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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた

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(7)一年前-マリア

 この一年で近衛隊の体制は大きく変わり、人も入れ替わった。近衛隊を辞めた隊員も多く、その代わりとなる隊員たちが入ってくる。上層部はおおむね入れ替えられており、すでに以前とは別組織となってしまっている。

 もちろん近衛女性部隊も同様である。名ばかりの選抜の結果、スタート時の近衛女性部隊は隊長のヴィヴィアン王女を除くと二十二人だった。それから離脱者が増え、現在は十一人にまで減ってしまっている。

 訓練がきつく自由も少ないから、というのではない。もちろんそれもあるだろうが、それはどこの軍隊も同じである。一番の理由は毎晩行われるヴィヴィアン王女の「しつけ」だった。


 近衛女性部隊はほぼ毎夜誰かがヴィヴィアン王女からの「しつけ」を受ける。誰が「しつけ」られるのかは、ヴィヴィアン王女の腹づもり一つである。理由は、訓練に身が入っていないとか、一番足が遅かったとか、敬礼を忘れたとか、ヴィヴィアン王女の思いつき次第である。

 「しつけ」の中身は基本的には性的な虐待であった。マリアがよく思いつくなというシチュエーションを用意して女性たちをいたぶりまくる。そのためには男を用意したり、道具を用意したり、薬を用意したりと、何でもやる。とにかく女たちが恥辱に苦しむ姿や、泣き叫ぶ姿が見たくて仕方がないようだ。そしてそれを見ながらヴィヴィアン王女は自らの体を自らの手で慰めるのである。

 マリアはただそこに居合わせられるだけだった。虐待に参加させられることはほぼ無く、ただいたぶられる女性と、自らを愛するヴィヴィアン王女を見せつけられるだけである。やることと言えば、終わった後の掃除くらいだろうか。

 一年も経つと、さすがに「しつけ」に慣れてきた隊員たちは、初めの頃よりはあきらめるのが早くなってきていた。そのせいか最近は「しつけ」もエスカレートしつつあり、ただの性的な嫌がらせよりも痛めつけることの方が増えた。陵辱なら諦めきれても、痛みは我慢できないからだ。

 ヴィヴィアン王女はこうした拷問じみた行為を行うが、隊員たちの体に傷が残るようなことはしなかった。せいぜい鞭打ちや拘束の跡や、ひっかき傷といった程度のもので、簡単な回復魔法で治るものだ。骨折や火傷、身体損傷といった回復魔法でも回復に時間がかかったり、後遺症が残ったりするようなものはない。

 これはヴィヴィアン王女が優しいというのではなく、残る傷をつけてしまうとさすがに問題になるからだ。乱れた貴族界なので女性の純潔がことさらに尊ばれることはないが、さすがに外傷があると政略結婚に使えない。それは貴族にとって大きな問題なので王族といえど配慮する必要がある。

 「しつけ」に我慢できなくなって辞める隊員が多いが、ただ、辞めると言っても一筋縄ではいかない。ヴィヴァン王女は辞めると申し出た隊員に対しては苛烈な罰を与える。

 初めに近衛隊を辞めたいと直訴した女性隊員は、その日、ヴィヴィアン王女からとても直視できないほどの性的虐待を受け、すっかり心を病んでしまい辞めざるえない状態にさせられた。それを知った近衛女性部隊員たちの絶望は殊更だった。

 しかし、どうしても逃げ出したい女性隊員たちは、何とか親兄弟のつてを駆使し、たいていは結婚が決まったという言い訳で、政治力を駆使して辞めていった。

 さすがに、この理由を妨げる理屈はないので、ヴィヴィアン王女も認めている状態だ。それでも辞める前日には必ず「しつけ」に呼ばれ、いつも以上にひどい虐待に受けることになる。

 そして近衛女性部隊は一年で半分にまで減ってしまったのだ。ヴィヴィアン王女自体は人が減ることに特に気にしていなかった。そもそも自分の性癖を満たすためのおもちゃとして作った部隊である。人数が多い必要は無い。

 そんなある日、ヴィヴィアン王女は近衛女性部隊を遠征に連れ出した。


 これまでも何度か王宮を出ての日帰りや一泊二日程度の遠征は行っていた。ヴィヴィアン王女は人を打ち負かすのが大好きなのだが、やはり訓練だけでは本当に人を殺すことなどできないし、不満だったのだろう。近衛女性部隊が発足してから半年ほど経ったときから遠征訓練を始めていた。

 遠征と言っても街道を通って移動するだけであり、目的は襲ってくる盗賊を処分することだ。盗賊が現れると、真っ先にヴィヴィアン王女が飛び出て相手を殺しまくる。部下のことを考えようとはしない。

 マリアは、他の未熟な隊員たちの補佐をしていた。ヴィヴィアン王女は勝手に動き回るので当然漏れた盗賊たちは近衛女性部隊に襲いかかってくる。厳しい訓練を課せられている近衛女性部隊はそれなりに能力が高いのだが、実戦経験と連携がまるでできていない。一番の経験者であるマリアが、全体のサポートをするほか無かった。

 ヴィヴィアン王女は盗賊たちを徹底的に殺戮した。逃げても降伏しても容赦なかった。ヴィヴィアン王女は堂々と人を殺せる遠征がとても気に入ったようで、多いときは一月に三回も遠征したことがある。内情を知らない近隣の街では、近衛女性部隊の評判が高まっていた。


 ある日の遠征の中、ヴィヴィアン王女は立ち寄った村で村長から盗賊団のアジトの場所を聞いた。村長にとっては冒険者に依頼してもなかなか助けに来てくれないという不満があった。あまりお金が用意できないので仕方がないことであるが、村にとっては死活問題である。そんなとこに有名な近衛女性部隊が訪れた。村長は嬉々として現状を語ったのである。

 近衛女性部隊は遠征の帰り道だったため、ヴィヴィアン王女もこのまま一仕事をする事はできなかった。そこで、ヴィヴィアン王女は必ず戻ってくることを約束しその村を出たのであった。


 マリアは嫌な予感がしていた。

 本来この手の依頼を受けたのなら、近衛隊の本隊に報告する必要があるだろう。近衛女性部隊が許されているのはあくまで遠征訓練のついでの討伐であり、やむを得ない戦闘という位置づけだ。積極的に相手の本拠地を叩くというのは近衛女性部隊だけで決めていいことではない。

 更に、この手の依頼は簡単ではない。出てきた盗賊を排除するだけなら楽だが、こちらから盗賊団を狙うとなれば難易度が上がる。なぜなら、盗賊たちも本拠地を叩かれれば逃げ場がないので激しい抵抗があるのだ。

 マリアは過去、何度も盗賊団討伐をやったことがある。前情報が少なかったが故に、討伐しきれずにかなりの数を取り逃がしてしまったこともあるし、偽の情報をつかまされて、危うく全滅させられそうになったこともある。相手が農民崩れだと言っても、組織だった盗賊団を相手にするのは難しいのである。


 遠征から帰って二日後の朝、ヴィヴィアン王女は近衛女性部隊を全員揃えて命令した。

「これから盗賊団退治に向かうわ。今日はプリネルに泊まって、明日仕掛けるわよ」

 いきなりだった。マリアは慌てて口を挟んだ。

「姫様。盗賊団のことは近衛隊に話したのでしょうか」

 ヴィヴィアン王女はマリアをにらみつけた。

「話すわけないでしょ。手柄は私たちのものよ」

「相手の場所や規模はわかっているのですか」

 マリアはすぐに問いかける。するとヴィヴィアン王女は笑った。

「あらマリア、怖いの。臆病ね」

「敵の情報がわからない中での戦いは非常に危険です。臆病くらいが丁度良いと考えております」

 しかしヴィヴィアン王女は鼻をならす。

「悪いけど、ちゃんと調査済みよ。人を雇って調べさせたわ。そのせいで出発が遅くなったんだから。場所はわかっているし、相手の数もせいぜい三十人くらいみたいよ」

「こちらは十二人です。危険です」

 マリアが言うと、ヴィヴィアン王女はマリアに近づいていき顔を掌で叩いた。

「マリア、私が農民崩れ程度に負けるとでも思っているの。あなたたちはおまけよ。その程度の人数で怖がるのはやめなさい。これは決定事項よ」

 マリアは仕方がなく抵抗をやめた。マリアの懸念はその情報が正しいかどうかわからないことだ。場所や人数に誤りがあれば全滅する可能性がある。もし情報通りだったとしても、少人数で大人数を叩くには戦略がいる。

 マリアたちはすぐに遠征の準備に入った。マリアは反対したものの勝ち筋が無いとまでは思っていない。こちらは魔道具や薬などをいくらでも持って行けるし、武器もこちらの方が上だろう。しかも四人も魔術師がいる。しっかり準備さえしていれば負けることはないはずだ。ただ、いつも想定外というのは起こる。最悪を考えることはとても重要だ。


 すぐに出発した近衛女性部隊は夕方にはプリネルという村に着き、首を長くして待っていた村長から歓待を受けた。豪華な料理や酒も出されたが、近衛女性部隊は誰も手をつけなかった。それはヴィヴィアン王女の指示だ。ヴィヴィアン王女はこのような村で出された貧しい食事は嫌いだった。そもそも平民など全く信用していない。

 近衛女性部隊は村長に用意してもらった家には泊まらず、村の外で野宿することになった。見張りは立てるがそもそも高価な防御結界の魔道具を持ってきており、野宿の方が安全なのである。

 プリネルの住民たちは近衛女性部隊の失礼な行為に面をくらっていた。

 翌朝、近衛女性部隊はすぐにプリネルを出発した。

「ああいう汚い村はあっても邪魔だし、盗賊退治ついでに攻め落とそうかしらね」

 馬車に乗りながら、ヴィヴィアン王女は軽口を叩く。

 しばらく進んだところで馬車を近場に隠すと、そこからは徒歩で進んだ。ヴィヴィアン王女はここでも魔道具を使っていた。目的地を示す板である。地図になっており、調査してきた人間の情報を元に、目的地が分かるようになっている。更に気配を消す魔道具も使っている。かなりの大盤振る舞いである。

 ここまで準備してあると盗賊団のアジトまでは簡単である。途中で見つけた見張りは、あっさりヴィヴィアン王女が斬り殺した。そのまま山道を上り、とうとう近衛女性部隊は小集落を見つけた。粗末な建物が十戸くらい並ぶ貧村のような感じだ。まだ相手はこちらに気がついていないが、外にも結構人はいる。

 本当ならここからの戦略が重要なのだが、ヴィヴィアン王女は気にしなかった。

「行くわよ」

 そして、真っ先に集落へ飛び込んでいったのだった。鳴子の音が響いて、盗賊が集まってきていた。気配を消す魔道具は直接しっかり視認されると効果が無くなる。あくまで気配だけを押さえているのだ。

 出てきた盗賊はざっと二十人を超えた程度だった。マリアたちも遅れないように走った。ヴィヴィアン王女が真っ正面の相手に斬りかかった頃には近衛女性部隊はすっかり囲まれている状態だった。

「魔術師たちはサポートだ。いざというとき以外は魔法攻撃をするな。それから魔力が尽きそうになったときは急いで薬で回復しろ。騎士たちは孤立しないように動け。囲まれたら助からないぞ!」

 マリアはすぐに指示を飛ばした。近衛女性部隊はかなりしごかれているので、個人の戦力は比較的高い。それに今までも盗賊退治をしてきて戦いが初めてということはない。しかし、状況に浮き足立てば、あっさりやられてしまうだろう。本来ならリーダーであるヴィヴィアン王女が指示をするべきだが、当然ながらヴィヴィアン王女にそのつもりはない。自然とマリアが指示役をすることになる。

 ヴィヴィアン王女の強さは圧倒的だった。これは当然で、剣も鎧も最上級だし、それを魔法で強化して戦っている。次々と盗賊たちを斬り飛ばしていく。

 近衛女性部隊も魔法で強化された剣で戦う。しかし、戦士六人での戦いはなかなかきついものだ。魔術師四人は戦士たちに囲まれるような立ち位置で頑張っている。マリアはそこを切り崩すために特攻していた。マリアにとってはこの盗賊たちは大した相手じゃなかった。ヴィヴィアン王女並みに相手を斬り捨てる。

 あっという間に相手を半分近く減らしたが、やはり盗賊たちの士気は落ちない。もう逃げ場がないからだろう。相手が女というのもあるはずだ。

 マリアは盗賊団のリーダーを探した。敗走させるには相手のトップを倒すべきだからだ。そして少し離れたところでヴィヴィアン王女と打ち合いをしている盗賊を見つけた。

 マリアは嫌な予感がした。遠目にもヴィヴィアン王女が押されているようなのだ。ヴィヴィアン王女が少しでも怪我をしたら大変なことになる。

「済まないが、おまえたちで持ちこたえてくれ!」

 マリアは大声で言うとすぐにヴィヴィアン王女の元に走った。途中で立ちふさがった相手はすぐに斬り倒す。仲間からの剣強化の魔法のおかげで、いつもより戦いやすい。

 マリアがヴィヴィアン王女の前にたどり着く前に、ヴィヴィアン王女は相手の男に剣で押されて尻餅をついてしまった。


 まずい。

 盗賊団のリーダーは剣をヴィヴィアン王女に向けたまま何か話している。ヴィヴィアン王女は首を振りながら後ずさりする。

 マリアは少し安心した。本来なら問答無用で斬り殺すべきところだが、相手が美人なので、盗賊も下心を出しているのだろう。

 マリアは注意を呼び込むために大声を上げながら、その男に斬りかかった。男は剣を上げてマリアの剣を受け止める。

 そして二人は距離を取った。

「何だ。男が一人混じっているのかと思っていたが、女だったのか。だがおまえはいらないな。そんなんじゃ○○もしねぇぜ」

 マリアは剣に違和感を感じた。付与魔法が解けてしまっていることに気づいたからだった。マリアは視線を男の剣に向けた。

「その剣。魔法剣だな。どこで手に入れた」

 男は気軽に応えた。

「おう、よく気がついたな。この女は途中まで全然気がつかねぇで、何度も魔法をかけ直していたんだけどな。こいつは戦利品さ。今は俺の相棒だな」

 マリアは剣を構えた。あの魔法剣は魔力を打ち消す効果があるようだが、それだけなのかがわからない。たいていは魔法剣は何かしら強化されているはずなので、打ち合えばマリアの剣が壊される可能性がある。

 男は剣を軽く振った。それだけで意外と技量があることもわかった。それでも、マリアはヴィヴィアン王女が勝てない相手ではないと判断できた。魔法が打ち消された驚きや、初めて苦戦し、死を感じたことで、力が出せなかったのだろう。つまりはヴィヴィアン王女の経験不足だ。たやすい相手ばかりを倒してきたから、おごりがあったに違いない。

 ちらりとマリアはヴィヴィアン王女を見るが、ヴィヴィアン王女は青ざめたまま震えていた。幸いにも他の盗賊は近寄ってきていない。その分近衛女性部隊が狙われているわけで、早くそちらも助けに行かなくてはならない。

「おまえは、消えな」

 盗賊団のリーダーが打ちかかってきた。マリアはそれを躱しながら剣を振る。男は慌てて躱したが、切っ先はリーダーの鎧を捕らえていた。マリアはそのままの勢いで力強く打ちかかっていった。

 男は何とか剣で防御する。しかしマリアの連撃に男の余裕がなくなる。男は危機を乗り越えるために、マリアの剣を打ち払って後ろに飛んで逃げた。

 男が口を開いた。

「魔法をかけてやがるな。誰が助けている。じゃなきゃその剣がぼろぼろになってなきゃおかしいぜ」

 この男が使う魔法剣は、魔力を吸収して強化するという効果があった。効果としては微妙で魔法が付与された剣や魔法そのものを受けることがなければ、ただの剣と何ら変わらない。ただ、騎士たちは魔法で強化された剣を使うことが多いので、そういうときはかなり頼りになる剣だ。

 さっきまでヴィヴィアン王女の魔法を吸収し続けていたので、この魔法剣はかなりの切れ味と耐久力を持っていた。普通の剣なら相手になるわけがない。

 マリアは笑った。

「効果があって嬉しいよ」

 マリアの剣には魔法はかかっていない。そもそも近衛女性部隊から離れてしまっているので、向こうもマリアの剣に魔法をかける余裕はない。ではなぜ打ち合えるのかといえば、マリア自身が剣に魔力を込めているからだ。


 マリアは一年前、ベアトリスに体をいじられ、体内の魔力を動かすという経験をさせてもらったことがある。その後、竜退治をしたときに魔力を剣に流す感覚を少しだけつかんだ。また、マリアはベアトリスから自分の持っている薬の中に魔力を強制的に動かす薬があることを教えられた。

 そこで普段からマリアはその時のイメージを忘れずに訓練を続けていた。忘れそうになったときは薬を飲んで魔力が動く感覚をつかむようにした。

 ちなみにその薬は本来マリアを精神系の魔法攻撃から守るためのものだった。マリアの体内の魔力は凝り固まっており、魔力循環ができない状況だったので、その薬で強制的に魔力を動かすと、精神攻撃系の魔法が効きにくくなるのである。

 マリアのひいきにしている薬師は、毎回マリアがその薬を買いに来ることに疑問を持ち、マリアに問い詰めた。マリアが理由を話したところ、彼女はマリアの身体を調べてくれた。彼女の話によると、マリアの中で動いている魔力はごく僅かで、凝り固まった魔力はこれ以上ほぐれることもないらしかった。ただ、薬の使い方は間違っていないらしく、飲み過ぎないように注意をされた。

 マリアは修行の結果、平時でも剣に魔力を込める技を手に入れていた。これは隠し球で、普段は使わない。盗賊団のリーダーと剣を打ち合う度に、マリアは剣から魔力が吸われるのを感じていた。しかしマリアの体内の魔力はもともとかなり多いのである。魔力が尽きる事はない。相手の剣が魔力を吸い取っていくら強化されようが、マリアの持つ剣も魔力剣になっているので、剣の能力だけで優劣は決まらない。残りは腕前だ。

「くそっ!」

 マリアに剣を打ち上げられ、盗賊団のリーダーは叫ぶ。

「終わりだ」

 そしてその隙にマリアは彼の体を鎧ごと切った。マリアが全力で剣に魔力を込めると、金属鎧ですら斬ることができる。魔法がかかっていない鎧程度ならたやすい。

「なんだと!」

 男は血を吐きながら、その場に倒れた。

「頭を討ち取ったぞ!」

 マリアはすぐに大声で叫んで、近衛隊たちを見た。


 途端に状況が変わった。近衛女性部隊は結構まずい状況だった。傷だらけになっている者もいるし、すでに組み抑えられている者もいた。しかしマリアの言葉と体を両断されている盗賊団のリーダーを見て、盗賊たち急激に逃げ腰になった。逆に、ここぞとばかりに士気を上げる近衛女性部隊。

 タイミング良く、魔術師たちの攻撃魔法が炸裂し、盗賊たちは逃げだした。一気に盛り上がった近衛女性部隊は次々と盗賊たちを倒していった。

 マリアはヴィヴィアン王女の元に駆け戻った。

「大丈夫ですか?」

 マリアが尋ねる。呆然とヴィヴィアン王女はマリアを見ていた。そしてだんだん顔が怒りにゆがみ始めた。ヴィヴィアン王女は立ち上がると、拳でマリアの顔を殴った。

「あなたが、邪魔をしなければ、私が、あの男を切り刻んでいたのに、何で邪魔をした! この平民が! 私の邪魔をするな!」

 あまりにも理不尽な言いようだった。しかし、激しくプライドが傷つけられたヴィヴィアン王女はマリアに当たるくらいしかできなかったのだ。

「すいません」

 マリアもすぐに謝る。

「座れ!」

 ヴィヴィアン王女はマリアに命令した。マリアがすぐにその場で膝を付くと、ヴィヴィアン王女はマリアの頭を蹴り飛ばした。ヴィヴィアン王女は倒れたマリアを蹴り、踏みつけた。

「私は強い。おまえが来なければ私が勝っていた。おまえのような能なしは足手まといだ!」

 ヴィヴィアン王女は狂ったようにマリアを蹴りつけた。マリアは頭を守りながらうずくまって耐える。

「私が負けることなんて、絶対にない!」

 とうとうヴィヴィアン王女は剣を抜こうとした、さすがにまずいと思い、マリアは逃げようとした。

「あ、あの、姫様」

 その時、ヴィヴィアン王女の背後から小さな声が届く。ヴィヴィアン王女が振り返ると、声をかけた近衛女性部隊員は一瞬悲鳴を上げた。

「なに、あなたも私の邪魔をするの!」

「いえ、盗賊たちを拘束しましたので、指示を仰ごうと」

 こっそりマリアが目を開けて遠くを見ると、ほとんどの盗賊は殺されていたが、数人の盗賊が体を縛られていた。命乞いをした相手を捕らえたのだろう。

 すると、ヴィヴィアン王女は黙ってその男たちの方に歩いて行った。


 残されたマリアに向かって、報告に来た近衛隊の娘が声をかけてきた。

「あの、マリア、大丈夫?」

「ま、まぁ、いつものことだ」

 マリアは何とか応えて息をつく。

「いつもよりひどかったと思うけど」

 その子は続けたが、マリアはあごで前方を指した。

「あれよりましだろ」

 ちょうどヴィヴィアン王女が男たちの首を切り落としていたところだった。

 そして盗賊団退治は誰一人欠けることなく終えることができたのだった。


 それ以降も近衛女性部隊の遠征訓練は続いた。むしろ、より積極的になったといえる。しかし、それ以降マリアは遠征に連れて行かれることはなかった。マリアは常に一人で城に待機することになった。

 そしてヴィヴィアン王女がマリアを見る目も変わった。それまではヴィヴィアン王女のおもちゃ程度の位置づけだったのが、ヴィヴィアン王女の敵という位置づけになった。普段は奴隷のように扱われ、模擬試合の時は本気で殺されかける。

 実際に事故で殺そうとしていることは明白だった。マリアは平民なのだから本来であれば適当な口実で処刑すれば済む話なのだが、それはヴィヴィアン王女のプライドが許さなかった。どうしても自分の力でマリアを殺したいと考えていたのである。

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