(37)後始末
「えげつない」
マリアはため息交じりに言って剣を鞘に収めた。キャロンも剣を捨て、ベアトリスも腕を降ろす。
「おいおい、ひどいことを言うな。私は被害者だぞ。男どもに弄ばれ続けたんだからな」
「マリア、久しぶり!」
いきなりベアトリスがマリアに抱きついて来た。マリアの胸に顔をすりつける。
「相変わらず可愛い。食べちゃいたいくらい」
マリアはベアトリスを引き離した。
「いろいろ聞きたいことはあるんだが、それは置いておくとして、まだ姫様の問題が片付いていない」
「姫様?」
「おまえが緑の石を埋め込んだ王女だよ」
「ああ、あの子ね。素敵だったわよ。生意気なところもチャーミング」
「姫様を正気に戻して欲しい」
するとベアトリスは意外そうな顔をする。
「キャロンからひどい目に遭わされているって聞いたのに、寛大なのね。彼女も近衛女性部隊の一人だからかしら」
「いや。私はヴィヴィアン王女の事などどうでもいい」
ベアトリスが不思議そうな顔をする。
「話すよりも、状況を見てもらった方がいいかもな。付いてきてもらって良いか?」
「もちろん。マリアのお願いなら何でも聞いちゃう。その代わり。後で私の相手をしてもらうけど」
ベアトリスがマリアの腕に巻き付いた。マリアは困惑する。
「まぁ、いい」
マリアは部屋を出た。
扉を開けるとまだ大きな怒鳴り声が続いていた。少し待っているとその声も消えた。
しんと静まった五階に降り、マリアはヴィヴィアン王女の部屋をノックする。
「マリアだ。誰かいるか」
すぐには反応がなかった。マリアがもう一度ノックをしようとしたら鍵が開いた。
「マリア様。お待ちしていました。先ほど殿下が来られたのですが、姫様が眠ったばかりだったので隠れておりました」
「だから様はやめろというのに」
カーメラが出てきた。カーメラはマリアの背後に人がいるのを見て緊張した顔をする。特に裸のキャロンに怯えた感じだ。カーメラは汗で髪がべったり濡れ、扇情的な姿をしていた。顔色は悪い。
「食事は取っているのか」
「何とか。ただ、食事を取りに行くときの料理人や近衛隊たちの目が怖くて」
○○し続けて寝不足の侍女たちは食事の時だけ部屋を出ていた。しかし服をしっかり着込んでいても妖しげな雰囲気は伝わるのだろう。皆好色な顔で彼女たちを見ていた。
「とにかく中に入れてくれ」
「わかりました」
カーメラは扉を開く。
マリアが部屋に入ると、むっとするほどの女の臭いが充満していた。侍女たちは薄い服をまとっているだけ。まさしくヤリ終わった後という感じだ。
「睡眠薬はありませんか。もう最後の薬も尽きてしまって」
「使いすぎじゃないか。あれはかなり強力だと効いていたが」
「やむを得ないのです。目を覚ましたらすぐに食事と○○で相手をして、その後は眠ってもらっています。だんだん目覚める頻度も早くなっていますし」
キャロラインとマージョリーも立ち上がるが、マリアの後ろにいる三人を見て緊張した顔をしている。
ベアトリスが前に出る。
「あら、すっごい美人揃いじゃない。マリアのお友達?」
「違う。殿下が連れてきた女たちだ。一応執務が担当なのだろうが、○○の相手もしていたはずだ。その事もあって、私は彼女たちに姫様の世話を押しつけたんだ」
「あら、じゃあ、マリアにとっては敵じゃないのかしら」
マリアは首をすくめる。
「敵でも味方でもない。協力を頼まれたから手伝っただけの関係だ」
「助けてください。マリア様。あなただけが頼りなんです。私たち、このままでは死んでしまいます」
カーメラがマリアにすがりつく。その上泣き出している。もう二日間ヴィヴィアン王女の世話をし続けて限界が来ていた。
「女たらしね。マリア」
ベアトリスがクスクスと笑う。
「まぁ、そう言うわけで、この状況を何とかできないかと思ってな。彼女たちもダグリシアに帰る必要があるだろう。ダグリシアは大変な騒ぎになっているだろうからな」
ベアトリスは考える振りをする。
「そうねぇ。彼女たちをたっぷり味わいたい気もするんだけど、そろそろ全員に出て行ってもらった方がいいかしらね」
ベアトリスは眠っているヴィヴィアン王女の方に歩き出した。
カーメラがマリアに尋ねた。
「あの、彼女はいったい・・・」
「たぶん。姫様を治せる唯一の人だろうな」
ベアトリスはヴィヴィアン王女のベッドに乗ると、体にまたがって、掌で頭を掴んだ。
「さて、お目覚めの時よ。お姫様」
ベアトリスが何かをつぶやく。少しするとヴィヴィアン王女が反応した。
「う、ん」
そして目を開ける。
「キ、キャー!!!!」
ヴィヴィアン王女はベアトリスの顔を見た途端、大きな悲鳴を上げた。ベアトリスはヴィヴィアン王女の体に馬乗りになったまま面白そうにヴィヴィアン王女を見下ろしている。
「殺さないで、殺さないで。助けて」
ヴィヴィアン王女は歯をがちがちと鳴らしながら、首を振った。
「言ったでしょ。美人は好きなの。殺したりしないわ」
そしてベアトリスはベッドから降りた。ヴィヴィアン王女はベッドの隅で小さく体を丸めて震えだした。
「あの、これは、どういう・・・」
カーメラがマリアに聞く。
「とりあえず、姫様は正気に戻ったと言うことだろう」
「あれで、正気なのですか?」
青い顔で小刻みに震えているヴィヴィアン王女を見てカーメラがつぶやく。ベアトリスが割り込んだ。
「あら、私は目覚めさせて自我を戻しただけよ。○○マニアなのは変わっていないわ。もともとエッチが好きだったんでしょ。望みを叶えてあげたの」
ベアトリスはどこまでも鬼畜だった。
「それで十分だ。自分で食事をできるようになったのならそれでいい。おまえたち、体を洗って旅支度をしろ。王女にもだ。護衛を雇ったらダグリシアに帰れ」
「護衛、ですか。近衛隊がいるのでは」
「いるかどうかはわからない。これから見回ろうとは思うが、あまり期待はするな」
「マリア様は付いてきてくださらないのですか」
カーメラが期待を込めた目でマリアを見る。
「悪いが。私は近衛隊を辞めた。それに私もそこまでお人好しじゃない。ヴィヴィアン王女を押しつけた責任を果たしに来ただけだ」
マリアとしては正気に戻ったヴィヴィアン王女の相手をしたくなかった。○○マニアになったヴィヴィアン王女など、近寄るのも嫌だ。マリアはキャロンを振り返る。キャロンはただ成り行きを見ていただけだ。
「ん、何だ?」
「扉に姫様の魔法がかかっていて自由に出入りできない。どうにかならないか」
「ああ、そんなことか。だったら、私も魔法を使えるようにならないとな。ベアトリス、こっちも頼む」
「人使いが荒いわ」
ベアトリスがやってきて、キャロンの首に付けられているチョーカーに触れた。
「なるほど。外し方がよくわからないから、魔法を書き換えるわね。後はキャロンの力業で壊して」
ベアトリスが呪文を唱えた。キャロンはその後でチョーカーを掴んで引きちぎった。キャロンが首を回す。
「スッキリした。やはり、魔法を押さえられるのは苦痛だな」
そして、部屋の扉に手をつけるとなにかが割れる音がした。
「壊したぞ」
マリアは侍女たちを振り返る。
「後は好きにしろ」
侍女たちはすがるような目でマリアを見ていたが、やがて頭を下げた。
「ありがとうございます。マリア様」
マリアたちはヴィヴィアン王女の部屋を出た。
「で、これからどうするんだ」
マリアがキャロンに尋ねる。
「どうするもこうするも、ここは本来私の家だぞ。関係のない奴には出て行ってもらわないと困るな」
四人で階段を降りていくと、料理人たちが困惑した顔で廊下にいた。彼らはマリアたちに気がついて走り寄ってくる。
「あの、殿下たちはいったいどこに。誰もいないのですが」
「誰もいない? ではこの城に残っているのはおまえたちだけか」
「わかりませんが、誰も食べに着ませんし、人もいません」
そこでキャロンが口を挟む。
「学生どもは残っているだろう。連れて行ったとは思えないからな」
「それもそうだな。しかし、なぜ出てこない」
キャロンがクスリと笑う。
「なに、昨夜まとめて搾り取ってやったんだ。腰が立たなくなるくらいにな。寝不足の上、腹に力はいらないような状態であの強烈な痛みを感じたんなら、まぁ、ぶっ倒れて動けなくなっているだろう」
「おまえ、そんな事していたのか」
「今までやられっぱなしだったからな。せっかく拘束を解放されたんだ。全員呼び寄せてたっぷりかわいがってあげたよ」
マリアはため息をつく。
「殿下も近衛隊も側近連中も全員ダグリシアに帰った。おまえたちもすぐに出発の準備をしろ。さっさとダグリシアに帰れ」
「えっ、そうなんですか。我々は何も聞いていませんが」
「言う暇もなかったんだろう。護衛は学生どもがやってくれる。奴らも近衛隊見習いみたいなもんだ。それなりに役に立つだろう」
「わ、わかりました。すぐに準備します。でも、まだ食材が残っていますし、準備には時間がかかってしまいますが」
マリアは首を振る。
「時間がない。食材なんておいてけば良い。必要なものだけまとめろ。そうだな。昼過ぎには出発だ」
料理人たちは少し驚いたようだったがマリアに従う。
「わかりました。すぐに準備いたします」
料理人たちが行ってしまうと、ベアトリスがマリアの脇を小突く。
「マリアったら、格好良いじゃない。近衛隊長みたいよ」
「彼奴らは命令されれば従うだけの下っ端貴族だ。誰の言うことでも聞く」
「出ていかせるというのなら昼くらいまでなら待っていてやるぞマリア。あんたの好きなようにやると良い」
マリアは嫌な顔をする。
「私に仕事を押しつけるのか」
「その方があんたの望みに敵うだろう。それとも私が好きにやって良いのか? せっかく魔法が戻ったことだし、派手に追い出しても良いんだが」
マリアは諦める。これ以上死人が増えても困る。
「ではやらせてもらおうか」
マリアはまっすぐにキャロンの板拷問部屋に行った。学生たちが裸で倒れていた。その表情を見ると一回り痩せているようにすら見える。マリアは彼らを蹴り起こした。しかしなかなか起き上がらない。何度か蹴りつけているとやっと目を覚ました。
「いってぇ」
「何があったんだ」
彼らは股間を押さえながら何とか立ち上がった。股間の痛みはかなりの衝撃だったのだろう。
「おい、おまえら早く起きろ。すぐにダグリシアに戻るぞ。殿下たちはすでにこの城を発った」
学生は体を起こす。股間の痛みが消えていることに気がついたようだ。
「なんだマリアじゃねぇか。何で服なんて着込んでいるんだよ。脱げよ」
「そうだ。俺たちに命令するなんて生意気だぞ」
「ほら、早く脱げ」
「脱げ」
ここにマリアしかいないことを良いことに学生たちは脱げコールをし始めた。マリアは無言で拳を握ると、一人に鉄拳制裁を加えた。その男は壁まで吹っ飛ばされて倒れる。
「えっ?」
マリアは呆然としている男の股間を蹴り上げて、地面に蹴り転がす。
「ぐぇ」
二人が倒れてうめき声を上げていると、全員がマリアを見ておびえた顔になる。
「おまえたちに従う理由などない。私に殺されたくなかったらさっさと起き上がって服を着ろ。すぐに出発するぞ」
「ひっ」
全員がすぐに脱ぎ捨てられた服を着始める。
「昼過ぎには出発する。準備ができたらすぐに外に出ろ」
そしてマリアは部屋を出て行った。