(15)拷問
ヴィヴィアン王女はキャロンに近づいて、いきなり呪文を唱えた。そして手をかざすとキャロンに水流を浴びせさせる。
かなり長い間体中に強烈な水をぶつけ、やっと魔法を解いた。
「臭くていけないわ。あなたたち、掃除をして空気を入れ換えて」
自分で辺りを水浸しにしたのに、後片付けは近衛女性部隊の仕事となる。そんな扱いに慣れている隊員たちはてきぱきと、掃除道具を取りに行った。
ヴィヴィアン王女は濡れ鼠になったキャロンを見返した。
「どうかしら、久々の水浴びは。冷たすぎたかしらね」
実際に、部屋の気温はぐっと下がった。わざと殊更に冷たい水を浴びせたのだ。
「汚れを落とすには熱い方がいいと思うが? まぁ、そろそろ洗いたかったところだからちょうど良かったよ」
そういうキャロンは別に寒がる様子を見せなかった。ヴィヴィアン王女は少し思案した。
「どんな魔法なのかしらね。色々試してみようかしら」
隊員たちが掃除をしている中、ヴィヴィアン王女はキャロンに近づいていき、さっそくちょっかいをかけ始めた。近衛女性部隊員たちはヴィヴィアン王女の邪魔にならないように遠巻きに動き、更にそちらを見ないようにしていた。
しかしヴィヴィアン王女の挑発は不発に終わる。キャロンにやり返されたヴィヴィアン王女の顔が一気に怒りにゆがんだ。
「この!」
そしてヴィヴィアン王女はキャロンの腹に何度も拳を叩き込んだ。ヴィヴィアン王女は騎士としても魔術師としても鍛えている。力にはそれなりに自信があった、しかしキャロンは気軽な口調で言う。
「その程度じゃ、私の腹筋は破れないな」
ヴィヴィアン王女もふと我に返ってにやりと笑った。
「そうね。外からは壊せないのね。だったら、こっちはどう!」
ヴィヴィアン王女は更なる拷問を始めた。しかしそれも不発に終わる。キャロンに翻弄されて、ヴィヴィアン王女が大きく後ろに飛ばされた。マリアがすぐに飛び出していってヴィヴィアン王女の体を支えた。濡れた床で転ばせるわけにはいかない。これで何もしなかったらマリアはまたひどいめに遭う。しかし助けたところで感謝などされない。
ヴィヴィアン王女はすぐにマリアを振り払って一人で立った。
「な、何なのおまえ」
「今のはいい攻めだったな。気持ちよかったぞ。ついでに○○も綺麗になったようだ」
ヴィヴィアン王女はキャロンをにらんでいたが、魔法で手や顔に付いた汚れを流し落とした。手や顔を拭いたハンカチーフをその場に捨てる。ヴィヴィアン王女は一生懸命掃除をしている近衛女性部隊に冷たく言った。
「何をしているの。時間がかかりすぎよ。それからマリア。急いで鞄を持ってきてちょうだい」
近衛隊たちは作業を急ぐ。マリアもすぐに部屋を出て行った。マリアが全力で階を上がって、魔法で施錠された扉を指輪で開ける。そして二つの重い鞄を持ってすぐに戻った。少しでも遅れると、またヴィヴィアン王女の機嫌が悪くなる。
マリアが部屋に戻るとちょうど掃除が終わったところのようだった。
「あの女を椅子から降ろして、立たせたまま大の字に繋ぎなさい。逃がしたりしないでね。あのチョーカーは魔法を封じているだけなんだから、力で抵抗されたら意味が無いわ。魔術師は拘束の魔法を使いなさい。「しつけ」られたくないのならしっかりやる事ね」
近衛女性部隊のメンバーたちが慌てて動く。真剣な顔で魔術師たちが拘束の魔法を使い、騎士たちがキャロンを椅子から解放する。マリアが鞄を床に置いてヴィヴィアン王女の背後に立った。
「マリア、椅子になりなさい」
マリアは大人しくその場で四つん這いになった。そこに思いっきり乗っかるようにヴィヴィアン王女は座ってきた。これがマリアへのいつもの扱いだ。
女性部隊たちが作業を終える。
「まずは、体が傷つかないって言うのがどれほどのものなのか確かめたいわね。さしあたって、鞭からいきましょうか。アイリーン、荷物の中に鞭が入っているから、あの女に打ちなさい」
ヴィヴィアン王女が一人の近衛騎士に視線を向ける。
「はい!」
アイリーンは今年入隊したばかりの近衛騎士だ。それでももうさんざんひどい目に遭わされているから従順である。アイリーンはすぐに鞄を開けて鞭を取り出した。アイリーンはその鞭を見て少し嫌な気分になる。つい先日この鞭で打たれまくったばかりだった。
「そっちじゃないわよ。それはあなたを打った方の鞭でしょう。それじゃあ痛いだけよ。奥に茨の付いた奴があるでしょ。それなら肉がえぐれるわ」
アイリーンは恐る恐る奥の方にあるトゲトゲの付いたものに触れる。目には入っていたが、いったい何なのかわからなかった。こんなもので叩かれたらと思うと血の気が引く。
だが躊躇していると本当にこれで打たれかねない。アイリーンはそのトゲトゲの付いた鞭を手に持って、ヴィヴィアン王女に見せた。アイリーンの顔は引きつっている。
「それよ。鞭の扱いには気をつけてね。それで自分の体を打ってしまったらただの傷じゃ済まなくなるわよ。魔法でも治らないかもね」
「は、はい」
アイリーンは恐る恐る鞭を振る。へっぴり腰で鞭を振るうので、威力が足りない上、跳ね返った鞭の先が服に当たる。そのつどアイリーンは逃げなくてはならなかった。
「真面目にやりなさい。あなたも鞭で打たれたいのかしら」
「いえ、は、はい」
そしてアイリーンは必死で鞭を振る。どうやらコツは思い切りよく振ることのようだった。ヴィヴィアン王女の言葉に何度もびびりながらも、アイリーンはやっと、まともに鞭を打てるようになった。残念ながら跳ね返った鞭が当たったせいで服が色々と破けてしまったが。
「しつけ」での鞭打ちはたいてい男が振っていたり、ヴィヴィアン王女自らが振っていたりしたから、アイリーンが鞭の扱いに慣れていないのは当然だった。
しばらくしてからヴィヴィアン王女ががっかりした顔をする。
「もういいわ」
アイリーンはほっとして鞭を振るのをやめる。ヴィヴィアン王女はマリアから降りてキャロンに近づき体に触れた。
「全くの無傷ね。異常だわ」
ヴィヴィアン王女は舌打ちをすると戻り、マリアの背中にどんと座った。
「次は魔法の耐性を見てみましょう。あなたたち、その女に攻撃魔法を打ちなさい」
すぐに四人の魔術師がキャロンの周りに並ぶ。そして呪文を唱え始めた。電撃とか火の矢とか、次々とキャロンの体を貫いた。でもキャロンは平然としていた。あくびすらしている。
「もっと強い魔法を使いなさい」
ヴィヴィアン王女は叱責する。でも彼女たちは困った顔で同じような魔法を打っている。実際に彼女たちは強い威力の攻撃呪文を知らない。もちろん通常の攻撃呪文でも魔力を乗せれば強い威力になるが、彼女たちはそこまで魔力が多いわけでも無い。
しばらくして、ヴィヴィアン王女は魔法攻撃をやめさせた。魔術師たちは疲れ果てて肩で息をしている。魔力を強く乗せていたので魔力がかつかつだった。
「なるほど。防御魔法でも強化魔法でもないわね。ここまで完全に防げるわけ無いもの。マリア、鞄を持ってきなさい」
ヴィヴィアン王女は立ち上がる。マリアも立ち上がり、ずっしりと重い鞄を取ってきた。
まずヴィヴィアン王女が取り出したのは金属の厚い板二枚がねじで繋がれている道具だった。それをキャロンの指にはめ込む。
「つぶせるか試してみましょう」
そしてねじを巻いていく。思わず目を背けたくなる光景だ。いわゆる指つぶしという拷問器具だ。
しかしある程度押し込んでいったところでヴィヴィアン王女の手が止まる。
「ここから先はねじ込めないわね。急に固くなるわ」
「ろくでもない道具を持っているものだな。残念だがそれ以上は無理だぞ。私の指をつぶせるわけがない」
ヴィヴィアン王女はあまり挑発を気にしていないようだ。指に付けた金属を放置し、そのままもう一つ同じものを取り出す。それでもヴィヴィアン王女は飽き足らず、キャロンの敏感な部分にも指つぶしを仕掛けていく。
「あら不思議、また急に固くなったわ」
至る所に指つぶしを仕掛けているが、どれも途中で動かなくなる。しかし、体中から指つぶしをぶら下げさせられるのは見た目にも残酷だ。
「じゃあ、目はどうなのかしら」
ヴィヴィアン王女は手を広げる。いつの間にか中指に指輪がはめてある。そして手のひらで、キャロンの右目を打った。
側にいた近衛隊たちは顔を背けた。ヴィヴィアン王女は手のひらを見た。
「あらすごい、針が折れているわ。目も守られているのね。もしかして・・・」
ヴィヴィアン王女は鞄からハサミを取り出してくると、キャロンの髪に刃を入れた。そして驚きの声を上げる。
「髪の毛すら傷つけられないのね。これは普通の魔法じゃないわ。そうね。時を止めている感じかしら。私の知らない魔法なのね」
その時キャロンの胸の指つぶし器が外れて床に落ちた。
「おまえみたいな変態もいるからな。しっかり防御させてもらっているさ」
「まだ色々持ってきているわ。念のために試させてもらうわね」
ヴィヴィアン王女は嬉々として話す。
鼻をつり上げる道具や目を無理矢理開かせる道具。下あごにはめておもりをつり下げる道具。性的な部分にもひどい拷問器具を仕掛けていく。そしてさっきのように外れ落ちないように、魔法で固定する。キャロンは体中で重りを支えねばならず、更に口を開けたままで何もしゃべれない。見るも無惨な格好で重りを支えている。それを見ながらヴィヴィアン王女は手を叩く。
「すごいわ。よく支えられるわね」
ヴィヴィアン王女はキャロンに近づいて、重りを持ち上げては手を放し、更なる加圧をしていた。
「口は開いているのにあごが裂けていかない。重りを支えているのは自分の力なのかしら。それともそれも魔法なのかしら」
キャロンは口を開けっ放しにされているので、答えられない。しかしヴィヴィアン王女をにらんでいる。ヴィヴィアン王女は笑みを浮かべた。
「壊れないおもちゃなんて素敵ね。持ってきたものじゃ足りないわ」
そして私たちの方を見る。
「ちょっと買い物してきてちょうだい」
ヴィヴィアン王女が、口頭でいくつかの物を指示すると、三人の近衛騎士がすぐにかけだしていった。
「マリア、椅子」
またヴィヴィアン王女はマリアに命じた。ヴィヴィアン王女はマリアに座ったまま、無様な姿のキャロンを面白そうに眺めていた。
その後もヴィヴィアン王女は面白がって、キャロンの体をいたぶり続けた。体中がずたずたになりそうな状況だったが、キャロンの体は壊れなかった。しばらくして近衛隊の人間が不意に扉を開けた。そして悲惨な状況のキャロンを見て絶句する。
「あら、何か用?」
ヴィヴィアン王女はその男に尋ねる。
「あの、晩餐の準備が整いましたので、お呼びしに参りました」
「ああ、もうそんな時間。じゃあ、マリア、セシリア、アイリーン、付いてきなさい。他の者たちはこの女が逃げないように見張っていてね」
ヴィヴィアン王女はキャロンをそのまま放置して歩き出す。見張りに残される近衛女性部隊員は悲惨だ。とても直視できる姿じゃないキャロンを見張っていなければならない。
マリアも晩餐には顔を出したくなかった。エドワード王子がいるのが確実だからだ。マリアは自分がエドワード王子に嫌われていることを知っている。王宮でも王子と鉢合わせないように注意をしていたくらいである。しかし、ヴィヴィアン王女の命令ならば仕方がない。
「こちらも交代で食事を採ってよろしいでしょうか」
マリアがヴィヴィアン王女に進言する。ヴィヴィアン王女はマリアを見て笑う。
「あら、そうね。その女を逃がさなければ好きにして良いわよ」
マリアは視線でヘレンに合図をして、大人しくヴィヴィアン王女に続いて部屋を出た。
※※※
ルクスは再び電話をかけた。
「あらこんにちは。元気?」
「元気じゃない。ひどい目に合ってる」
電話の向こうのベアトリスにルクスは応える。
「拷問でもされた? 今のキャロンなら問題ないはずだけど」
「ああ、拷問されてるな。ヴィヴィアン王女があれほど変態だとは思わなかった。私の身体が傷つかないことがわかると容赦なくいたぶってきた。ルクスが心配だ」
ルクスが電話で応えると、ベアトリスは少し思案した。
「ルクスの体は特殊だから、かなり耐えられるとは思うけど、確かに毎日連続で拷問を受けたら保たないかも」
「これからも毎日拷問をかけてきそうだな。あの女は」
「それじゃ。魔力の補給源が必要になるわね」
キャロンはすぐに答えた。
「目はつけてある。今日ヴィヴィアン王女とともにマリアが現れた」
「マリア? 嘘、まだ近衛隊にいたの!」
「そのようだな。相当不遇な扱いを受けているようだが、なぜ逃げないんだか」
「そうね。弱みでも握られているのかしら。でも、確かにマリアなら適任ね。持っている魔力がとても多いし」
ベアトリスも肯定する。
「ヴィヴィアン王女付きのようだから味方してくれるかどうかは今のところ微妙なんだが。マリアをルクスの元に導くことはできるか」
「そうね。まだルクスに魔力が残っているなら大丈夫よ。心配ならついでに記憶を混濁させておくけど。でもあまり変な魔法は使わない方がいいかしらね。そっちにも魔術師はいるんでしょう」
キャロンは少し思案する。
「難しいところだな。魔法学者も来ているが、奴らの腕のほどはわからない」
気にするまでも無いとは思うがあまり詮索されたくもない。
「どうせ、あの扉はルクスじゃないと開けられないんだから、そこまで心配しなくてもいいのかしら。いいわ。とりあえず、マリアをルクスのところに呼びつけてみるわね」
「ああ、よろしく頼む」
ルクスは電話を置くとその場に倒れた。
※※
晩餐は静かなものである。食事は豪華だが、食べているのはヴィヴィアン王女とエドワード王子だけだ。マリアたち近衛女性部隊やエドワード王子の護衛の近衛隊も背後に並ぶ。
「そちらはどうだ」
エドワード王子が言った。
「面白い女ね。体は傷つかないみたいだけど、どこまで耐えられるのかしら」
ヴィヴィアン王女は笑いながら答える。
「お兄様。そちらこそ、残りの二人は見つけ出せたの。あの女が嘘をついているのかも知れないけど」
「すでに手がかりはつかんた」
エドワード王子が言い切るとヴィヴィアン王女は意外そうな顔をした。
「あの女が言っていた通りって事?」
「そのようだな。彼奴らは目立つから、目撃情報はけっこうある。今は、拠点を絞り込んでいるところだ」
ヴィヴィアン王女は少し考える。
「そんなにあっさり見つけられるなんて、あまりにも都合がいいわね。お兄様、騙されているんじゃないの。本当に三つの石を集めれば、その魔法装置は動くのかしら」
それをエドワード王子は笑い飛ばす。
「安心しろ、それは間違いない。魔法書の解読も済んでいるし、この仕組みを作った魔術師の記録も残されている。間違いは無いだろう」
「ならいいけど」
ヴィヴィアン王女はあっさり引き下がった。
食事が終わるころ、エドワード王子がヴィヴィアン王女に言った。
「ああそうだ、今夜もキャロンを男どもに使わせろ。あの女とやりたい奴がたくさんいるんだ」
するとヴィヴィアン王女は眉を寄せた。
「あら、困るわね。一晩中耐えさせようとしたのに。でも、あんな無様な格好見てもやりたいなんて思うのかしら」
「みんな女に飢えているんでな」
エドワード王子は視線をヴィヴィアン王女の背後にいる近衛女性部隊に向けた。マリアも気がついていた。近衛女性部隊はこの城に入城した時点から好奇の視線に晒されている。
この城に女性はエドワード王子付きの侍女であるカーメラ、キャロライン、マージョリーの三人だけだ。彼女たちはエドワード王子のお気に入りの美姫たちである。エドワード王子は父親のジョージ王ほど女に執着していないが、様々な貴族たちから差し出される美姫たちを毎夜侍らせて生活している。
今回は遠征なので当分の間王城を開けることになるため、特に気に入っている三人を連れてきていた。侍女たちは本心では遠征など行きたくなかったが、王子の求めならば仕方がない。
エドワード王子にとっても、自分の侍女を男どもにくれてやるつもりはない。キャロンは丁度良い性欲のはけ口なのである。
「うちの子たちが欲しいの?」
セシリアとアイリーンが息をのむ。性的虐待をヴィヴィアン王女から受け続けているとはいえ、近衛隊たちに差し出されるのは当然嫌だ。エドワード王子の背後にいた近衛隊たちは好色な笑みを浮かべていた。それを見ながらヴィヴィアン王女は首を振った。
「だめね。勝手に○○に出しそうだし、怪我もさせそうだわ。私の監視下でやらせるのならいいけど、それも面倒よね。わかったわ、あの女の体は自由にしましょう。股だけ開かせればいいのかしらね。それとも魔法は封じてあるようだから全部解放しても大丈夫? その方が楽しめそうだけど」
セシリアとアイリーンはほっと息をつく。マリアだけが平然と立っていた。マリアは性暴力になれきってしまっているので、それほど危機感を感じない。そもそも自分の体に欲情する男がいるとも思わない。
「彼奴は魔術師だが体を見ればわかる通りかなり鍛えているだろう。うかつなことをしないように股を開かせておけばいい。まぁ、丸二日何も食っていないのだから抵抗する体力も無いかも知れないがな」
「じゃあ、そうしましょう」
やがて二人の食事会は終わった。