(33)レクシアの修行1
私はベアトリスさんと宿を出ましたが、今回の私の修行はキャロンさんがつけてくれるそうです。なんでベアトリスさんじゃないのか細かい説明はされていません。ただ、キャロンさんは少し用事があるそうで、それまではアクアさんと修行をすることになりました。
アクアさんの修行というのは前回と同じ追いかけっこでした。でも役割が違います。前回は私が逃げて、そして捕まって陵辱されるという展開でしたが、今回は私がアクアさんを捕まえるのです。
何か仕返しができるようですごく燃えました。実際アクアさんの体力は本当に異常で、疲れるまで待っていてはこちらが不利です。だから私は工夫しました。抑え気味のスピードと途中途中の休憩で、アクアさんに私が取るに足らない相手だと信じさせました。
「おいおい、ベアトリスからは結構運動神経がいいって聞いていたんだけどな」
アクアさんは呆れています。ちなみにお兄ちゃんはずっと全裸で素振りばかりしています。どうでもいいことですが。
私が膝に手を当てて呼吸を整えていると、アクアさんがこちらに近寄ってきました。そこで一気に私は全力を解放して加速しました。当然アクアさんも私の動きを見て反応しましたが、私も今まで全力なんて見せていません。私が勢いよく伸ばした手は、アクアさんの腕を掴みました。
「な! くそ、騙したな」
私はその手を振り払われないようにしっかり握りしめ、更にアクアさんに飛びかかりました。突然アクアさんは立ち止まり、私が飛んでくるのをしっかり抱き留めました。
全力でぶつかったはずなのに、アクアさんはびくともしませんでした。アクアさんが私を強く抱き留めます。
なんで?
私は危険を感じて逃げようとしましたが、アクアさんの腕は離れませんでした。
「良い動きだ。これはご褒美をあげないとな」
「あ、それはいらないです」
でも私の抵抗はむなしく、アクアさんにたっぷりお仕置きをされてしまいました。
その後、キャロンさんが来て私を連れ出しました。アクアさんが満足そうに手を振っていたのがとても腹立たしいです。
私はベアトリスさんに魔法を教わっているはずですが、正直やっていることが本当に意味があるのかわかりません。だって、昨日の修行の最後に私は呪文を使うように言われて、お母さんから教わった魔法を必死に唱えたのですが、一切発動しませんでした。これにはベアトリスさんも驚いたようで、考え込んでしまいました。
キャロンさんは攻撃魔法を使える魔術師なので、少し期待できます。
私は少し離れた荒野まで連れて行かれました。そこは草原ではなく、そばには枯れ木がある場所です。でも何で私は裸で歩かなくてはならないのでしょう。
「キャロンさんも何ですか。歩くときくらい服を着せてくれても」
「え? ベアトリスからレクシアは裸が好きって聞いたけど」
「そんなわけない! あれはベアトリスさんの趣味です」
キャロンさんはにやにや笑いながら答えました。
「うん、じゃあ私も趣味でレクシアを裸にすることにする」
この人は何も考えていないんじゃないかと思いました。私はため息をつくしかありませんでした。
修行場所に着くなりキャロンさんは言います。
「明日は修行できないから復習しよう」
私は戸惑いました。
「修行できない?」
「明日、私たちは仕事だ。レクシアもログも明日は宿に残るか、私たちに付いてくるかどっちかになる」
「付いていきます!」
私は反射的に答えました。宿で待っているなんて納得できません。この三人がどう仕事をするのか見なくてはいけないと思います。というよりも、宿にいろと言われても絶対に後をつけていきます。冒険者の仕事を見る機会なんてそうあるわけじゃありません。
「ああ、それを判断する上でも、ベアトリスに習ったことを復習する」
私は戸惑いました。ベアトリスさんからは恥ずかしいことをさせられた記憶はあっても何か習った記憶はありません。
「私、何か習ったんでしょうか」
思わずつぶやいてしまいました。
「理解してないのか」
キャロンさんは苦笑します。そして私の右腕に触れました。腕が熱くなります。
「覚えてるか?」
これは初日の訓練です。あの日、ベアトリスさんは私の服を脱がすと、両肩と右手首をつかみました。右肩には熱さが、左肩には冷たさが、右手首には痛みが残ります。その三カ所をベアトリスさんが示した場所に動かすというのです。指示される場所はなぜか光るので分かるのですが、意識が散漫になると熱さも痛みも冷たさも全部消えてしまいます。その刺激を意識し続けながら場所を移動しなくてはならないわけです。指示通り動かせないと相変わらずエッチな罰を与えられて初日からひどい目に遭いました。嫌な思い出です。
「覚えてます。これを自分の意志でいろいろな場所に動かしました」
「初めから三つ同時にやらされるのは結構大変だっただろう。似た訓練もあるが、普通は二つをしっかり身につけてからになる」
これで疲れすぎて私は次の日寝込んでしまったのです。もちろん食事が全くのどを通らなかったり、夜中眠れなかったりした影響もあるのでしょうけど。ただ、ベアトリスさんが思いの外おろおろしていて、少し気が晴れました。
「私はベアトリスほど上手にはできないが、少しやってみるか」
キャロンさんは改めて、私の左腕と右肩に触れました。左腕は熱さ、右肩は冷たさです。でも、ベアトリスさんの時とは違います。どの部分も激痛なのです。まさか、痛さまで付け加えて難易度を上げたのでしょうか。熱いところは火傷しそうだし、冷たいところは凍りそうです。痛みがビリビリきます。
「じゃあ、熱さを右太もも、冷たさを左肩」
キャロンさんは口で指示するようです。光でピンポイントに指示されるよりは動かしやすいです。私はそれぞれを指示された場所に移します。でも、移した瞬間からまた激しく痛むのでかなりの苦痛。それでも三カ所をピンポイントで動かすよりは楽です。
「次は熱さを右肘、冷たさを右膝」
その調子で、キャロンさんは続けました。私は必死でついていきます。失敗すると、キャロンさんもきっと私を恥ずかしい目に遭わすのでしょう。私は必死でした。
でも思ったより早く、キャロンさんはこの修行を止めました。
「なかなか良い反応」
「ベアトリスさんの時よりも痛いんですけど」
本音がでました。これ以上続けられても対応できた自信はありません。
「まぁ、私の魔法はこういうのに適していない。やり方を聞いて自分なりにアレンジしただけだ」
さらりとキャロンさんは言います。そういえばキャロンさんは魔法使いの系統だとお兄ちゃんから教えられました。そもそも攻撃的なのでしょうか。
「重要なのは同時に別のところで意識を使えることだ。レクシアは母親に魔法を習ったんだろ、これと似たような訓練はしなかったか? 頭に光、足に闇などが一般的なんだが」
一般的と言われてもよくわかりません。こんな修行はお母さんに習いませんでした。
「はじめてです」
キャロンさんはうなずきました。
「だとしたら、あんたのお母さんはかなり良いとこで魔法を習ったんだな。エリート育ちだろう」
「そうなんですか?」
「剣術や武術でも複眼的な意識を覚えれば有利になるが、魔術師ではむしろ必須だ。あんたのお母さんもこれと同じことはできたと思う。魔法をやっていれば自ずと身につくことだしな。ただ、私たちみたいな生き方をするならこれは真っ先に身につけるべき能力だ。魔法の幅が広がる。そのために、冒険者から魔法を教わるとこういう修行を先にすることが多い。逆に、貴族から教わると一つの魔法をしっかり使うようにするところから始まる。魔法理論と魔法の勉強がセットになるんでな」
しかし、私にはこの作業がどう役立つのかよくわかりませんでした。痛い場所を自分の意志で自在に動かしても良いことがあるとは思えないです。
「つぎはロープの上でバランスを取ったんだっけ」
キャロンさんはそう言って、持っていた木の杖を上下逆さまにして近くの岩の上に立てました。
「じゃあ、この上に立ってポーズして」
キャロンさんの杖は長く、そして先端は少しばかり鋭いです。そんなところに立てば足を怪我してしまうでしょう。そもそも岩の上の杖は不安定で倒れそうです。
「む、むり」
私は弱音を吐きます。本当に無理としか思えません。
「ロープの上と同じだ。足の裏はさっきの意識を思い出して杖に負けないくらい固いイメージを作れば良い」
キャロンさんは簡単に言います。そして黙って私を見るのです。杖も怖いけど、キャロンさんはもっと怖いです。だからやるしかありません。あの杖に飛び乗るのです。私は深呼吸して走り出し、大きくジャンプしました。魔法で体を浮かせるイメージ。ベアトリスさんに教えてもらいました。あれからも何度もイメージ訓練はしています。
でも思ったよりも体が浮きませんでした。あれ? って感じです。でも体は止まりません。目の前に杖の先端が迫ってきます。
悲鳴すら上げられませんでした。自分が串刺しになって死ぬイメージが浮かびます。もう逃げられません。スローモーションのように杖の先端がお腹に当たりました。杖の先端はお腹の肌を引き裂きます。
途端に私ははね飛ばされて、地面に転がりました。私は慌ててお腹を押さえます。傷はありませんでした。助かったようです。
「緊張感がないなぁ」
でもキャロンさんは面白くなさそうに言いました。死にかけた私に対してです。そして続けて言われた言葉で私は凍り付きました。
「次は助けないよ」
私の体が震えます。
「もう一回」
私は自分がキャロンさんの修行を甘く考えていた事に気づきました。ベアトリスさんはいやらしくてエッチですが、それなりに丁寧に教えてくれます。それに比べてキャロンさんの修行はエッチではないけどやることがきついのです。キャロンさんは恐ろしいほどに無表情でした。
「で、できな……」
「当然できる」
キャロンさんは問答無用に言います。自然と目から涙が溢れました。怖くて仕方がないのです。
「ロープに立ったとき、初めは何度も落ちたはずだ。でも最後には立てた。しかもほぼ半日ロープの上で片足でポーズを作ることができた」
私は首を振ります。ロープと違うのです。あんなに鋭い棒の上では無理です。
「体を浮かせるための魔法は身についているはずだ。身体能力が高いこともわかっている。だからアクアはあんたに基礎体力づくりの練習をさせた。棒に飛び乗るという行動も同じ。魔法で体を浮かせる意識と、自分の体を操る意識を同じように持つこと。さっきは魔法に頼ろうとして体が動いていなかった。だから失敗した」
私は歯を食いしばって足をしっかり立たせました。お兄ちゃんはキャロンさんと修行したとき、あまりにも殴られすぎて泣いたといいました。それでも容赦がなかったと、少しふざけながら言っていたんです。でも、あれは照れ隠しだったのでしょう。キャロンさんは本当に怖くて容赦がないのです。
やるしかありません。次は助けてくれない。
私は大きく深呼吸してから走り出しました。私はもともと運動神経が良い方です。お兄ちゃんよりも早く木のてっぺんまで登れます。杖の上に飛び上がるだけだとしたら、魔法はそれほど必要ないのかも知れませんでした。私は体を使って大きく飛び上がり、何とか棒の上に足を置くことはできました。怪我をしないためには足の裏を硬くするイメージを作らなくてはいけません。足が杖の先端に触れましたが、ダメージはありませんでした。ほっとします。うまくいったと思った瞬間、私はすぐに頭からころげ落ちそうになりました。当然です。足にばかり気を取られていました。
「頭から落ちたら死ぬよ」
キャロンさんの声です。私は必死に体を浮かせる魔法を使いました。魔法と言うより、イメージで体を浮かせるだけのものですが。でも、それだけじゃ無理です。私は大きくバランスを崩しています。私は背中をのけぞらせて体を起こすと、片足を後ろに伸ばして、ぎりぎり落ちるのを防ぎました。かなり無様で情けない格好です。でも落ちて怪我をするよりましです。それでも安定しないので、私は更に足を後ろに伸ばして体を前に倒しました。両手も広げて何とか体のバランスを取ります。魔法を意識して、落ちるのを防ぎます。自分が裸だということもすでに意識していませんでした。
うまくいったと思ったら、足に激痛が走りました。足が杖に刺さってきているのです。足の意識が薄れたせいです。足に固いものをイメージして今以上のダメージがないようにしました。痛みを感じながら他に意識を動かすのはさっきもやったことです。ある程度の痛みなら、維持したままでも体をコントロールできます。時間はかかりましたが、私は何とか杖の上に立つことができました。相変わらず足に痛みが走ります。
「まぁまぁかな。降りて良いよ」
私はその言葉を聞くとすぐに杖から飛びたって、怪我をしていない方の足で着地しました。そしてそのまま崩れ落ちようとします。安心して力が抜けたのです。でもキャロンさんは許してくれませんでした。私の手をつかんで無理矢理立たせました。
「足見せて」
強引に怪我した方の足を引き上げられました。そんなことされたら後ろに倒れてしまいます。何とかキャロンさんの服をつかんで倒れないようにしました。
「まぁ、痛みは残るけど、血は止めておこう」
キャロンさんは私の足の裏に手を当てて何かをつぶやきました。私にも傷がふさがるのがわかりました。キャロンさんは手を放します。
「うん、だいぶ体全体に意識が行くようになってる。修行の成果は出ているな」
「あ、ありがとうございます」
少しだけ私は安堵しました。でも緊張は止まりません。次に何をされるのかを考えると怖すぎます。
でも、その後、キャロンさんは考えたまま首をかしげていました。やがて私に言います。
「なんかやりたいことあるか?」
「えっ?」
キャロンさんはまだ思案顔をしています。
「あの、さっき復習って言ったのはもう終わりですか」
「あまり考えていなかったからな。ああ、昨日の復習でまた裸で町に戻るとか」
「嫌です!」
私は叫びます。あんなこと二度とやりたくないです。しかしキャロンさんは澄ました顔で言いました。
「私は体と意識を切り離すなんて芸当はできないから、無理だが」
私は脱力した気分になりました。修行は厳しいけど、この人は何も考えていない。
仕方がなく私は言いました。
「呪文を教えてください。昨日、ベアトリスさんは教えてくれませんでした。私の知っている魔法は全然発動しなくて、発音を正確に覚えていないと言われました」
さっきキャロンさんは口の中でつぶやいていました。それは治癒の呪文なのでしょう。私は治癒の呪文が使えません。お母さんに教わったのですが発動できませんでした。
するとキャロンさんは尋ねてきました。
「レクシアはどれくらい呪文を使える?」
「物への魔法付与と、身体の強化は知ってます。後は光とか火とかです」
物への付与は主に剣を軽くするもの。身体の強化は攻撃を受けても耐えられるようにするもの。他にも火をおこしたり光を灯したりといった、生活で便利な魔法は使えます。だけどそれ以上の呪文は全然発動させられませんでした。
キャロンさんは少し考えてから言いました。
「呪文が本当に必要だと思うか?」
意味がわかりません。少なくともお母さんに教わったのは呪文を使う魔法です。さっきキャロンさんも呪文を唱えていました。答えられないでいるとキャロンさんは続けました。
「なるほど。じゃあ、そういう修行をしよう。どんな魔法を使いたいんだ」
私は嬉しくなりました。呪文を教えてくれるのでしょう。使いたいのは当然戦える魔法です。
「キャロンさんが使ったあの光の光線みたいなやつが使いたいです。魔法でグサって刺さる感じの」
私が熱く語るとキャロンさんは笑い出しました。ひどいです。
「だって、使いたい魔法って……」
「ああ、悪い。可愛い事を言うと思ってな。確かにたいていの奴は治癒の魔法か攻撃魔法を知りたいわけだ。じゃあ、まずは呪文無しで魔法を飛ばすところから始めよう」
キャロンさんはそう言って、また杖を地面に立てました。今度は尖った方を下に向けています。そしてその上に拳ほどの大きさの石をのせました。
「これを離れたところから落としてみろ」
キャロンさんは平然と言いますが、私にはどうやれば良いのかわかりません。私が戸惑っているとキャロンさんは言いました。
「足の裏を硬くしたり、体を浮かせたりする魔法は呪文を使わなくてもできた。自分の体だからイメージしやすかったんだろう。外に放出する魔法も同じだ。昨日ベアトリスから、体の中にたまった魔力をはき出す訓練をしてもらったはずだ。それを掌から出すつもりでやる」
私は杖に向かって掌を向けました。魔力をはき出す訓練と言っても、ベアトリスさんからはエッチなイメージで教えられたので、よくわかりません。でも、ここでそれを言っても仕方がないと思いました。
意識を掌に持っていくと確かに何かが集まってくるのを感じます。
これなのかな。
なんとなくイメージがつかめてきた気がします。自分の中にある何かを掌に集めてくる。そしてそれを掌から飛ばす。
そうすると、石は少し揺れて、落ちました。嬉しくなります。何と私は魔法で石を落としたのです。キャロンさんはまた石を元に戻しました。
「一応成果は出ているのか。でも遅い。一瞬で意識を集めてすぐにこの石を落とす。まずはそんな練習をしてみよう」
これなら楽しいかも。コツを掴むと、結構すぐに発動できます。キャロンさんは石を戻すのが面倒になったようで、落ちた石が自動的に戻るように杖と石に細工をしました。そこからはただただ石落としです。強くはじき飛ばしたり、弱く押し出したり、イメージの形を変えることで、石落としにもバリエーションがつけられます。
小一時間くらい続けていたでしょうか。私は急に目まいがして、力がなくなり、その場に倒れ込みました。一瞬自分に何が起こったのかわかりません。体が異常に重く、まるでいうことを聞かないのです。
そこで思い当たりました。以前にもやったことがあります。これは魔力切れです。しかも結構重度。なんでいきなりこんな状態になったのでしょう。石を落とす魔法はそれほど魔力を使っているイメージはありませんでした。その瞬間、背後からキャロンさんが抱きついてきました。
「我慢している子を襲うのも良いんだが、こうして全く身動きをとれなくなった子を、めちゃめちゃにするのは燃えるな」
やっぱりキャロンさんもベアトリスさんと同じでした。身動きできない私はキャロンさんにいいように弄ばれたのでした。
「もう体動くだろ」
事が終わってから、キャロンさんは言います。
「治して、くれ、たの」
私は何とか身を起こします。
「治してない。○○しただけ。身動きとれなくなった美少女なんて、最高のシチュエーションだ」
キャロンさんは立ち上がって服を着始めました。
「でも……」
私はつぶやきます。魔力切れが回復するのには時間がかかります。それなのにもう私は体が重くありません。
「さて、私たちはどうやって魔力を回復している?」
キャロンさんが言いました。私は答えられません。あまり考えたことがないです。キャロンさんは続けました。
「答えは周りの全ての物質から。私たちはいつも皮膚で魔力を吸い上げている。レクシアも少し練習すれば意識できる。魔力を前に放つのと同じで、外から魔力が入ってくるイメージもあるはずだ。慣れると早く吸収できるようになる。魔力の高い場所。たとえば金属の多い洞窟とかなら、より早く吸い上げられる」
「意識しなくても魔力は吸収できるの?」
私は疑問に思って尋ねました。キャロンさんはうなずきます。
「そう、私たちは普段無意識で魔力を吸い上げている。ではなぜ、レクシアは魔力を使い果たして倒れてしまったのか」
やはり私が身動きとれなくなったのは魔力を使い果たしたからのようです。その予兆に気がつかなかったのかが不思議です。
「吸い上げるよりも出す方が多かった」
「もちろんそういう場合もある。あんたらがダークドッグに襲われたときレクシアが力尽きたのはそういう状態だった。でも今は違う。石を落とす程度の魔力なら、放出してもすぐに回復できる」
ではなぜ自分はうまくいかなかったのだろう。
「気づいたことは?」
必死に考えるのですが出てきません。そもそも夢中だったので、振り返ってみてもあまり覚えていないのです。キャロンさんは肩をすくめました。ちょっと傷つきます。
「レクシアは石を落としている間に、自分の体全体を意識していたか?」
「あっ!」
さっきは魔力を打つことだけに意識が集中していました。むしろ楽しすぎてそれしか考えていませんでした。
「優れた魔術師でも強い魔法を使っている最中は意識がそこに集まってしまうが、すぐに元の状態に戻す。そうすればそれほど意識しなくても魔力が入ってくるから。実は魔力切れと言っても二パターンある。呪文を唱える魔法で魔力切れを起こすと、回復に時間がかかる。これは呪文が効率的に体内の魔力を吸い上げ、根こそぎ魔力を消費するからだ。その代わり呪文は魔力の節約になる。一方で呪文を使わないで魔力切れを起こしたときは単に意識できる部分の魔力が消耗しているだけだから、魔力を多少吸収できるようになれば回復は早い。欠点は体内の魔力が枯渇しているわけじゃないから、自分で気がつきにくいと言うことだ」
私は立ち上がります。
「なんで先に教えてくれないんですか」
私は聞く必要がないことをわざわざ聞いてしまいます。答えは目に見えているのに。
「いや、力尽きて倒れてくれた方がおいしいから」
本当にがっかりな人たちです。




