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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた
13/137

(13)モンテスとの出会い

 キャロンは門を越えて一気に町の中に入った。不法侵入だがばれなければ問題ない。

「さて、地図の場所は・・・こっちか」

 キャロンが歩き出す。後からアクアも付いてくる。しかしどこでもアクアの格好は注目を浴びる。がやがやと二人を見ながら話しているのがわかる。二人が歩いているのは中央の大通りだ。人が多い。

「おい、さっきの馬に乗っていた男たちもいるみたいだぜ」

 アクアが前を向いたまま言う。目の端にだらしない顔でアクアを見ているやせぎすの男を見つけた。

「少なくとも二人は中に入り込んでいて、三人は町の周辺にいるみたいだからな。ん?」

 急にキャロンは立ち止まった。

「どした」

 キャロンの視線の先には一軒の店があった。ちょうどそこから二人連れの初老の騎士が出てきたところだった。

「知っている奴か」

 キャロンは再び歩き出す。

「いや。ただあの紋章はギルバート公爵家の者だな」

「えーと、ギルバート公爵って確かダグリシアでかなり有名な奴だったよな」

「ああ、有力貴族の一人だ」

「なんでこんなところにいるんだ?」

 店の店主は、わざわざ表まで出て、二人の騎士を見送っていた。店主は騎士が立ち去ると周りをきょろきょろ見回し、看板を裏返して引っ込んでいった。

「別にここにギルバート公爵家のものがいたっておかしいわけじゃ無いさ。知った家紋を見つけたんで気になっただけだ」

 二人はその店の前を通りかかる。

「貸し馬車屋か」

 入り口にそう書かれている。

「もう閉めるなんて、仕事をする気があるのかね」

「大口の仕事が入ったんだろう。準備のために閉めたのかも知れないな」

「なるほどな」

 キャロンは店主の行動に少し違和感を覚えていたが、だからといって今関わるべき案件とも思えない。二人はそのまま通り過ぎて先に進んだ。


 スピナが言うようにダグリシアほど貴族街と平民街が区別されてはいないが、やはりエリアごとの特徴はある。モンテスの住むエリアは、門を構えた豪邸が建ち並ぶような貴族エリアではなく、背の高い建物が立ち並ぶ住宅街にあった。それでも見た目の豪華さから金持ちが住んでいるであろう事はわかる。建物は幅が狭く縦に長い。奥行きがあり高さも四階くらいあるようなので、中は広いのだろう。

 二人は建ち並ぶ住宅の一つに近づいた。

 キャロンがドアのベルを鳴らすと、しばらくして背の高い壮年の男性が現れた。彼は二人の女性を見て少し驚いているようだった。

「何のご用件でしょうか」

「依頼を受けに来た冒険者だ。あんたがモンテスか」

 するとその壮年の男性は少し表情を緩めた。

「いえ。執事をやっているバロウズと申します。冒険者カードを見せてもらってもよろしいでしょうか」

 二人が冒険者カードを見せると、バロウズはしっかりと確認した。

「その若さですでにC級に達しているのですか。わかりました。少々お待ちください」

 バロウズは戻っていった。バロウズが去るとキャロンはつぶやく。

「なかなか渋いおじさんだ」

「体力なさそうじゃねぇか。もっと、がつがつくる若い男の方が良いぜ」

「あんたと違って私は闇雲に○○したいわけじゃない。ああいう大人しそうなのを○○させるのが楽しいんだ。スピナの次はバロウズだな」


 そんな話をしているとバロウズが戻ってくる。

「主人がお会いになります。どうぞこちらへ」

 二人は案内されるまま、二階の応接室に進んだ。そこで初老の人物が二人を向かえてくれた。

「よく来てくれた。私はモンテスという」

 モンテスは六十代半ばであろう人物だった。見事な白髪でしわの多い顔だが、動きは若々しかった。

「私はキャロン」

「私はアクアだ。よろしくな」

 モンテスが二人に握手を求めてきたので二人ともそれに従う。しかし内心キャロンは驚いていた。貴族は警戒して冒険者に触れようとしないはずだからだ。

 二人は促されるままソファーに座った。あらかじめ言われるだろうと思い、二人は冒険者カードをテーブルの上に置いた。モンテスもそれを確認する。

「何とC級ですか。今回の依頼はC級には安すぎると思いますが、よろしいのですか」

「問題ない。私たちは依頼の内容で仕事を選ぶ。あまり金額にはこだわらない」

 当然嘘である。城と言う文字を見たから受けただけで、初めから割の良い仕事とは思っていない。

 その時、バロウズが戻ってきて目の前に紅茶を置いた。そして一礼して出て行く。キャロンは獲物を見るかのような視線でバロウズを追った。横からアクアに小突かれる。


「よろしいかな」

 モンテスが口を開いたので二人はモンテスに集中した。話は単純だった。昨日グレスタ城に散歩がてらいったところ、盗賊らしき人間がいた。一ヶ月前にはいなかったので、その間に住み着いたのかも知れない。しかし一瞬見て逃げ帰ってきたため盗賊なのかどうかもわからない。そこで調査してきて欲しいとのことだった。

「なるほど。だが、わざわざ調査依頼を出すということは、その城の関係者なのか」

「昔住んでおったのだよ。今は所有者がジョージ王ということになっているのだろうが、元々はグレスタ伯が所有していた城なのだ。私はグレスタ伯に代代仕える魔術師の家系でな。恩返しというわけではないが、今でもグレスタ城を月に一度程度訪れているのだ」

「管理者はいないのか」

「ジョージ王もあの城に興味があるとは思えないしね。もう三年ほど前から完全に廃城だよ。以前はグレスタ伯の別荘として使っておったが、森に囲まれておるし、それほど景観が良いというわけではない」

「しかしそれでも盗賊には荒らされたくないと言うことか」

 モンテスはうなずいた。

「私が死ぬまでの間だけでも守っていきたいとは思っておるよ。今までも誰かが入り込んだ痕はあったのだ。その都度鍵は付け替えておったが、やはり無人の城なので防ぐことはできん。今回もただ立ち寄っただけなら放っておくつもりだ」

 しかし二人はすでに城を見てきている。あれだけの人数が入り込んでいて、すぐに立ち去るとは思えない。アクアが口を挟む。

「じゃあ、もしそこにいたのが盗賊なら討伐してきても大丈夫だよな」

 モンテスは少し驚いたような顔でアクアを見る。

「討伐。なるほど。調査の結果次第ではそのような依頼をする可能性もあったが、相手のことがわからねば依頼もかけられないのでな。盗賊だとして、しばらく様子を見て、それでも出て行かないようであれば、そうするかもしれん」

「盗賊がグレスタの近くに住み着くのは問題だろう。私たちならどんな盗賊団でも排除することができる。もし良ければ、調査の結果、盗賊と判明すれば即刻排除するが? その分、依頼料は上乗せしてもらいたいところだが」

 キャロンの言葉にモンテスは少し眉を寄せた。

「君たち二人でかね。それは危ない。私は少ししか見ていないが、一人ではないと思ったよ。さすがにそのような危険な目には遭わせられない。調査だけで十分さ。その結果次第でまた冒険者の宿に依頼をするだろうね」

 あわよくば依頼の二重取りをしようと思っていたが、すんなりは行きそうにない。

「大丈夫だって。仲間は実はもう一人いるんだ。私たちはダグリシアからここまで三人だけで来たんだぜ。街道に出てくる程度の盗賊は簡単に排除できるさ」

 アクアは更に迫るが、モンテスの顔が険しくなってきたのでキャロンの方がストップをかけた。変に疑われてはいけない。

「では、まずは調査依頼を受けさせてもらう。もし討伐の依頼に切り替えたいならすぐに言ってくれ。対処できる」

 モンテスは考える。

「ふむ。まぁ、その時はお願いするかも知れないね。ただ、君たちのような若い女性を危険な目には遭わせたくないよ」

「私たちは冒険者だぜ。危険はいつも通りさ」

「まぁ、まずは報告を聞いてからにしていいかね。その時考えるとしよう。それから、報告は午後一時以降にして欲しいのだ。午前中は街中を散歩しているのでな」

「わかった。そうしよう」

 今はこれ以上踏み込んでも仕方がないので、キャロンは先をうながした。

「では、グレスタ城の場所を説明しよう」

 そしてモンテスは立ち上がって机に行くと、地図を持って戻ってきた。そしてテーブルに地図を広げる。

「グレスタ城はちょっと離れた場所にあるのでな。今からでは間に合わないだろう。調査は急いでいないから終わり次第で良いよ」

 地図で見ると、改めてグレスタ城がグレスタから離れているのがわかる。

「散歩で行くにしては遠い気がするな。護衛はつけているのか」

 実際行ってみると二十キロ以上はあった。歩いて行くには遠すぎる。するとモンテスは笑顔で答えた。

「護衛なんて。あの道はそれほど危険ではないよ。ただの一本道だしね。私の足だと朝、家を出て昼前に付くのがやっとだな。若い時分はもう少し早く着いていたのだが。健康のためには丁度良い運動だよ」

 丁度良いといえるような距離ではないと思うが、人の趣味に口を挟んでも仕方がない。モンテスは別の紙を取り出した。

「そしてこれが城の見取り図になる。それほど大きな城ではなくてな。五階建てで、その上は塔になっている」

「上の階は部屋が多いんだな」

「三階から上は居住のための部屋なのでな。一階は馬車ごと入れる玄関口で、倉庫替わりにもなっておった。二階が食堂や会議の部屋だな」

 キャロンがふと気づいて言う。

「階段の位置が独特だな」

 城の階段は一つ上の階までしかなく、もう一つ上に上がるには別の場所に行かなくてはならない。初めは北と西の階段、次は南と東の階段といった具合だ。

「設計の意図はわからんよ。もしかしたら塔の間に入りにくくしたかったのかもしれん」

「塔の間とは?」

「ほれ、五階の西にある階段だが、これを上がると塔の一番下の部屋になっておる。そこが塔の間だ。ここに昔魔道具があって城を守っておった。いわば城の心臓部だったのだよ。このように階段を配置しておけば、なかなか塔の間まではたどりつけんだろ」

 キャロンは心臓部だったという言い方が気になった。

「今はその魔道具はないのか」

「これを失ったから廃城になったとも言えるな。今は台座が残っているのみだよ」


 その話で何となくキャロンは想像が付いてきた。

「なるほど、つまりジョージ王に奪われたか。あの王様はがめついことで有名だ」

 ダグリシアでも有名な話だった。前王が賢王と呼ばれていたのでひときわ悪癖が目立つ。

「正確にはその息子のエドワード王子の要望らしい。断ることはできなかったそうだ。まぁ、それは今回の依頼には関係ないことだよ」

 モンテスは塔の話を終わらせた。嫌な話を延々と続けたくなかったのかも知れない。


 キャロンはそこで別の質問をした。

「そういえば順風亭の受付が言っていたのだが、こうして直接依頼内容を話す依頼人は珍しいと。そして、場合によっては依頼人に断られる場合もあると。今回は私たちに依頼して大丈夫と言うことか」

 モンテスは笑う。

「理由は単純だよ。この年ではそうそう若い人間と話す機会もない。せっかく冒険者の宿に依頼したのだから、直接話がしたかったのだ。依頼を受けてくれる相手に紙だけですますのは味気ないだろう? それに、今回は調査依頼だったのでな。初めに来た冒険者に依頼するつもりだったのだ。冒険者を選ぶなど、私には図々しいことだ」

 二人はこの依頼者に好感を持った。この老人に関しては信用して良いように思えた。


「わかった。私たちは早々に城を調査し、あなたに報告しよう」

 最後に依頼内容を確認してから、二人は席を立った。

「ちゃんと満足いく結果を報告するぜ」

 モンテスも立ち上がる。

「わかった。いい報告を期待するとしよう」

 キャロンとアクアはモンテスの家を後にした。



「討伐依頼を受けられたら奴らがオウナイ一味じゃなくても金になったのにな」

「仕方がない。あれ以上迫って、すでに調査済みだとばれると信用されなくなるからな」

 アクアとキャロンは大通りを歩きながら話す。

「で、どうする。また行くだろ」

「日中ばれないで侵入するのは難しそうだな。夜になれば何とかなりそうだが」

「でもよ。もし奴らがオウナイ一味じゃなかったとしたら、とっとと移動した方が良いだろ。時間が経つほど見つけるのは難しくなると思うぜ」

 キャロンは歩きながら考える。城の盗賊らしき者たちがオウナイ一味でなかったとすれば、この依頼の達成はかなり難しくなるだろう。早く確認したい。

「いっそ押しかけて潰しちまおうぜ。それならオウナイ一味じゃなくても問題ないだろ」

「その場合、残党には逃げられる可能性がある。少なくともこの町に五人来ているようだが、他にも動かしている可能性はある。近衛隊が追ってきているからな」

「そっちは諦めた方が良いんじゃねぇか。欲張っても良いことないぜ」

「それはそうだが・・・。そうか、バムがいたな」

 キャロンはふと昨日のことを思い出す。

「バム? 誰だっけ」

「城の見張りをやらされたという盗賊だ。オウナイを知っているという話だっただろう」

「ああ、いたな、そんな奴。そういや始めはそいつを見つける予定だったっけ」

「バムならあの盗賊たちがオウナイ一味か判断着けられるだろう」

 しかしアクアはあまり乗り気ではない。

「だが、今から見つけられるか? そっちはそっちで無駄な時間になりそうだぞ」

「城にいる相手がオウナイ一味だと仮定するなら、今襲撃するのは避けたい。どのみち夜になれば調べられる。焦っても仕方がないだろう」

 そして二人は街道を歩いて行った。


 二人はバムをおびき出すために、街道を歩いて行ったが、しばらく進んでも誰も襲ってくる気配はなかった。

 すぐにアクアは飽きた。

「こんな美女二人組を襲ってこないなんてあり得るか? もうこの辺りにいないんじゃねぇか」

「こちらから探しに行かないとダメか」

 キャロンも待っていてるだけではバムに出会えないと判断した。

「じゃあ、二手に分かれようぜ。見つけたら城まで案内させれば良いだろ」

「それが早いか」

 アクアの提案にキャロンもうなずく。

「では、私は先に行かせてもらうぞ」

 キャロンはすぐにひとっ飛びで林の中に飛んでいった。調査なら空を飛べるキャロンの方が有利だ。アクアは地道に足で探さなくてはならない。しかし、アクアはその場でただキャロンを見送っていた。そしてキャロンが見えなくなると来た道を戻っていった。

「私は悠長な調査は嫌いなんだよ」

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