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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた

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(41)仕事の報告

 今日の午前中、マリアはもう一つの廃墟とされる西の塔に赴いていた。かなり古い建築物で、塔とは名ばかりの瓦礫と化していた。結局昨日の鉱山跡同様盗賊らしき形跡はなく、住み着いていた数匹の魔獣を退治した程度だった。

 二軒続けて外れを引くと北にある廃城も期待できないと感じるが、それでも調べるしかない。今夜までに一通り調査を終えなくてはいけないのだ。

 そして城に向かって馬を進めていると、血塗れで歩いてくる少年少女を見つけた。どうやら彼らは冒険者に城を見てくるように依頼された孤児のようだった。ダグリシアでも平民の孤児は冒険者からお使いを押しつけられることが多い。そのせいで危険な目に合う子供も少なくない。

 調査依頼をしたベアトリスという名前の冒険者についてはよくわからないが、それは後で調べれば良いだろう。まずは城の状況を確認しなくてはならなかった。

 少年たちをグレスタまで送ってすぐにマリアは城へ急いだ。


 そこで、マリアは死屍累々たる盗賊たちを見た。

「これはすごい。かなり激しい戦闘の跡だ」

 マリアはすぐに調査を始めた。

 城に生き残りはいなかった。少年たちが無事だったのだからそれは予想の範囲内だ。死体の状況から、この戦闘は今日の午前ではなくもっと前、恐らく昨日のことだと思えた。一階にほとんど全ての死体があったが、二階でも四人ほど死んでいた。逃げたところを殺されたのだろう。不思議なのは全員盗賊と考えられることだった。これだけの戦闘なら敵味方双方に被害があっておかしくない。

「盗賊同士の仲間割れの可能性もあるか?」

 しかしそれなら、冒険者が子供に調査依頼をするとは思えない。


 更に調べていると近衛隊の装備品を発見した。やはり彼らが第三近衛隊を襲った盗賊のようだ。近衛隊の装備品はかなり立派なので、あの少年たちがこれらを無視したのは意外だった。まぁ、孤児に物の善し悪しなどわからないだろうが。

「となると、オウナイがいるはずだが」

 さすがにマリアはオウナイの顔を知らない。手がかりとすればそれなりに腕利きだったと言うことだろうか。

 オウナイ一味の中にそれなりに腕の立つものが含まれていることはわかっていた。彼らは盗みに入った先で積極的に戦っていたからだ。オウナイの名前は貴族の中では有名だったらしく、名を率先して語ることで相手をひるませていた節もある。あえて警備の薄いところを狙っていたようだが、それでもそこにいた護衛はほぼ皆殺しにされた。そしてオウナイの仲間たちが財宝を奪っていくという手口だった。

 ただ、このような犯罪の情報が近衛隊に知らされたのはかなり時が経ってからだ。一部の噂は流れていたが、近衛隊が動くだけの話にはならなかった。

「この辺りがオウナイかな」

 周りよりも明らかに体格のいい中年戦士が胸を切られて死んでいた。また、魔術師の杖を持った男が頭を陥没させて死んでいた。カイチックという元宮廷魔術師隊の男がいたという情報も入っている。素性がわかっているのはこの二人だけだ。

 一通り調査を終えたが、ここで何が起こったのかの特定はできなかった。もしこれを冒険者がやったとしたら相当の手練れであることがうかがえる。マリアもこの戦闘に加わって、さすがに無傷ではいられないだろう。

「すぐに報告だな」

 マリアは城を立ち去った。


※※


 シュプリーンさんの家で僕らは水浴びをさせられ、着替えさせられた。

「うん。綺麗になった。私もこの後用事があるから、すぐにモンテスさんのところに行きたいんだけど。いいわよね」

 僕らは持っていた装備を入れる袋も渡された。やっと普通の旅人のような格好で歩ける。

「はい。ありがとうございます」

 僕がしっかり礼をすると、シュプリーンさんは僕らを連れて家を出た。

 あれからレクシアは話さない。シュプリーンさんが何度も、綺麗、可愛いと言葉を並べ立てても表情を変えなかった。


 僕らは少し高級そうな家の建ち並ぶ場所まで来た。シュプリーンさんがメモを見ながら一つの家の前で立ち止まる。

「ここね」

 そしてシュプリーンさんは呼び鈴を鳴らした。

 僕は家のたたずまいに気圧された。田舎者の僕らには入ることすら不遜に思えるような家だ。でもレクシアを見て心を落ち着ける。僕がお兄ちゃんだ。しっかりしないと。


 少しすると、背の高い男の人が出てきた。

「おや、どういたしました。お嬢さん」

「順風亭の者です。キャロンさんの依頼を受けた子供たちを連れてきました」

 その人は僕らを見ると優しそうな顔をして話しかけてきた。

「それはありがとうございます。お待ちしておりました」

 男の人が僕らを迎え入れようとすると慌ててシュプリーンさんは言った。

「あ、私は用事があるのでここで失礼させていただきます」

「そうですか」

 すぐにシュプリーンさんは行ってしまった。男の人は僕らに目を向ける。

「は、はい。僕らが報告に来ました」

 するとその男性はうなずいた。

「キャロンさんから報告に来るのは若い男女だと言われておりましたからね。では、中にお入りください。私は執事のバロウズと言います」

「あ、はい、あの、ありがとうございます」

 僕もレクシアもこんな立派な家には慣れていない。どうしても緊張してしまう。だけどバロウズさんに促されるまま中に入り、そのまま二階の部屋に通された。

「ここでお待ちください。モンテス様は今魔道具を作っているところです。すぐに呼んできますよ」

 そしてバロウズさんは部屋を出て行った。


 僕は緊張のあまり身動きできなかった。レクシアも同じようで、椅子に座ったまま固まっている。しばらく待っていたら、杖をついた老人が現れた。バロウズさんも戻ってきて、僕らの前にお菓子とジュースを置いてくれた。

「私がモンテスという。君たちが、キャロン君の代わりに報告に来たという少年たちか。彼女たちはどうしたんだい」

 モンテスさんは優しげな口調で言う。

「え、と、わかりません。ただ。報告に来るように言われただけで」

 モンテスさんは少し思案する。

「彼女たちに伝言を頼まれたと言うことで良いのかな」

「え、いえ。僕たちはキャロンやアクアと城に行きました。城では別行動だったので、今キャロンがどこにいるのかはわかりません」

 僕は支離滅裂ながらも答える。どう説明すべきかよくわからない。モンテスさんも少し眉を寄せた。僕が更に何か言おうとしたら、モンテスさんは質問を変えてきた。

「うむ。まぁ、事前に連絡があったことだし、初めから君たちを来させるつもりだったのだろう。とりあえず、今の城の状態を聞いても良いかな」


 そこで僕は、今の城の状態を説明した。城の初めの状態はわからないけど、特に盗賊たちが何かしたような跡は見つけていない。それよりも三階と一階に盗賊の死体が転がっていることが問題だと思う。モンテスさんも険しい顔をした。そして呼び鈴でバロウズさんを呼んだ。

「バロウズ。盗賊は全員討伐されたようだ。どうやら彼女たちの自信はその通りだったようだね。その代わり城には彼らの死体が放置されているようなんだ。二十人以上はあるようだ。すぐに処分するための依頼を作ってくれないか。臭いが付くのも嫌だし魔獣が入り込む可能性がある」

「わかりました。手配しておきましょう」

 そしてバロウズさんは出て行った。


 これで一応報告は終わりだ。僕らにこれ以上話すことはない。でもなかなか立ち上がるタイミングがわからない。出されたお茶に口をつけていろいろ考える。レクシアも緊張して何もできないようだ。

「ところで、君たちはグレスタに来るのが初めてなのかな。ご両親はどこにいるんだい」

 きっと気を遣ってくれただけだ。でも、僕は焦る。いや、いきなり頭が回らなくなった。父さんと母さん。盗賊が着ていた鎧。頭がごちゃごちゃしてくる。でも僕は我慢した。今は考えちゃダメだ。絶望してしまう。そう思っていたら、レクシアが泣き出した。

「レクシア」

 レクシアは歯を食いしばったまま泣いていた。モンテスさんが口を開いた。

「そうか。つらい目に遭ったのだね」

 モンテスさんはそれ以上僕らに聞いてこなかった。しばらくしてレクシアの涙が止まる。モンテスさんはじっと待っていてくれた。


「今日はここに泊まって行きなさい。もしグレスタで頼れる相手がいるのだとすれば、私のわかる範囲で調べることもできる」

 モンテスさんは優しかった。見ず知らずの僕らにこんなに気をかけてくれるのは、やはりキャロンの信用があるからだろうか。

「お兄ちゃん。これ」

 泣き止んだレクシアは鞄から袋を取り出す。ぼくは迷う。それはグレスタ伯に渡すように言われた御守りだ。信用できる人にしか渡してはいけない。モンテスさんはどうなんだろう。僕はモンテスさんに言う。

「あの、僕らは父さんにグレスタ伯に会うように言われています」

 まだ御守りは渡せない。それでもグレスタ伯を知っているのなら紹介してもらえるかも知れない。しかし、モンテスさんは思案顔をしたままだった。


 やがてモンテスさんが言う。

「すまんな。もうグレスタ伯はこの町におらぬのだよ。恐らくご両親は我が領主が失脚したことを知らなかったのだろう。今はダグリシアの貴族が統治していることにはなっているが、ほとんどグレスタにはおらぬ」

 僕は驚く。僕らの御守りは行く当てをなくした。モンテスさんは何か気がついたようだ。

「グレスタ様宛の手紙でもあれば見せてもらえないだろうか。実は私は代代グレスタ伯に仕えていた家系でな。グレスタ様がこの町を追放されるときにも立ち会ったのだ」

 僕は悩む。まだ判断できなかったから。だけど、それで情報が得られるならば、という気持ちになった。

「手紙は預かっていません。この御守りだけです」

 僕はモンテスさんに御守りを渡すことにした。


 モンテスさんは御守りの中を開けて一枚の金属板を取り出した。そしてうなる。

 やがてモンテスさんは金属板を御守りに入れて返してくれた。

「君たちの両親はヘンリー前王に従えていた騎士なのだな。その時に当代のグレスタ様と知り合ったのだろう。ジョージ王に代が変わって間もなく、多くの宮廷騎士や宮廷魔導師が王宮を追い出されたと聞く。君たちの両親もその時に出奔したのだろう。現在はジョージ王の息子であるエドワード王子が全てを仕切っておる。グレスタ様もほとんど言いがかりに近い疑いで排斥されてしまった」

 初めて聞く話だった。でも、アクアが僕の型は騎士のようだと言っていた。モンテスさんの話は事実なのだと思う。そしてこれで僕らの御守りの意味は完全に無くなった。

「君たちはこれからどうするかね。グレスタ様の代わりとはいかないが、多少なら支援できるだろう。私はグレスタ様が失脚なさる前に隠居した身でな。今は趣味で造った魔道具を売りながら慎ましく生活しておるよ」

「おじいさんは魔術師なのですか?」

「私は代々領主に使えていた魔術師の家系でな。若い時分はグレスタ城で暮らしておった。あの城を設計したのも私の先祖だよ。残念ながら、グレスタ様が失脚すると同時に私の弟子の身も危なくなったので、国外に逃がした。グレスタ城を知るものは私が最後となってしまったな」

 モンテスさんはさみしそうに言った。


 結局、僕らは一晩モンテスさんの家に泊まることになった。でも僕らは次の日には、モンテスさんの世話になるのを断って自分の住んでいたドノゴ村に帰ることにした。村を襲ったのは間違いなくあの盗賊たちだった。それがいなくなったのなら、もう逃げた村の人たちも戻っているかもしれない。何より、父さんや母さんが無事なのか確認したい。

 僕らは次の日、一週間過ごしたグレスタの町を出た。

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