表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた
118/137

(19)密談

 痛みから回復できたアイリーンとスーザンは何とか服を身につけた。あまり遅いと追加でしつけられる可能性がある。マリアはそれを見てから指輪で鍵を開けた。

「姫様。今日も訓練してきて良いでしょうか」

 ヴィヴィアン王女はベッドに寝転がったまま笑う。

「あら、努力家なのね。勝手にしなさい。いくら頑張っても、足手まといは遠征につれていかないけどね」

 マリアはヴィヴィアン王女に礼をすると、二人とともに部屋を出た。マリアはまっすぐ四階の近衛女性部隊の部屋に向かう。べつにアイリーンとスーザンを護衛しているわけではない。ヘレンに呼ばれていたからだ。

「アイリーン、ひどいわ。何でやめてくれなかったの!」

「そんな、私は姫様に言われたまま」

 一方的に負けさせられたスーザンがアイリーンに愚痴を言う。マリアは遮った。

「言い合いは後にしろ。部屋に帰るには気合いが必要だぞ」

 二人は昨日のことを思い出して顔を引き締めた。すれ違う男たちはぎらぎらとした目で三人を見ていた。マリアが目で威嚇すると、嫌そうな顔でにらみ返してくる。

 女性近衛隊の部屋の前に来ると、男たちが数人集まって、扉を叩いていた。

「昨日の奴らはこちらで粛正した。だが、どうしても謝りたいという奴がいてな。俺たちがしっかり監視するからここを開けてくれ」

「ああ、申し訳なかった。今日グレスタの街で流行のスイーツを買ってきたんだ。これをもらってくれるだけで良い」

 男たちは扉の前で哀願している。中からの反応はないようだ。マリアたちが近づいていくと、彼らはターゲットを変えた。

「あ、なぁ、俺たちを取り次いでくれよ。本当に反省しているんだ。こいつを渡してくれるだけでも良い」

 そして手に持った綺麗な箱を渡そうとする。

「いらん」

 マリアは冷たく断った。

「そう言うなよ。今売れているスイーツなんだぜ」

 そしてスーザンに箱を渡そうとした。スーザンもおずおずと手を伸ばす。

「中に何が仕込まれているか分からんな」

 マリアが言うとスーザンは慌てて手を引いた。

「な、何にもしてねぇよ!」

 男はわめくがマリアは男を押しのけた。

「邪魔だ。どけ。こちらは明日遠征だ。打ち合わせがある」

「俺たちだって遠征だよ。丁度良い。俺たちとも打ち合わせようぜ」

 マリアは男を無視して、扉の前まで来た。スーザンとアイリーンもマリアにぴったりと寄り添っている。

 マリアがアイリーンに合図すると、アイリーンは扉にぴたりとくっつく。そして横にスーザンも並ぶ。マリアは二人を守るように立ち、男たちににらみを利かせた。

 アイリーンは二回ノックし、少し間を開けてから五回、更に間を開けて二回ノックした。しばらくして中から声がする。

「なんの用事があるの」

 アイリーンは扉の隙間に口を寄せて小さな声で言った。

「昨日は用事が無かった」

「誰がそこにいるの」

「今日は誰もいなかった」

「いつからそこにいるの」

「明日からここにいる」

 すると鍵が開いた。二人が中に入ったところで、マリアはいきなり肩をつかまれて、扉から離された。そこに男が突っ込んでくる。

「今だ、行け!」

 しかし開いた扉から電撃が放たれた。

「うわっ」

 まともに電撃を食らって、男がのたうち回ったところで、マリアはすぐさま扉の中に飛び込んだ。二発目の電撃が私の上を過ぎていく。

 マリアはすぐに扉を閉じて鍵を閉めた。

「ふぅ」

 マリアが一息つく。


「やっぱり全部罠だったのね。開けなくて良かった」

「何言っているの。信用できるわけ無いでしょ。対策しておいて良かった」

 彼女たちが口々に言う。

「昨日だって、施錠の魔法を二パターン掛けたのに、朝確認したら解錠されそうになっていたでしょ」

「あれ、気のせいじゃなかったんだ」

 ノックの数と合い言葉、そして扉が開いたらすぐに電撃魔法。知っていなければ入れない用に対策を打っていた。マリアは電撃魔法が飛んでくることくらいしか知らなかったので、部屋へ入るにはアイリーンやスーザンの協力が必要だった。

 さっそくサリーが扉に魔法をかけている。サリーの施錠の魔法はヴィヴィアン王女よりも弱い。そこでテリーサが別の施錠の魔法をかけて強化した。

「開けるのが面倒なんだよね」

 テリーサがふっと息を吐く。外に出る度にサリーとテリーサが解錠の魔法を唱えないといけないのは面倒なのである。

「魔法だけじゃなくて、物を置いて扉を破られないようにする手もあるぞ」

 マリアが忠告した。

「それ、何かしら」

 床に小箱が落ちていた。先ほどの男が持っていた物だ。ちょっとした隙に投げ入れたようだった。

「さっきの男はグレスタで流行っているスイーツって言っていたけど・・・」

 スーザンが言うとみんなの目の色が変わる。

「スイーツ!」

 女たちが手を伸ばそうとしたので、マリアが言った。

「そのまま魔法で燃やしておけ。なにかが仕込まれているぞ」

「えぇーっ」

 手を伸ばしていた女性が哀願するような目でマリアを見た。どうしてもマリアの許しが欲しいらしい。しかしマリアは冷たく言う。

「本当にスイーツなら投げ入れられないだろ。形が崩れて食べられなくなる。疑わしきものには手をつけないのが鉄則だ」

 何人かがしゅんとした顔をする。

「分かった。みんな、良いわね。私を恨まないで」

 沈痛な顔で、バーバラが炎の魔法を放って小箱を焼き尽くした。

「ああ、もったいない・・・」

 女性たちの声に、マリアは肩をすくめる。

「さぁ、話を進めるぞ。私もあまり帰りが遅くなるわけにはいかない」

 扉からは懲りずに何度もノックの音が聞こえてきていた。


 十人は床に円を描いて座った。

「遠征の話だな」

 マリアの問いにヘレンが答える。

「ええ、お願い。今回もマリアは来てくれないし、またなにかアドバイスが欲しいわ」

 マリアは遠征の際にこっそり彼女たちにアドバイスをしていた。サリーとヘレン以外は素人同然なので、ヘレンが危機感を覚えてマリアに相談するようになったのである。

「まぁ、今回私たちの出番は無いと思うのよね。相手は一人だし、近衛騎士隊がいるみたいだし」

 サリーがわざと軽い口調で続けた。今回の遠征では主部隊が近衛騎士隊であるため、近衛女性部隊がやることは少ないはずである。ヴィヴィアン王女が退屈だからと申し出ただけなのだ。いつもよりも楽な任務だと皆考えていた。

 マリアは少し考えてから口を開いた。

「そうだな。出番がない遠征になるだろう。だから、一つだけアドバイスしておく。昔も言ったことだが、もし何か想定外のことが起こったときは全てをかなぐり捨てて逃げろ。後から責任を負わされるとか、そういうことは考えなくていい。とにかく逃げて実家に身を寄せろ」

 突然のマリアの発言に、皆が驚いたような顔をした。

「今、そのアドバイスを繰り返す意味って何?」

「相手は一人だし、危険はなさそうなんだけど」

 アイリーンとテリーサが疑問の声を上げるが、マリアは続けた。

「もし、ベアトリスが囲まれても余裕を見せているようだったら、すでに罠にかかっている可能性がある。姫様も近衛騎士隊も引かないだろうが、おまえたちはすぐに撤退を考えろ。やばいと思ったら、そこからとにかく全力で逃げろ。身を隠してできるだけ早く実家の親の元にでも駆け込め」

 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

「罠、だとしても、大勢の近衛隊がいる中で、たった一人がどうにかできるものなの? 一度逃げたら、私たち、国から追われる身になっちゃうんだけど」

 テリーサが疑問を呈するがマリアは厳しい顔のまま言った。

「キャロン、ベアトリス、アクアという三人組は私が今まで出会った中で、もっとも危険な冒険者だ。キャロンがあれだけの攻めを受けても平然としているのを恐ろしいと思わなかったのか? ベアトリスにしても、自分を捕らえようとする奴らが大勢来る事なんて想定しているだろう。準備していないわけがない」

 マリアから見るとこれはあからさまな罠である。キャロンとベアトリスとアクアが仕組んでいるに違いない。こういう時は関わらないことが正解だ。

「分かったわ。今までもマリアのおかげで助かってきたのだし、今回も信用するわ」

 ヘレンが答えた。

「あんたたちは初期メンバーだからいいが、他の者は平民の私を信用して良いか分からないだろう。しっかり意思を統一して置いてくれ」

「そんなことない!」

 セシリアが叫んだ。

「私はマリアを尊敬しているし、いつも助けてくれてることに感謝している」

 マリアは眉を寄せた。

「助けたことはないと思うぞ。私は姫様の言いなりになっておまえたちをいたぶってきただろう」

 するとマリアは近衛女性部隊たちに囲まれてしまった。

「あのね。マリア。あなたが私たちを責めるとき、できるだけ配慮してくれていることは十分わかっているのよ。あまりこういう機会が無いから言えなかったけど、みんなマリアに感謝しているの」

 ルーシーも言う。マリアは肩をすくめた。

「持ち上げすぎだ。私は保身のために動いているに過ぎない」

 マリアが立ち上がろうとすると、スーザンが服をつかんで無理矢理座らせる。

「この際だからいろいろ聞いておきたいことがあるんだけど」

 マリアは大人しく座り直す。

「いきなりなんだ」

「マリアは個人的な話は一切しないし、姫様に何をされても何を言われても感情を殺して対処しているじゃない。私たち、マリアのことがあまり分からないのよ」

「個人的な付き合いをする必要が無いからな。忘れているのか分からんが、私は平民だ。近衛女性部隊という枠組みから外れればお互い会話すらさせてもらえない間柄だ。今こうしてしゃべっていること自体が処罰ものだからな」

 マリアは冷たく言うが、それでも彼女たちはひるまなかった。

「そうじゃないんだよなぁ」

 マーサが髪をかき上げながら言う。

「ほら、近衛女性部隊ということなら私たちは仲間でしょ。仲間同士でお互いを理解し合うのは必要だと思う。たった十人しかいないんだから」

 マリアはため息をついた。

「理解も何も、私のことは良く知っていると思うんだがな。十五歳で入隊してから、十年も近衛隊にいる古株だ。一時は第一近衛隊の副長までやっていたが、除隊しそびれて、今は姫様の奴隷と言うだけだ」

「それは経歴であって、私たちの知りたいことじゃないんだよな」

「じゃあ、何が知りたいんだ?」

 マリアが言うとみんなが顔を見合わせた。

「えーと、好きなもの、とか?」

「お見合いじゃないんだから」

 ルーシーにバーバラが突っ込みをいれる。

「じゃあさ、ちょっと濃い質問で悪いんだけど。マリアは女の人と○○するのが平気な人?」

 アイリーンがマリアに突然尋ねてきた。マリアはなぜそんなことを聞かれるのか理解できずにいた。

「そうだな。昔から男とも女とも経験はあるし、別に嫌だとは思っていないな。まぁ、好き好んで○○したことは・・・」

 そして少し考える。

「女と一回? くらいか?」

「え、と。まさかそれ以外は常に無理矢理されていたとか・・・」

「基本的にはそうだな。○○されるか、貴族のジジイに呼ばれて○○れるかのどちらかだ。おかげで、あらゆる○○の経験をさせられたがな」

 さすがにみんな引き気味の顔をする。

「マリアって、○○されそうになっても相手を叩きのめすイメージなんだけど」

「さすがに十代の頃はこんな体をしていないさ。そして十代が一番狙われるんだよ。力も無いし、若いってだけで男どもは群がってくるからな。私がこんな体なのは、男に見向きもされない体にしたかったという理由もある」

 マリアは平気な顔で言うが、近衛女性部隊の面々はつらそうな顔をする。女性としてきつい生き方をしてきたことを感じたからだ。

「その、女の人との一回って言うのはマリアが望んだの?」

 アイリーンが尋ねる。

「彼女は私にくどかれに来たという感じだったな。その時は女との経験が多い時期だったから、私も魔が差したのかな。相手を喜ばせるのはどうすれば良いのかとか、色々考えながら○○していたからよく覚えている。それまでは女と○○ときも、言われたままとか、されるがままとかだったんでな」

「でも、マリア。キスとかしてこないよね。だから女の人と○○のが嫌いなのかと思っていた」

 アイリーンがつぶやく。

「あれは姫様の前だからだ。おまえたちの嫌がる顔を見せる事が目的だからな。別にキスも○○も嫌いというわけではない。上手いかどうかは別だが」

 マリアが気軽に答えると、なにか皆の目の色が変わった。

「マリアって、つまり自分からは積極的に○○しないのね。実は受け身だとか」

「受け身。言われてみればそうだな。最近は攻めることを強要されてるから、多少うまくなったかもしれないが。相手に○○るときは無理矢理されるか、相手の指示通りに動くかくらいしかなかったからな。女との経験だって、ようは貴族のジジイどもが興奮するための○○みたいなものだ。やれと言われたからやっていただけで、自分で考えて動いていたわけじゃない」

「意外、マリア、攻めるイメージなのに。可愛い」

「可愛い!?」

 唐突な言葉にマリアは戸惑った。過去にマリアに向かって可愛いとのたまったのはベアトリスだけだ。

 おずおずと、バーバラが口を開いた。

「だったら、マリアを攻めていい?」

「は?」

 マリアはあっけにとられる。

「いつもやられっぱなしだから、悔しい」

「ちょっと、バーバラ。何言っているの!」

 ヘレンが止めようとする。

「私が女性に目覚めたのはマリアのせい。あの男たちにいたぶられた後、マリアが優しく○○してくれた」

 マリアは逃げたくなってきた。このままここにいると何かされそうだ。

「優しかったか? 姫様の手前、優しくはできなかったと思うのだが」

「全然違っていた。すごく気にかけてくれていることが伝わった」

 バーバラは這うようにマリアに迫った。マリアも思わず下がり気味になった。そしていきなりバーバラはマリアに抱きついてきてキスをしてきた。

「うわっ、バーバラ、やるぅ」

「じゃあ、次は私も」

 なぜか皆が盛り上がる。マリアは無理矢理バーバラを引き離した。それでも引き下がろうとしないバーバラを振り払って、マリアは立ち上がった。所詮魔術師であるバーバラがマリアを止められるわけがない。バーバラが不満そうにマリアを見上げた。マリアは背中が冷たくなって視線を外した。

「もう時間だ。これ以上遅れるわけにはいかない」

「えーっ」

 みんなが口々に不平を言う。しかし、マリアは扉の方に歩いて行った。

「鍵を開けてくれ。そして、私が出たらすぐに施錠して明日まで絶対開けるなよ」

「仕方がないなぁ。おもしろくなりそうだったのに」

 サリーは笑っている。

「うるさい」

 サリーとテリーサが解錠の魔法をかけた。マリアが扉を開けると、再び男たちが殺到した。それを防ぎながらマリアはしっかり扉を閉める。

「くそ」

「筋肉女だけかよ」

 彼らは口々にマリアをののしる。マリアは彼らを無視して歩き出した。


 マリアは見回りの近衛隊ににらまれながら、城内を散策する。そして再び物置まで来ると、辺りに人がいないことを確認してから中に入った。そのまま昨日と同じように部屋の隅から下に降りた。

 マリアは今日も呼ばれていることを感じていた。だから、暗闇の中でルクスを探す。すると、昨日と同様部屋の真ん中に光が浮かび、ルクスが現れた。しかしマリアは直視できずに一瞬目を背けた。

 昨日よりもひどい有様だった。体が赤黒くなっているし股間も胸も完全にえぐり抜かれている。あごも裂けていて、まともに話せるようには見えない。マリアはそれでも顔を上げてルクスに近づいた。

「良かった。また来てくれたんだね。お姉ちゃん」

 相変わらず、ルクスは怪我をしている素振りを見せない。それにあごが壊れているはずなのに、はっきりとした声が聞こえる。

「おまえは、キャロンと繋がっているんだな。彼奴は自分の体のダメージをおまえに移しているのだろう」

 昨日冷静になって思い返してみると、ルクスの怪我がキャロンの拷問を受けた痕と一致することに気がついた。そして今日ルクスを見てマリアは確信した。キャロンの不死身の正体がこの少年だったのだ。

 マリアはすぐにルクスの手をつかんだ。マリアの体から魔力が吸い出され、みるみるルクスの怪我が治っていく。

「ありがとう。お姉ちゃん。もういいよ」

 マリアはルクスから手を離した。そこには薄い栗色の髪の美しい少年が立っていた。

「おまえは人間ではないな。魔力で傷が治るというのはおかしい」

 ルクスは少し首をかしげた。ルクスは何を言われているのか理解できていないようだった。マリアは質問を変えた。

「おまえはどうしてここにいるんだ」

「んー、わかんない」

「キャロンに連れてこられたのか」

「わかんない」

 マリアは少しイライラしてきた。らちがあかない。

「昼間は何をしているんだ。一人なのか」

「昼は寝ているよ」

 初めてルクスはまともに応えた。

「寝てる?」

「うん。今起きたところだもん。これから食事なの」

「食事?」

 ルクスは歩いて行くと箱を開けて、干し肉を取り出す。

「お姉ちゃんも食べる?」

 少年は食事を始める。よく見ると、まわりにいくつか箱が並んでいる。

「そうか。キャロンが食事抜きで生きていられるのもそういう理由か」

 マリアは納得した。傷を移しているだけではなく、ルクスからエネルギーを得ているのだろう。キャロンにとっては非常に便利な存在と言えそうだ。しかしそれならかなり不憫だとも思える。

「ここからは出ないのか」

「出たらダメだって」

「キャロンに言われたのか?」

「わかんない」

 マリアは気がつく。わかんないというのははぐらかしているのではなく、本当に知らないのだ。

「他に、ここで何をしているように言われたんだ」

 マリアは更に尋ねた。

「何も言われていないよ。僕はここにいなくちゃいけないの。だから、食べたり寝たりしている」

「一人で寂しくないか?」

 するとルクスは可愛らしい笑顔を浮かべた。

「お姉ちゃんが来てくれるから平気」

 マリアは少し照れくさくなった。そして強く答える。

「わかった。毎日来てやる」

「やった!」

 ルクスは素直に喜んだ。マリアはキャロンの事情に深入りするつもりはなかったが、この不憫な少年についてもう少し知りたいと思った。

「なにか持ってきてほしいものはあるか」

 ルクスは少し考えてから答えた。

「大丈夫。食べ物はまだたくさんあるから」

「食べて寝ているだけだと体がなまるぞ」

 するとルクスは困ったような顔をする。

「そうかな。でも、僕はここから動けないし」

 ルクスが狼狽するのでマリアは慌てた。

「悪いな。困らせる気は無かったんだ」

「ううん、大丈夫。じゃあ、バイバイ。また明日も来てね」

 いきなりルクスはそう言うと、手を振った。そして唐突にマリアは部屋から追い出された。マリアは呆然と壁を見る。

「ここにいられる時間はルクスが決めているのか。それともキャロンが決めているのか」

 マリアははしばらく壁を見ていたが、諦めてヴィヴィアン王女の部屋に帰った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ