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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた
17/137

(17)それぞれの動向

 エイクメイはアクアが逃げ出した後、一人で門までたどり着いたが、途中でアクアを見つける事ができなかった。しばらくそこで待っていると、二人乗りで馬に乗った盗賊たちが二頭現れた。

「エイクメイさん。見つかりやしたか」

「いや。まだだ。霧の中に紛れているのかも知れない」

 森は霧に覆われていたが、グレスタの門までは広がっていない。森から飛び出てくればすぐに見つけられるはずだった。

「もう中に入っちまったんじゃ」

「人が馬より早くここにたどり着くとは思えない」

「どっかに馬を隠してあったとか」

「そうか、しまった!」

 エイクメイは焦る。その可能性は全く考えていなかった。

「くそっ、中に入るぞ」

 エイクメイは門に向かった。

「あ、でもここでも見張りは必要なんじゃないですかね」

「えっ。あ、そうか。ならジャークとピロックは俺に付いてこい。残りは待機だ」

 盗賊たちは仕方がなくエイクメイの指示に従った。


 エイクメイたちはまず安宿を取り、そこから手分けをしてアクアを探しに行った。

「あんな目立つ格好をしているんだ。絶対に見つけられるはずだ」

 エイクメイは冒険者の宿に向かった。エイクメイは冒険者の宿に入るとすぐに依頼書を張り出されている場所に行った。

 一通り依頼をチェックする。グレスタ城に関するものは見つけられなかった。恐らくあの冒険者の女は昨日か今日、あの依頼を受けたのだろう。確認しなくてはならない。エイクメイは受付に向かった。

「何のご用でしょうか」

「城の調査の依頼は出ていないか?」

 受付の女性は少し怪訝な顔をした。

「城調査の依頼はもう他の冒険者の方が受けましたけど。それより、なぜその依頼のことを?」

 エイクメイの予想が当たったようだ。

「知り合いから聞いてぜひ受けようと思っていたんだ。その冒険者と交渉したいのだが、教えてくれないか」

「あなたは冒険者の方ですか? 初めての方なら、手続きをいたしますが」

 エイクメイは一瞬躊躇するが、冒険者カードを出して受付に渡した。


 エイクメイは冒険者ではないが、以前立ち寄った小さな町でカムフラージュのために冒険者登録をしていた。大きな町で冒険者登録をしようとすれば、紹介者を立てる必要があるが、小さな町なら結構適当にごまかすことができる。

「エイクム様ですね。ダスガンの登録ですか。私はよく知らない町ですね」

「手続きは後でいい。その冒険者とコンタクトはとれるか?」

「残念ですが、すでに依頼者との契約は成立しましたので、情報をお渡しすることはできません」

 その女性は事務的に答えた。エイクメイは心の中で舌打ちする。

「そうか、それは残念だ」

「手続きはどうしますか? 手続きをした方が町の出入りは楽になりますが」

 エイクメイは少し考えた。


 冒険者登録することにはメリットとデメリットがある。

 メリットはグレスタの情報を得やすくなるということ。デメリットは顔が割れるので、問題を起こすと捕まりやすいということ。

 冒険者カードは魔道具の一つなので、登録した冒険者の宿では過去の記録が読み出されてしまう。エイクメイは冒険者としての活動をほぼしていないため、記録は空白だらけでむしろ怪しい。

 しかし、今回はグレスタに近いところにアジトを設けたこともあり、今後も出入りすることは増えるだろう。登録しておいた方が有利に思えた。

「じゃあ、お願いするよ」

 受付の女性は奥に下がって手続きを始めた。


 手続きが終わってエイクメイが冒険者の宿を出ると、ジャークとピロックが走ってきた。

「エイクメイさん。見つけました。でも逃げられちまって」

「何! まずはそこに向かうぞ」

 エイクメイは二人とアクアを見かけたという場所に向かった。しかし当然アクアは見つからない。

「どこから出てきたのかわからないのか」

「偶然見つけただけでしたから。向こうから来たんでそちらに宿があるのかとは思います。仲間と思わしき皮鎧を着けた大女がいました」

 ジャークが手振りを交えながら説明する。

「やはり、仲間がいたのか」

「そりゃ。冒険者ですからねぇ。なんかマントを着込んだ奴がそいつらに接触してすぐに消えちまいました」

「そいつも仲間か。つまり三人組」

「いえ。そいつが仲間かどうかはわかりませんね。一瞬でしたから」

「この時間からなら飯屋に行ったんでしょうや。そこで残りの仲間とも落ち合っているはずですぜ」

「そうか。なるほど。ではこれから居酒屋を回ろう。皮鎧の女とビキニアーマーの女だ。見つからないわけがない」

 そして三人は手分けをして居酒屋を回っていった。

 しかし、結局エイクメイたちは彼女たちを見つけることができなかった。やむを得ず、エイクメイたち三人は宿に戻って寝た。


※※


 どんな心変わりがあったのかわからない。あんなに弟子を取ることを断っていたベアトリスがレクシアを弟子にすると言った。僕が現実を見て、必死に生きる方法を探しているのに、レクシアはあっさり夢を叶えようとしている。

 だから僕は一人で旅立つことにした。父さんにレクシアを守るように言われたけど、それは果たせない。僕が弱いからだ。僕が弱いからレクシアは僕のそばを離れた。

 僕は三人の女性に挨拶もせず、逃げるように部屋を飛び出した。出口で呼び止められ、勝手に泊まっていたことを指摘された。僕はお金がない。いっそのこと頼み込んでここで働こうかとも思った。でも、アクアとキャロンが出てきて僕の分のお金を払ってしまった。

 何もかもお世話になってしまっている自分が情けなくて、僕は礼も言わずに宿から逃げ出した。


 本当はこの町で働くべき何だろう。でも、僕はこの町を出ることにした。みんな捨ててしまいたい気分だった。この町であの三人やレクシアに会うのは耐えられない。

「坊や、一人か?」

 僕が町を出ようとすると門番が言った。僕はうなずく。

「坊やはまだ子供だろう。保護者無しでは町を出られんぞ」

「大丈夫です」

 僕は門番をにらみつける。これでも十三歳だ。どうしても僕は幼く見られてしまうけど、あと二年もすれば成人だ。子供扱いはやめて欲しい。

 門番は肩をすくめて外に出してくれた。誰から見ても僕はひ弱い。それが悔しくてならなかった。


 街道を進んで、ある程度まで来たところで僕は道を外れて草原を歩いた。盗賊に狙われないようにだ。歩いている内に少し冷静になった。いくら意気込んでも僕一人で盗賊を倒すのは難しい。

 僕は草原に入ってすぐに足がすくんでしまった。僕は昨日、こういった場所で不意に現れたダークドッグに殺されかかった。

 もしまたダークドッグが現れたら・・・。

 風で草が揺れるとその辺りからまたダークドッグが現れるのではないかと思った。


 僕は自分を落ち着かせるために、一生懸命深呼吸した。

 大丈夫だ。今度はうまくやれる。体調は万全だし、お腹も空いていない。

 勇気を振り絞るために安心材料を探していたら、気づいてしまった。


 でも、それってつまり、もう言い訳ができないと言うことでは?


 - 初めて一人で戦ったのだから、勝てなくても仕方がない。

 - 歩き疲れていたから、ぜんぜん全力が出せなかった。

 - 妹を守って戦ったから、戦いに集中できなかった。


 あの時、僕は確かにそんな言い訳をして、自分の死を受け入れようとしていた。

 僕は身震いをする。もし今ダークドッグに襲われたとして、全然敵わなかったとして、その時僕はまた何か言い訳を探すのだろうか。


 父さんは冒険者時代の苦労話を面白おかしく話してくれた。一日がかりで食べるものを探して手のひら程度の小動物しかとれなかったこと。喉が渇いて生水を飲んだら一日中お腹の痛みに苦しんだこと。など。

 当時は笑いながら聞いていたけど、初めてそれが真に理解できた。そもそも冒険者としてお金を稼ぐ前に、自分一人で生きていく実力がないといけない。いちいち怖じ気づいたり、言い訳をしたりしていてはダメだ。

「言い訳なんか、嫌だ」

 僕は歯を食いしばって草原を歩き始めた。



 草原はやはり歩きにくく、視界も悪い。だから僕は早々に森に入った。そして獣道を通りながら、食べられる木の実を集める。動物の狩りはたぶん今の僕には無理だ。

 食べられそうな葉や実を取っていると森の奥まで来てしまったので、いったん木陰で休み、拾ってきた木の実をかじる。

 ドノゴ村の周りは森に覆われていた。だから僕は父さんとよく森に入って修行をした。草原より森の方が安心できる。日が暮れる前にもう少し先まで行ってみようと思った。もともと携帯食は持ってきているから少し余裕はある。

 途中途中、休憩しながら僕は昼過ぎまで歩いた。今のところ危険な動物や魔獣にも出会っていない。比較的安全な森のようだ。


 しばらく進むと、少し霧がかかってきた。急に冷え込んだ気がする。まだ夕方までは早いけど、そろそろ泊まる準備に入った方が良さそうだ。僕は木の上に寝床を作ることにした。木の枝の間に折れた枝を重ね、崩れないことを確かめてから枯れ草を敷き詰める。


 これらのことは父さんと一緒にやったことがある。でも一人でやると全然勝手が違った。早めに準備し初めて正解だったようだ。やっと完成した頃にはもう日は暮れかかっていた。

 できあがった寝床によじ登ったところで突然暗くなった。どことなく違和感を感じる。まだ日が落ちる時間じゃない。

 僕は剣を握って辺りをうかがった。それからしばらく様子を見ていたけど何も起こらない。ただ霧が深まってきているように思える。

 僕は持っていた布を鞄から取り出して被り、剣を握ったまま横になった。食料を寝ながら食べる。食べながらも剣は放さない。当然味なんて全然わからなかった。


 とうとう日が落ちた。僕は剣を持ったまま辺りをうかがっているつもりだったけど、どうやら眠りかけていたようだ。

「お兄ちゃん」

 その声で僕の目が覚める。僕は目を閉じたまま剣を握りなおした。

「坊や」

 昨日聞いた声がした。僕は声の方に剣を振った。何も手応えがない。身を起こすとクスクスと笑う声が森中で響く。何かわからないが、敵がいるようだ。父さんは言っていた。完全に実体のない相手というのはほとんどない。たいていは剣で倒せると。


 霧や声はきっと僕を慌てさせるためのものだ。落ち着いて剣を振れば大丈夫だ。僕は座った体勢で剣をしっかりつかんで、周囲に注意を払った。

 そのまま時間が経つ。だんだん笑い声は薄れて霧も晴れていった。逃げていったようだ。闇が少し薄れ、木の間から月明かりが降りているのが見えた。

 襲われたせいですっかり目が冴えてしまった。僕は改めて食事を口に入れると、布団にくるまった。

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