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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第2章 なにげに竜討伐に参加してみた

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(3)キャロンの午後

 昼下がり、キャロンは一人で改めて平民街を散策した。ダグリシアには一ヶ月前に帰ってきていたが、ほとんど知り合いの貴族の家と王立図書館の往復だった。貴族街と違い、平民街は変化が激しい。一年もすると、店並びが様変わりしている。


 ちなみに、朝の二人組のうち、キャロンはミグの方をおいしくいただいた。

 店で時間を潰してから一旦別れ、ミグが一人になったタイミングで声をかけたのである。そしてそのまま連れ込み宿に誘い込んだ。終わった後、ミグは屍のようになっていた。もちろんキャロンはミグを置きざりにして出てきた。


 歩いていると、なにやら知った声が聞こえてきた。

「なぁ、じいさん。案内してやるよ」

「いや、場所教えてもらえれば良いよ」

 男達が押し問答をしている声だ。キャロンが見ると、冒険者三人に取り囲まれた老人が見えた。

 キャロンは歩いてそちらに向かった。

「ふらふら歩いている方が危ねぇよ。俺たちみたいなのに守ってもらえないとな。怪我をしてからじゃ遅ぇぞ」

「いや、しかし・・・」

 老人は少し戸惑っている。


「ラチス、仕事の勧誘中悪いが、どうやらその老人は私の客だ」

 キャロンは話していた冒険者に声をかけた。鎧を着た冒険者が振り返る。二十代後半の厳つい顔をした男だ。

「キャロン。やっぱ戻ってきたって噂は本当かよ」

 ラチスは顔をしかめた。他の二人の冒険者もキャロンを見て顔を背けた。

「クローラもユニックもそう邪険にするな。またかわいがってやるぞ」

「それ、絶対嫌だからね、キャロン」

 フードを深くかぶった女性がキャロンを指さして言う。小柄で野暮ったい革鎧を着て弓を背負っている。

 そんなクローラをラチスは遮った。

「おまえの客ってのはどういうこった? 別に道案内程度のお使いくらい譲ってやっても良いけどよ。俺だって見るからに危なそうだったから声かけただけだ」

「なに、知り合いってことさ。モンテスさん、久しぶりだな」


 キャロンはその老人、モンテスに声をかけた。すると杖を持ち皮鎧を着た細身の男が驚愕した顔をする。

「まさかこんな老人にまで手を出しているのか、おまえ!」

「変な誤解をするな。前の依頼主だ」

 キャロンが発言したユニックをにらむ。モンテスはキャロンを見ていた。

「キャロン君。以前はありがとう」

 キャロンはラチス達を見る。

「そういうわけだ。小金をもうけられなくて悪いが、私も彼と話がしたいのでな」

 キャロンがコインを一枚投げた。ラチスが片手で受け取った。

「わかったよ。じゃあな、おっさん。キャロンには気をつけろよ。精力全部吸い取られるからよ」

「余計な事は言うな」

 キャロンは去って行くラチスに向かって言った。



「竜退治?」

 キャロンは歩きながらモンテスに尋ね返す。モンテスはどうやら依頼を出すために冒険者の宿に行く途中だったようだ。そこでどんな依頼かを聞いたらそれが答えだった。

「ダグリシアには腕利きの冒険者が居ると聞くし、それしか無いと思ってね」

 モンテスの表情は苦しげだ。事情があるのだろう。確かにダグリシアには竜退治ができるパーティも居るはずだ。しかし問題は一つ。

「竜退治はかなり高く付くと思うが、資金はあるのか」

 するとモンテスはすぐに答えた。

「我が家にある蔵書を売れば何とかなるのではないかと思うよ。もう私も長くないだろうし、どこかで処分しなくちゃいけないとは思っていたからね」

 魔術師の蔵書は高く売れる。研究者であるモンテスの蔵書となれば、良い値段が付くだろう。


「なるほど、しかしそれはまずいな。すなわち今現金がないという事だろう。基本的にダグリシアの冒険者は前金のない依頼は受けないぞ」

 モンテスが立ち止まった。

「なんだって。そうなのかい」

「ああ、特に貴族の依頼の時は、因縁をつけられて踏み倒される事が多いんだ。だから経験を積んだ冒険者ほど前金にこだわる。後金の依頼を受けるのは必勝亭にいるダグリシアに慣れていない冒険者くらいだろう。だが、そんな奴らに竜退治は荷が重い」

「冒険者の宿によって運営方法が違うと聞いていたが、そこまでとは」

「ダグリシアが異常なんだろう。平民を騙す貴族が多すぎるんだ。私たちも貴族との付き合いには慎重になる。前金は貴族にとってもリスクが高い。しかしそうしなければ依頼を受けられない状況を作ったのも貴族だからな」

 モンテスは考え込む。

「なるほど。ではすぐにバロウズに連絡を取って現金を用意させねば。あまり時間はなさそうだ」

 モンテスはキャロンに向き返って丁寧に礼をした。

「ありがとう、キャロン君。時間を無駄にしてしまうところだった。この礼はまたいずれかならずしようと思う」


 そして来た道を戻ろうとする。

「待ってくれ、モンテスさん。話次第では私がその依頼を受けよう。私なら前金は必要ない」

 モンテスは驚いた顔でキャロンを見た。

「以前の報告を聞いて、君の実力はわかっているつもりなのだけど、やはり竜は危険なのだよ。ある程度の人数にお願いしなくてはいけない。それにはどうしても前金は必要なのではないかね」

「大丈夫だ。竜くらいなら私一人でも何とかなるだろう。私への報酬はモンテスさんの蔵書を読ませてくれる事でいい。いつかお願いしようと思っていたんだが、ちょうど良かった」

「そういうわけにはいかないよ。危険な仕事なんだ」

「もちろん詳しい話を聞いてからという事にはなる。まずは冒険者の宿に行こう。どのみち依頼を出さなくてはならないのなら、先に手続きした方がいい。バロウズさんへの連絡はその後でも間に合うだろう。今からでは早馬も出ない」


 もう夕方が近い。大金をはたけば、今からでも早馬をだしてくれる業者はいるだろうが、モンテスはどうやらあまり金を持ち合わせていないようだ。早くても明日の朝の出発となる。

 モンテスは少し考えてから答えた。

「そうだね。せっかくここまで来たのだから、先に手続きをした方が良さそうだ。申し訳ないけれど、案内してくれるかね」

「ああ。行こう」

 キャロンはモンテスを常勝亭に案内した。



 常勝亭に入ってすぐ、何か大騒ぎの声が聞こえてきた。

「なんでだよ。今日中にB級にしてくれよ!」

「ダメに決まっているでしょ。なんて事してくれるのよ!」

 カウンターでアクアがわめいている。その前にはソーニーがいる。

 夕方なので、冒険者もちらほら戻ってきており、全体にざわめいているが、奥の方でもばたばたと人が出入りしている。


 キャロンはまっすぐアクアに近づいていき、後ろから頭を殴った。

「ってぇな!」

 アクアが振り返る。

「何を騒いでいる。どうせ何かやらかしたんだろう。何を壊した」

 キャロンが言うとアクアが言い返した。

「ちげぇよ。普通に試験受けただけだ。それなのに今日はダメだって」


「当たり前でしょ。馬鹿なんだから」

 するとカウンターの奥からベアトリスが出てきた。

「ベアトリス。ジブは大丈夫?」

 ソーニーがすぐにベアトリスに声をかける。かなり真剣な顔をしている。

「ああ、大丈夫よ。打撲と骨折程度ならたやすい治療だわ。それより、ちゃんと私にお金払ってよね」

「お金ならアクアに請求しなさいよ。アクアがやらかしたんだから」

「私は金がねぇっての! だからすぐにB級にしろよ」


 何となくキャロンは察したので、アクアをカウンターから押しのけた。 

「やかましい。後にしろ。ソーニー、依頼主を連れてきた。依頼の書き方を教えてやってくれ」

「あら、朝からナンパしていたキャロンがまともな事を言っている」

 ソーニーが余計な事を言うのでキャロンはにらみ返した。

「今夜は覚悟した方がいいぞ。逃がさないからな」

 ソーニーの顔が引きつった。

「じょ、冗談よ。で、そちらの方が依頼主」

 ソーニーは咳払いをしてから営業スマイルに戻った。

「おい、私の・・・」

「うるさい」

 アクアがまだ何か言いそうなので、キャロンは遮る。驚いて固まっていたモンテスはキャロンに促されるままカウンターに来た。

「ここでのご依頼は初めてですか?」

「あ、ああ、そうだね。初めて来たよ。グレスタの冒険者の宿には何度か行った事はあるのだが」

「冒険者の宿は地域によって運営方法も依頼方法も違いますので、わからなくても仕方がありません。では、初めから説明させて頂きます」


 ソーニーがモンテスと話し始めたので、キャロンはアクアとベアトリスを引っ張って椅子席に行く。

「おい、何があったんだ」

 アクアはぶすっとした顔で腕を組む。

「模擬戦で戦っただけだ」

 ベアトリスが呆れた顔で言った。

「なんで、模擬戦で相手を大けがさせるかな。ジブさんには昔世話になったでしょう。引退していたのに、わざわざ来てくれたのよ。近くにいて正解だったわ」

 するとアクアが言い返す。

「おまえは、ソーニーを襲いに来ただけだろうが。ソーニーの服がやたらと乱れていたぞ」

「あら、めざとい。ソーニーったら夜、いつも逃げるから、昼のうちに楽しませてもらおうと思ったのよ。事務所の奥で声をこらえながらなんて、最高に燃えるでしょ」


 キャロンは二人の言い合いを止める。

「つまり、アクアは模擬戦で相手のジブに大けがをさせたって事か」

 すると、アクアは口を尖らせた。

「だって、あいつB級だっただろう。あれくらい大丈夫だと思ったんだよ!」

 しかし、キャロンは少し首をかしげる。

「だが、いくらあんたの力尽くでもジブの防御を挫けるとは思わないんだが。ジブの防御能力は達人の域に達していたぞ。私だって魔法を使わなければまともにやり合うのは難しい。引退して衰えたのか? 確かにもういい年だったものな」

「そういえばそうね。ジブさんは戦闘センスが良かったわよね。○○はあまり保たなかったけど。あの怪我の具合じゃ、まったく無抵抗でやられたみたいだったわ」

 ベアトリスが言うと、アクアがつぶやくように言った。

「いや、あまりにもうまく避けやがるからよ。途中から腹が立って、魔力を放出して身動きできなくしてから滅多打ちにした」


「ああ、ダメだな。それ」

「うわぁ、馬鹿」

 キャロンとベアトリスが呆れた口調で言った。アクアが言い返す。

「でもよ、別に魔力を使ったって、反則じゃねぇだろ。魔法だって私の力だ」

 しかしキャロンは言う。

「ポイントがずれている。問題なのは滅多打ちにしたところだ。相手を身動きできないようにしたのならそこで合格だろ。模擬戦なんだぞ。元B級を封じ込めたんだから十分な力を見せた事になる。その後で腹いせに攻撃するから試験を無効にされるんだ。しかも身動きとれないところをおまえの力で殴られたら、普通の怪我じゃすまない」

「ぐっ」

 アクアがうなる。

「まぁ、明日には合格になるでしょう」

 ベアトリスが笑いながら言った。キャロンも続ける。

「実力は十分だろうからな。本来なら無効になった模擬戦のやり直しが行われるはずだが、あんたの場合は無試験になるだろう。これ以上犠牲を出したくないしな。実際に二日目合格というのは罰みたいなものだ。冒険者カードにも記載されるから、冒険者の宿で調査されると、問題児だとばれるわけだ」

「ちくしょう」

 アクアはうなだれた。

「私は初めから二日目合格になると踏んでいたけどね。絶対機材を壊しまくって無効にされると思っていたもの」

「同感だな。あんたが問題を起こさないわけがない」

「おまえらなぁ!」


 アクアが、言い返そうとしたとき、急にキャロンは立ち上がって、カウンターに向かっていった。アクアが勢いでつんのめる。

 ベアトリスも続き、アクアも慌てて追った。

「終わったか。モンテスさん」

「ああ、ありがとう。キャロン君」

 そしてキャロンはカウンターをのぞき込んでモンテスの依頼書を見た。慌ててソーニーが隠す。

「ちょっと、張り出すまで待ちなさいよ。違反よ!」


 キャロンは舌打ちをしてモンテスの方に振り返る。

「前金はどうする事にしたんだ」

「早くても現金が届くまでには三日以上かかるだろう。その後で張り出してもらう事にしたよ」

 モンテスが答える。

「じゃあ、三日間は誰もその依頼書を見ないわけだな。よし、モンテスさん。ちょっと詳しい経緯を教えてくれ。ソーニー、奥の応接間を使わせてくれないか」

「キャロン、この仕事を受けたいの?」

「場合によっては受ける事になるかもな」

「まぁ、良いけど。応接間を使うなら有料よ」

「モンテスさんは平民街を歩くには危なっかしいんでな。しっかり話し合うのなら、常勝亭の応接間が一番安心だ」


 そしてキャロンはソーニーにお金を渡した。

「そう言うことならどうぞ。悪さしようとしたら追い出すからね」

 キャロンがモンテスを案内してカウンターの奥に進もうとすると、アクアとベアトリスがキャロンの肩を捕まえる。

「ちょっと待ちなさいよ。独り占めするつもり。そんなにやる気になってるって事は良い仕事なんでしょ」

「ずりぃぞ。私にも一枚噛ませろ」

 キャロンがうるさそうに手を振り払う。

「あんた達には関係ないだろう。仕事は早い者勝ちだ」

 しかし、そこにモンテスが割り込んだ。

「いや、せっかくならアクア君やベアトリス君にも聞いてもらいたい。とても一人でできる仕事ではないよ」


 キャロンは嫌そうに顔をゆがめた。アクアがすぐに飛び出していってモンテスの肩に手を回した。

「そうだよな。やっぱりモンテスさんはわかるなぁ。早く行こうぜ」

 ほぼ裸状態のアクアに肩を組まれてモンテスは身動きできないでいる。ベアトリスは二人の間に割り込んでアクアを引きはがすと、モンテスの手を優しく握った。

「さぁ、行きましょう。おじいさま」

 そしてカウンターの中に案内してく。

「ったく」

 キャロンは諦めて後から付いていった。

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