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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた
14/137

(14)アクアの探索

 アクアはグレスタの町の門まで戻ると、そのまままっすぐ走ってグレスタ城に向かった。午前中とは違い、今回は人には出会わなかった。

 グレスタ城が見える位置まで来ると、森の中に入ってグレスタ城をのぞき見る。開きっぱなしの扉の前に二人見張りがいた。カードで遊んでいる。周辺にも盗賊が数人見回っているが、さっきよりも明らかに人数が少ない。あの霧のせいで、森に入りたくなくなったのだろう。

「たるんでんな。だからモンテスも見つからずに帰れたんだな」

 アクアはモンテスのような老人が彼らに見つからなかったことが不思議だった。だから単に彼らが間抜けだっただけだと判断した。実際にはその日はオウナイ一味が朝っぱらから宴を開いた後で、見張りも数人しか立っていなかったからである。モンテスは運が良かっただけだ。

「さて、行くか」

 アクアは城に向かって歩いて行った。


※※


 昼下がり。盗賊たちはやることがなくなり自由に過ごしていた。オウナイたちは財宝類の整理を終えて、仮眠を取っていた。

 そこに女が現れた。

 外で見張りをしながら、カードゲームに興じていた盗賊たちが気がついた。小柄で赤髪。ビキニアーマーをつけた女がこちらに歩いてくる。

「女だ。それもいい女」

「裸と同じ格好じゃねぇか」


 腰に剣をつけているが、抜きもしないで歩いてくる。何か少しおどおどした様子だ。男たちは立ち上がった。

「おい、お嬢ちゃん。何のようだ。道に迷ったか」

 女は立ち止まる。そして少し身をすくめる。

「あの、私、冒険者なんですけど、この城の調査を依頼されまして。それで、あなたたちはどなたでしょう」

 二人は顔を見合わせた。そして笑みを浮かべる。

「調査か。丁度良い。俺たちも今、中を調べていたところさ。案内してやるよ」

 そして二人は小柄な女を左右から囲み腕を掴んだ。

「えっ、何を」

「案内してやるよ。行こうぜ」

 女性は少し抵抗するが男たちは腕を放さない。女性は城の中に連れ込まれた。



 下が騒がしくなり、オウナイは目を覚ました。カイチックも隣で起きる。エイクメイが扉を開けて駆け込んできた。

「父さん。ちょっと来てくれ」

「何だ」

 オウナイとカイチックはすぐに立ち上がり、武装してからエイクメイに付いていく。階段を降りていくと、盗賊たちが大いに騒いでいる。

「何があったんだ」

「見ればわかるよ」

 三人は階段を降りてすぐに気がついた。女が襲われている。服らしきものもはぎ取られていた。

「近くで女でも攫ってきたのか。余計なことをしやがって」

 オウナイが吐き捨てるように言う。

「いや、どうやらこの城を調査に来た冒険者みたいだ」

 エイクメイが言うと、オウナイはどう猛な顔になった。

「くそっ、冒険者が来たか。これは問題だ。あの女は生かして帰せねぇが、依頼した奴も口止めしねぇといけねぇ。まぁ、あの調子なら、あの女はヤリ殺されておしまいだろう。死ぬ前に依頼人だけでも吐かせるか」

「俺はああいうのは嫌だな。がっついてて醜いよ」

 小柄な女性に群がっている盗賊たちを見ながら、エイクメイが顔をしかめる。

「慣れることだな。あいつらも女なんてしばらく抱いていなかっただろう。丁度良いカモって事だ」


 しかしその時カイチックがいきなり前に出た。そして呪文を唱える。

「おまえたち、すぐにそこをどきなさい。巻き込まれますよ!」

 そしてカイチックが大声を出した。何人かの盗賊が振り返って、自分たちの方に魔法を飛ばそうとしているカイチックを見た。

「わっ、危ねぇ」

 盗賊たちの声が伝染し、今まで女に夢中になっていた男たちもカイチックの方を見た。大きな光の投げ槍が宙に浮いている。

「うわぁー、死にたくねぇ」

「ダメだ、逃げろ」

 盗賊たちが逃げ出し、倒れた裸の女性だけが残される。そしてその女性が身を起こした瞬間、カイチックの光の槍が彼女の胸に突き刺さった。

 女性は再び倒れる。辺りはシンと静まった。

「おい、いきなり殺すことはないだろう。聞きたいこともあったんだぞ」

 カイチックの行動にオウナイが苦言を呈す。

「考えてもみなさい。依頼を受けた冒険者がたった一人でここに来るわけはないでしょう。彼女以外に誰かがいます。探してください」

 盗賊たちははっとして動き出した。その時、死んだはずの女性が身を起こした。

「なに!」

 カイチックは目を見開く。女性は素早く立ち上がると、転がっていたビキニアーマーと剣を掴み出口に走り出した。

「止めろ、逃がすな!」

 オウナイが叫ぶ。しかし女性は身軽に飛び回ると、盗賊の間を縫って扉から逃げ出した。武装もしていない上、パンツもつけていなかった男たちばかりなので、対応が遅い。

「追え!」

 エイクメイが走り出した。盗賊たちはやっと身支度を始めるが、先に扉から出られたのはエイクメイだった。そしてエイクメイは道に出て辺りを見渡す。すでに女性の姿はなかった。

「くそっ」

 恐らく街道を下ったはずだ。走っては追いつけない。エイクメイは馬を使うために城に戻ろうとした。その時になってぞろぞろと盗賊たちが出てくる。

「城の周りを探せ、俺は馬で行く」

 盗賊たちは周りに散っていった。エイクメイは急いで厩に行き、馬に乗って道を下っていった。


 オウナイとカイチックが城から出てきた。

「お前ら、捕まえたんだろうな」

「今調べています」

 オウナイが舌打ちをする。

「くそっ。まだ近衛隊がうろちょろしている可能性がある。ほとぼりが冷めるまではここを動けねぇぞ」

「まだ大丈夫でしょう。依頼者とその依頼を受けた冒険者。この二つを口封じできれば、当分は隠れていられるはずです」

「それしかねぇな。ところでおまえの攻撃魔法にあの女は耐えていたが、どういうことだ? 手を抜いたのか」

 するとカイチックは嫌な顔をした。

「手を抜いたつもりはありません。恐らくアンチマジックの装備を身につけていたのでしょう」

「そうか? 何もつけていなかったように見えたが」

「髪留めやブレスレットなど、目立たない装備などいくらでもあります。それにしても私の攻撃に耐えきるとはかなり強い魔道具ですね。油断できません」

 二人は盗賊たちにしっかり探索するように指示し、城の中に戻っていった。


※※


「問答無用に殺そうとするとか、あいつらはそういう変態か! 何で毎回殺されそうになるんだよ」

 アクアが不満を言いながら走る。ついこの間もおとり捜査をやって殺されかけた。まだ手にビキニアーマーと剣を持っただけの裸である。このまま町に帰っては大騒ぎになるだろう。

 さすがにキャロンの作戦を無にすると怒られるので、こちらから攻撃するつもりはなかった。ただ、相手の内側に入り込んで情報を得ようとしただけだ。それに男たちに○○されるのは大好物である。

 少し進んだところで、アクアは森の中に入り込んで隠れた。しばらくすると馬に乗った盗賊たちが駆け抜けていった。恐らく森の中も捜索されているはずだ。

 アクアはビキニアーマーを身につける。肝心の成果はというと、少し微妙ではあった。しかし、アクアが町で見た盗賊達と思われる顔があったので、彼らがオウナイ一味であることは間違いなさそうに思えた。

「魔術師が一人いるのか」

 アクアは唾を吐き出した。血が混ざっている。

 アクアは魔法の防御力も高い。たいていの攻撃魔法なら何もせずに防御できてしまう。しかしあの攻撃は確実にアクアの内臓を破壊していた。とんでもない攻撃力である。それでもすぐにアクアが動き回れたのは、アクアに根性があったからに過ぎない。追撃されたらきつかった。

「あとで、キャロンかベアトリスに見てもらわなくちゃ」

 アクアは街道に出てまた走りだした。


 走っていると霧が出てくる。恐らく盗賊たちがアクアを探索するために森の深くに入ったのだろう。

「ありがてぇ。魔物を刺激してくれたみたいだ」

 数頭の馬が走り抜けていったので、町に着くまでにアクアを見つけられなければ、彼らは待ち伏せするか戻ってくる。当然後ろからも盗賊達は追ってきているはず。ここは一本道なので隠れるところはない。

 しかし霧が深くなれば、彼らもアクアを見つけにくくなる。


「いたぞ」

 前方から声がした。アクアも霧の中でうっすらと人の影があることに気がついた。アクアは森の中に飛び込んだ。

 森の中は更に霧が深かった。しかしアクアは構わず先に進んだ。木にぶつかりそうになったり、茂みに足を取られそうになったりするが、強引に先に進む。

 耳元で女性の笑い声が響いた。

「うっとうしい魔物だな。だが、人を巻くにはちょうどいいや」

 アクアは森の奥へ進んでいく。町までの大体の方向はわかる。

「くそ、何も見えねぇ」

「動物の声がする。やばいぞ」

 遙か遠くから盗賊たちの叫び声が聞こえた。アクアはそこから離れるように森の中を駆け抜けた。


 やっとアクアが森を抜け出した頃にはもう日が沈みかけていた。遠くにグレスタの街の入り口が見える。

「さすがに表からは入れないな」

 アクアは腹をさする。走り続けていたのでまだ傷が癒えない。痛みがじんじんと響く。アクアは市壁沿いを進んで、見つかりそうにない場所で飛び上がって、市壁をよじ登った。そして、素早くグレスタの中に降りる。グレスタの市壁はダグリシアのものよりも低く、見張り台も少ない。


 アクアはすぐにその場から離れ、市の大通りに出た、そして何食わぬ顔で宿の方に歩いて行った。ちょうどその時、向かい側から三人の男たちが袋を抱えて歩いてきているのを見つけた。

「よぉ、カーランクルズ」

 アクアは走ってそばに行き、今朝順風亭で出会った男、カーランクルズに話しかけた。カーランクルズの後ろには、背が低く眼鏡をかけた男とちょっと小太りの頭が少しはげ上がった男がいた。はげた男は少し老けて見えるが、恐らく同年代だろう。

 カーランクルズは立ち止まってアクアを見た。

「アクアじゃないか。お前も仕事帰りか?」

「そんなところだな。カーランクルズもか」

 カーランクルズは背中に抱えていた袋を叩く。

「ああ、俺たちも終わったところだ。これから順風亭に行く。一緒に行くか」

「私の方は調査依頼でまだ終わっていないから順風亭に報告に行けないんだ。カーランクルズはどんな仕事をしてきたんだ。ああ、別に言いたくなければ言わなくて良いぜ」

 冒険者達は依頼者や冒険者の宿との守秘義務があるので、自分の仕事について気軽に人に語ってはいけないことになっている。

「隠すような仕事じゃない。この町の奥にグレスタ湖があるんだが、あそこは定期的に魔獣が集まってくるんだよ。今回はそれの退治だ」

「へぇ、街中に魔獣が出るのかよ」

「ああ、そうか。来たばっかりでこの町のことは良く知らないんだったな」

 カーランクルズが説明しようとすると、後ろの小太りの男がカーランクルズを小突いた。

「おい、紹介してくれよ。誰だよ、この美人は」

「おまえたちがサボって依頼受託を俺に押しつけていた間に知り合った同業者だよ。昨日グレスタに来たばかりだそうだ」

「アクアだ。よろしくな」

 アクアは手を差し出す。男はどぎまぎした顔でアクアを見た。

「俺、キュームレセズ。斥候だ」

 キュームレセズはしっかりとアクアの手を握った。

 アクアはその後で隣の小男を見た。

「俺はコリキュリ。弓使いだ」

 コリキュリもアクアの手をしっかり握ってくる。


 アクアはカーランクルズを見た。

「それで?」

「グレスタって町はこっちの北側が中心地で、南側は後から拡張した場所なんだ。市壁の外に人が集まって農地を作っていたんで、そこを取り囲んだ感じだな。そうしている内にグレスタ湖まで市が拡張されちまったってことだ。グレスタの街の南側の境はグレスタ湖とそれを囲む岩山だ。岩山は良質な石が捕れる鉱山でもあったから、市を拡張するときには重宝したみたいだぜ。ところがその岩山は魔力が高い石が集まっていてな。そのせいで湖には定期的に魔物の集団発生が起こるのさ。とは言っても、あまり強い魔物でもないし、漁業者からの依頼だから依頼料も少なくてあまり実入りの良い仕事じゃない。本当は街道側の西の森で魔獣退治をしたいが、今は『霧の魔獣』が町の近くまで来ているから入りたくないんだ」

 アクアは先ほどの霧を思い出す。

「『霧の魔獣』か。そんなの退治しちまえば良いじゃねぇか」

「別に害がない魔獣だし、倒すのにも手間がかかる。放っておけばまた森の奥に行っちまうだろうから無視した方が良いのさ」

「なるほどね」

 「霧の魔獣」というのはアクアは良く知らなかったが、先ほどの体験で面倒な相手だというのはわかった。姿を現そうとしない魔獣を倒すのは難しい。


 アクアはいきなり三人の肩を掴んで引き寄せた。そして顔を寄せ合う三人の男たちに小声で言う。

「私も夜は暇になる。みんなで遊ばないか。私ももっと色々この町のことを聞きたいしな。できればあんたたちの家に泊めてくれよ」

 誰かが唾を飲む声が聞こえた。すぐにアクアは三人を開放する。

「順風亭に行くんだろ。私も仲間たちと打ち合わせるから、少し遅くなるだろうけど、また会おうぜ」

 そしてアクアは三人から離れて歩き出した。

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