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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた

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(26)明日のための作戦会議

 キャロンは夕方になってから空を飛んでグレスタの町に戻った。

 キャロンは門の手前で降りてから、グレスタに入っていく。もう何度も出入りしているので、カードを軽く見せただけですぐに通してくれた。


 町に入るとキャロンはまっすぐ順風亭に向かった。順風亭はもう夕方のピークは収まったようで、それほど人は多くない。キャロンは受付に行った。

「いらっしゃいませ。依頼の報告ですか?」

 その子はスピナではなかった。もう少し年齢が低そうな髪の短い子だ。キャロンはその子の手を両手で握った。

「いや。君に会いに来たんだ。もうそろそろ店も終わるだろう。ちょっと、わからないことがあるんだ。ぜひ教えてもらえないか。二人きりで」

「え、あの・・・」

 その時、その受付の子は肩を掴まれ後ろに下がらされた。

「うちの新人をたぶらかすのはやめてください。用がないなら帰ってもらいますよ」

 スピナだった。その子を後ろに追いやると受付に座った。そしてきつい顔でキャロンをにらんだ。

「別にたぶらかしていたわけじゃない。私は一日外にいてわからないから、さっき街で何があったのか知りたかったんだ」

 キャロンは表情も変えずにスピナの手を取ろうとする。スピナはすぐに手を引いた。

「情報料取りますよ。あと、接触料も」

「つまり金を払えば触りたい放題ということで良いか?」

「ダメに決まってます」


 スピナはため息をついた。あの夜のことは気の迷いだと自分に言い聞かせる。何も知らない、といったていで頼られたから、思わず気を許してしまった。そしたらあんなことをされるなんて・・・。顔が赤くなりかけるのを押さえて冷静を保つ。

「いったい何を知りたいんです?」

「そうだな。この町の貸し馬車屋で何か動きがなかったかわからないか」

「あら、どこでそんな情報を仕入れたんです?」

「やはり何かあったのか」

 キャロンは城に戻ったエイクメイからこの辺りの情報を聞いていた。順風亭で確認したのは城で聞いた以外の情報が出てこないか知りたかったからだ。

 スピナは少し首をかしげていたが答えてくれた。

「貸し馬車屋が捜索されたということですよね。一人が捕まってもう一人は逃げたとか」

「なるほど、大捕物と言ったところか。だが、どうしてその貸し馬車屋が怪しいとわかったんだ」

「そこまではよくわからないですけど、盗賊に襲われた馬車を回収したら、その貸し馬車屋のものだったっていう事らしいですね。以前から、その貸し馬車屋を使った旅行者がいなくなるという事件があったようです」

「初めから目を付けられていたと言うことか」

 キャロンもその貸し馬車屋に心当たりがあった。確か昨日怪しげな男二人とダグリシアの貴族らしき男を見かけた。

「そうなのでしょうね。残念ながら逃げた一人は街の外に出てしまったらしく、衛兵さんたちは戻ってきたようです」

「衛兵たちは盗賊を追いかけなかったのか?」

 するとスピナは苦笑する。

「それは衛兵さんたちの仕事じゃありませんから。街の外に逃げたのなら冒険者の仕事です。明日依頼が張り出されますよ」

「ああ、それで事件のことを知っていたのか」

「まぁ、明日には新聞に載る内容ですので、隠す意味もありませんからね」

「そうすると、衛兵が冒険者の宿に依頼をするという訳か」

 キャロンは首をかしげる。ダグリシアには近衛隊がいるが、近衛隊が冒険者の宿に依頼を出すことは滅多にない。

「ええ。何か変ですか?」

「ああ、ダグリシアには衛兵ではなく近衛隊がいるが、奴らと冒険者は敵対している。お互い仕事がかぶるからな。近衛隊は貴族たちの身を守り、平民は冒険者が守る。そういう棲み分けだ」

 今度はスピナの方が首をかしげた。

「グレスタとはだいぶん違いますね。私たちと衛兵さんたちは協力関係にありますよ。基本的に町の治安は全て衛兵さんたちの仕事ですし、冒険者の仕事は衛兵さんたちがやらないような雑用か、外の仕事ですね。衛兵さんたちは町の外では行動しませんから。あ、もしもその仕事を受けたいと思っているのでしたら、ダグリシアから来た近衛隊の方とも一緒に行動することになりますよ。それが条件みたいです。でもお話を聞く限り、近衛隊の方との連携は難しそうですね」

「近衛隊か。彼らがダグリスに来るのは良くあることなのか?」

「さぁ。近衛隊の方ならきっと衛兵隊か領主様に用があってくるのでしょうし、私たちが知る機会はありませんね。もしかしたら頻繁に来ているのかも知れませんが。今回みたいな依頼は初めてです」

 キャロンは近衛隊がここに来ていることを知っている。やはり彼らはオウナイ一味を追ってきた者たちなのだろう。バム一家という盗賊に目を付けたと言うことだ。恐らくバムはオウナイのことも城のことも知っているだろう。そうすると近衛隊に先を越されるかも知れない。

「ありがとう、とても良い情報だった。ぜひお礼をしたい。ぜひ今夜・・・」

「出てけ」

 スピナは立ち上がり、受付の前に終了の札を置いた。


 キャロンが宿に戻ったのはもう完全に日が落ちてからだった。部屋にはすでにアクア、ベアトリス、ログ、レクシアが戻ってきていた。

 キャロンが部屋に入ると、すぐにアクアとベアトリスが立ち上がる。

「食事を食べたら見つからないように外に食器トレーごと出しておきなさいね」

「私たちは酒飲んでくるからよ」

 二人は疲れ切っているのかしゅんとしていた。


 キャロンたち三人は宿を出て、いつも使っている個室の居酒屋に行った。三日連続なのでもう常連だ。

 三人は飲み物と食事を注文し、早速打ち合わせを始める。

「それで、キャロンはどんな成果を上げてきたんだ」

 アクアがにやにやしながら聞いてきた。

「そうね。何をしていたのかしら」

 ベアトリスも興味津々に聞いてくる。

「当然城に入り込んで奴らを調べてきたさ」

「あら、キャロンに私以上の潜入調査ができるの?」

「私にもそれなりに手段はある。あんたの見取り図には載っていなかったが、あの城には隠し部屋があってな。そこに潜むことでゆっくり魔法を張り巡らせることができた。奴らの会話を全部傍受してきたぞ」

「城の中で魔力を流したりしたら、そのカイチックとか言う魔術師に見つかったんじゃないの。あの人勘はいいみたいだから」

 ベアトリスはかなり離れた場所でも魔力のゆがみを感じ取れる。魔術師にはそういったセンスを持つ者が多い。カイチックはそれほどではないと思うが、ベアトリスが城に入り込んだとき突然現れたことから、何かを感じたことは予想できる。

「私もそう思って初めは慎重に事を進めていたんだが、気づいてはいなかったようだな。探知系の魔法は苦手なのかも知れない」

「ずいぶん欠陥じゃないか」

「特化型なんだろう。あんたに怪我をさせたということは攻撃魔法なら自信があるんじゃないか。呪文偏重の弊害だな。攻撃系の魔法は呪文のリズムが似ているから、まとめて覚えやすい。他の系統の魔法は避けていたんだろう。そういう魔術師は結構いるぞ。回復系ばかりの奴とか強化系ばかりの奴とかな」

 キャロンが私見を告げる。

「呪文なんて使ったことがないからよくわからないぜ」

「あんたが呪文を使ったら町が一つ吹っ飛ぶ。下手に効率化させないでくれ」

 そしてキャロンは話を続けた。


「オウナイ一味は全部で三十四人だな。そのうち現在三人がグレスタに入り込んでいる。重要人物はボスのオウナイとその息子のエイクメイ、そして魔術師のカイチックだ」

「何だ。たった三人しかこの町にいないのかよ」

「一昨日は十人も入り込んでいたのに?」

「その時はここに付いたばかりで、街を調査する必要に迫られていたのだろう。今回は私たちと依頼主の調査のために五人入り込む予定で、そのうち二人が事情があって戻ってきた感じだな」

「事情って?」

「グレスタの貸し馬車屋に衛兵が調査に入り、一人が捕まり一人が逃げた。実は彼らはバム一家という盗賊集団だったようだ。そしてこいつらはなぜかオウナイ一味に追われているんだ。オウナイたちは明日この盗賊団のアジトに襲撃をかけるつもりのようだ。貸し馬車屋に衛兵が調査に入ったと知って慌てて報告に戻ったわけだ」

「盗賊が貸し馬車屋なんてやっているんだ。おもしろいわね」

 キャロンは貸し馬車屋の手口を二人に話した。黙って聞いていたアクアがいきなり声を上げる。

「あれ? それじゃあ、あれがバム一家だったのか」

 キャロンが眉をひそめる。

「また何かをやらかしたのか?」

「ほら、昨日ログを見つけてきただろ。あの時ログは盗賊どもとやり合っていたんだよ。私はその場にいた盗賊どもを皆殺しにしてログを連れ帰ってきたのさ」

 キャロンはアクアをにらんだ。

「聞いてないぞ」

「仕方がないだろ。向こうが勝手に襲ってきたんだ。でもそういう手口なら納得だな。奴ら全員弱かったぜ。親玉の方は少し手応えがあるのかな」

「さてな。私たちには関係ない話だ。しかしあんたのせいだったのか。今日貸し馬車屋に衛兵が入ったのは」

 ベアトリスが考えながら尋ねた。

「バム一家は衛兵に追われているなら、オウナイ一味はどうするのかしら。下手に手を出したら自分たちも捕まっちゃうわよ」

「それでもオウナイ一味は明日バム一家を追うことに決めたようだな。食料調達の意味もあるんだろう。それにスピナに聞いたのだが、ここの衛兵は街から外に出ないそうだ。冒険者が動くことになるだろう」

「そっちも受けちまおうか?」

 アクアが気楽に言うとキャロンが首を振った。

「私も反省したよ。余計な仕事を増やすのは意味が無い。オウナイ一味を殲滅することに集中しよう」

 ここに来てからキャロンの作戦は空回りする傾向にある。しっかり目の前の仕事に向き合った方がいい。


「じゃあ、明日どうするかだけど、そんな様子だと城に攻め込むのは意味が無いわよね。丁度良いわ。もう少しレクシアを鍛えていい?」

 突然ベアトリスが言う。

「昨日も言ったが、私はあの兄妹を鍛えることには反対だぞ。一日二日鍛えたところで、使えるようになるわけがない。邪魔だ」

「あの子本当に根性あるのよ。もう少し基礎を付けてあげたいわ」

「そんな事言って。体が目当てなんだろ。飯を食ったらすげぇ可愛らしくなりやがったもんな。昨日もベアトリスが一番楽しんでいたんじゃないか」

 アクアが茶々を入れる。

「体も、目当てなだけよ。ああいう何も知らない子が性の快楽を知ってどんどん淫乱になっていくのって萌えるでしょ」


 キャロンはベアトリスを見た。

「そう言うのなら、今日一日で少しは力を付けられたのか。今日は何をさせたんだ。前回の続きか」

「それも一つの方法だけど、何となくは感覚の分離は身につけられたみたいだし、今日はまた別の練習よ。全裸でロープの上で立たせたの」

 キャロンが怪訝な顔をする。

「裸にしたのはあんただから仕方がないにしても、ロープの上で立たせるのはどのような意味があるんだ?」

「レクシアって、魔法の素質はないけど体がしっかりしていて、運動神経も良い。だから彼女は魔法だけではダメよ。どうせ限界が来るもの。ロープの上に立つのは体幹の練習と風の魔法の訓練になるの。風を体にまとうくらいなら呪文なんて必要ないし、レクシアの少ない魔力量なら呪文無しで風をまとうくらいでいい訓練になるわ」

「不安定なロープの上に立つように風の魔法を調整するのはレクシアには難しそうだな」

「そう。魔法だけならほぼ不可能。だからこそ体術も駆使しなくてはいけない」

「結果はどうだった」

「午前中だけで完全にものにしちゃったわ。とは言っても体幹が八で魔法が二程度ね。思った以上に運動能力が高かったわ。本当はもっと魔法に頼ってくれた方が魔法の訓練にはなったんだけど、ちょっと簡単すぎたかも」

「それなら午後には何をやらせた?」

 するとベアトリスが困った顔をした。

「それがね。アクアに邪魔されちゃって」

 キャロンがアクアを見る。アクアは肩をすくめた。

「だってよ。ログに教えることが思いつかなかったんだよ。私はまともに剣なんて教わったことないしな」

「じゃあ、あんたは何をやらせていたんだ」

「素振りだよ。あいつはもともと親父に剣を教わってたんだろう。それをやらせたよ。見た感じだと、型が全く身についていなかったからな」

「型稽古か。基本というか基礎というか」

「恐らくあれは騎士の剣術だぜ。親父は結構良いところの出だろうな」

「母親の杖の件からしてもそうだろうな。それなりに礼儀作法もできている。田舎者のそれではない」

「でよ。午前中ずっとやらせてたらさすがにログの奴も限界が来ちまってな。それでよく考えたらログは魔力が結構あるんだし、ベアトリスに教えさせた方がいいと思ってベアトリスのところに連れて行ったのさ。元々ベアトリスの結界の中で修行していたしな」

「アクア、それは押しつけたって言うのよ」

 さすがにキャロンも呆れる。自分から弟子にしたくせに半日で投げ出すとは。しかしアクアは悪びれた様子がない。

「代わりにレクシアを預かったじゃねぇか。お互い様だろう」

「自分だけサボろうとするなんて許すわけ無いでしょ」

 キャロンがアクアに尋ねた。

「では、レクシアには何をやらせたんだ」

「剣を振らせるわけにも行かねぇし、とりあえず追いかけっこだな。体を鍛えることが重要だろ。私に襲われないようにずっと走らせたよ」

 キャロンはため息をつく。

「あんたの体力で追いかけられたら逃げられるわけないだろう。ただあんたの性欲を満たすだけの修行じゃないか」

「必死に逃げた方が本気になれるだろ。レクシアは筋肉がなさ過ぎるんだよ。飯ももっと食って力つけないとな。あれだけいい汗かけば、飯もうまいだろうさ」

「あんたが師匠に向いていないことがよくわかったよ」

 そしてキャロンはベアトリスを見た。

「それで、ログを預かってからは何をやらせた」

「私のやることは一緒よ。まずはレクシアにもやった感覚の分離よ。ログの場合は熱と○○でやってみた」

「「○○!」」

 アクアとキャロンが驚きの声を上げる。

「本当はレクシアと同じように熱と冷と○○の三つにしようかと思ったんだけど、○○の集中力がどれくらい必要なのか、私にはいまいちわからなかったから、二つにまけておいたの」

「○○にはそれほど集中力はいらないぞ。私は○○を○○させながら戦えるからな。何度か女を○○ながら、魔法を打ったことがある」

「キャロンはそうかも知れないけど、私は普通の男がどれくらい保たせられるのかわからないわよ」

「それで、成果は出たか」

 ベアトリスは微笑む。

「まぁね。今思えば簡単すぎたかも知れない。まぁ、すぐにしぼんじゃうから本人は苦労していたみたいだけど」


 キャロンは二人を見て言った。

「それで、あの二人には明日のことで何か伝えたのか」

 するとベアトリスは首を振った。

「そもそもレクシアをアクアに取られちゃったわけだし、何も。きっと明日も修行があると期待しているでしょうね」

「私は別に伝える気もなかったしな。置いてけばいいだけだ」


 キャロンは少し沈黙して考え込んだ。明日はオウナイ一家が遠征しているので襲撃に向かない。戻ってくるのは早くて明日の夜、遅ければその次だろう。それ以上伸ばすと今度は期限に間に合わなくなる。

「実はバム一家に対する依頼だが、近衛隊と行動することが条件となっているようだ」

「なんだ。ここで絡んでくるのかよ」

「盗賊がらみの事件が起こったから首を突っ込んできたんだろう。どうやらまだ城の情報にはたどり着いていないみたいだな」

「あら、でもバム一家ってオウナイのことを知っている可能性があるって話じゃなかったかしら」

 ベアトリスが首をかしげる。

「それは確実だろう。何しろオウナイの方がバム一家に制裁を加えようとしているみたいだからな。知り合いと考えるのが普通だ」

「おいおい、近衛隊に先越されちまうぞ」

「可能性はある」

 明日もし近衛隊がバム一家が捕まえたとしたら、近衛隊はそこからグレスタ城を調査し、仲間に知らせようとするだろう。順調にいっても明明後日以降だろうか。オウナイが先にバム一家を見つけたとしたら、バム一家は粛正されるだろうが、そこで近衛隊と鉢合わせる可能性もある。そもそもオウナイがたどり着く前にバム一家が逃げてしまっている可能性の方が高い。バム一家もオウナイに追われているとは思っていないだろうが衛兵には追われると思っているだろう。拠点を変えるに違いない。

「ねぇねぇ。そんなに考え込むなら、もうオウナイ一味が城に戻ってから襲撃でいいんじゃない。今のうちに城に仕掛けをしておけばいいのよ」

「そうだな。キャロンの考えた作戦は失敗するかも知れないしな」

「なんだと? だったらあんたはどんな作戦を考えてくれると言うんだ!」

 必死に考えていたのにからかわれてキャロンはアクアに噛みつく。するとアクアはにやりと笑った。

「ログの剣の修行をキャロンに任せた」

「は?」

「お前、剣をちゃんと習った口だろ。私よりも師匠に向いているよ。明日の調査は私がやるさ。な」

 アクアはキャロンの肩を叩いた。

「あっ、ずるーい! ログをキャロンに押しつけて自分はサボる気ね!」

「サボりじゃねぇさ。調査だろ。調査。えーと、何するんだっけ」

 キャロンがため息をつく。

「聞いた私が馬鹿だった。しかし確かに考えていても仕方がない。バム一家もオウナイの遠征も、近衛隊の動向も無視して、私たちは城で待ち伏せる作戦にするか。肝心の財宝は城に置いてあるのだから、最悪それを全て確保してしまえば私たちの勝ちだ」

「で、明日私は何したらいい?」

 アクアが意気込んで聞いてくる。

「私がログに修行を付けるのは決定か? まぁいい。だったらアクア向きの仕事をやろう。オウナイ一味でグレスタに入り込んでいるのはジャークとピロックという男で、こいつらはあんたと私が一緒にいるところを見た奴らだ。それから今日グレスタに入ったラフィエンと明日グレスタに来る予定のレッチは冒険者カードを持っているらしい。あんたはこの四人を誘い出して口を封じておいてくれ。モンテスにまでたどり着かれると厄介だ。あんたがその格好で歩いていれば簡単におびき出せるだろう」

「いいね。そういう仕事が好きなんだよ。調査とか面倒くさくていけねぇ」

「だからといってあんまり目立つなよ」

「わかってるって。心配すんな」

 キャロンは疑わしげな顔でアクアを見た。

「じゃあ私も仕事をあげるわ」

 ベアトリスが突然言う。そして髪飾りを取り出してアクアの髪に挿した。

「この髪飾りをレクシアの精神体に取りに行かせるね。多分昼過ぎになるかな。その頃に順風亭にいてよ」

 アクアは髪飾りを手に取った。

「なんか妙な魔力が備わっているな。これ」

「精神体を実体化させる魔法を込めてあるの。ベアトリスは精神体のままアクアのところに行くから、その時に渡してくれれば良いわ」

 アクアが口を尖らせる。

「昼頃って中途半端じゃねぇか。もっと早くしろよ」

「精神体に慣れさせるのに午前中いっぱいくらいかかると思うのよね。それから町に精神体で戻ってもらって順風亭を探すわけだから、順調にいって昼過ぎ。まぁ夕方まではかからないでしょう」

「面倒くせぇな」

 キャロンは呆れた顔でベアトリスを見た。

「そんなものをあらかじめ用意しておいたと言うことは、初めから明日も修行を付けるつもりだったのか」

 初日の修行からして、かなりベアトリスは真面目に師匠をしている。明日の修行にも何かしらの意味があるのだろう。

「罠の方は夜のうちにちゃちゃっとやってくるわよ。どうせ明日は何もできないんだし、いいでしょ」

「まぁ、いい。私はログがどの程度なのか確かめるとするか」

 そして三人は話し合いを終えて宿に戻った。

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