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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(4)モンテスの依頼

 応接間で、キャロンは四人分の飲み物を注文してお金を払う。そして四人だけになると、キャロンはモンテスに話を促した。モンテスは少し目を閉じて頭の中で話を整理してから話し出した。

「何から話していいものやら。依頼内容だけをいうなら、竜の退治なのだよ。竜の体の中にある人工魔石を取ってきて欲しいのだ」

「竜退治か。同じ依頼があったわよね。ケネスとかいう人の」

「今、流行っているのかねぇ。竜をぶっ倒すくらいはできるだろうけどよ。割りに合わねぇんだよな」

 ベアトリスとアクアが言う。

「それよりも人工魔石の方に興味を示せ。どう考えてもそこが重要なところだろう。申し訳ないがモンテスさん。初めから経緯を話してもらえないだろうか」

 モンテスは少し考えてから話した。



「まずは、そうだね。グレスタ城は覚えているかね。城について私はどこまで説明しただろうか」

「グレスタ城? 盗賊が住み着いてた所だろ。それを私たちが退治したんだ」

 アクアが答える。

「そういう意味ではないだろう。確か、聞いたのは城を守る魔道具があり、エドワード王子に取られて廃城になったというくらいだな。魔道具の台座は私も確認した」

 キャロンが言うとアクアは首をかしげた。

「そんな話してたっけ?」

「もうあんたは口を挟むな」

 キャロンとアクアの言い合いにモンテスは笑う。

「いや、キャロン君はよく覚えているね。その通りだよ。塔の間に台座があってね。そこに人工魔石でできた魔道具が埋め込まれていたんだ。それがある限り、盗賊が住み着く事もないし、貴重な魔術書もずっと保存しておける。あの人工魔石がグレスタ城の心臓部だったのだ」

「ああ、それが無くなっちまったからあそこに盗賊が住み着いたって訳だ」

「そうなるね。本来は外せるものではないのだけど、エドワード王子からの要望でね。グレスタ伯は国外に逃げる時間を稼ぐために、私に人工魔石を外して欲しいと要望してきたのだ」

「それはうまくいったのかしら?」

 ベアトリスが言う。モンテスはうなずいた。

「先祖が残した書物を読みあさってね。やっとあの台座を作った人の記述にたどり着いたよ。そして私は人工魔石を外す事に成功したのだ。だが、そこでとんでもない事がわかってね。あの人工魔石は竜を呼び寄せてしまうのだよ」


「何だと? 人工魔石が竜を呼び寄せる。一体どういう仕組みだ」

 キャロンは前のめりになってモンテスに詰め寄る。ベアトリスが肩をつかんで引き戻す。

「ふむ。そのことを説明する前に、竜の習性について話さなくてはならないな。実はその書物を書いた魔術師の時代はかなり竜の研究が進んでいたようでね。その竜の研究を利用して人工魔石を作ったみたいなんだ」

「そうか。それは素晴らしいな。竜といえば卵を産むという珍しい習性を持っている。普通魔獣は子を作る事がないとされているが、竜だけが違う。私は竜は魔獣でありながら動物に近い構造をしているのではないかと考えている」

 そんなキャロンをアクアが冷めた目で見た。

「おまえ、魔法オタクが悪化してねぇか?」

 ベアトリスも続ける。

「前から、魔術書には目がなかったけど、ここまでじゃなかったわよね」


 しかしキャロンはかまわず、モンテスの言葉を待っている。モンテスも苦笑した。

「キャロン君は勉強熱心だね。竜が動物に近いかどうかは別として、竜が卵を産むのには理由があるのだよ。竜の体は純粋な魔力の塊で、魔力が命を持った存在といってもいい。だから、彼らは魔獣しか食べない。成長するには魔獣の中の魔力を得る必要があるからなんだ。竜が死んだ後残る竜の灰というのは魔獣の中の魔力以外の部分の残骸の事なんだよ。竜は排泄をしないので食べるごとにこうした不純物が蓄積していく」

「魔力が命を持つというのか?」

「魔力とは何かという話になるのだけど、それは関係ないから止めておこう。まだ仮説でしかないしね。竜はある程度成長して、体内の不純物が蓄積できる限界を超えると体を捨てるんだ」

「まさか、それが竜の卵なのか」

「そうだね。竜は卵を産んで、純粋な魔力だけ後に残し、体は竜の灰となって滅びる。でも、卵を産むためには純粋な魔力の塊を集めなくてはならないので、卵を産む前になると竜魔石と呼ばれる鉱石を食べ始めるんだ。なぜ普段竜魔石を食べずに、卵を産む前になってから食べるのかは謎のようで、私の先祖もそれはわからなかったみたいだね。とにかく竜魔石というのは純粋な魔力の塊で、竜はその匂いをかぎつけて食べに来るんだ」


 ベアトリスが口を挟む。

「あら、さっき人工魔石が竜を呼び寄せるって言っていたけど、それは竜魔石と勘違いしたから?」

 モンテスは大きくうなずいた。

「ベアトリス君も素晴らしいね。そう言う事なのだよ。人工魔石とは竜魔石の成分を利用して作った魔力の塊なんだ。城の防衛を半永続的に行うには大きな魔力の塊が必要で、自然の鉱石をはめ込んだだけでは足りないのだよ。実は昔の城にはこうした仕掛けが多く利用されている。竜魔石を使うのは私の先祖のオリジナルだとは思うのだけど、他の方法で魔力をため込んだ人工魔石を使うのは普通だったようだよ」

「それは知らなかった。興味深い。そのような魔法が昔は存在していたのか。なぜそれが現在は失われてしまった。もったいない」

 キャロンが悔しそうな顔をする。

「話を進めようぜ。それで、その人工魔石が今回の件にどう関係するってんだ」

 アクアは先を促す。

「そうだね。それが私がダグリシアに来た理由なんだよ」

 モンテスは経緯を語り出した。


※※


 モンテスはいつものように午前中、グレスタの町を散歩して過ごした。そして昼になって家に戻ると、執事で甥のバロウズが慌てて駆け寄ってきた。

「モンテス様。大変です」

 バロウズは普段から落ち着き払った人間なので、こんなに慌てるのは珍しい。

「何があったんだい。バロウズ」

 モンテスはバロウズを落ち着くように言った。しかしバロウズは焦りながら話し出す。

「王都から、使いが来ました。モンテス様が午前中は戻らない事を言うと、この手紙を置いていったのです」

 モンテスはバロウズから手紙を受け取った。モンテスはバロウズが慌てている理由を察した。


 以前モンテスはグレスタ伯を逃がすのに協力した。もちろん直接的に何かをしたのではなく、人工魔石を取り外す日にちをできるだけ先延ばしにして、グレスタ伯がグレスタから逃げ出す時間を稼いだだけだ。グレスタ伯は一緒に逃げるように誘ってくれたが、今更新天地で暮らせる気がしなかったモンテスは、グレスタに留まったのである。その後グレスタ伯はダグリス王家から追われる事になったが、モンテスは何度か取り調べを受けただけで、開放された。実際、モンテスはグレスタ伯がどこに逃げたのか知らない。

 今更、六年も前の事で呼び出されるというのは考えにくいが、ダグリス王家と関わったのはその時だけである。バロウズが心配するのはわかる。

「わかった。まずは書斎に戻らせてくれ」

 モンテスはそう言って、手紙を持ったまま書斎へ向かった。


 モンテスが書斎で椅子に座り、手紙を開くと、少しは落ち着いたらしいバロウズがお茶を運んできた。

「何が書いてあるのです」

 バロウズが心配そうに言う。モンテスは手紙をバロウズに渡した。

「すぐに王都に来るようにとの事だな。明後日の朝に謁見するように書かれているよ」

「明後日ですって! 間に合わないではないですか」

 バロウズが言う。モンテスはため息をついた。

「やむを得ないね。これからすぐに用意して出発するとしよう。途中で一泊する事にはなるけど、明日の昼過ぎには着くだろう。そうすれば何とか明後日の朝には間に合うよ」

「わかりました。すぐに手配します。私も同行させて頂きます」

 バロウズが言うとモンテスは首を振る。

「君はここに残ってくれ。私一人で行くよ」

「何を言うのですか。モンテス様一人では危険です。道中は護衛が付くでしょうが、ダグリシアでは誰も助けてくれません」


 バロウズが慌てているとモンテスは静かに言った。

「今から人を雇う時間も無いし、仕方がないだろう。君はここに残って、この家を守って欲しいんだよ。私に何かあったときは、ここにある蔵書を処分してもらわなくてはいけないからね。万が一、二人で捕まる事になったら大変だ」

「しかし」

「バロウズ。君にはとても感謝しているよ。私には妻も子供も持たなかったけれど、姉の息子である君は紛れもない家族だ。できれば君には所帯を持って欲しかったのだけどね。グレスタ伯の事は私の独断でやった事だ。君に被害が及ぶ事は避けたいし、私の持ち物を任せられるのは君だけだ。年寄りのお願いを聞いてくれないかね」

「モンテス様・・・」

 バロウズが沈痛な顔をするので、努めて明るくモンテスは言った。

「なに。今更グレスタ伯の事を持ち出されるとは限らないだろう。案外、全然関係ない話かも知れない。そう心配する事はないさ」

「わかりました」

 バロウズはそう言って頭を下げた。


 すぐにモンテスはグレスタを出発した。モンテスは裕福というわけではないので、使うのは集合馬車である。あまり乗り心地がいいわけではない。

 幸いな事に、一度盗賊の襲撃があっただけで、集合馬車は無事ダグリシアに付いた。

 集合馬車の降り場は平民街と呼ばれる場所にあり、そこでモンテスは放りだされた。一応王宮の場所は聞いたが、不案内であるため心許ない。

 そして聞いた道を頼りに歩いていると、案の定、スリに鞄を取られた。それをベアトリスとアクアが助けたのである。


 その後、モンテスはベアトリスとアクアに貴族街と呼ばれる場所の比較的安価な宿に案内された。

「貴族街の宿ってのはあまり私も知らねぇんだけど、確かここは比較的値頃な場所だって聞いたぜ。ま、私には高すぎるけどな」

「そうね。アクアにしては良い場所を選んだわね。たまに私は使うわよ。支払いは私じゃないけどね」

「ずりぃな。私は泊まった事なんて無いぞ」

「あなたは、○○しようとするからでしょ。そんな相手を貴族街のホテルが泊めるわけ無いでしょ」

 二人の言い合いはモンテスにとっては刺激的で面白いものだったが、彼女たちといるのはあまりにも目立つので、そろそろ別れた方が良さそうに思えた。

「ありがとう。とても助かったよ。お礼をしたいところなのだけど、あまり手持ちはなくてね」

 そしてモンテスはコインを取り出した。アクアが素早く一枚だけを受け取る。

「だったらこれだけでいいさ。大した仕事じゃないしな」

「ちょっと、アクア、勝手に!」

 しかし、アクアはベアトリスの手を引いてさっさと立ち去っていった。

 モンテスはホテルにチェックインして、翌日に備えた。


 翌日、モンテスは正装をして王宮に赴いた。衛兵に話をすると、すんなりと謁見の間まで連れて行かれる。

 謁見の間で跪いていると、エドワード王子が現れた。エドワード王子は豪奢な椅子に座って足を組む。

「おまえがモンテスとか言う男か。顔を上げろ」

 モンテスはゆっくり顔を上げる。エドワード王子はつまらなそうな顔でモンテスを見ていた。

「はい。私がモンテス・アペニヌスです」

「おまえは話によると「エドワードの奇跡の石」の制作者だな。すぐに作って私の所に持ってこい」


 モンテスはじっと考えていたがやがて口を開く。

「私はしがない魔道具製作者ではありますが、そのような石は聞いた事もございません」

 エドワード王子は立ち上がる。

「何だと。おまえが作ったのだろう。あの箱にはおまえの名前があったと聞いているぞ!」

「箱?」

 モンテスは当惑するばかりだ。そこに横に控えていた貴族が立ち上がり、王子に耳打ちする。エドワード王子は舌打ちして椅子に座る。

「石の名前くらい覚えておけ。これだから田舎者は」

 代わりに側近の貴族が答えた。

「アペニヌス殿。以前グレスタ城にあった人工魔石をご存じか。あの石は殿下に進呈されたが、それが入っていた頑丈な箱にあなたのサインと注意書きの紙が入っていた」


 やっとモンテスは理解した。

「なるほど。グレスタ城の人工魔石の事でしたか」

「違う! エドワードの奇跡の石だ。間違えるな! とにかく、あれを作って私の元に持ってこい。褒美はいくらでもだす」

 モンテスは頭の中で話を整理してから答えた。

「あれは私が造ったものではありません。私の先祖が作成した物です。もうすでにあの石の作成技術は失われており、二度と作る事はできないでしょう」

 エドワード王子は手すりを強く叩いた。

「うるさい! 私は持ってこいと言っているのであって、できるできないの話ではない」

「不可能なものは不可能にございます」

「生意気な。首を切り落とすぞ!」


 モンテスは慌てず静かに答えた。

「もう老い先も短い身。お好きになさいませ。できないものはできないのです。今よりも遙かに魔法技術が進んでいた時代の作成物です。前の石で満足して頂きたい。あの石は二つと無いものだからこそ貴重なのです。大切にお扱いください」

「ならば、作れるように研究しろ。うちの優秀な魔術師達を使え」

 エドワード王子はモンテスをにらみながら言う。

「なぜ二つも必要なのです。研究したからと言って作れるものではありません」

 エドワード王子は側近の貴族を見て、顎で指示をした。その貴族はうなずいて前に出る。

「アペニヌス殿。エドワードの奇跡の石は竜によって盗まれたのです。そのため、新しい物が必要になったのです」

 モンテスは眉をしかめる。

「私の手紙には、あの人工魔石は竜をおびき寄せるので室内で短時間見る程度にするように書いてあったはずですが。あの箱には魔力の放出を防ぐ加工をしておりますから、箱に入れている間は竜に気づかれる事はありません。ジョージ陛下も疑われていたようなので、一度本当に竜が近づいてくるところを見せたのですが」

「あれだけの秘宝。飾らない方がおかしいだろう! やはりおまえのせいだ。なぜ竜が近づいてこないようにしなかった!」

 エドワード王子が口を挟む。

「人工魔石を加工する事など不可能です。少なくとも私にはできないでしょう。ですから箱を準備したのです」


 モンテスは落ち着いて答えた。

「とにかく。竜が口に入れた物などもう不要だ。新しい物が必要なのだ。すぐに研究を始めろ。完成するまでこの王宮から出る事は禁じる」

 モンテスはため息をつく。

「そうであるなら、グレスタに戻らなければなりませんな。あれは私の先祖が作った物。過去の書物を読み解かねばどうしようもありません。私一人を閉じ込めたところで、何一つ成果は得られないでしょうな」

「貴様、逃げる気か!」

「事実を述べているのです。私をこの王宮に何週間閉じ込めようと得るものは無いでしょう。可能性があるとすれば、わが祖先の蔵書をひもとき、研究する事しかありません。恐らくあの土地でしか得られない物も使われているでしょう」


 モンテスは覚悟を決めていたので、エドワード王子に臆する事はなかった。

 エドワード王子は歯がみをする。

「ダメだ。おまえはここで研究しろ」

「ならば私を今すぐに処刑なさいませ。ここにいてもまったく成果は得られません。本当に必要だというのなら、私をグレスタに戻す事しかないでしょう」

「ぐぅっ。生意気な」

 そこで側近がエドワード王子に耳打ちをする。エドワード王子は不服そうに鼻を鳴らして椅子に座った。

「必ず二週間以内に新しいエドワードの奇跡の石を持ってくるのだ。グレスタにでもどこにでも行け。その代わり逃げたときは生き延びられると思うな。一族郎党全て殺す」

 モンテスは深々と頭を下げる。

「では、そう致します。明日、ダグリシアを発たせて頂きます」

 そしてモンテスは王宮を後にした。



「それが今朝の事なのだよ」

 モンテスは言う。

「ふざけてんのか。あの馬鹿王子」

 アクアが言う。

「まったく、本当に劣化する一方ね。あいつ」

 ベアトリスも言う。

「すでにジョージ王からエドワード王子に政治の実権は移っている。ダグリス王国の先は暗いな」

 キャロンも続けた。モンテスは苦笑した。

「まぁ、そう言う事でね。私は新たな人工魔石を作らなくてはならない事になってしまったのだよ」

「可能なのか?」


 モンテスは首を振る。

「以前、台座からあの人工魔石を外したときにかなり読み込んだのだけどね。知らない素材の名前もあったし、そもそもかなりの魔力が必要となるようだったよ。もう一度調べないとなんとも言えないが、かなり難しいね」

「ああ、それで、竜退治なのね。竜から人工魔石を取り戻そうって事なんでしょ」

 ベアトリスが手を打った。アクアも続ける。

「面白れぇ。自分をおとり(・・・)にして、本命は私達か」

 しかしモンテスは慌てて答える。

「いやいや、本命など無いのだよ。竜を退治するというのも雲をつかむような話だ。できるだけ可能性を広げたいと思っただけなんだよ」


 そこでキャロンが疑問を投げかける。

「竜は竜魔石を食べるのだろう。その人工魔石だってもう消化されているのではないか」

 するとモンテスは答える。

「どうやら人工魔石は竜には消化できないようだね。そういう実験をやったという記録を読んだよ」

 アクアは驚いた。

「何だよ。昔の奴らは竜で実験したってか。剛毅だな」

 モンテスも笑う。

「まったくその通りだ。昔の偉人とは信じられない事をやっていたのだね。とにかく、竜は人工魔石を消化できないのだから、取り戻す事は可能なはずなのだよ」


 キャロンは更に質問する。

「さっき卵を産む時だけ竜は竜魔石を食べると言ったな。そうすると人工魔石は卵の中に移っているという事ではないのか。竜が卵を産む前なら別だが」

 するとモンテスは少し考える。

「もう一度実験の結果を読んでみないと正確な事はわからないけど、確か、卵には人工魔石は移らなかったはずだ。そもそも人工魔石は竜が体内で消化することのできないものだから当然体外に出す事もできないのだろう。彼らには排泄器官がないからね。竜の卵というのは正確には体を分離させたものであって、産んだものではないのだよ」

「少し不可解な部分ではあるな。しかし面白い。ぜひこの依頼を受けさせてもらいたい。今から指名依頼に変えてくれ。絶対に成功させて見せよう」


 キャロンが言った。

「ありがとう、キャロン君。早速お金を用意せねばならないね」

 モンテスが嬉しそうに言うと。キャロンは首を振った。

「ダメだ。モンテスさんは貴重な蔵書を売って金にしようとしているのだろう。それは絶対にしてはいけない。一度散逸した魔術書は二度と集まる事はないんだ。特にモンテスさんのように一族で作り上げてきた魔術書は、絶対にばらばらにしてはいけない物だ。報酬は金じゃなくていい。私にあんたの魔術書を読ませてくれ。それで十分だ」

「ちょ、ちょっと待って!」

 ベアトリスが叫ぶ。

「あなた、魔術書のためにこの仕事を受けようっての! 全然おいしい仕事じゃないじゃない。ただの魔法オタク!」


 しかしキャロンは澄ました顔で言う。

「誰もおいしい仕事なんて言っていない。そもそも私一人で受けるつもりの仕事だ。諦めて他の依頼を探すんだな」

「何だよ。期待させやがって」

 アクアも口を尖らせた。

「あんたは金がないんだろ。すぐ金になるような依頼でも受けていろ」


「いやいや、ちょっと待ってくれたまえ。キャロン君。竜は非常に固く、魔法も通りにくい。そんな相手に君一人というのは無謀だよ。竜を退治するには魔力を込めた上で物理的な力を何度も当てなくてはいけない。魔法攻撃そのものや、単なる力ではまったく傷がつけられないのだよ」

 キャロンがモンテスに向き直った。

「素晴らしい。竜の知識が豊富のようだな。もっと色々教えてくれないか」


「いい加減にしなさい」

 ベアトリスがキャロンの頭を叩く。

「うるさいな。私の勝手だろう」

 キャロンはベアトリスをにらんだ。

「では、どうだろう。エドワード王子は私に報酬を渡すと言っていた。それがどれほどのものかわからないけど、それを全て君たちに渡そう。事後になってしまい申し訳ないが、それで、どうかキャロン君に協力してもらえないだろうか」

「大丈夫だ。私一人でいい。こいつらに配慮する必要は無いぞ」

 キャロンは言うが、モンテスはじっとベアトリスとアクアを見ている。アクアが首をすくめた。

「金がもらえるなら別にかまわねぇぜ。その代わりあのくそ王子からたくさんぶんどってくれよ」

 アクアが陽気に答えた。ベアトリスは頭を抱えた。

「うわっ。今お金がないくせに、後払いの依頼なんて受けて」


「おまえはどうするんだよ」

 アクアが言うとベアトリスはにやりと笑って答えた。

「じゃあ、私はすぐに八百ゴールドもらう事にするわ。割に合わないけど、結構楽な仕事みたいだし」

 するとキャロンが舌打ちをした。

「気づいていたか。私がそっちももらおうとしたんだが」

「ん、どういうことだよ」

 アクアだけがわからない。

「竜退治の依頼は他にあるでしょ。いつもの依頼二重取りよ」

 ベアトリスが言うと、やっとアクアは思い出したようだった。

「ああ、あの格安の竜退治の依頼か。あ、私そっちの方がいい。今、全然手持ちがないんだ」

「残念。あなたはエドワード王子からの成功報酬をもらう事にしたんでしょ」

 ベアトリスがにやにやと笑う。

「勘弁してくれよ。飯も食えねぇよ」


 アクアが肩を落とす。キャロンも肩をすくめた。

「仕方がない。あんたらと組むとするか。そうしないとモンテスさんが納得してくれないからな。モンテスさんは私たちへの指名依頼に替えてくれ。その後で宿まで送っていくよ。明日は早いのだろ」

 モンテスは深々と頭を下げた。

「前に続けて今回もお願いする事になるとは思わなかったよ。もし危ないと思ったのならすぐに逃げてくれたまえ。無理をさせるつもりはないんだ。私は人工魔石を作る事に専念するよ」


「それで、竜の居場所に心当たりはあるのか? いくら私たちでも竜探しから始めるとなるとかなり時間がかかってしまう」

 するとモンテスは困ったような顔をした。

「申し訳ないが、正確なところはわからないな。ただ、魔石の匂いをかぎつけたとしたらかなり近くにいた事になる。マガラス山が一番可能性はあると思うよ。私の先祖もあそこで竜を捕まえたという記録がある。ただ、通りかかっただけかも知れないから確定はできないね」

「なるほど。それなら大丈夫だろう。ベアトリスは探知が得意だ。竜ほどの魔力の塊なら、そばに行けばすぐに発見できるさ」

 そして、モンテスとの打ち合わせは終わった。

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