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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた

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(40)ログとレクシア

 昨日、僕らは疲れた体を引きずるようにして、塔の直下の部屋、つまり始めに入った石版のある部屋で寝た。

 こんなに上に来る必要はないし、ここは逃げ道の無い場所だから休むのに適してはいない。本当はわかっているのに、僕らはここを休む場所に選んだ。死体から少しでも離れたいという気持ちに抵抗できなかった。


 僕は朝起きてすぐに服を着てレクシアを残したまま部屋を出た。

 僕は昨日から、戦いの現場を調査しようと決めていた。これから冒険者として生きるつもりなら、もっと死体に慣れていなければいけないと考えた。殺意のある敵を殺すことにはもう慣れたけど、その死体をじっくり見る勇気はまだ無い。それではいけない。

 三階の四人の死体は無視して、僕は一階を再び訪れた。

 ひどい臭いだった。吐き気がする。死体の状態もひどい。焼かれ、斬られ、かなり一方的な殺戮が起こったように感じられた。

 しばらく見ていたけどとても慣れそうになかった。

 そこで僕は手紙の追伸を思い出した。

〈追伸。帰りがけ、一階の武器庫で自分に合った武器を調達すること〉

 僕は自分の剣を持っている。これは父さんがくれたもので、父さんが予備として持っていたものらしい。比較的軽いそうだ。もちろん僕には十分に重いのだけど。剣はしっかりと手入れをしないと使えなくなるから僕は常に手入れを怠ってはいなかった。だから刃こぼれはないし、まだまだ使える。それなのに自分に合った武器を調達する必要があるのだろうか。もしかするともっと良い剣があるのかも知れないが。

 僕は武器庫に向かった。


 でも僕の期待は裏切られる。確かに立派そうな武器はあったけど、手入れがほとんどされていないため、すぐに使えそうにない。ここの盗賊たちはあまり武器を丁寧に使ってこなかったようだ。

 僕は不思議に思う。キャロンたちだってこの中は見たはずだ。使える武器がほとんどないことだって知っていただろう。僕は更に武器庫を調べた。

「あれ?」

 僕は武器ばかり見ていたので、すぐにはそれに気がつくことができなかった。見つけたのは魔術師の杖だ。無造作に転がされていた。

 僕はその杖を手にとって衝撃を受ける。信じたくない。

「お兄ちゃん、どこ」

 レクシアの声がした。僕は慌てて大声を出す。

「来なくて良い、早く行こう」

 だけど僕はあまりの衝撃で体が動かせなかった。だから代わりに声でレクシアを追い払おうとした。でも当然そんなことは無理だった。

 レクシアが武器庫に顔を出し、僕が握っている魔術師の杖を見つけた。レクシアは僕に飛びかかってきて杖を奪い去った。

「どうして。どうしてここにあるの。これ、お母さんの杖。間違いない。お母さんの杖」

 お母さんの杖には名前が彫られている。宮廷魔術師になったときに師匠から渡された物らしい。僕の頭はぐちゃぐちゃだ。理由は僕の方が聞きたい。でもやっぱり先に動いたのはレクシアの方が先だった。

「まさか!」

 そしてレクシアは盗賊たちの死体のある場所に走っていった。僕は震える体を何とか動かしてレクシアを追った。レクシアが何をしようとしているのかわからない。


 僕はそこで血にまみれながら、盗賊たちの装備を漁っているレクシアを見た。

「違う。これも」

 レクシアは自分が汚れるのも気にせず、盗賊たちの装備をはぎ取っていた。

「あ、これ。きっと・・・」

 レクシアは一つの盗賊の死体に飛びかかると装備をはぎ取った。

 僕はやっと彼らの装備がちぐはぐなことに気がついた。ものすごく質の良さそうな装備を着けている人もいれば、防具にすらならないような古い革鎧を着けている人もいる。彼らは奪い取った鎧をそのまま適当に使っているんだ。

 レクシアのしていることがわかった。僕も死体を探し始めた。そして僕は立派な装備をつけている盗賊の中に見知った鉄鎧を見つけてしまった。駆け寄って跪く。その鎧は明らかに父さんの物だった。別れたときに身につけていた。

 着けている相手を見ると顔が半分削れているが父さんではない。そのことに一瞬安堵する。いや違う、と頭で声がする。もとよりここにいるのが父さんのわけは無い。父さんは盗賊じゃないんだから。

 まだ確定したわけじゃない。父さんも母さんも、きっとどこかで・・・。


 父さんの鉄鎧を抱いたまま呆然としている僕だったけど、その間にレクシアは母さんの皮鎧と父さんの剣を見つけ出していた。そして全てを集めると、レクシアは母さんの鎧を抱きしめて動かなくなった。

 それを見て僕はやっと立ち上がった。少しだけ冷静になった。僕の代わりにレクシアが苦しんでくれているからだろう。彼らは僕らの村を襲った盗賊だ。

 でも、父さんと母さんはまだ生きているかも知れない。そう思わないとこのまま僕らは動けなくなってしまいそうだ。


 僕らは昼ごろ、城を出て町に向かった。どうやらあの町こそ目指していたグレスタだったらしい。それすら僕らは知らなかった。僕らの足は重かった。本当ならもう一晩城に留まりたかったくらいだ。レクシアはまだ泣いたままだ。


 僕らが道を歩いていると、前から馬に乗った騎士がやってきた。僕が驚いて立ち止まると、その馬も僕らの前で立ち止まった。

 馬からものすごい体格の戦士が下りてきた。あまりにも威圧感のある戦士だった。

「君たち。どうしたそんなに血塗れになって。大丈夫か」

 声を聞いて初めてその人が女性だと気がついた。でもどう見ても女性には見えない。レクシアは僕の後ろに隠れている。僕も思わず後ずさる。

「怪我をしているのだろう。大丈夫か。私はダグリス第一近衛隊のマリアだ。怪しい者ではない」

「け、怪我は、していません」

 僕は勇気を振り絞って答える。

「しかし、その血は」

「汚れている。だけで」

 マリアという戦士は近づいてきて僕の体を捕まえた。とても逃げられそうになかった。

「なるほど。確かに汚れているだけか。返り血か」

 マリアさんは僕の顔に付いている血をぬぐった。

「なぜこんなに返り血を浴びている。そちらの子は妹か。彼女も怪我をしていないのか」

 レクシアの方が血塗れだ。レクシアは僕の背中で鎧と杖を抱いたまま黙っている。

「怪我は、していません。早く、帰らないと」

 僕はマリアさんを振り払って逃げようとした。でもしっかり捕まれた腕は離れない。

「この先に、それだけ返り血を浴びるようなでき事があったと言うことか」

「し、知らない。そんなこと」

「お前たちが誰かを殺してきたと言うことか。見た感じではそれほどの腕があるとは思えんが」

「ち、違う」

 僕はもう疲れていて、正直に何かを話せる余裕はなかった。


「死体がたくさんあったの。そこからこれを集めてきた」

 いきなり僕の後ろで声がした。

「れ、レクシア」

 僕が振り返るとレクシアは顔を上げてしっかりとマリアさんを見ていた。マリアさんは僕の手を離した。

「死体漁りか。まぁ、褒められたものではないが、悪いことでもない。力のない子供の仕事としたら良くやられていることだな」

 マリアさんはしゃがみ込んでレクシアと目線を合わせ低い声で言った。

「その死体はどこにあった」

 背筋が凍る思いだった。たった一言なのに殺されるのかと思った。

「城。この先の城にあるの。だから、お姉さんも行ってみると良いよ。私はあまり持って来れなかったけど、お姉さんならたくさん持ってこれるかも知れない」

「ふん。なるほどな。確かにその小さな両腕では大して運べないだろう。だが、なぜそこで死体を見つけられたんだ」

 マリアさんは何か疑っている。当然だと思う。僕らが城で死体漁りをするなんて事前情報がなければわかるわけがない。偶然見つけたなんて言い訳が通用するとは思えない。僕は浅はかな説明をしたレクシアを少し恨んだ。わからないで突っぱねた方が良かったじゃないか。

「冒険者の人のお使い。お兄ちゃんが冒険者の宿のメダルを持っているの。城を調べて報告すれば良いって」

「なに? その冒険者とは何者だ」

「わからない。お使いを頼まれただけだし。ベアトリスさんという冒険者」

「ベアトリス? 知らないな。ちょっとそのメダルというのを見せて見ろ」

 レクシアが僕を見た。僕は仕方がなくメダルを取りだしてマリアさんに見せた。

「順風亭。冒険者の宿の名前か」

 マリアさんはすぐにメダルを返してくれた。

「何を調べてこいという話だったんだ。どこでその冒険者と知り合った」

「知らない。ただ道で呼び止められただけ。城まで行って様子を見て冒険者の宿に報告するように言われた。お駄賃をくれるからって」

「危険だ。そんな曖昧な仕事を受けて、騙されたらどうする」

「そうしなければ生きていけないから」

 みすぼらしい僕らは孤児のように見える。だから、レクシアはそんな嘘をついたんだ。簡単なお使いを安いお駄賃で受け、ついでに死体漁りをしてくる。孤児ならそんなのは当たり前なのかも知れない。僕には思いつかないことだけど。

 マリアさんはため息をついた。もう威圧感はない。

「確かに一理あるが、気をつけた方がいいな。もう一つ聞かせてくれ。城にはどれくらいの死体があった」

 レクシアは一旦口ごもったが静かに答えた。

「たくさん。本当にたくさん」

「死体以外はなかったのか?」

「わかんない。多分なかった」

「そうか」

 マリアさんは僕とレクシアの頭に手を置いてなぜ手くれた。

「町まで送っていこう。歩くとかなりの距離だ」

「あ、大丈夫です。歩いて行けるから」

 僕はやっと口を挟んだ。いつまでもレクシアに話させているわけにはいかない。でもマリアさんは首を振った。

「私も城を調べたいから町の入り口までしか連れて行けない。後でもう一度話を聞きたいから、冒険者の宿で待っていてくれ」

 そしてマリアさんは問答無用で僕とレクシアを馬に乗せてしまった。レクシアはマリアさんの前に、僕はマリアさんの後ろに。

「しっかり捕まっていろ」

 僕らは町の入り口まで運ばれた。


 僕らを置いて、すぐにマリアさんは城に向かった。門番の人は僕がメダルを見せるとそのまま中に入れてくれた。門番さんは血で汚れまくった僕らを見て驚いていた。

 僕はレクシアの案内で順風亭に行った。レクシアはこの町を精神体で歩き回っていたので知っているようだ。

 店にはたくさんの人がいた。血で汚れて汚い武器を抱えた僕らを見てみんなびっくりしているようだった。


「坊主。どうした」

 いきなりがたいの大きな男の人に声をかけられた。僕は少し怖かったけど、その人の目は優しかった。

「受付に行くように言われているんですけど」

「いっぱしの冒険者みたいななりをしているが、怪我はないんだな。お使いか何かか。ちょっと待ってろ」

 そしてその冒険者は受付の横に行って店員の女性と何か話した。その後で、彼は僕の方を見ると手で招いた。僕らは顔を見合わせて、恐る恐るその男に近づいていった。

 僕らが受付の横のカウンターに来ると、おっとりとした優しい顔の女性が待っていた。

「じゃ、後は頼むわ」

「ちょっと、カーランクルズ」

 その女性は去って行く冒険者に声をかけたけど、彼は止まらなかった。


 女性が僕の方を見る。

「それで、君たちは何の用だったの」

「あ、あの、このメダルを見せるようにって」

 僕がメダルを見せると女性の目が見開いた。

「あら、あなたたちだったのね。キャロンさんのお使いって。ちゃんと聞いているわよ」

 僕らは安堵した。どうやら、キャロンから子供が報酬を取りに来ると聞かされていたらしい。キャロンから冒険者カード替わりになるものを用意して欲しいといわれて、女性はこの順風亭のメダルを渡したそうだ。

「キャロンさんは、美少女美少年が来るとか言っていたけど、その通りね」

 報酬は驚くほど多かった。百ゴールドもある。きっと一ヶ月以上過ごせる。

 しかし僕らは報酬を貰って終わりとはならなかった。すぐに依頼主に会うことになったから。どうも城の状況を報告するまでが僕らに与えられた仕事らしい。

「でも、その前にまずはその格好をどうにかしないといけないわね。さすがにその格好で依頼者の前に行ってもらったら困るわ」

「だけど着替えはありませんし」

 女性はため息をつく。

「しょうがないわね。せめてその武器のたぐいを入れる袋はないの?」

 僕らの持っている袋では小さすぎて父さんたちの防具は入らなかった。だから抱えて持ってくるしかなかった。

「ありません」

 女性はうーんとうなる。

「何か古着はあったかしら」

「スピナさん。私が預かりましょうか。今日はもう上がる予定なので」

 女性の後ろから声がかかる。スピナと呼ばれた女性よりもっと若い感じがする女性だ。

「あら、シュプリーン。大丈夫? もしお願いできるなら、着替えさせてからモンテスさんの家まで案内して欲しいんだけど」

「いいですよ。弟と妹の服が家にあると思いますし」

「可愛いからって手を出しちゃダメよ」

「な、何言っているんですか!」

 そして二人の女性は笑い合った。

「じゃあ、まずは綺麗にしてきてね」

 僕らは受付の女性に連れられて冒険者の宿を後にした。

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