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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた

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(31)ベアトリスの仕事

「今日は飯無しで出発するぜ」

 アクアがログとレクシアに言う。そもそも普段から朝に食事をしているのはログとレクシアだけで、他の三人は外で軽食を取ったり、携帯食を食べたりしている。冒険者にはしっかり三食食べる習慣など無い。そもそもこれ以上お金をかけたくないというのもある。食事を部屋まで運ばせるのは思いの外出費がかさんだ。

 まだ日も上がっていない時間なので、ログもレクシアも寝不足だった。

「こんなに早く出発するの?」

 ログが準備をしながらアクアに尋ねたが、答えたのはベアトリスだった。

「私の都合よ。今日はキャロンにレクシアのことは見てもらう事になるわ」

「え、キャロンさんですか? どうして」

 唐突な話でレクシアは驚く。

「用事があるからよ。私の魔法でみんなを町の外まで連れて行くから、そこで別れるわ」

「私は少し用事がある。私が行くまで、レクシアはアクアと一緒にいてくれ」

 キャロンだけが遅れて出発することになる。


 いつもは修行の場所までベアトリスが全員を隠して連れ出しているが、今回は別行動になる。しかし、アクアやキャロンではログやレクシアを連れてばれずに宿や町を抜け出すことができない。

 そこで出発をベアトリスの都合に合わせて、朝早くにログとレクシアを連れ出してしまおうと言うことになった。アクアも衛兵に見張られているので、隠れて抜け出した方が都合がいい。


「じゃあ、行きましょうか」

 ベアトリスが全員に手を繋がせる。

「この、お手々繋いでって言うのが嫌いなんだよな。お遊戯かよ」

「文句言わないの。繋がっていないと効果が出ないんだから」

 キャロンに見送られながら、四人はそのまま宿を出て行った。

 宿の外には衛兵たちがいた。

「ご苦労なこった」

 アクアは微笑むが、ログとレクシアは意味がわからなそうだった。当然アクアは説明しようとしない。

「早く行くわよ」

 そしてレクシアたちは門まで来た。朝早すぎて門はまだ開いていなかったが、ベアトリスには通用しない。鍵を勝手に開けて外に出る。

「じゃあ、私は行くわね。レクシア、ちゃんと修行するのよ」

 そしてベアトリスは三人と別れていった。

「じゃあ、私たちも行くか。走るぞ」

 アクアはログとレクシアを連れて走りだした。



 ベアトリスは一昨日、彼らが不在の間に城の壁に魔法文字を描き、部屋に結界を施していた。人が少なくやりたい放題だったので、しっかり念入りに魔法文字を記載した。魔法文字というのはベアトリスしか使わない特殊なタイプの魔法である。この文字は他人が見ることはできないし、普段は魔力の消耗もない。しかし、ベアトリスの意志である程度自由に魔法を発動できる。

 ベアトリスには、昨日の夜から人が集まり始め、夜の見張り以外は全員城に入ったことが確認できていた。

 現在、オウナイ一味は今グレスタの町に一人もいない。オウナイ一味は当然今日人をよこすだろうから、彼らをグレスタに入れないようにしなくてはいけない。都合の良いことにグレスタ城からグレスタに至る道はここしかない。行き違いは起こらないはずなのだ。

 ベアトリスは軽いステップで、道を走っていった。その時、前から馬が二頭来るのが見えた。ベアトリスは微笑むと、道の真ん中に立ち止まって彼らを待った。


※※


 エイクメイとホーボーは朝すぐに城を出た。門が開くと同時に町に入る予定だ。何しろ、冒険者の宿で依頼をチェックしなくちゃいけない。レッチやラフィエンに任せていても大丈夫だとは思うが、念には念を入れたい。

 馬で道を下っていくと、前方に一人の少女が立っていた。長い黒髪で、ローブをまとっている。ローブの前はしっかり閉じているが、白い両手は横から出ている。

 エイクメイとホーボーは馬を止めた。

「おまえは誰だ」

 エイクメイは緊張した面持ちで尋ねる。可能性としては早朝の散歩だ。あまり嬉しくない話ではあるが。

 ホーボーが小声で言う。

「どのみちやっちまいましょうぜ。すげえいい女だ」


 すると少女は笑いながら言った。

「ふーん、そっちの人は結構美形で好みかしら。隣の人はダメね」

 エイクメイは怪訝な顔をした。態度も格好もおかしい。

「何者だ。グレスタから来たんだな」

 少女は妖しげな視線を送る。

「見ての通り通りすがりの美女よ。イケナイ事したくない?」

 そして、マントの前を一瞬広げた。白い肌が二人の目に映った。

「すげぇ、たまんねぇ」

 ホーボーが馬を下りた。

「待て、その女は何か変だ」

 エイクメイは馬上で剣を抜いた。しかしホーボーはすぐに少女に近づく。

「じゃあ、向こうの茂みで、ね」

 少女はホーボーに流し目を送ると道を外れて歩き出した。すぐにエイクメイも馬を下りてホーボーの肩を押さえた。

「しっかりしろ。あの女はおかしい。近寄るな」

「もう遅いと思うけど」

 いきなりそばで声がしたかと思うと額に手が当てられた。エイクメイの視界が暗転した。



 ベアトリスはホーボーとエイクメイから離れた。二人はぼーっと突っ立っている。

「まずは馬を避けないとね」

 ベアトリスは馬を道の脇に避けて木に繋ぐと、また二人の前に戻ってきた。

 そして美形の方、エイクメイの口に軽くキスする。

「あなたの名前は」

 ベアトリスが聞くとエイクメイは答えた。

「俺はエイクメイだ」

「そうね。エイクメイ、質問に答えてね」

 ベアトリスは二人の盗賊に魅了の魔法をかけていた。魅了は合理的に考えることができずに、問われた内容を素直に答えてしまう魔法だ。

「あなたたちはどうしてダグリシアで貴族の貴金属を奪ったの」

「復讐だ。父さんとカイチックは王宮をクビになったんだ。だからダグリシアの貴族に復讐するんだ」

「なるほど。元々その二人は何者なの」

「父さんは宮廷騎士団の団長だ。カイチックは宮廷魔術師団の副団長だと聞いているよ」

「なるほどねぇ」

 この依頼をかけた貴族はオウナイ一味の過去を知っていたのだろうか。よくわからない。

「このグレスタにきて何をするつもりだったの」

「ホーボーはグレスタで売りさばくつてを作るために残るんだ。そんな面倒な事しなくてもグレスタの貴族を襲えば良いのに、なんでだろう」

 問いに対して素直な答えにならず、多少外れた答えになってしまうのは、何も考えずに無意識に答えているからだ。思いついたまま素で話してしまう。

 ベアトリスは続けて尋ねる。

「もしかして、盗んだ宝物を売りさばくつもりだったのかしらね」

「その前に、城の調査を依頼した奴を捕まえないと。俺は冒険者を捕まえた方が良いと言ったのに父さんは違うという。なんでだろう」

 ベアトリスは話を変えた。

「カイチックという魔術師はどんな人?」

「カイチックはすごい魔術師だ。攻撃魔法がすごくて、カイチックのおかげで窮地を乗り越えたことは何回もあるよ。でもそばに仲間がいてもお構いなしに攻撃してくるんだ。どうして戦っている仲間に向かって攻撃できるのか全然わからない」

「攻撃魔法以外は使えるのかしら」

「治癒の魔法もつかえるけど、邪道だと言っていた。攻撃魔法以外は魔法としては意味が無いものだって」

 かなり偏屈な魔術師らしい。ベアトリスは別の質問をする。

「他に強い人はいる?」

「父さんは俺に剣を教えてくれた。でも全然俺は敵わない。他の仲間にも父さんは剣を教えているんだ。だから俺たちは全員すごく強いぜ」

 この発言はあまり当てにならない。しかし恐らくオウナイは強いのだろう。

「昨日は何をしていたのかしら」

「昨日はバム一家を粛正しにいったんだ。でもバム一家はいなかった。俺はあいつらを追うべきだと思うんだけど、父さんは俺たちを三つのチームに分けて、街道沿いの盗賊たちを襲っていったんだ。グレスタに近い街道は全部俺たちのシマになったと言ってた。でも、バム一家は俺たちを裏切ったんだ。報復しないと舐められる。何で奴らを無視するんだ」

 少しエイクメイは熱くなってきている。そろそろ魅了が解けるかも知れない。

「うん。だいたい聞いてきた通りね。もう良いか」

 ベアトリスは再度エイクメイの額に手を当てる。エイクメイが気がついてベアトリスを見た。

「お、俺は、いったい・・・。おまえは!」

 しかしそこで目がぎらぎら輝く。目にはベアトリスしか映らない。どうしても目の前の女が欲しい。

「エイクメイ。私とイケナイことしましょ」

 そしてベアトリスはエイクメイを連れて茂みに入っていった。


 しばらくして、ベアトリスはエイクメイを連れて茂みから出てきた。ホーボーがまだ突っ立っている。

「まさか、初めてだったとはね。久々に○○食べちゃった。かわいい」

 そしてベアトリスはエイクメイとホーボーの手首を取って呪文を唱えた。

「少しばかり私のお手伝いをしてちょうだいね」

 ベアトリスが背中を押すと、彼らは自ら繋いである馬の方に歩き出した。

 精神に効果を及ぼす魔法は色々あるが、基本的には相手を強制的に操作する方が簡単だ。強制的に眠らせる「睡眠」や強制的に言うことを効かせる「隷属」などである。相手に考える隙を与えるタイプのものだと、どうしても打ち破られる可能性が高まる。「魅了」は一番緩く、自由に話す余地を与える魔法だ。だから、深く考えたり、激高したりすると壊れやすい。その代わり多くの情報を聞くことができる。ベアトリスはもっと強烈な精神魔法もつかえるが、相手が本当に壊れて使い物にならなくなるので、使う場面は限られる。

 今回はとりあえず隷属で自分に着いてこさせている。

「さて、上手くやりますか」


※※


 昼過ぎになって、城にエイクメイとホーボーが帰ってきた。

 見張りの男が話しかけてくる。

「どうしたんです。何かあったんですか」

「城の外にいる奴はすぐに城に入ってくれ。全員に伝えることがあるんだ」

 エイクメイが言う。

「森の方に何人か行っちまっているかも知れませんが」

 しかし、森の方からも数人が戻ってきた。

「なんか呼びましたかい」

「とにかく城の中に戻ってくれ。大切な連絡事項があるんだ」

 やむなく盗賊たちは城に入っていく。エイクメイは城周辺を馬で走り、見つけた盗賊に同じ事を言って城に戻させた。最後にエイクメイ自身がホーボーと共に城に入っていく。一階では盗賊たちががやがやと話をしている。エイクメイとホーボーは馬を下りた。

「おい、どうした。何があった」

 オウナイが降りてきた。後ろにカイチックが続く。

「大変なんだ。二階の奴らも呼んできてくれ。すぐに行動しなくちゃいけない」

「パックが上で休んでいますぜ」

「すぐに連れてきてくれ」

 オウナイがエイクメイに近づいていく。

「おい、エイクメイ。何があった。早く話せ」

 するとエイクメイは周りを見渡し口を閉じた。皆にも手で静かにするように合図する。オウナイもすぐに周りを見渡す。そしてカイチックに小声で言う。

「カイチック、何かわかるか」

 しかしカイチックは怪訝な顔のまま、そんなエイクメイを見ていた。

「エイクメイ。あなた本当にエイクメイですか?」

 カイチックは声を潜めることなく言った。その時二階から片腕の男が仲間に支えられながら降りてきた。エイクメイはそれを見た途端、急に首をうなだれた。そして頭を抱える。

「な、何だ。俺は何をしていた」

「おい、エイクメイ」

 オウナイが声をかけるとエイクメイは顔を上げた。今まで突っ立っていただけのホーボーもきょろきょろと周りを見渡している。

「俺は何でここに。グレスタに向かったはずじゃ」

 カイチックが駆け寄ってくる。

「何か魔法をかけられたのですか。誰に会ったのです」

「わからない。誰にも・・・」

 しかしその場で全員が動かなくなった。そして時が止まる。


※※


 彼らを城に閉じ込めるためには準備が必要だった。そのため、まずはエイクメイとホーボーを待機させ、ベアトリス自身は森に入った。

 魔法文字はただ書いてあるだけでは魔力を消耗しないが、魔法を発動させてしまうとずっと魔力を消耗してしまう。自分の魔力だけで長時間維持するのは不可能だった。そこで森に現れているという「霧の魔物」に目を付けた。彼の魔力なら長時間結界を維持できるはずだ。


 ベアトリスは魔力に対する感覚が鋭いので、強い魔獣を探すことが得意である。そこで探知してみると、魔獣の気配は複数あった。

「おびき寄せる方が良さそうね」

 ベアトリスは森深くまで来ると、樹に手をつけた。そしてそこから生命力を手に集めていく。みるみる巨大な木がしなびて枯れ果てた。次に手に集めた生命力を熱波に変えて樹を中心に空気を振りまいた。

 霧の魔獣は名前の通り、乾燥が嫌いだ。いつもじめじめと水蒸気のあふれる環境を好む。だからテリトリーの一部が枯れてくると怒って近寄ってくるだろうと考えた。

「樹一本分の生命力だと足りないわね。出てくるまで続けましょうか」

 そもそも木を枯らせる魔法というのは一般的に知られていない。ベアトリスが作った禁呪のようなものである。何本かの木を枯れさせながら熱波をばらまいていると、急に当たりに霧がかかってきた。

「やっときたわね」

 クスクスと女性の笑い声と動物のうなり声のような声が聞こえる。ベアトリスを追い出そうとして威嚇しているのだ。ベアトリスはそれらが全て幻聴であることを知っている。魔力探知ですでに相手の位置は捕捉した。

「じゃあ、もう一本」

 ベアトリスは別の樹に手をつける。すると動物たちの怒りの声が増した。すぐ近くでどう猛な獣たちの声がする。

「近寄りすぎよ」

 その途端に悲鳴が上がった。

「私のテリトリーまで近づいちゃダメでしょ」

 ベアトリスが歩いて行くと犬ほどの大きさのリスが空中でもがいていた。ベアトリスの結界に入った途端に体が動かせなくなったようだ。それでも逃げようと必死で動いている。

「うわっ、大きい。こんなのがいたのね。これくらい大きければかなり保つわ。二匹くらい欲しかったところだけど、こいつなら一匹で十分」

 ベアトリスが空中に指で線を書くと「霧の魔獣」はそのままの姿でベアトリスの前に運ばれてきた。ベアトリスが直接触れて呪文を唱えると、霧の魔獣は動かなくなった。

「さて、準備はできたわね」


 ベアトリスは城まで戻ると、さっそく見つからないように壁を駆け上がった。ベアトリスは塔には上がらずに、塔の根本の屋根に霧の魔獣を置き、周りを見えない籠で押さえつける。その後、霧の魔獣を中心に魔力を刻み込んだ石を屋根に置いて結界を作った。いつも結界を作るのに便利な石を準備してあるので、この辺りの作業はたやすい。

「よし、完璧」

 ベアトリスは屋根から降りて、エイクメイとホーボーの元に戻った。


 エイクメイとホーボーには盗賊たちを一階の部屋に集める役をやってもらう。ただ、相手を強制的に命令に従わせるような魔法では、違和感をもたれてしまうだろう。そこで、今回は「憑依」を使うことにした。

 ベアトリスは茂みに座り込んで呪文を唱えた。エイクメイの体が動き、きょろきょろと周りを見回す。手足を曲げ伸ばしして体の調子を確かめる。エイクメイが見ると、木の陰で足を組んで座るベアトリスがいた。

「何度かやっているけど、自分の体を見るのってちょっと不思議」

 それから少しの間発声練習をする。エイクメイの口調を真似てみる。

「まぁ、こんなもんでいいわよね」

 それからホーボーの額に手を当てて魔法文字を描く。憑依状態だとエイクメイの魔力を使う必要があるのであまり丁寧な魔法はつかえない。魔法が使えないエイクメイから無理矢理魔力を引き出さないといけない。ホーボーにやってもらうのは定型作業のみ。これくらいならどうにでもなる。ホーボーはただ馬に乗って着いてきて、エイクメイが馬を下りるときに同時に降りるだけだ。

 ベアトリスはエイクメイの体を使って馬に乗ると、ホーボーにも同じ事をさせた。そして揃って城に向かっていった。

「確か残りは三十人だったわね」

 城の中の人数はすでに把握してある。問題は城の外にいる盗賊たちだ。ベアトリスは森の中にエイクメイの声で音を飛ばした。

「エイクメイだ。重要な話がある。すぐに城に戻ってくれ」

 そして城の入り口に向かった。

 城の入り口を見張っていた盗賊たちにも声をかけ城の中に戻させると、ホーボーを引き連れて周辺を回り、まだ外にいた盗賊たちに声をかけていった。全ての盗賊が中に入ったのを確認してから、ベアトリスは城の中に戻った。

 オウナイとカイチックが現れた、があまり会話をしてはぼろが出る。同じ言葉を繰り返し、二階の全員が降りてくるのを待った。案の定、カイチックは違和感を覚えたようだ。どうしようかと思っていたときにやっと全員が一階に揃った。

 そこでベアトリスはエイクメイとホーボーを開放し、結界魔法をかけた。


 ベアトリスは木陰で目を覚ます。

「さて、うまくいったか見てきましょうか」

 ベアトリスは城に走っていった。城の周りは怪しい霧が立ちこめていた。屋根の上に上がってみると、籠の中で霧の魔獣がうずくまっている。魔力が吸い出されることに当惑しているのだろう。霧の魔獣は霧を使って空気中の魔力を吸い上げる。

「まぁ、明日まで頑張ってね」

 そして屋根から飛び降り、途中の窓から城の内部に侵入した。

「ちょっとお宝のチェックだけしてきましょうかね」


※※


 衛兵隊長コウンズは頭を抱えていた。

 オウナイ一味を追っていた近衛隊が死体になって戻ってきた。もちろん本人を証明するものは残されていなかったが、直接顔を合わせていたコウンズは死体を見て一目でわかった。すぐに魔法通信で近衛隊本部に知らせたので、近いうちに近衛隊が押し寄せてくるだろう。グレスタはダグリス王国の一部であるため、近衛隊が来ると衛兵隊は全員近衛隊に従わなければいけない。

 問題なのは今のところ犯人がわからないことだ。しかし、近衛隊が来ると言うことは犯人がわからないではすまない。場合によっては第一発見者のカーランクルズたちが無理矢理犯人にさせられる可能性がある。そうなってしまうと、衛兵隊と冒険者の宿との信頼関係が崩れる。

 さっそくコウンズはカーランクルズたちにバム一家の捜索を続けるように依頼した。これはカーランクルズが近衛隊に捕まる前にグレスタから逃がすことと、バム一家を犯人に仕立て上げることを狙っている。カーランクルズの意見だと、バム一家が近衛隊を襲ったという確証はないとのことだったが、今となっては誰でも良いから犯人を見つけておく必要があった。

「近衛隊本隊は明日到着するとのことです」

「やはりな」

 昨日の夜に連絡したのだから妥当なところだ。今から近衛隊を出迎える準備をしなくてはならない。貴族の順位として近衛隊が特に上位というわけでは無いのだが、王都ダグリシアの部隊であるが故に丁重なもてなしが必要だ。

「明日は大変だぞ。しっかり準備を進めろ」

「あの冒険者達はどうしましょうか」

「それもあったな」

 昨日怪しい露出過多のアクアという冒険者を見張っていたところ、なぜか男たちに襲われてアクアは彼らを返り討ちにした。その後、死んだ男たちの身元を調査するとどうにも不審な点が目立った。ギルドの登録は事実だが、それぞれの活動履歴があまりにも少ない。コウンズはこのような手段で町に入り込む不法者がいることを知っている。ギルドの登録が緩い町も多いし、裏でギルドカード自体が取引されている。そういう人物を調べると、かろうじてギルドに登録しているものの、活動履歴が空白のことが多いのだ。

 アクアが何か知っていると思われたが、詳細を話そうとはしない。見張りを付けておくと、どうやら女性三人組であることがわかった。

「今日一日宿にこもっていたのは間違いないのか」

「ローブの女は昨日の帰りに姿をくらませてしまいましたが、残りの二人の宿は突き止めてあります。見張りを立てていましたし、宿にも確認を取りましたが、今日の外出はなかったと」

「仲間の方はどうだ」

「青い髪の冒険者は順風亭に行って、その後町の屋敷を訪れたようです。普通に冒険者の仕事をしているようですね」

 コウンズ隊長はうなる。アクアとキャロンの素性についても調査したが、それほど問題になるところはなかった。

「今は近衛隊の件に集中したいところだしな。一応順風亭にアクアとキャロンの仕事の受託状況を開示するように請求して置いてくれ」

 もっとも、これはすぐに許可されると言うことではない。冒険者の宿は衛兵隊の管理下にあるわけでは無いので、情報が開示されるかは不透明なのだ。

「わかりました。しかしそんなに気になるのですか?」

「ああ、町の中に盗賊が紛れ込んでいるなんていうのはそうあるわけじゃない。バム一家という盗賊とアクアを襲った盗賊に関係がないとはいいきれないだろう。しかもアクアはバム一家の配下も斬り殺している。口封じをしているようにしか見えない」

「なるほど」

「それでも緊急性が高いのは近衛隊の方だ。粗相がないように慎重に対応してくれ」

 コウンズ隊長の指示で衛兵たちは動き出した。

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