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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた

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(26)アクア捕獲隊(四日目)前

 トワニーはダグリシアから北に少し離れたところにある平民のみの町だ。もともとダグリシアから追い出された平民たちが集まって勝手に作った街である。

 レナードが率いる近衛魔術師隊を中心とした部隊は、昨日昼前にグレスタ城を出て、途中で一泊した後、夜明け前に出発し、朝にはトワニーの近郊に着いた。かなりの急ぎ旅ではあったが、セオドアが先に出発している以上これは仕方がないことだった。セオドアが出向いたのはタラメデというグレスタ近郊の町。当然ベアトリスを捕まえればすぐに戻るだろう。そうすると、レナードの仕事が遅いと言うことになる。実際に場所が遠いのだから仕方がないのだが、短気なエドワード王子なら何を言い出すかわからない。できるだけ早く任務を終える必要があった。

 四十人もの部隊は目立つので、元々潜伏場所は決めていた。レナードの部隊が付くと、すでに近衛隊員が待ち構えていた。

「早いな、リチャード」

 近衛魔術師隊のリチャードは敬礼をする。

「レナード隊長こそ早かったです。間に合わないところでした」

 トワニーに潜伏する近衛隊員には、事前に早馬で連絡を取っていた。そして潜伏隊の中からリチャードがこの場所に来たのである。

「アクアの様子はどうだ」

「普通に冒険者として仕事をしています。こちらの動きに気づいた様子はありません」

 今回の作戦はアクアを大勢の魔術師で囲い、魔法で集中攻撃を行った上で交渉するというものだ。だが、襲撃場所はまだ決定していない。トワニーは平民しかいないので、周りに被害を与えても問題は無い。しかし障害物が多い街中では逃げられる可能性もある。ある程度広い場所が必要だった。

「問題は襲撃場所だな。宿を襲撃するのが一番だが」

 すると、近衛隊員は首を振った。

「宿はあるのですが、ほとんど帰ることはありません。だいたい男の宿や家に入り込んでいます」

「恋人がいるのか。それは都合がいいな。そいつを使えばおびき出せる」

 しかし近衛隊員は否定する。

「恋人ではなく、誰でも良いようで、夜になると男に声をかけている感じです」

 レナードは舌打ちした。

「性にだらしない女というわけか。さすが平民だな」

 レナードは今後の方針を考える。するとリチャードは提言した。

「現在彼女が受けている仕事の詳細はわかりませんが、近くの鉱山へ行って鉱石を集めてきています。ここ一週間くらいは同じ仕事しかしていません。仕事は一人で受けているので、鉱山なら確保するのに丁度良いのではないかと思います」

「毎回一人で同じ仕事をしているのか」

「はい」

 レナードはすぐに指示した。

「よし、まずはその場所がどんな場所なのか調べるか。アーネスト、ユージーンおまえたちが中心となり手分けをして鉱山跡を調査しろ。絶対にアクアと鉢合わせるなよ。私はトワニーに入る」

 レナードは平民の服を着替えると、部下を一人選抜し、リチャードとともにトワニーへと入っていった。


※※


 アクアはあくびをしながら、冒険者の宿「戦勝亭」に入っていく。ビキニアーマーのアクアはトワニーでも人気者である。

「おいアクア、昨夜の犠牲者は誰だ」

「ここにいない奴だよ。まだベッドでぶっ倒れてるぜ」

 男たちの声にアクアは楽しげに応える。

「冒険者に手を出すんじゃねぇよ。商売あがったりじゃねぇか」

「冒険者の方がタフなんでやりがいがあるんだよな。おまえこそ今夜辺りどうだ」

 アクアは笑う。

「次は負けねぇぞ。だから明後日は俺たちが予約する。ちゃんと開けとけよ」

「良いね。何人でもオッケーだぜ。楽しもうぜ」

 そこで受付から注意が入る。

「ちょっとアクア。大声でそう言う話をするのはやめなさい」

 アクアは気にする様子もなくソーニーの前に行った。戦勝亭はダグリシアにあった常勝亭や必勝亭に比べると小さな冒険者の宿だが、ダグリシアから流れてきた冒険者たちが多くを占めている。

「さぁて、今日も働くかな。いつもの依頼をよろしく」

 アクアは冒険者カードを差し出した。ソーニーが冒険者カードを取る。

「また鉱石集めの常時依頼にするの? 確かにまだ町は拡大中だから助かりはするけど、そもそもA級冒険者が受けるような仕事じゃないわよ」

「工夫のジジイどもも助かるって言ってくれてるじゃねぇか。力仕事は得意だぜ」

「そうだけど、わざわざあんなところに行って掘り進めてどうするの」

「あそこ一番近いじゃねぇか」

「近いけど下に掘るしかないでしょうに。引き上げるのが大変で誰も手をつけていないでしょう」

「近い方が早く帰ってこれるからな」

 アクアが楽しげに話すので、仕方がなくソーニーは依頼を受け付ける。

「はいどうぞ。行ってらっしゃい」

「おう、行ってくるぜ」

 アクアはスコップを担いで冒険者の宿を出て行った。

 ソーニーは腕を組んでアクアを見送る。ソーニーたちダグリシアの冒険者の宿の運営者は半年前にトワニーに拠点を移していた。アクアがトワニーに現れたのは一月くらい前だ。二年前に王族を相手に派手にやり合ったらしく、しばらくダグリシアには姿を見せていなかった。

 アクアがダグリシアを去ってから二年も経っているので、アクアのことを詳しく知る者は少ないが、その奔放な生活からあっという間に有名人になった。しばらくはあまり仕事もしないで男を漁っていたが、最近は帯剣もせずにスコップ片手に工夫のまねごとばかりしている。仕事内容にこだわらないアクアらしいと言えばそうだが、採掘の仕事ばかり繰り返し受けているのは少しおかしく感じた。

「ま、考えても仕方がないか」

 ソーニーは仕事に戻った。


※※


 トワニーに入って、リチャードはまずはレナードを一つの宿に案内した。

「ここがアクアの宿です。ほとんど帰ってきていないようですが」

「場合によってはここを襲撃ポイントにするかもしれないな」

 彼らは宿の周りを回るが、家が密集していて、何かがあれば屋根伝いに逃げることが可能だった。あまり良い場所ではない。

「他にアクアがよくいく店はあるか」

「比較的利用回数が多い店はあるのですが、常に使っている店というのはありません」

「かまわん。行くぞ」

 そして、レナードたちはいくつかの店を回った。元々トワニーは小さな町なので全てを回るのはそんなに苦労しないが、区画整理もされずに増殖していたため、かなり入り組んでいる。慣れないと道に迷うのは必至だ。

「どうしようもない街だな。こんなところに住もうとする奴の気が知れん」

 レナードは悪態をつく。すでに昼を過ぎていた。

「ここが最後の店となります。ただ、もう一週間以上立ち寄ってはいません」

 レナードたちはその店も確認するが、囲い込んでも安易に逃げられてしまうのは想像できた。

「どうしようもないな。街中での襲撃は困難か」

 レナードはため息をつく。

 そして彼らは冒険者の宿まで来た。冒険者の宿は当然襲撃に向かない。彼女に味方する奴も出てくるだろう。一人の男が道の影から出てきてレナードたちに接触してきた。

「お待ちしておりました」

 レナードが顔を向けると、リチャードが男に話しかける。

「アクアの居場所は?」

「昨日と同じです。朝方依頼を受けて出て行きました。スコップを持っていたので、いつも通りの採掘だと思います。クリストファーとハーマンが後を追っています」

「あの中にも誰か潜入しているのか」

 レナードが男に尋ねた。しかし男は首を振る。

「さすがに難しいです。目立つわけにも行かないですし」

 レナードは舌打ちした。

「残りは誰がいる」

「マイケルとモーリスは今は休んでます。夜に交代する必要があるので」

「これ以上ここにいても仕方がないな。おまえたちはアクアが戻ったら知らせろ」

 そしてレナードは一旦トワニーを離れた。

 レナードが拠点に戻り、待っていると、ユージーンとアーネストが帰ってきた。

「どうだった」

 レナードはさっそく報告を求める。

「鉱山は見つけられました。かなりの工夫がおります。そこそこ離れた場所です」

「そうか。アクアはいたか?」

 するとユージーンは首を振る。

「いえ、そこにはいませんでしたが、帰りにクリストファーに会うことができ、アクアの居場所を突き止めることができました」

「アクアは鉱山には行っていなかったというわけか」

 レナードはうなる。まさかこちらに気がついているのだろうか。すると、アーネストが続けた。

「いえ、アクアがいたのは鉱山なのですが、他の工夫たちがいる場所ではありませんでした。下に掘り進めているんです」

「下に? どういうことだ」

 普通は山を削るように掘り進む。下に掘るというのはよくわからない。

「この近くに山はなく、石を取るにはかなり離れたところまで行かなくてはなりません。しかし、少し先には岩石でできた地盤があり、そこを崩すことで鉱石を採取しているようです」

「なるほど、地面を削るのか。まぁ、悪くないアイディアだとは思うが」

 レナードはなぜアクアがそんなことをするのかわからない。

「いえ、地面を掘り進めばそこは大きな窪地になります。そこから石を運び出すのも大変ですし、後から整地することも難しいでしょう。実際その場所には大きな窪地が複数ありました」

「よくわからんな。奴はそんなところで一人で作業をしているのか」

 レナードが尋ねるとユージーンがうなずいた。

「はい、一日中削って大量の石を台車で運んでいるようです」

「そこには隠れる場所はありそうか」

「はい。窪地はとても深く、身を伏せていればまず見つかりません。直径も大きいので、全員で囲むことができます。逃げ場もないでしょう」

 レナードは考える。妙に都合が良すぎる気がしたからだ。罠の可能性もある。

「本人に接触して情報を取っておいて欲しかったな。まったく」

 レナードはトワニーに潜入している近衛隊たちに悪態をつく。見張るだけなら誰でもできる。身分を隠して接触することくらいできたはずだ。

「一応そこを襲撃ポイントの候補としよう。今日はここで野宿だ。準備しておけ」

「明日実行でしょうか」

 ユージーンの問いにレナードは迷う。あまりにも情報が少ない。

「後でもう一度トワニーに入って奴らと合流しよう。ユージーン、おまえも付いてこい。アーネスト、こっちの準備は任せたぞ」

「わかりました」

 やがて、トワニーの方からリチャードが走ってきた。

「よし。トワニーに行くぞ」

 そして三人はトワニーに向かった。

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