーブルに行けよ」

 アクアは頬を膨らませる。


 そこに二人の近衛隊が近づいてきた。

「デイヴィッドさん。そのエロい女は誰です。紹介してくださいよ」

 デイヴィッドは顔を向けて苦笑した。

「良かったな、アクア。紹介しよう。わが第三近衛隊のルーキー、レイモンドとパトリックだ」

 そしてデイヴィッドはすぐに席を立つ。

「アクア、後は頼んだ。焼くなり煮るなり好きにしてくれ」

「任せとけ。さぁ、レイモンド、パトリック、一緒に楽しもうぜ」

 そして、アクアは二日目の情報収集を始めたのであった。



 三日後の夜、キャロンはいつもの居酒屋に顔を出す。ベアトリスとアクアが飲んでいた。

 そのままキャロンは二人の席に座る。

「あら、キャロン。やっと戻ってきたのね。楽しみすぎなんじゃないの」

「丸一日しかグレスタにいなかったのに遊びすぎはないだろう。片道で一日かかるんだからな」

 キャロンも酒を頼む。

「それで、情報は集まったか。明日が期限だろ。もう時間が無い」

 アクアが答えた。

「〆切は一日延びたぜ。当然集まっていないようだな。ただ、私はあまり良い情報をつかんでいないぜ。討伐隊のメンバーに選ばれた奴らが、役に立たない屑だって事くらいかな。近衛隊ってのは第一から第三まであるみたいだが、第二と第三じゃ、落ちこぼれの近衛隊が選任されたって事らしい。名前はよく覚えていねぇが」

「第一は違うのか?」

「よくわからねぇな。第一の奴がいなかったからな。ただ、なんか、偉い奴らしいけど。すげぇ評判が悪かった。とにかく暴力的な女なんだってよ」

 アクアの話はそれで全てのようだ。


 続けてベアトリスが話し始めた。

「第一の話はちょっと聞いたわよ。私の彼が第一近衛隊に所属しているからね。マリアって言う平民出身の女性が副長なんだって。驚きよね。嫌われているって言うのは本当だろうけど、すごく信頼もされているみたい。少なくとも私の彼はそう言っていたわ。規律を乱すと、文字通り鉄拳制裁があるんだって。でも、しっかり働く近衛隊には親身になって指導してくれるそうよ。すっごく筋骨隆々とした人で、とても女性に見えないって」

「そのマリアが竜の討伐隊に選ばれたのか。第二、第三が落ちこぼれという割りに第一が副長とは、何かアンバランスだな」

「その辺はわからないわね。でも、有能な人なのだとは思う。彼もこの仕事はあまり良く知らないみたいだけど、本来竜退治なんて近衛隊の仕事じゃないのに、色々手を尽くしているってさ。マリアはあまり人を信用していないのか、何でも自分でするタイプみたいね。彼、手伝わせてくれないって愚痴ってたわ」

 キャロンは少し考える。

「竜退治なのに、落ちこぼれの無能者が集められる。つまり、エドワード王子はこの討伐を成功させるつもりがないのか」


 しかしアクアが反論する。

「それじゃ、何のために討伐隊をだすんだよ」

「依頼金が安すぎるだろう。八百ゴールドじゃ竜討伐なんてできない。そしてエドワード王子はすでにモンテスに新たな人工魔石を作るように命令している。つまり、エドワード王子にとって、竜の事などどうでも良いって事なんじゃないか。怒りにまかせて竜討伐を指示しただけとか」

 ベアトリスも考えながら言う。

「あり得るわね。だとしたら、マリアは無能だから選ばれたんじゃなくて、エドワード王子に嫌われたから選ばれたとかかしら。あいつ、平民嫌いそうだし」

「可能性はあるな。近衛隊の副長が平民出身というのは初めて知ったが、かなり軋轢はあるだろう。エドワード王子が他の落ちこぼれどもと一緒に排斥しようとしてもおかしくはない」


 アクアが口を挟んだ。

「で、おまえの方はどうなんだよ」

 キャロンが話し出す。

「そうだな。前にモンテスも言っていたが、竜への攻撃には魔法と物理の併用が必須のようだな。私は魔法のみでどれだけやれるか試すつもりだがな」

「それは、何となく知られている事よね。単純な力では傷をつけられないし、魔法に対しては抵抗性がある」

「実際に竜を倒すようなB級やA級の冒険者なら、肌感覚でつかめる事だろうな。パーティで挑むなら戦士の剣に魔法を付与するのは通常業務だ。私たちには必要ないが」

 アクアが尋ねる。

「他には?」

「むしろここからが本題だ。あの人工魔石だが、竜が取り込んでしまうと排出できなくなるらしい。本来竜は卵を産んだ時点で自分の体の魔力を全て移し終えて体を崩壊させるわけだが、体に人工魔石が残っているとそれができなくなるようだ。本来死ぬはずの竜は死ねなくなり人工魔石だけで生きる変異体になる。そういう実験結果を記録から見つけた」

 ベアトリスが大仰にうなずく。

「じゃあ、話は簡単ね。竜が卵を産んでいなければその竜を、卵を産んでいたとしたらその変異体を退治すると」

 キャロンが言う。

「問題は変異体の方だな。竜としての力を全て卵に移したせいで、本体はほとんど魔力が無いらしい。人工魔石でかろうじて生き延びているだけのようだな。こんな存在を、見つける事は難しいぞ。ベアトリスでもわかるかどうか」

 ベアトリスは魔法の気配に敏感だ。魔獣を探すのも得意である。

「あら、それって、卵を産んでいたらマガラス山に行っても発見が難しいって事?」

「そういうことだ。魔獣の気配が無いから一度逃げられると発見が困難だとその本には書かれてあった。」

 キャロンが答えるとアクアがスプーンをキャロンに向けた。

「それなら、どうするんだよ。卵壊しても人工魔石はないんだろ。そこからまた竜探しに行くってか?」


 キャロンは苦笑する。

「これはモンテスと話し合ったんだが、卵を傷つければ現れるんじゃないかという結論になった」

「それ本当?」

 ベアトリスが疑わしげな目を向ける。

「わからないよ。私の願望かもな。だが、竜にとっても自分が崩壊しなかった事はイレギュラーだろうし、本来の自分である卵に執着する可能性はあると思うな。もしかすると、変異体が死なないと卵の中に転生ができないのかも知れないだろ」

「なんか、可能性低そう」

 キャロンの返事にベアトリスは不服そうに言う。しかし、アクアは気軽に答えた。

「まぁ、良いさ。それしかないんだろう。だったらそうしようぜ。それに、変異体はなんかチョロい感じがするな。魔力が無いわけだ」

「恐らくな。ただ、固さや魔力耐性、そしてファイヤーブレスはあるようだ。劣化していても竜は竜だからな」


 ベアトリスが続けた。

「それで、これからどうするつもり。明日依頼を受ける?」

 キャロンは少し考えてから言った。

「まだ、いまいち近衛隊の実情がわからないな。明日いっぱいマリアに張り付いて情報を集めるというのはどうだ。一日延びたなら、依頼を受けるのは明後日で十分だ」

「でも、近衛隊の内部って難しくない?」

「あんたができないわけ無いだろう。魔女ベアトリス」

 キャロンが言う。ベアトリスは宙を見た。

「うわーっ、そこまで私にたよるっての。あの、それって私、ただ働きなんですけど!」

「あんたの結界魔法なら、自分の存在を覚られずに見張る事が可能だ。この案件は三人で受けたのだから、役割分担するのは当然だろう」

「魔法オタクのキャロンが、私と同じ事できないわけはないわよね」

 ベアトリスが冷たく言うがキャロンは平然と答えた。

「似たようなことができても同じ事はできないさ。それにあんたは暗殺者特有の体術も持っている。諜報にこれだけうってつけの人間はいない」

 しばらくベアトリスはキャロンをにらんでいたが、やがてふっと息を吐いて肩を落とす。

「わかったわよ。明日、マリアの動向を追えば良いのね。貸しだからね、貸し!」

「遠征の準備は私とアクアでやっておくさ。期待しているぞ」

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