(25)学生たち
しばらくすると、豪華な馬車が入ってきた。
「来たか。おまえたち。馬車を避けろ」
「次は私の番なのですが」
「うるさい、後だ」
商人たちの誘導を行っていた近衛隊が、商人たちを追い払う。仕方がなく商人たちは後ろから来た馬車に道を譲った。馬車を先導していた近衛隊が城の前で敬礼した。
「近衛騎士隊ジョサイア、アンソニーが、ダグリシア士官学院の生徒三十人を・・・、お、お連れしました」
ジョサイアは見張りの近衛隊の中に全裸の女がいるのを見て目を丸くしていた。すぐにアーチボルドが出てくる。ジョサイアは馬を下りた。アンソニーも前に回ってきて馬を下りた。アンソニーもマリアを見て唖然としていた。
アーチボルドがぎくしゃくした態度で挨拶をした。
「ご、ご苦労だった。わ、わたくしは、え、近衛魔術師隊アーチボルドである。長い旅お疲れだ、な」
「お出迎え感謝する」
ジョサイアはアーチボルドに答えると、アンソニーが馬車のドアを開けた。中から緊張した面持ちの学生たちが降りてきて、アンソニーに整列させられる。しかし、彼らの視線はマリアに集中していた。
「何、あれ」
「裸。嘘だろ」
「私語は慎め!」
アンソニーが怒鳴ると学生達は静かになったが、マリアから目を離せないようだった。
やがてエドワード王子が出てきた。マリアを含め近衛隊たちはすぐに最敬礼をする。学生たちはまだ慣れていないため、真似しようとしているがうまくいっていない。
「ご苦労だったな、学生諸君。このエドワード城はまだ整備途中といったところだが、今後おまえたちもここに勤めることがあるかもしれん。しっかり見学し学ぶといい。おまえたちは、明後日まで滞在し、城警備の実体験もしてもらう。先輩騎士や先輩魔術師との合同訓練もある。ぜひ充実した研修にして欲しい」
そして緊張した顔で立っている学生たちを見渡した。さすがにもう誰もマリアの方を見ていなかった。しかし、エドワード王子がマリアに目を向ける。
「おい、マリア、こちらに来い」
マリアは嫌な予感がしたが、仕方がなく私はエドワード王子の前まで走っていく。エドワード王子は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「これから、この裸の化け物がおまえたちを案内する。まぁ、おまえたちがここに勤める頃にはいなくなっているだろうがな。それから、三階に異形の女が繋がれている。どっちも○○処理用に使って良い相手だ。まだ○○の奴もいるだろう。貴族たるもの○○にも優れていなければならない。この研修中にこの女たちを好きに使い倒せ」
生唾を飲み込む音が聞こえそうだ。
「マリア、粗相の無いようにな。おまえと違って、彼らはこの国を背負って立つ優れた者たちだ」
「わかりました」
マリアが返事をして礼をすると、エドワード王子は鼻で笑って城に戻っていった。
やっとざわめきが始まる。
「マジか」
「女とやれるの」
「でも、あれかよ」
マリアは何度目かのため息をつく。この生徒たちを案内するのが仕事だ。とっとと住ませてしまおう。
「私は近衛女性部隊のマリアだ。まずは城の案内する」
マリアが話し出すと少しびびったのか、皆シンと静まる。しかしマリアは後ろからどつかれた。
「おいおい、マリア、威張っているんじゃねぇよ。将来有望な少年たちが萎縮してるじゃねぇか」
近衛騎士の一人だった。男はなれなれしく私の肩に手を回して胸を揉んだ。
「いいか、殿下も言っていたように、この女には何をしても良い。今から例を見せてやるからな」
他の近衛隊も集まってくる。
初っぱなからマリアは学生たちに痴態を見せつけることになった。
「じゃ、しっかりやれよ」
事が済むと男たちは持ち場に戻っていった。マリアは一息つくと、すぐに学生たちに振り返る。
「じゃあ、いくぞ」
マリアは何事も無かったように城に向かって歩き出した。
学院の学生は案内されてもあまり聞いているようではない。マリアもいちいち詳細に説明する気が無い。
一階を一通り回ってから二階に行き、食堂の場所やトイレの場所を教える。そのあと三階に行って奴らの寝泊まりする場所を説明した。
キャロンの部屋は後回しにして四階を案内し、仕事は終了となる。五階は殿下とその側近と侍女がいる部屋なので、入らないように伝える。
「では、最後に捕虜のいる場所に案内する」
口笛が鳴り、騒がしくなる。マリアは学生三十人を引き連れてキャロンのいる部屋に向かった。
部屋に入ると、すでに先客がいた。マリアが声をかける。
「悪いが、これから使わせてもらう。殿下の指示なんだ。後にしてくれないか」
彼らは近衛隊ではなく側近たちだった。側近たちはばつが悪そうな顔をしたがさっさと出て行った。
彼らはマリアの横を通るとき、耳元でつぶやいた。
「殿下には言うなよ」
側近たちが去ってから、マリアは学生たちに拘束されている女性を紹介した。
「彼女がキャロンだ」
どよめきが起こる。たぶん二重の意味で。一つはキャロンが美しい女性であること、そしてもう一つは不思議な体をしていること。
「おやおや、またたくさんの客を連れてきたな。さすがにマンネリ気味だったが、これなら楽しめそうだ」
キャロンが彼らを見て舌なめずりした。一方で学生たちはキャロンに釘付けだ。
「す、すげぇ」
「どうなっているんだよ、この○○」
彼らは我先にと若い欲望をキャロンにぶつけていった。彼らにとってはマリアも○○の対象になるようで、マリアも参加せざるを得なかった。その饗宴は夕食会の連絡が来るまで続いた。
さすがにマリアも疲れ果てた。ここ数日は近衛隊たちに手を出されているが、所詮からかいの延長に過ぎない。本気でマリアを抱きたいと思う人間はいないのだ。それならキャロンの方が数倍良いに違いない。
しかし十六、七の学生は欲望の塊だった。
「ったく。自分の荷物もかたづけないで盛ってばかりとは、先が思いやられるな」
マリアはキャロンを見た。自分もひどい有様だが、当然キャロンの方が汚されている。
「水でも汲んでくるか」
マリアは台を降りる。
「若い男たちというのもいいものだな。まぁ、私はそれほど○○が好きではないが」
「これが好きと言う奴がいるのか?」
「アクアなら大喜びしていたと思うぞ。今回の件はアクアに自慢できそうだ」
マリアはこのような行為が好きと言う人間の神経がわからなかった。しかし考えても無駄だ。マリアは部屋を出ようとした。そこに近衛隊たちが入ってきた。
「くっせー」
「こりゃ、すげぇな」
入ってくるなり、彼らはマリアとキャロンをじろじろ見る。
「したいなら後にした方がいいんじゃないか。今から掃除する」
「単に、ガキどもに○○されたおまえらがどうなったか見に来ただけだよ」
「そうか」
私が彼らを抜けて行こうとすると肩を掴まれた。
「どうだよ。たまには若い男も良いもんだろ。結構興奮したんじゃねぇか」
「私にとってはおまえらと変わらん。どちらもただのオスだ」
「ちっ」
男は舌打ちをする。マリアは横を抜けて廊下に出た。
マリアは井戸で体を洗ってから、たらいに水を入れて、キャロンのいる部屋に戻った。てっきり先ほどの近衛隊たちがいると思ったが、いたのはキャロンだけだった。
「もう帰ったのか」
不思議に思ってマリアが尋ねる。
「本当に見に来ただけだったようだぞ。私にも手を出していかなかった」
「なら、一息つけるな」
私はたらいを置くと、キャロンの脚の拘束を外した。
「また、自分で洗うんだろ」
そしてマリアは掃除を始める。キャロンも拘束椅子を降りてたらいで体を洗い始めた。マリアは手早く台座とテーブルを綺麗にする。
「あんたはなぜ逃げないんだ」
いきなりキャロンがマリアに尋ねてきた。マリアは首をかしげる。
「何のことだ?」
キャロンが体を洗い終わって戻ってくる。マリアも体の汚れを落とすためにたらいの方に行った。
「変態王女にも馬鹿王子にもひどい扱いを受けながら、なぜ近衛隊にしがみついているのかと思ってな」
キャロンが、台座に乗った。
「辞めるタイミングを失っただけだ。今でも円満退職を狙っているさ」
体を洗いながらマリアが答えると、キャロンが吹き出した。
「おいおい、まさかそのために近衛隊に居座っているのか」
「一生王族や貴族たちに命を狙われる生活は御免でね」
「それで命を落とすことになったらただの馬鹿だろう」
マリアは体の汚れを落とすと、キャロンの方に戻る。そしてマリアは脚の拘束をして鍵を閉めた。手首の鍵は閉めなかった。
「なぜ私が命を犠牲にすると? いついかなる時も私は死ぬ気なんて無い」
すると、キャロンはマリアを珍しそうに見た。
「あの馬鹿王子なら、何の理由もなくいきなりあんたを処刑すると言いかねないだろう。早く逃げた方が利口だと思うが」
「言葉で丸め込めるならその方が都合がいいだろ。どうしても無理なら、その時は諦めて戦うさ」
キャロンは呆れた。
「あまり、利口な手段ではないな」
「利口になれないタチでな。じゃあ、また明日」
マリアはキャロンのいる部屋を出た。
また、マリアは少し遅めの食事をとる。もう誰もいない。料理人がなぜか、ヘコヘコ頭を下げながら料理を作っていた。マリアは食事を掻き込むと、一旦ヴィヴィアン王女の部屋に向かった。
マリアはヴィヴィアン王女の部屋で自分の荷物をまとめる。
今日からここは使えなくなった。告げ口した近衛隊の奴に拳を入れてやりたい気分だ。とりあえずヴィヴィアン王女が戻って来ても文句を言われないように、部屋を見回る。全ての準備が済むとマリアはヴィヴィアン王女の部屋を後にした。
マリアが三階の大部屋に入ると、十人くらいの近衛隊と学生が酒を持ち込んで騒いでいた。皆がマリアに注目する。
「何だよ。マリア。おまえも酒飲みに来たのか。ここは秘密の宴会部屋だぜ」
男がよってくる。
「今日からここで寝るように殿下に言われただけだ」
するとその男は呆れた顔をする。
「みんな遠征に行っちまったから、部屋は余っていて、この大部屋は誰も使っていないぜ。だから毎日飲み部屋になっているのさ」
「好きにしていてくれ。私は言われた通りここで寝るだけだ」
「せっかくだからおまえも飲もうぜ」
男がしつこく誘ってくる。
「私は酒を飲まない。おまえたちだけで楽しくやってくれ」
実際マリアはほとんど酒を飲んだことが無い。理由は単純だ。酒を飲んだせいで○○されたことがあるからだ。身を守るためには、酒で感覚を鈍らせるわけにはいかない。
しかし別の男が酒瓶を持ってやってきた。
「良いから座れって言っているんだよ。俺の酒が飲めねぇってのか」
酔っ払い特有の絡み方だった。面倒になってマリアはその男を押しのけて進もうとしたが、腕を捕まれる。
「ほら、飲めよ」
「いらん」
瓶を差し出されるが、マリアは手で押し返した。するとマリアは別の男に後ろから抱きつかれる。
「よし、俺が押さえておいてやる。飲ませちまえ」
マリアは抱きつく男の腕を腕力で解いて、しゃがみ込んだ。そしてそいつのみぞおちに強烈な肘を打ち込む。
「ぐぇぇ」
男は嘔吐した。マリアはすかさず横に回り込むと男の頭をつかんで、床に叩きつける。
「馬鹿が多くて困る。私はいつでも○○せるように指示を受けているが、それ以外の命令に従うことは指示されていない。怪我をしたくなければ、私に喧嘩を売らないことだ」
だが、酔っ払いというのはこの程度じゃひるまない。
「てめぇ、ぶん殴る」
マリアが素早く片足を振り上げると、男はそのままの勢いでぶつかってきてマリアのつま先が男ののどに刺さった。
「ぐえっ」
そしてマリアは瓶を奪い取った。
せっかく盛り上がりかけていた宴はマリアのせいでしんと静まっていた。特に学生は恐怖の視線でマリアを見ていた。マリアは宴会をしている奴らに近づいていき、瓶を置いた。
「邪魔はしない。勝手に楽しめ」
そしてマリアは部屋の隅に歩いて行った。他の部屋にはベッドがあるが、ここは雑魚寝の場所だ。ぼろ布団を引っ張り、荷物からタオルを取り出すと、そこにかぶせて寝床を確保した。そしてマリアは寝転ぶ。
横になったからと行ってマリアは眠らない。それは危険だからだ。マリアに恨みを持つ者は多い、のんきに寝ていては何をされるかわからない。
「さて、明日も早い。そろそろ寝るぞ」
少しすると宴会をしていた隊員と学生は片付け始めた。近衛隊が指示して、学生たちが掃除をしている。そして部屋を出て行く。
マリアは今夜もルクスの部屋に行くつもりだった。だから全員この部屋から立ち去って欲しかった。しかし何人かが残ってマリアの方に来た。またかとマリアはため息をつく。どうしてこいつらはこんなに盛りがついているのか。
囲われては困るので、マリアは体を起こした。残ったのは五人だった。近衛隊が二人と学生三人。酒が回っているようで顔が赤い。
「何だ?」
「こいつらが、おまえと○○たいんだってよ」
近衛騎士が言う。
「ち、違う」
慌てて学生たちが首を振る。
「と、言うのは冗談で、何で女のくせにそんなごっつい体なのか知りたいそうだ」
マリアは怪訝な顔で学生たちを見た。彼らは一瞬後ろに下がる。
「おい、マリア。脅すなよ。学生どもの素直な質問じゃねぇか」
「別に脅したつもりはない。だいいち理由などない」
「えっ?」
マリアは冷たく言う。
「とっとと寝ろ」
すると近衛騎士が割り込んだ。
「おいおい、待てよ。近衛隊の先輩だろ。学生の質問にはしっかり答える義務があるんじゃねぇのか」
近衛隊はしつこかった。
「○○たいんなら○○せてやる。もっともキャロンの方がいいと思うぞ」
「そ、そう言うんじゃなくて。だって、女性の体ってそういう形していないでしょ」
学生が言う。
「そもそもそんなことを知ってどうする。何の価値もない」
「いや、価値というか。魔力が多いからなのかと思って」
その学生の言葉に近衛騎士の男が笑う。
「マリアが魔力? こいつが魔法使いってか。んな分けねぇだろ」
「いや、でも魔力が多いですよ。本当に」
学生がムキになる。すると横の近衛魔術師が手を私に掲げて呪文を唱えた。
「んなことあるか、って、おい、マリア。おまえ俺より魔力が多いんじゃねぇか!」
マリアは肩をすくめる。
「魔力の多さと魔法の能力は関係ない。おまえも知っているだろ」
マリアは近衛魔術師に言う。そして学生を見た。
「それから魔力の多さと筋肉の量も関係ない。おまえは馬鹿か」
「だって、それじゃ、女なのにそんな体なのは変だろ」
「それだけ鍛えているということだ。女でも鍛え続ければこういう体になる」
マリアは冷たく答えた。すると近衛騎士がその学生の肩を強く叩く。
「ほらな。当たり前の答えだっただろ。おまえは何、難しいこと考えているんだよ」
「で、でも、女性って言うのは肌のきめが細かくて、柔らかくて、そういうものでしょう。鍛えたからってそんな風になるわけないよ。きっと別の要因が・・・」
「ばかばかしい。とっとと帰れ」
しかし近衛騎士は帰ろうとしなかった。
「そう言うなよ。マリア。おまえの○○はいつ使っても良いんだろ」
結局そこに行き着くらしい。マリアはこれを断ることができない。
「ああ、好きにしろ」
マリアは襲われる覚悟を決めていたが、予想外だったのは彼らが酒をマリアに無理矢理飲ませたことだった。しまったと思ったときはもう遅い。マリアは抵抗できずに酔いつぶれてしまい、結局ルクスの部屋には行けなかった。




