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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた
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(36)七日目

 マリアは暗闇の中で目を覚ます。ルクスはマリアの胸で寝息を立てていた。

「子供か・・・」

 ふと、マリアは子供が側にいる生活を考えてしまう。

 しかしそんな未来はこの先訪れないだろう。その時いきなりルクスが目を覚まして立ち上がった。

「ん、ルクス?」

「もうそろそろ出発する時間だって」

「まったく、キャロンは」

 ルクスが目を覚ましたのはキャロンの指示だ。ルクスといると忘れがちになるが、ここでの行動は常にキャロンに監視されている。

「そうだな。行くか」

 マリアは立ち上がって、荷物から下着を取り出す。

「お姉ちゃん。お服を着るの?」

「ああ」

「えーっ。どうして?」

「ルクスを守るためさ」

 そしてマリアは服と皮鎧を着込んだ。改めて服を着るというのは安心感があるのだと実感する。腰に剣をつけると、やっと元の日常が戻ってきたように感じだ。

「さぁ、ルクス。行こうか」

「うん。あ、ねぇ僕を胸に抱いていって」

 急にルクスが妙なことを言いだした。

「胸に抱くだと」

 マリアは躊躇する。それだといざというときに剣が抜けない。

「見つからないから大丈夫なんだって。でも扉は自分で開けないといけないみたい」

 確実にキャロンの指示だ。ここまで来たら従うしかないとマリアも覚悟を決めた。

「良いだろう」

 マリアはルクスを両手で胸に抱き上げた。ルクスはマリアの腕にしがみつく。

「うん。大丈夫。じゃあ、開けるね」

 壁が開き、二人は部屋から追い出された。


 まだ日は昇ったばかりのようだった。マリアは廊下を進んでいく。前の方から見回りの学生が来た。マリアは立ち止まってやり過ごす。やはり彼らはマリアたちに気がつかなかった。マリアはわざと強く地面を蹴った。それでも学生は気がつかずに、そのまま階段を降りていった。

「ルクスを中心として空間を遮断するような魔法のようだな」

 マリアは階段を上がった。マリアが五階に来ると、一つの部屋の扉が開いて側近が出てきた。彼は中央の階段を駆け上がっていった。

「もう、何か始まっているのか」

 マリアもその階段を上がって、ルクスを片手に抱えてから扉を開けた。そして素早く部屋の中に入る。

「今扉が開かなかったか」

 誰かが言う。しかし、彼らはマリアを見つけられなかった。マリアは中に入って、人のいない場所に移動した。

 そこは真四角の部屋で、中央に石の台が置かれていた。周りの壁は書棚になっておりいくつかの本が置かれている。真ん中の台の正面に豪華な椅子が設置されている。側近の魔術師たちが、必死に本を開きながら中央の台を囲っている。

 中央の台は腰の位置くらいの高さで緩やかな球面になっていた。そしてその中央に「エドワードの奇跡の石」が置かれている。七色の線が縦横無尽に動き回り、次々と模様を変えている。その台の横に緑色の石が埋め込まれていた。少し移動すると、別の場所に赤い石がある。

 そこにエドワード王子が表れた。

「何かわかったか」

 エドワード王子は恐ろしい形相をしていた。豪華な椅子まで歩いて行き、どさっと座る。魔術師たちは冷や汗を流しながら書物と装置を確認していた。

「魔法兵器は正常に動いています。殿下のおっしゃっていたような怪しい仕掛けというのは見つかりません」

「そんなわけはない。あの女どもが素直に石を渡すものか。何か重大な仕掛けがあるに違いないんだ!」

 エドワード王子は叫ぶ。本を見ながら操作する魔術師たちは必死に魔力を流して確かめている。

「モンテスの本に書かれた通りです。特段怪しいところもなく、魔力が流れています」

 エドワード王子は手を額に当てて考える。

「わかった。つまりそこではないということか。少し作業を先に進めろ。座標を定める」

「わかりました。どこを座標にしますか」

 エドワード王子は鼻で笑う。

「知れたこと。トワニーとタラメデだ。街ごと奴らを消してやる」

「わかりました」

 その時、扉が開いて近衛隊が来た。

「殿下。ご報告が」

「今は忙しい」

 エドワード王子はむすっとした顔で答える。

「すいません。レナード隊長とマリアがどこにもいません」

 エドワード王子は近衛隊に顔を向ける。

「ほう。それは大罪だな。追って見つけ次第殺せ」

「しかし、私たちがこの城を離れるわけには」

「学生のガキどもがいるだろう。ここの守りは彼奴らで十分だ。・・・そうだ。マリアは見つけたら連れてこい。私が直々に切り刻んでやる」

「わかりました」

 すぐに近衛隊は出て行った。

「座標を設定しました。問題ありません」

「確認しろ。座標は正確か。ずれていないか」

 魔術師の言葉にエドワード王子は返す。

「はい。正常に設定できました。ずれる様子もありません」

「何か変な動きはないのか」

 魔術師たちは必死に調べていた。

「いえ。動きは正常です。これで魔法兵器はいつでも発動可能になりました」

 エドワード王子は顎に手を置いて考えた。

 マリアはルクスを抱きながら、片手で剣の柄を握った。このまま二つの街を崩壊させるわけにはいかない。するとルクスがマリアの手を掴んだ。

「大丈夫だって」

 マリアはルクスの顔を見る。ルクスは笑顔でマリアを見ていた。きっとルクスは意識して話していないだろう。これはキャロンからのメッセージだ。

「わかった。信じよう」

 マリアは手を柄から離し、再度両手でルクスを抱いた。

「もう一度初めから確認しろ。それが終わったら、魔法兵器を発動させる。あの下らぬ街を壊滅させれば、私の力もわかるだろう」

 また、慌ただしく魔術師たちが動き始めた。丁寧に魔法を使いながら、確認している。エドワード王子はむすっとした顔で豪華な椅子に座り彼らを見ていた。

「問題ありません。いつでも発動可能です」

 しばらくして魔術師たちが答えた。そこでやってエドワード王子は笑みを浮かべた。

「杞憂だったか。つまり、彼奴らは我々に降参したと言うことだ。ふん。許す気など無いがな!」

 エドワード王子は立ち上がり、魔術師たちに命令を下した。

「私はこの国の王だ。それを証明するために、トワニーとタラメデを壊滅させる。エドワード砲、発動!」

 魔術師たちが、魔法兵器を作動した。魔法兵器は光り始めた。台の周りから文様に沿って美しい光が流れてくる。そして複雑な形を描きながら、中央の「エドワードの奇跡の石」に集約していく。

「おおっ、素晴らしい」

 エドワード王子はつぶやく。

 魔力の集約が始まった。マリアでもわかるほど魔力が高まってくる。そして「エドワードの奇跡の石」が輝くと、光の線が頭上に伸びていった。光は天井に当たり、天井が激しく輝く。そして、よりいっそう光が増すと、嘘のように光が消えた。

 皆、あっけにとられていた。

「成功、したのか?」

 エドワード王子も不安げにつぶやいた。魔術師たちが台に集まり、確認を始める。

「はい、魔法装置は正常に・・・、なんだ? これはどういうことだ」

「なぜだ。これはどこだ!」

 急に魔術師たちが慌て出す。エドワード王子が彼らに近寄った。

「どうした。エドワード砲がまさか失敗したのか」

「違います。確実に強力な魔法が放たれました。しかし、座標が・・・」


 その時いきなりルクスがマリアを見た。

「お姉ちゃん。もうお別れだね。ありがとう」

 マリアは一瞬あっけにとられる。

「お別れ?」

「じゃあね」

 それを最後にルクスは目を閉じた。いきなりルクスの体にヒビが入り始める。

「おい、これは、何だ」

 マリアは放り投げることもできず、ひび割れて崩れていくルクスを手に抱いていた。

「やはり、おまえは人間ではなかったのか」

 しかし、マリアは更に驚くことになる。ルクスが崩れ去った後に残されたのは更に小さな子供だったからだ。ルクスより一回り以上小さい。ルクスは十歳以下という感じだったが、この子は五歳にも満たないだろう。

「どういうことだ」

 その子供は眠っていた。そしてその子の股間を見てまた驚いた。

「女の子?」


「貴様。いつからそこにいた!」

 いきなり怒鳴り声が聞こえてマリアは顔を上げた。みんなマリアの方を見ている。ルクスの魔法が解けたから姿を現してしまったようだ。ルクスが消えて無くなってしまったならともかく、更に華奢な少女を抱えた状態では戦えない。マリアは舌打ちする。

 エドワード王子は剣を抜き、マリアをにらんでいた。近衛隊は残っておらず、側近たちと魔術師だけ。マリア一人でも何とかなりそうではある。それに、マリアはエドワード王子に言うことがあった。

「殿下。私は今日をもちまして、近衛隊を辞めさせていただきます」

 そして、頭を下げる。

「ふ、ふざけるな。おまえを近衛隊だと思ったことなどない! こいつを捕らえろ」

 マリアは片手で少女を支えて、剣を抜こうとした。しかし側近たちの動きがおかしい。膝をしっかり閉じて、冷や汗をかいている。魔術師たちも一緒だ。

「おい、何をしている。奴を捕らえろ!」

 エドワード王子は叫ぶが、彼らは動けないでいる。そしてとうとう彼らは股間を押さえて地面に崩れ落ちた。

「い、痛い」

「助けてくれ。何だ、これは!」

 彼らは股間を手で握りながら床を転げ回る。エドワード王子だけが当惑して周りの男たちを見ていた。


 いきなり扉が開いた。

 入ってきたのは全裸のままのキャロンだった。エドワード王子が目を剥く。

「キャロン! 逃げたのだな。その女の手引きだな!」

 キャロンはそのままマリアの前を通り過ぎて歩いて行き、エドワード王子の豪華な椅子に座って足を組んだ。エドワード王子は今度はキャロンに剣を向ける。

「服を隠されてしまったのでな。探しているうちに、迷い込んだだけだ。馬鹿王子」

 キャロンは不敵に笑う。エドワード王子は剣を構えたままキャロンに近づいていった。

「貴様、何をした」

 キャロンは口元に笑みを浮かべる。

「まず一つだけ種明かしをしてやろう。私が不死身だったのはベアトリスとレクシアの魔法のおかげだ。それが今解除された。だから私の不死性は損なわれたことになる」

「それが、どうした」

 エドワード王子はキャロンの話の意図がよくわからないようだ。

「この魔法については私自身も細かいところはよくわからん。しかしこの魔法は私と交わると相手に感染するらしくてな。私にかけられた魔法が解けると魔法で抑えられていた効果が発揮されるようだ。奴らが股間を押さえているのはそのせいだろう。あんたは私と○○しなかったから、一人だけ無事だったというわけだ。運が良かったな」

 エドワード王子は周りを見渡す。床にのたうち回りながら股間を押さえている男たちは滑稽だ。

「貴様ら、しっかりしろ!」

 エドワード王子は怒鳴りつけた。しかし彼らは激痛のあまり動けなくなっている。

「さて、馬鹿王子。私はこのように武器を持っていない。そしてこのチョーカーのせいで魔法もつかえない。どうする?」

 キャロンは笑っている。

「ふざけおって! 死ね」

 座ったままのキャロンに向かってエドワード王子は斬りかかった。エドワード王子の剣が当たる前に、椅子から滑り出たキャロンの蹴りがエドワード王子の腹に突き刺さる。

「ぐはっ」

 エドワード王子は地面に転がった。キャロンは立ったついでに、側近が落としたであろう剣を拾い上げた。

「剣の修行でもつけてやろうか。馬鹿王子」

「ふざっけるな!」

 エドワード王子は立ち上がって、剣を振りかぶってキャロンに迫る。キャロンは剣を構えた。マリアはその姿に戦慄する。剣術のお手本のような構えだったからだ。

 一瞬でエドワード王子の剣ははじき飛ばされ、再度エドワード王子は蹴り転がされた。キャロンは剣を放り投げ椅子に座った。

「こう見えても、実家では師範に次ぐ剣の使い手でな。あんたの素人剣術など、眠っていても躱せる」

 エドワード王子は立ち上がった。

「貴様も、魔術師じゃないというのか!」

 キャロンは大笑いをする。

「もう、何度目だ。アクアが戦士、ベアトリスが魔術師、そして私も魔術師か? 誰がそんなことを言った? おまえたちが勝手に決めつけていただけだろう。そもそも私のこの鍛え抜かれた体を見てみろ。美しい肉体美だろう」

 その時、再び扉が開いた。マントを羽織った黒髪の美女が現れる。

「来ちゃった。もう終わったの?」

 ベアトリスだった。ベアトリスを見てエドワード王子は怒りで顔を真っ赤に染める。

「貴様。よくも、私の前に出てこれたな」

 しかしベアトリスはエドワード王子を無視して、キャロンの方に歩いて行った。ベアトリスの後からは、同じようなマントを羽織った女性が現れた。薄い栗色の髪でとても若い美少女だ。

「早かったな」

「だって、近いでしょ」

 キャロンの言葉にベアトリスが応える。

「近くても平気で遅刻するのがあんただろうに。ところで、こいつら股間を抱えているが、どんな効果の魔法だったんだ? 股間がちぎれて腐るのか?」

 キャロンの言葉に床をのたうち回っていた男たちは青ざめる。しかしベアトリスは呆れた顔で言った。

「そんな残酷なことするわけないでしょ。それに、そろそろ痛みは無くなるわよ」

 そしてベアトリスは床に転がっている男たちを眺めた。男たちは気がついた。痛みが急に引いていく。

「あ、大丈夫だ」

「畜生、痛かった」

 やっと男たちは立ち上がった。魔術師たちは後ろに下がり、側近たちは剣を掴んだ。

「じゃあ、何が起こっていたんだ」

 キャロンが立ち上がる男たちを見ながら尋ねた。すると、ベアトリスは可愛らしく舌を出した。

「大したことじゃないわよ。キャロンと○○したら、その途端男として終わるだけ。魔法のおかげで発動が遅れていたけどね」

 シン、と静まりかえる。

「具体的には?」

 キャロンが先を促す。

「不感症で不能になるのよ。男は一生○○することもないし、○○もできない。女なら感じないし子供ができない」

 それを聞いてキャロンは笑い出した。

「なるほど。それは大変だ。貴族のくせに跡取りがまったく作れなくなるわけだ」

「ま、殺すのも可哀相だからね。その程度にしておいてあげたわ」

 彼らの士気はだだ下がりである。呆然としている者も多い。ここにいるのは貴族ばかりである。近衛隊は次男坊以下ばかりだが、側近は高位貴族の跡取りもいる。

「くだらん。何をふぬけている。こいつらを殺せ。ガキどもも集めろ。絶対に逃がさん」

 エドワード王子は周りの男たちに怒鳴りつけた。しかし側近たちは近衛隊ほどの戦闘能力もなく、ここにいる魔術師たちは研究に長けていても攻撃魔法を使える者はいない。当然、キャロンもベアトリスも余裕の顔である。

 側近のフレッドが人を集めに部屋を出て行った。他の者たちは剣や杖を構えたまま、キャロンたちを囲んでいる。


「あの、その子、預かりましょうか?」

 若い美少女レクシアが突然マリアに声をかけてきた。

「君は?」

「え、と。ルミナの母です」

「ルミナ?」

「はい、その子、ルミナです」

 マリアは不審に思った。子供の親としては幼すぎるように感じたからだ。まだ十代半ばにしか見えない。

「私、戦えるわけじゃないので」

 マリアはルミナを抱えているので剣を握れない。そこでレクシアが声をかけたのだった。

「だったら頼む」

 マリアはルミナをレクシアに渡した。レクシアはルミナを抱き留める。マリアは自分を囲う男たちに向き合った。

「さて、魔術師たちは戦いが得意そうにないから、戦わせるのも酷だ。ここらでもう一つ種明かしをしておこうか」

 キャロンは椅子に座ったままだ。エドワード王子は油断なく剣を構えている。

「種明かしだと」

「あんたたちは座標が狂ったことを気にしていなかったか?」

 エドワード王子は目を見開く。いきなりマリアが現れたので忘れていたが、そもそも魔術師たちが座標について騒いでいたのが始まりだ。

「貴様。何をした!」

「モンテスはこの魔法兵器を誰にも使わせたくなかった。だが、もし使われたらどうすれば良いか。私はモンテスに提案したんだよ。初めから座標を固定して、変えられないようにしておけば良いとね」

「座標を固定だと」

「モンテスの魔法書にはなにも書いていなかっただろう。当然だ。記録なんて残していないんだからな。私たちはこの魔法装置の基盤に直接座標を書き込んだのさ。だから、あんたらが座標設定をどこにしようが全てキャンセルされる」

「どういうことだ」

「こんなわかりやすいところにモンテス直筆の魔法書があることをなぜ疑問に思わなかったんだろうな。もちろんその本に書かれていることは正確だ。嘘は何一つない。三つの石についても詳細に記されていただろう。しかしモンテスに関係なく私たちがこの台座を改造した可能性について考慮すべきだったな」

「あら、格好付けないでよ。改造したのは私よ。私の魔法文字なら調べてもそう簡単に気づかないでしょうからね」

 エドワード王子は歯がみをした。彼女たちが簡単に石を渡したのは魔法兵器を使われても問題ないことを知っていたからだった。

「そして見てみろ。人工魔石を」

 エドワード王子は台の頂点の石に目を向ける。七色に輝いていたはずのその石は透明になっていた。

「なんだと」

「そもそも人工魔石はもともと黒い石だった。過去に一度魔法兵器を発動したために、内部の魔力が減り、七色に輝くようになった。今回、残りの魔力を全部使い果たすように細工しておいた。魔力を使い果たしたので、もう二度と使えなくなったわけだ」

「ば、馬鹿な」

 エドワード王子は愕然とする。この魔法兵器は何度も仕えるものだと信じていたのだ。たった一回の使用で使えなくなるとは考えてもいなかった。

「つまり、貴様らは、この魔法兵器を使い物にならなくするために私たちを騙していたというわけだな」

 エドワード王子は彼女たちの目的をやっと理解した。この装置を作動させて魔力を使い果たさせることが目的だったのだ。しかし、ベアトリスはにやりと笑う。

「あら、王子様って、やっぱり馬鹿なのね。私たちに喧嘩を売って、その程度で済むと思っていたのかしら」

「新しい座標がどこだか気にならないか?」

 マリアは驚愕する。彼女たちの本当の狙いがわかった。

「モンテスさんは、人気の無い砂漠にしたかったみたいだけどね」

「どういうことだ!」

 エドワード王子が怒鳴った。キャロンが椅子から立ち上がる。

「馬鹿王子。いや、もう王子ですらないかもな。あんたの王宮を始め、王族に関係のある施設はこの魔法装置で全て壊滅した。あんたの父親は避難したかな? おめでとう。父親が消えていればこれからはあんたが王様だ。もっとも、全てを失った無一文の男が本当に王様としてやっていけるのかはわからないがな」

 エドワード王子はあっけにとられた。

「早く帰った方がよくないか? 恐らく今頃ダグリシアは大混乱だろう。何しろ王宮が消滅してしまったんだからな。あんたのご自慢の宝物庫も消え失せたぞ」

「なん、だと?」

「あんたは全てを失ったと言うことだよ。救ってくれる貴族がいると良いな」

 キャロンが笑う。

「貴様、なんてことを!」

「あんただって自分の身勝手でトワニーとタラメデを消そうとしただろ。自業自得だ」

「みなさんも帰ったらどうかしら。お身内に不幸が起こっているかも知れないわよ。このお馬鹿さんのせいでね」

 キャロンとベアトリスの言葉に側近の二人も顔を見合わせた。皆青ざめている。そこに最後まで城に残っていた最後の近衛隊三人を引き連れたフレッドが戻ってきた。彼らは何が起こっているのかよくわかっていない。自分たちが不能になってしまったことにも気づいていないだろう。

 マリアが剣を抜いて、キャロンとベアトリスの側に来た。レクシアは子供を抱いたままベアトリスの後ろに隠れた。キャロンとベアトリスだけが余裕の表情だ。

「どうする。馬鹿王子。まだ私たちと戦う気か? セオドアやレナードから報告は聞いているだろう。私たちはここにいる全員を簡単に殺せるぞ」

「私はどっちでも良いけど?」

 エドワード王子は鬼のような形相でキャロンとベアトリスを見ていた。キャロンが落ちていた剣を掴んだ。ベアトリスも一歩前に出る。

「くっ、貴様ら。私を守れ。すぐにダグリシアに戻るぞ」

 エドワード王子はきびすを返した。エドワード王子が部屋を出て行くと、側近も近衛隊もその後を追っていった。

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