(39)美女達の帰り道
ベアトリスは魔法で隠し扉を開けて、盗賊たちとログを出会わせた。そして、二人を観察するのをやめ、馬車の荷台に宝を積み上げている二人の方に走ってきた。
「まだある?」
「これで全部だ。馬車二台分とは豪勢だな」
オウナイたちがまだ売りさばいていなかったおかげで盗まれた財宝類はほぼまるまる残っている。それが馬車の荷台の二つ分に押し込まれ、人が乗るスペースもなくなっていた。
「そういや、どうやって運ぶんだ」
「あんたが引っ張るのが一番早いだろう。馬は邪魔だ」
キャロンが当然のように言った。
「じゃあ、私は荷台に載ってこのお宝を全部見えないようにするね」
ベアトリスは自分の役割を伝える。
「私は併走してやるよ。誘導する奴が必要だろう」
しかし、アクアは口を尖らせる。
「また私ばっかりに力仕事をさせる」
「どうせ余裕があるんだろう。どんなに走っても魔力の消費がないあんたらと違って、私はしっかり魔力を使いながら動いているんだから、むしろ疲れるのは私の方だ」
ベアトリスが言い返した。
「私だって結界維持には魔力を使ってるわよ。私のおかげで見つからないように行動できるんだからね」
「じゃあついでに、タイヤの滑りをよくしてくれな。途中でぶっ壊れても困るぜ」
アクアがベアトリスに要求する。
「わかっているわよ。タイヤが壊れても大丈夫。一つの塊として維持しておくから」
そしてベアトリスは馬車の屋根に飛び乗り、そこに座って呪文を唱えた。アクアが荷馬車を繋いで、荷台をロープで引っ張れるようにする。キャロンが扉を大きく開けた。
「じゃあ、行くか」
アクアが荷台を引いて走り出した。そのまま三人は城を後にした。
三人は城からダグリシアに繋がる道を知らないので、一度グレスタの門まで戻って、そこから街道に出た。
門のそばを通りながら、アクアがつぶやいた。
「もっとグレスタの男たちと○○したかったな。ログやレクシアとしかしていないぜ」
「あんたは顔ばれしたから隠れるしかなかったんだろうが。付き合ってやった私の身になれ。私もバロウズを落とし損ねた。もう一晩くらい立ち寄りたいところだ」
門番は町に入らずそのまま街道に進むアクアとキャロンに、いぶかしげな目を向けた。特にアクアは何かを担いでいるような姿勢なのに、後ろには何も見えない。
「あなたたちねぇ。あと二日しかないのよ」
しかしキャロンはじっとりとした目を向けた。
「そもそも、こんなにぎりぎりになったのも、ベアトリスのせいだろう」
「そうだな。ログを見つけたのも、レクシアを弟子にしたのもベアトリスだしな」
「ログとレクシアを連れて行きたいなどとわがままを言うからこうなった」
ベアトリスはぷいっと横を向いた。
「ひどいわ。ログとレクシアを見捨てろって言うの。私はあなたたちと違って冷血漢じゃないの」
「美形だからだろ」
「美形だからだよな」
ベアトリスは聞こえないふりをした。
「そういや、ログたちが失敗したらどうなるんだ」
アクアは走りながら言う。
「物騒な事言わないでよ。きっと大丈夫よ」
ベアトリスはふてくされる。
「一応、二日連絡が無かったら、城を調査するようにと順風亭に話してある」
キャロンが答えると、アクアは不満げに言った。
「じゃあ、残った盗賊どもが逃げるじゃねぇか。殲滅する予定だろ」
「ああ、それなら大丈夫」
ベアトリスが答えた。
「呪いを与えておいたから。もし生き残っていても飛び降り自殺よ」
「おっかねぇな!」
アクアが叫ぶ。
「カイチックが使っていたのと同じようなものよ」
「あんたらしいな」
「まぁいいや。殲滅できたなら、仕事は完了だしな」
アクアは気軽に言って先を急いだ。
日が落ちても三人は道を進んだ。ダグリシアとグレスタは馬を急がせてやっと一日で付く距離だ。明日の午前中には依頼主に報告したいので夜の間も進むしかない。
しかしさすがに夜高速で走るのは危険である。キャロンが光で前方を照らしながら三人は軽い小走り程度の速度で先を急いでいた。
「こう暗いと暇ね。せめて星が出ていれば良いのに」
ベアトリスは上を見ながら言った。今日は曇っていて少し肌寒い。ベアトリスは結界の中なので温度を感じていないが。キャロンも地面をスケートのように滑りながら見上げる。
「あんたは座っているだけだから暇なんだろ。雨が降らないだけましだ」
「働いているでしょ。もう、さっきからキャロンはひどい」
「あんたの結界魔法はそれほど消耗していないだろうに。私はさっきから前を照らしたり、足を滑らせたり、魔法を使い続けているんだ。さすがに疲れる」
キャロンが答えると走り続けているアクアがいった。
「だから一番労力を使っているのは私だっての。力ばっかり当てにしやがって。ん、前に何かいるぞ」
アクアはそう言って止まった。慣性で進んでくる重い荷台を片手で止める。
「きゃっ。急に止まらないでよ」
荷台の屋根に乗っているベアトリスが落ちそうになって悲鳴を上げた。キャロンは光を動かしてその人物を照らした。行き倒れのようだ。
「ちょうどいい暇つぶしができそうだぞ、ベアトリス。一度結界を解いても良いんじゃないか」
ベアトリスが荷台から飛び降り、キャロンのそばに来る。マントがまくれ上がり、白い体が見えた。アクアもキャロンのそばに来る。キャロンは自分の周辺にもう一つ光の球を浮かべて周りを照らした。荷台が二つと三人の女性が照らし出される。
「そんなところで死んだふりしていないで、素直に来てくれても良いわよ」
ベアトリスが前方の男に声をかけると道で倒れていた男が起き上がった。剣を構えてゆっくり慎重に近づいてきている。
「横だ」
キャロンが小さく言う。道の横の草むらから彼女たちめがけて矢が飛んで来て荷台に刺さった。別に彼女たちは避けていない。わざと外して打ったようだ。ベアトリスはそれでもじっと前方から来る男を眺めていた。しかし肩をすくめる。
「外れだわ」
アクアは言う。
「三、四人はいるんだろ。数がいればそれなりに楽しめるさ」
アクアは唇を舐めた。
「言っておくがこのスピードだと夜通し走ってもダグリシアに着くのは早朝だ。○○している時間は無いぞ」
キャロンが言うとアクアは不満を言う。
「ちょっとくらい良いじゃねぇか。ガキの相手ばかりで飢えているんだよ」
「あら、ログは十三歳だし、そこまでガキじゃないでしょ」
「体ができあがってないから、○○も小さくて不満だったんだよ。しかもログとキャロンの二つしか○○はねぇし」
「ずいぶん余裕を見せてくれるな。荷物を置いていくなら命は助けてやるぞ。まぁ、楽しませてもらった後になるがな」
道の脇でがさがさと草を踏む音がした。しかし光の当たる場所までは近づいてこない。
ベアトリスがつぶやいた。
「よし、中に収まった。全員で五人だわ。私たちの前の草むらに二人、後ろの荷台の向こうの草むらに二人、そして道を歩いてくる男」
アクアがすねたような視線でキャロンを見ていた。
「わかったよ。まずは降参しようか。私たちを味わいたいようだ」
「五人もいれば一人くらいは美形がいるわよね」
アクアは剣を地面に投げ出し、キャロンも杖を放した。
前から男たちが姿を見せる。四十代くらいのひげ面の男と二十代くらいの厳つい体の男。彼女たちの後ろの荷台で声が上がる。
「すげえお宝だ。運が良いぜ」
前の男の若い方が言った。
「こっちの女どもも極上だ。みんなで楽しめそうだ」
アクアは早速ビキニアーマーをはずそうとしていた。
しかしベアトリスが叫ぶ。
「あっ、邪魔が入りそう」
キャロンも気がついて道の後方を見た。その時、荷台の裏側で悲鳴が上がる。
「ぎゃっ!」
「叔父き! 大丈夫か」
目の前の年かさの男が動揺する。
「くそっ、罠か」
そこに走り込んでくる男がいた。その後ろから何かが飛んでくる。それはまた荷台の横に行く。
「うわっ。ああっ」
二つ目の悲鳴。
「ネーヴ、バーグラ。無事か。逃げるぞ」
盗賊たちが草むらに飛び降りようとしたときに前から走り込んできた男が短刀を振る。やむを得ず、年かさの盗賊はその剣を受けるが、その男は剣を当てただけで盗賊の前を走り抜け、荷台をすぎて先に行った。
「まずい。狙いはツーグか。逃げろ」
道の前から近づいてきていた男は慌てて逃げようとするが、すぐに追いつかれて後ろから切りつけられた。
「ちくしょう」
盗賊はただ立ち尽くすキャロンたちに剣を向けた。
「誰だか知らねぇが、それ以上何かしてきたら、この女どもを殺すぞ」
その一部始終を呆然と眺めながらアクアが言った。
「さっき前を通り過ぎた奴はキュームレセズだな」
「あの太っててはげていた人ね。確かにあの時の人か」
ベアトリスが言う。
「結構良かったぜ。体力もあったしな」
「なかなか腕の良い斥候だな。私たちが気にしていなかったせいかもしれないが、恐らく私たちには前から気がついていたはずだ」
「って事は、後ろの悲鳴はコリキュリの矢だな」
アクアが続ける。
「私が光を照らしているから狙いやすかったんだな。こちら側には私たちがいるから裏側を狙ったんだろう」
「眼鏡が魔道具なんで、遠い距離でもよく見えるんだとよ」
そして盗賊の前にたくましい体付きの戦士が現れた。
「無事か。アクア、キャロン」
「久しぶりだな。カーランクルズ」
キャロンが答えた。
「お礼にもう一回四人で楽しもうぜ。一回きりだったのが心残りだったんだ」
アクアも気軽に返事をした。
「仲良く会話してるんじゃねぇ!」
盗賊が叫ぶ。
「すぐに剣を捨てな。この女どもを殺すぞ」
若い盗賊はベアトリスを羽交い締めにして剣を首に当てた。年かさの盗賊はアクアの胸に剣を突き立てていた。
カーランクルズは盗賊をにらみつける。
「おまえたちこそ投降しろ。見つけるのに大分時間がかかったぜ」
キャロンが口を挟む。
「カーランクルズ。こいつら殺して良いのか。それとも生け捕りが良いか?」
カーランクルズも盗賊たちもキャロンの言葉に面食らう。
「できれば生きていた方が良いが・・・」
カーランクルズがつぶやくと、キャロンはベアトリスとアクアを振り返って言う。
「だそうだ」
「オッケー」
ベアトリスは自分の首に手を回す男の手に触れた。その途端盗賊は意識を失って倒れた。
「はいよ」
アクアは自分に向けられている剣を手で掴んで引き寄せた。
「なんだと」
そして叫ぶバムの顔面を拳で殴りつける。バムは鼻血と歯をまき散らしながら、吹っ飛んだ。
「・・・せっかくだから俺の出番も残しておいて欲しかったんだが」
カーランクルズはつぶやいた。
カーランクルズたちとアクアたちはお互い挨拶をしてから、バム一家全員を縛り上げた。途中で死なれては困るというので、キャロンが治癒魔法を唱え回復させた。ベアトリスは縄に魔法で細工をして決して自力ではほどけないようにした。
カーランクルズたちは仕事が遅れているので、すぐにグレスタに帰るようだった。アクアが必死に粘って○○に誘ったが、それだとグレスタまで体力が保たなくなると丁重に断られた。
コリキュリとキュームレセズはベアトリスとキャロンを見て、物欲しそうな顔をしていたが、言い出せなかった。三人はカーランクルズの大捕物の後、その場に取り残された。
「結局、何も無しか。畜生、○○してぇ」
「男があれだけいたのに、いけてるのがいなかったわ」
「ずいぶん時間が経ってしまった。本当にもう遊んでいる時間はなさそうだ」
三人は再びダグリシアに向かって走り出した。




