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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた
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(9)半年前-キャロン2

 翌朝、キャロンはシュプリーンを置いたまま部屋を出ると、そのままチェックアウトした。そして、朝市で軽食を取り、軽く町を回ってから、バロウズの家に向かった。

「早いですね。ちょうど朝食を終えたところですよ」

 バロウズがキャロンを出迎える。

「朝から悪いな」

 しばらく雑談をしてから、キャロンとバロウズは家を出て役所に向かった。レナードに邪魔される前に手続きを終わらせたい。だから急いだのである。

 役所の手続きはそれなりに時間がかかり、結局昼過ぎになってやっと終わった。それでもこれは早い方ではある。冒険者に巨大な資産を譲るというのはかなり警戒されることだ。冒険者に脅されている可能性があるからだ。荒くれ者の多い冒険者の立場は平民の中でも信頼度が低い。更に武力を持っているのだから疑われて当然だ。

 役所から出て、バロウズが感心したように言った。

「驚きました。冒険者のA級というのはほんの一握りの存在だと聞いていましたよ」

「まだ仮の段階だがな。本当はランクアップの依頼を完了させなくてはいけないんだが、冒険者の宿の店主が先にカードだけランクアップしてくれたんだ」

「では、最近のことなんですか」

「今回の手続きを楽にしようと思って、昨日のうちに申請しておいたのさ」

 あまり信用のない冒険者が信用されるには最低でもB級である必要がある。B級冒険者は冒険者の宿に難しい仕事を指名されても受けなくてはならない義務があるからだ。それがA級であれば冒険者の宿がバックで担保してくれるほどの存在になる。公的な手続きは更にスムーズになるだろう。そう考えたキャロンは昨日のうちにランクアップ申請したのだった。

 実際には昨日中にA級に更新してもらえると思っていなかったので、A級の審査中である書面を書いてもらうつもりだったのだが、バックルが先に冒険者カードを更新してくれたので手間が省けた。

「これで晴れて私も城持ちか。感慨深いな」

「グレスタ城は立地も悪いですし、むしろ押しつけた感があり申し訳なく思っています」

 バロウズが少し困ったような顔をした。

「だから隠れ家に丁度良いだろう。さっそく私は生活に必要なものを買いそろえて引きこもるよ」

「私やストリンも手伝います」

「ありがとう」

 二人はバロウズの家に戻ってきた。

「お疲れ様。うまくいきましたか」

 ストリンが出迎える。

「ああ、無事に城を譲ることができたよ」

「良かったです。でも、キャロンさん。私もあの城は一度連れて行ってもらったんですが、正直かなり寂しい場所にあって怖く感じましたけど」

「私はもう何度もあの城には通っているよ。心配しなくていい。私の足なら一時間程度で町まで通えるしな」

「え?」

 ストリンが首をかしげる。グレスタ城は歩くと半日もかかる場所にある。馬車で行っても一時間以上はかかる。

 するとバロウズは笑った。

「キャロンさんならやりかねませんね。何しろA級冒険者なのですから」

「A級だからというわけではないけどな。魔法を使えばたやすいさ」

 キャロンは事無げに答えた。驚いているストリンを置き去りにして、バロウズは部屋の隅に歩いて行くと箱の中から一冊の本を持ってキャロンの前まで来て座った。

「すいません、キャロンさん。城の話ばかりで先にお伝えすべきことを話していませんでした」

 バロウズに差し出された本をキャロンは受け取った。

「これは?」

「モンテス様がキャロンさんのために記した魔法書です。あそこにある箱すべてがそうです」

「なんだって!」

 キャロンは本を開いた。軽く目を通す。

「これはありがたい。個人の魔術師の記録というのはとても貴重なものだ。この世に一つと言ってもいい。素晴らしい」

 しかしすぐにキャロンは慌てて本を閉じた。

「済まない、取り乱した。しかし、モンテスさんは病気だったのだろう」

 するとバロウズは目を伏せた。

「もしかすると、モンテス様は自分の体の状態をわかっていらっしゃったのかも知れません。私もずいぶん止めたんですが、執筆を止めることはありませんでした。それがキャロンさんへの感謝の印だと」

 キャロンは本をテーブルに置く。

「そうか。それは済まないことをした。私がモンテスさんの寿命を早めてしまったのかも知れない」

「そんなことはおっしゃらないで下さい。モンテス様は執筆しているときはいきいきしていらっしゃいました。モンテス様には以前ベンズさんとブレイズさんというお弟子さんがいらっしゃったのですが、グレスタ伯が追放されたときに別れててしまいました。半年前には一週間ほどレクシアさんという方がモンテス様に師事されておりましたが、それっきりです。キャロンさんをお弟子と呼ぶにはおこがましいですが、モンテス様はキャロンさんに全てを残したかったのでしょう」

 そこで出た新しい名前にキャロンは驚いた。

「ちょっと待て、レクシアが師事? 聞いていないぞ」

 キャロンは半年前の事件を思い返した。魔法の素質や能力の無かったレクシアがベアトリスに罠を仕掛けた事件だ。ベアトリスの悪のりということもあったが、実際見事な魔法だと思った。

 バロウズは微笑んで応えた。

「今だから話しますが、キャロンさんが来る直前のことなのです。突然レクシアさんが尋ねて参りましてモンテス様に魔法を教えて欲しいと。モンテス様も初めは断ったのですが、何しろ熱心な子でして。更に見たこともないような魔法を使いましたので、モンテス様も興味を持たれたようです。結局、一週間ほどでして近衛隊がやってきた時に、立ち去ってしまいました。私たちはレクシアさんのお話の中で昔キャロンさんに魔法を教わったことを聞いたのですよ。すぐにお伝えしたかったのですが、レクシアさんに口止めをされておりました」

 キャロンは苦笑する。

「それも私に伝えたかったことの一つか。なるほど」

 バロウズがあえてレクシアの名を出したのはそう言うことなのだろう。秘密を抱え続けるのは意外と面倒なことだ。

「私が教えた、か。正直なところ、良く覚えていないな。彼女と会ったのはもう四、五年も前のことだ。その時レクシアはベアトリスに師事した。私が彼女に魔法を教えたのはたった一日のことでしかない。ベアトリスに仕事をさせるために役割を交換したのでね」

「たった一日ですか。しかし、レクシアさんはキャロンさんから魔法の作り方を教わったとおっしゃっていましたよ。そして実際に自分で魔法をお作りになっていました。私にはよくわかりませんが、既存の呪文を唱えることはできないようで、モンテス様も苦労されていました」

 キャロンは言われてなんとか記憶を思い返してみる。

「なるほど。言われてみれば、その時魔法の作り方を教えたかも知れないな。だが、レクシアは魔法の素質もなければ魔力も多くなかった。本質的に魔術師には向かないタイプだ。私の指導がきっかけなのかも知れないが、彼奴が魔法を使えるようになったのは執念と根性だろうな。実は半年前に私はレクシアと思わしき人物に出会っているんだ。その時は、かなり工夫のある魔法を使っていると思った」

「お会いになっていたのですか。それは良かった」

 バロウズが言う。

「会ったと言っても、話一つしていないよ。向こうは変装していて、私には最後までレクシアだとわからなかった。ベアトリスが気づいていたから察した程度だ」

「そうですか。まぁ、元気にしていてくれれば良いのです。なにぶん危なげな雰囲気の人でしたので、ちょっと気になっていたのです」

 バロウズが安心したようなのでキャロンが茶化す。

「そういうお人好しなところはバロウズさんも変わらないな」

「モンテス様ほどではないですよ」

 バロウズも笑った。

「さて、話を戻すか。断るのも失礼だ。ありがたく本は頂戴するよ」

 キャロンは本に手を置いて答えた。

「モンテス様も喜ぶでしょう。それからもう一つ。モンテス様の魔道具は必要ありませんか?」

「魔道具? それはバロウズさんが受け継いだんだろう。売れば結構な金になるはずだ」

 するとバロウズは苦笑した。

「いえ、売り物になる魔道具はモンテス様が寝たきりになっているときに、モンテス様の指示で売ってしまっているのですよ。手元に残っているのは売り物にならないものだけです。これも魔道具屋に部品として売ればそれなりの値段で買い取ってはもらえるのでしょうけど、もし研究にお使いいただけるのなら、その方がモンテス様も喜んで下さると思うのです」

「なるほど」

 キャロンは考える。

「だが、やはりただでもらうわけにはいかない。城を無償でもらっただけでももらいすぎだからな。それらの魔道具は言い値で買い取らせてもらう。お互いその方がスッキリするとは思わないか」

 バロウズは少し驚いたような顔でキャロンを見た。

「しかし・・・」

「結婚して何かと入り用だろう。もらいっぱなしだと私が困る」

 キャロンが追い打ちをかけるとバロウズはうなずいた。

「わかりました。ありがとうございます」

 話が付いてキャロンは立ち上がった。するとすかさずストリンが近づいてくる。

「キャロンさん。今日こそは食事をしていってください。お願いします」

 キャロンは苦笑する。何度も断るのはさすがに失礼だろう。

「そうだな。わかったよ。今日はストリンさんの手料理をごちそうになるよ」

 ストリンは嬉しそうな顔をする。何となく可愛げのある人だ。さすがに手を出そうとまでは思わないが。

 そしてキャロンはバロウズと歓談を楽しんだ。


 バロウズとストリンは泊まっていくように勧めたが、キャロンは断った。夫婦の邪魔をする気はない。町でまた誰かを引っかけようかとも思ったが、結局城に向かうことにした。バロウズもモンテスも恐らくしばらく城に入っていないだろう。先に確認しておこうと思った。

 幸い、盗賊たちが入り込んでいると言うことはなかった。しかし鍵は壊されていたので、誰かが来た事はあるのだろう。一通り点検がすむと、キャロンは野営と同じように簡単な寝床を作って泊まった。

 朝からキャロンはグレスタ城の整備に入る。グレスタ城は広いので全部を綺麗に維持するのは無理である。それでも住む以上はほこりをかぶったまま放置しておきたくない。

 キャロンが城の手入れを初めて五日後の昼に馬車でバロウズ夫妻が訪れた。

 キャロンが出迎える。

「早かったな。もっと遅くても良かったんだが」

「見違えましたね。やはりキャロンさんに任せて正解でした」

「お世辞はいい。周りの雑草を刈って城を外から水洗いした程度だ。まずは見た目からどうにかしないとストリンさんにお化け屋敷だと思われてしまうからな」

 するとストリンは少し申し訳なさそうにいう。

「この間は失礼なことを言ってしまったわ」

「いや。ストリンさんの言う通り不気味な城だったからな」

 そしてキャロンは馬車を城の中に進ませる。

 中も水で洗ったので比較的綺麗になっている。石造りの建物なのでキャロンは水魔法を駆使して城を洗いまくった。やり過ぎたせいで乾燥するまでに二日もかかってしまったが。


「まだ何もないのですね」

 バロウズは馬車から降りながら城を見渡す。

「順番に、といったところだが、城は広すぎるから全部使う気は無いよ。必要なものだけを買いそろえている」

「荷物はどうしますか」

 馬車には本や魔道具が積まれたままになっている。

「ここに降ろしてくれればいい。私も手伝うよ」

 本だけで二箱。魔道具は三箱もある。

「大した物だ。本当に私が受け取っていいのか。モンテスさんの形見でもある。必要ならバロウズさんが持っていてもいい」

「大丈夫です。私はすでにモンテス様から受け取っていますから」

 三人は二階へ上がった。二階はかまどが用意されているのでキャロンもそこを食事部屋として使っていた。

「もう色々と買いそろえられたんですね」

「食べるところと寝るところくらいかな。後は研究部屋を整備すれば完成さ」

 キャロンは二人にお茶を出した。少し近況話をしたあと、キャロンは袋に入ったお金を渡す。

「これが魔道具代だ。受け取ってくれ」

 バロウズは苦笑する。

「本当に不要な物なんです。お金をいただくわけにはいきませんよ」

「じゃあ、結婚祝いでいい。それに一つだけお願いがある」

 キャロンが言うとバロウズは少し真面目な顔になった。

「私にお願いですか? できることならいいのですが」

「ああ。この町から逃げて欲しい」

 バロウズは少し驚いたようだ。

「それは、どういうことです?」

 キャロンは袋をバロウズに押しつけて答えた。

「半年もしないうちにここに馬鹿王子が殴り込みに来ると予想している。正規な城の譲渡書類を作ったのはこちらの正当性を示すためだが、実際はあの馬鹿には通用しないだろう。彼奴が私にだけ矛先を向けてくれればいいが、恐らく一番初めにこの城を受け継いだバロウズさんにも手が伸びると思う。あの馬鹿には理屈は通じない。すぐにとはいわないが、できるだけ早い時期にグレスタを離れた方がいい」

 バロウズは緊張した面持ちでキャロンを見ていた。

「なるほど。そこまでの相手なのですか。書類を作ってもそれほど意味が無いと」

「意味が無いということはない。少なくとも私が関わっていることが彼奴には伝わるはずだ。そもそも私はここに馬鹿王子をおびき寄せるつもりだ。だからその前にバロウズさんはこの国を離れた方がいいんだ」

 バロウズは少し考えていたが、やがて応えた。

「わかりました。もちろんすぐにというわけにはいきませんが、できるだけ早くグレスタを離れることにします。幸いベンズとは連絡を取り合っていますから、彼を頼ろうと思います」

「ほとぼりが冷めたら戻ってくればいい。遅くても一年以内には終わると思う」

「わかりました」

 それから少しの雑談を買わした後、バロウズ夫妻はグレスタ城を後にした。

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