表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

122/137

(23)ベアトリス捕獲隊(三日目)

 翌朝、セオドアはタラメデにいる三人の近衛魔術師と合流した。オスカーが手配をしてくれていた。

「話は聞いていると思うが、三角結界のサポートをお願いしたい」

「ええ、わかりました。よろしくお願いします」

 リーダーのアーサーが答える。それから四人でタラメデ郊外の拠点に向かった。本隊は朝に出発してくるので、昼前には付くはずだ。タラメデにいる近衛隊は三人の近衛騎士だけになってしまうが、オーガスタスを代わりにタラメデに残すことにした。

 そして、そのまま街を出て三十分くらい離れた郊外の広い空き地まで行き、ベアトリス捕獲隊本隊の到着を待った。

 しばらくすると、大きな音がして馬と馬車が集まってきた。空き地に部隊が並び、全員降りてきてセオドアに敬礼した。

「ごくろう。今回はここが拠点となる。作戦の実行場所は南の砂漠だ。近衛魔術師隊の三人と、ウォルターは来てくれ。今後の計画を説明する。あとはここで拠点設営に当たってくれ。後から姫様も来る。失礼の無いようにな」

 セオドアは近衛魔術師の六名と近衛騎士隊副隊長のウォルターを集めて打ち合わせを行った。まずは三角結界の設置場所を決めなくてはならない。地図を広げて、おおよその位置を確定する。現場で近衛魔術師は魔道具の調整にかかり切りになるので、護衛のためにそれぞれの場所に二人ずつ、計六人の近衛騎士を連れて行くことにする。この砂漠に魔物が多数出ることはわかっている。三角結界設置中に襲われてはたまらない。

 現地主義のセオドアもその場所に向かうことにした。ウォルターにはこの場所に残って指揮を執ってもらう。

 セオドアは近衛騎士三人を選抜すると、三角結界の魔道具を持った六人の近衛魔術師とともに砂漠へ出発した。

 襲撃場所はできるだけタラメデから近い方がいい。あまり奥に行くと、魔物との遭遇率が高くなる。砂漠の入り口辺りは一面砂と言うことはなく、それなりに歩きやすい。ただ、木は無く、草もまばらに生えているだけなのでまるで生きものがいない様に見える。そしてその光景がいつまでも続く。

 三十分ほど進んだ辺りで、セオドアは近衛魔術師たちに指示した。そこから三方向に別れて、魔道具の設置場所に進むことになる。正確に三角形を作らなくてはいけないので、近衛魔術師たちは魔道具を発動させながら移動する。セオドアは一番遠くに行く近衛騎士、近衛魔術師に着いていった。

「お互いが見えないくらいに離れるぞ」

 この三角結界の真ん中にベアトリスを誘い込むことになる。気づかれてはいけない。

「そうすると、かなり距離を取らなくてはいけませんね」

「離れすぎると能力が下がるのか?」

「多少は。ただ、もともと人一人に対して過剰な結界ですから、問題はありません」

 セオドアは地図を確認しながら、最終的な設置場所を決めた。

「よし。設置が終わったら魔法で隠蔽しておいてくれ。後は結界の効果もしっかり確認しろ。私は戻る」

 そして、結界設置の魔術師と護衛の騎士の残して、セオドアは来た道を戻った。帰る途中、結界の中心辺りで緑の板を地面に差し込んでおく。

 そして、セオドアは一人で拠点に戻った。


※※


 ベアトリスはダグリスの南にある小さな町タラメデでソロの冒険者をしていた。かれこれ一年近くこの町にいる。相変わらず奔放で、すでにタラメデでベアトリスの噂を聞かない者はなかった。もっぱら悪い噂である。NTR魔女と影で呼ばれている。

 朝、いつもの通り冒険者の宿「自由亭」に来ると、ベアトリスは受付のクイルに呼ばれた。クイルは二十歳の垂れ目で女性でベアトリスに彼氏を奪われて泣かされたことがある。とはいえ、クイル自身もベアトリスと浮気してしまっていたし、一度ものにするとベアトリスは興味を失ってしまうので、現在は前の彼氏と元サヤに収まっている。

「あら、昼間からお誘い。クイルならいつでも良いけど」

 NTR以外でもベアトリスは美形ならば誰にでも声をかける。そこに男女の区別はない。

「違いますよ。もう、本当に。指名依頼です」

 ベアトリスは首をかしげた。

「指名? 私に?」

「南の砂漠を渡ってゼノスまでの護衛みたいですね」

 タラメデの南は砂漠になっており、街道は整備されていない。そこで砂漠を渡りたい商人は冒険者に護衛を頼むことが多い。それほど大きな町でないタラメデにそれなりの冒険者が多いのはそのせいだ。

「あら、おいしい仕事ね。でも、どうして私を知っているのかしら」

 ベアトリスは何度も砂漠越えの依頼を受けたことがある。実績は十分だ。しかしそういった冒険者はベアトリス以外にもたくさんいる。わざわざ指名してくるような依頼とも思えない。それにベアトリスはB級なのでそれなりに依頼料も高い。砂漠越えならC級でも十分だろう。

「昔ダグリシアで仕事を依頼したことがあるみたいで、その時の仕事ぶりが良かったからということです。・・・が、正直うさんくさいと思っています。断ってくれても良いですよ。相手が貴族だとうちからは断れないので」

 お人好しのクイルは正直に言う。冒険者の宿は一応依頼のチェックは行っているが、相手が貴族からのものだとほぼノーチェックになる。しかし、指名依頼の場合なら指名された冒険者が断ればそれで終わる。

 ベアトリスはにやりと笑った。

「ああ、大丈夫よ。受けるから」

「えっ、良いんですか?」

 クイルは驚いた。タラメデには貴族は領主くらいしか住んでいないので、貴族からの依頼というもの自体が少ない。そのため、あまり貴族からの依頼を好ましく思わない文化があった。もちろん商人貴族は別なのだが。

「素性がわからないんですよ。一応貴族名鑑に名はあるのですけど、本人かどうかは確認できなくて。少なくとも商人貴族ではないですし」

「あら、心配してくれるなんて可愛い。そんなに私と良い事したいの?」

 クイルはベアトリスから身をひく。

 彼氏を誰かに寝取られ別れを告げられたときはこの世の終わりという気分になり、意地から絶対に別れないと誓った。その相手と対決するつもりであった。しかし傷心のクイルを慰めてくれたのはベアトリスだった。しかし、後で寝取った相手自体がベアトリスだったということがわかり怒りもしたが、結局ベアトリスを憎むことはできなかった。何しろ彼との別れを保留している間に自分がベアトリスと浮気してしまったのだから。

「違います。私は本気で心配して」

 ベアトリスは軽く手を振った。

「わかっているわよ。まぁ、そろそろそんな依頼が来るんじゃないかと思っていたところだから。詳細な依頼は本人から聞けば良いんでしょ。セッティングはできているの?」

 クイルはため息をつく。

「まぁ、いつも通りですから。五時の予約で良いですね」

 タラメデでは依頼者と冒険者が直接話し合って依頼内容を確かめることになっている。そのため、冒険者の宿は予約制で打ち合わせの場所として使われる。このシステムは他の町では行われていないが、冒険者には結構評判が良い。直接話し合えるのなら、依頼の内容の真偽が自分で判断できるからだ。

「良いわよ。五時まで時間が空いちゃったんだけど、一緒に食事にでも行かない。私がおごるわよ」

「仕事中ですから」

「つれないなぁ」

 ベアトリスは流し目を送る。色白で美人のベアトリスに惹かれそうになる心をクイルは押さえ込む。

「どうせ食事だけで済ます気ないじゃないですか。毎日とっかえひっかえで」

「あら、嫉妬?」

「違います。はい、用件は終わりです。もう行ってください」

 クイルはつんと横を向く。ベアトリスは微笑んだ。

「じゃあ、また今度誘うわね。楽しみにしておいて」

 そしてベアトリスは冒険者の宿を後にした。

 ベアトリスはそのまま中央公園まで歩いて行った。

 中央の池の前に物乞いの老婆がいた。ベアトリスは彼女の前に座り込んでコインを一枚器に入れた。

「やっと引っかかったみたい。砂漠を越えるみたいだから、何をしようとしているのか調査してきてくれない」

 そして、ベアトリスがその場を立ち去ると、物乞いの老婆はその場を片付けて公園を去って行った。


※※


 セオドアが拠点に戻ると、オーガスタスがいた。

「お待ちしておりました」

「待たせてすまない。やることが多くてな」

 セオドアが言うと、オーガスタスはすぐに用件を伝えた。

「ベアトリスが依頼を受けました。ただ、タラメデの冒険者の宿では、依頼の時は本人同士の打ち合わせを義務づけられているそうで、やむを得ず夕方頃に設定させていただきましたが、大丈夫でしょうか」

 セオドアは苦笑する。

「冒険者の宿ごとにルールが異なるのは勘弁してほしいものだな。かなり詳細に書いたから、ベアトリスとは明日まで顔を合わせることが無いと思っていたのだが」

 セオドアはベアトリスを見かけたことがある。二年前の騒動の時だ。しかし直接関わったことがないので、向こうはこちらを知らないだろう。

「まぁ、大丈夫だ。むしろ一度会っていた方が信頼されるというものだ。朝になって逃げられていたでは話にならないからな」

「では、こちらが時間と場所になります。私は戻ります」

 オーガスタスは言う。

「ああ、ご苦労だった。私もすぐにタラメデに入る」

 セオドアは残っている近衛隊員と打ち合わせを行った。この拠点が補給基地になる。襲撃場所と拠点を行き来しながら、彼らは三角結界の維持に努める。

 そうこうしているうちに昼すぎになった。


 馬車の音がした。そして、白い馬に乗った銀の鎧を着た騎士が現れた。背後にはそれに続く馬と馬車。なかなか見栄えのする光景だった。

「こんな所にいるのね。セオドアさん」

 馬に乗ったままヴィヴィアン王女が語りかけてくる。

「ようこそいらっしゃいました。姫様。こちらが今回の作戦の拠点となります。テントの場所も準備しております」

 セオドアが慇懃に答えるが、ヴィヴィアン王女はすましたまま答える。

「あら、私はこんなところで野営なんてしないわよ。タラメデまで案内してちょうだい」

 セオドアは眉を寄せた。

「皆さんがあの小さな町に入れば目立ってしまいます。作戦にも支障が出る可能性がありますし、申しわけありませんが・・・」

「ダメよ。せっかく近くに街があるんだから、寝る前に風呂に入りたいわ」

 セオドアは困るが、ヴィヴィアン王女を止めるのは難しい。

「では、せめてその出で立ちを変えませんか。近衛隊だとわかってしまいます」

 しかしヴィヴィアン王女は拒絶する。

「あら、今回の作戦を指揮するのはあなたでしょう。私たちはただ地方巡回している近衛女性部隊よ。それなら目立っても関係ないでしょ」

 本当は近衛隊がこの街にいること自体を隠しておきたいのだが、どうやらヴィヴィアン王女は聞き入れそうにない。

 セオドアは考え直した。もし事前にキャロンとベアトリスが連絡を取り合っていたとしても、近衛女性部隊の事は知らないはずだ。彼女たちは今回急に参入したのだから。彼女たちが地方巡回していたとしてもそれほど違和感はない。

「わかりました」

 セオドアは素直に応える。それから、セオドアは彼女たちをタラメデまで案内した。


「すごく派手な方ですね」

 オーガスタスが言う。

「おかげで、私は目立たずに入ることができたがな」

 セオドアは女性近衛部隊と別れるとすぐにベアトリスに会う準備をした。オーガスタスとローレンスはセオドアの配下として一緒にベアトリスに会うことになっている。貴族が一人だとさすがに警戒されかねない。

「今回の計画は姫様に伝えてあるのですか」

「いや、その時間が無かった。今夜彼女のいる宿に行って話をしてくるつもりだ。おまえたちに宿のことをいろいろ聞いておいて良かった」

「私もこの街に潜むためには色々工作する必要がありましたから。貴族が泊まるような宿から冒険者が泊まるような安宿まで、TPOに会わせて変える必要があります」

 セオドアは微笑む。

「優秀な部下がいてくれてありがたい。そろそろ、落ち合う時間だな。油断はするなよ」

 そして三人は席を立った。


 面談の場所は冒険者の宿の応接室だった。先にセオドアたちが到着し、丁寧に中に通される。少しばかり待っていると、扉がノックされた。

「どうぞ」

 セオドアが立ち上がって答えると、扉が開きベアトリスが現れた。いつも通り白いローブで体をすっぽりと覆っている。ベアトリスが軽く礼をした。

「ご指名ありがとうございます。ベアトリスです」

 セオドアは握手を求めた。

「私はジョニー・ウィルソンだ。今回は急な依頼に応じてもらってありがとう」

 ベアトリスはその握手に答えた。そして全員椅子に座った。ベアトリスが身分証として自分の冒険者カードを机に置いた。セオドアがそれを受け取って確認する。

「ところで、なぜ私のことをご存じなのですか」

 ベアトリスが口を開いた。セオドアはその辺りのことも依頼書には書いていたが、あえて確認するということだろう。セオドアも冒険者時代、依頼の確認を怠ったために窮地に陥ったことがある。

「以前、ゾーロー台地の魔物討伐依頼を出した貴族というのが私の友人でね。彼がその結果にいたく満足していたので、たまたま君のことを知って依頼したのだよ」

 セオドアは冒険者カードを返しながら答えた。

「そうですか。もうかなり昔の話ですね。あの依頼を出した貴族のことはよく覚えていないですけど、あの仕事のことはよく覚えています。私が珍しく苦戦した経験でしたからね。あれから大分力を付けたつもりですので、きっと満足していただけると思います。魔物退治は得意です」

 ベアトリスはにっこりと笑う。ソーロー台地の依頼は三年も前なので、彼女たちも正確な依頼主を思い出すことはできないだろうとふんでいた。もし覚えていたとしても依頼者のことはしっかり調べてある。

「受けてくれるのならありがたい。依頼書にも書いたと思うが、ゼノスに行くのに南の砂漠地帯を抜けて行かなくてはならない。あそこには魔物が多く出ることが分かっているから、君のような冒険者が必要だったんだ」

 しかしベアトリスは怪訝な顔をする。

「失礼ですけど、ゼノスに行くのなら、砂漠を通らない方がいいのでは? 街道の旅なら、私より安く雇える人も多いと思いますよ」

 ゼノスに行くには砂漠を越えるルート以外に整備された街道を行くというルートがある。街道を通っても盗賊の襲撃はまのれないが、魔獣と戦うよりはましである。しかしこの質問もセオドアには想定内のものだ。

「最終的な目的地は話せないのだが、実は領地に帰る途中なのだ。緊急の用事でね。遠回りしている時間は無いんだよ。そもそも街道を行くのならこの二人だけで十分だ。私自身もそれなりに戦える。しかし、砂漠を越えるなら魔物退治の専門家がいないと難しい。この見知らぬ町で信用のおける冒険者を見つけるのは困難だと思っていたのだが、君の名前を見つけたので、藁にもすがる思いで依頼を出したんだ。ダメなら諦めて街道を行こうと思っていたよ」

 砂漠を抜けるルートは徒歩で丸一日程度。しかし街道のルートは大きく迂回しているので馬でも三日かかる。砂漠を抜けるには有力な冒険者の助けが必要だ。外れを引けば全滅しかねない。

「そういうことでしたら、受けますよ。砂漠越えなんて、何度もやっていますし」

「ありがとう。これで間に合う目処が付きそうだ」

 セオドアは安堵の笑顔で言った。ベアトリスも微笑み返す。

「それで、出発は明日の朝で良いのですか」

「ああ、君にも準備があるだろうが、申し訳ない。明日の朝には出発せねば間に合わない可能性があるんだ」

 すると、ベアトリスは軽く答えた。

「あら、私なら、今からでも大丈夫ですよ。どうしても急ぐのなら」

 それを聞いてセオドアは驚く。

「砂漠を越える旅だ。準備が必要だろう」

「必要なものは現地で調達するのがモットーですから。まぁ、そちらも準備があるのでしょうから、明日の早朝、南側の門で落ち合うというのはいかがです」

「ああ、それでいい」

 少し緊張しながらセオドアは答えた。ベアトリスは冒険者の宿が発行している書類を机においた。

「じゃあ、契約成立ということで。こちらにサインをもらえますか」

「ああ、わかった。明日を楽しみにしているよ」

 セオドアはサインをしてベアトリスに紙を帰した。


 セオドアはベアトリスがもっと探ってくると思っていたが、意外と表面的な話に終始した。それが少ししこりのように残る。想定質問の答えをいろいろ用意してきていたので、少し拍子抜けである。

 セオドアはそのまま三人でレストランに行き、食事をしながらベアトリスについて評した。気になる点はあるにしても、作戦に影響はないだろうということになった。

 二人と別れた後、セオドアは一人で、ヴィヴィアン王女のいる高級宿に向かった。受付でヴィヴィアン王女を呼び出すと、部屋着のままヴィヴィアン王女は階段を降りてきた。

「ご苦労様。セオドアさん」

 ヴィヴィアン王女の蠱惑的な色気にセオドアは少し動揺した。そして二人は打ち合わせができる個室に案内された。

「それで、明日はどうするの」

「はい、明日の作戦をご説明します」

 そしてセオドアは地図を開いて、襲撃場所を示しながら計画を説明した。一通り聞いてからヴィヴィアン王女は言った。

「じゃあ、私はあなたたちの後から付いていくわ。馬車だと目立つから、全員馬で行くわね。貸してもらえるかしら」

「馬では砂漠は越えられませんよ」

 するとヴィヴィアン王女は笑い出す。

「当然でしょ。でもこの襲撃場所まで往復するくらいなら簡単よ」

 セオドアは少し考える。

「結界発動の合図として使う受信の魔道具を一つ渡しておきます。私からの連絡の後で駆けつけて来ても十分に間に合うはずです」

「あら、私たちを邪魔者扱いするの? でも良いわ。私も暑い砂漠に長くいたくないし、馬も可哀相」

 ヴィヴィアン王女が快諾してくれたので、セオドアは安心する。冒険者は周りの敵を察知する能力に長けている。ヴィヴィアン王女がうかつに近づいて来ようものならすぐに警戒されるだろう。

「話は終わりね。ねぇ、セオドアさん。これから時間はあるかしら」

 ヴィヴィアン王女が妖しげな視線を向ける。セオドアはどぎまぎする。まさか口説かれているのだろうか。ヴィヴィアン王女は美女である。そんな台詞を言われると心が揺れてしまう。

「ええ、まぁ、少しなら」

「じゃあ、一緒に部屋に来てくださらないかしら」

 セオドアの頭は一気にのぼせ上がった。これは、まさか。

「わ、わかりました」

 声がうわずらないように注意しながら、セオドアは答えた。

「じゃあ、行きましょう」

 ヴィヴィアン王女は立ち上がって個室を出た。セオドアはぎくしゃくした動きで、ヴィヴィアン王女に付いていった。セオドアはもう三十代後半だが、結婚はしていない。相手は王族。しかも親子ほども年が離れている。誘いに乗ってはいけないと思いつつも、この誘惑を拒むのは難しい。

 ヴィヴィアン王女は階段を上がっていき、もっとも豪華な扉の前に立つ。恐らくこの宿一番の部屋だと思われる。

 ヴィヴィアン王女は魔法で解錠すると扉を開けた。

「どうぞ。お入りになって」

 そしてヴィヴィアン王女は部屋に入っていく。

「し、し、失礼します」

 セオドアは緊張したまま部屋に入った。そして驚愕した。中で行われていた近衛女性部隊全員に対する「しつけ」。ヴィヴィアン王女はそれにセオドアを参加させようとしたのだった。

 しかしセオドアはその光景を見ただけで萎えてしまった。普通の男性であるセオドアにヴィヴィアン王女の嗜虐趣味は共感できない。セオドアは何とか言い訳をして、早々にヴィヴィアン王女の部屋から退散した。

「さすがは噂に名高い変態王女か」

 高級宿を出てセオドアは一人つぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ