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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた
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(4)一年前-キャロン2

「あ、やっと来たのね。アクア」

 歩き出してすぐに背後からベアトリスが現れた。アクアは振り向きもしないで言う。

「やっぱ来ていたか。おまえ、タラメデにいるって前に言っていただろ。一日もかからずにグレスタに着くじゃねぇか」

 ベアトリスはアクアの腕に抱きついて横に並んだ。アクアはベアトリスより背が低いがアクアの方が筋肉質である。

「アクアを待っていたのよ。だって、早くキャロンに会ったら絶対働かされるじゃない。キャロンに会うのはアクアと一緒って決めていたの」

 アクアは肩をすくめる。

「先に来た分報酬の上乗せをさせれば良いじゃねぇか」

「そんなにキャロンが気前言い分けないでしょ。それよりどこに行くの」

「なんか、キャロンもモンテスもグレスタ城にいるみたいでな。今日着くことは連絡してあったから、どうせ戻ってくるんだろうが、時間が中途半端だし、会いに行こうかと思ってな」

「もう、アクア、真面目ね」

「ちげぇよ。金欠なんだよ。早く仕事にありつきたいだけさ。前金だけでももらっとかないとな」

 ベアトリスが呆れた顔をする。

「またなの。どうしてB級冒険者が金欠になるのかな。装備にそんなにお金をかけているわけでもないでしょ」

「金は使い切ってなんぼだろ。ま、実際剣は結構ぶっ壊れるぞ。私の力じゃ保たないみたいだな」

「安物ばかり買うから」

「高かろうが安かろうが、壊れるのは一緒なんだよ」

 そして二人はそのままグレスタを出て、走り出した。


 本来グレスタ城まではゆっくり歩いて半日くらいの距離である。全力で走っても一時間以上はかかるだろう。そしてアクアは純粋に全力で走っていた。アクアは疲れると言うことがほとんど無いので、いくらでも走り続けることができる。ベアトリスも似たような速度で移動するが、走っているのではなく、魔法を使いながら前方に跳ぶ走法である。ベアトリスは風になびきそうなローブを着けているが、自分の周りに結界を張っているので風の影響は受けない。

 ほんの一時間ほどで、アクアとベアトリスはグレスタ城に着いた。グレスタ城は四角柱で中央に高い塔が建っている奇妙な城である。それほど大きいわけではなく、荘厳でもない。本当に城なのか疑わしくもなる。

「おーい、キャロン。来てやったぞ」

 アクアが外から大声で叫ぶ。しばらく待つと、風に乗って声が帰ってきた。

「今から行くからそこで待ってろ」

 二人はグレスタ城の扉の前で待った。そして城の扉の鍵が開かれた。


 アクアが城の中に入りながら声を上げた。

「へぇ、綺麗になったな」

 前にアクアがこの城に入ったときは盗賊たちの死体で埋め尽くされていた。もちろんそれをやったのがこの三人だが。

「当たり前だろ。盗賊どもがいたのは何年前だと思っているんだ」

 迎え入れたキャロンが呆れる。

「でもやっぱり寂れているわね。使われていないってのが丸わかり」

 ベアトリスも城内を見渡した。

「それは仕方がないね。それより、はるばる遠くからありがとう。また迷惑をかけてしまうことになるね」

 キャロンの後ろにいたモンテスが二人に挨拶した。

「なぁに、ちょうど仕事が空いていたんだ。金になるなら何でもやるさ」

 アクアはモンテスの出された手をしっかり握った。キャロンがベアトリスを見る。

「ベアトリスは遅かったな」

「ふふ、仕事が立て込んでいてね」

 ベアトリスは曖昧に応えて、アクアに続いてモンテスと握手をした。

「まぁ、いい。今夜モンテスさんの家で打ち合わせようと思っていたが、来たのなら丁度良い。すぐに打ち合わせるぞ」

 キャロンが歩き出す。モンテスもそれに習った。ベアトリスは付いていきながら尋ねた。

「いいけど。大体どんな仕事なのよ」

「魔道具作りさ」

 キャロンは振り返らずに応えた。


 四人は城の五階の上にある塔の最下層の間まで来た。周りには本が置かれ、作業台も置いてある。ここだけが使用感のある場所だった。

「こんな上の階で仕事しているのか。この城って階を上がるのが面倒なんだよな」

 グレスタ城は直接上まで上がる階段がない。一階上がる毎に別の階段の場所まで歩くてはならない。

「本当にそうだね。この作りは私のような老人にはとてもきついよ。でもここじゃないと研究が進められないからね」

 モンテスはアクアに応えながら作業台の前の椅子に座った。

 キャロンは部屋の中央にある天面が弧を描いている台座の前まで来た。中央に丸いくぼみがあり、細かい文様が描かれている台座だった。

 アクアとベアトリスがそばの椅子に座ると、キャロンは立ったまま説明を始めた。

「電話でも少し話したが、またレナードが現れ、モンテスさんの家の蔵書を全部持って行ってしまった。それが始まりだ」

「確かモンテスさんの家から勝手に本を持ち出して、いきなり返しに来た奴だよな。ダグリシアに戻っているのかと思って私たちが探していたのに、結局グレスタに居たっていう肩すかしの件な」

「そうね。エドワードに魔法兵器の話が伝わるかと思って焦ったわよね」

 キャロンは続ける。

「ああ、その時から私はレナードの動向が気になっていた。だからその後モンテスさんに、写本を作って対策しておくように伝えていたんだ。そしてレナードが強引に本を持ち出そうとしても抵抗しないようにとな。何しろあのアーチボルドは道理が通じない。何をしてくるか分からなかった。だが、私も本を全部持っていくとまでは思わなかった」

「目的は何かしら」

 ベアトリスが愛らしく首をかしげる。

「だから、魔法兵器だろう」

 アクアが応えると、ベアトリスは言い返した。

「それはそうでしょうけど、その魔法兵器でレナードが何をしたいのかがね。それともエドワードの指示? それなら分かるけど」

「その辺りのことは考えても仕方がないだろう。だが、まだ馬鹿王子の耳に入っていないのは確かだな。もし入っていれば速攻ここに押し寄せてきているはずだ」

「それはそうね。あの男短絡的だから」

「じゃあ、この魔法兵器をぶっ壊せば良いんじゃねぇか。そこの台座なんだろ」

 キャロンが答える。

「実はそう言うわけにもいかない。なぜなら、レナードが持っていった本の中にはこの台座の構造が描かれてものがある。復元は可能なんだ。壊すのなら台座ではなくて人工魔石の方らしい。あちらは二度と作れないみたいだからな」

「そう言う事かよ。面倒くせぇ」

 壊すとしたら、王宮に忍び込む必要がある。とても面倒な仕事だ。ベアトリスがキャロンに尋ねた。

「そっちは壊せるの?」

「壊してはいけないらしい。壊すと中のエネルギーが吹き出して都市が丸ごと吹っ飛ぶようだ」

「うわっ」

 アクアが嫌な顔をする。

「だったらどうするのよ」

 ベアトリスが口を尖らせる。キャロンは笑った。

「それを今話すつもりだったんだ」

 そしてキャロンは自分の考えた作戦を話した。


 じっと聞いていたアクアは声を上げた。

「おもしろそうじゃねぇか。派手にいこうぜ」

 ベアトリスは吟味するように言う。

「なるほど。つまり彼奴らをうまく導いて裏をかくのね。でも、可能なの?」

 キャロンは肩をすくめた。

「それはこれからの調査次第かな。ただ、この回路を切断するための三つの鉱石を作るのは絶対だ」

「それを私たち三人が預かると」

 ベアトリスにキャロンが答える。

「奴らがこの装置を動かそうとしたとき、私たちが持つ鉱石が障壁となるだろう。今のところはそれだけだ。この石を私たちがどう利用するかは今後の課題にしておこう」

 そこまでの話が終わったところでモンテスが顔をしかめながら口を挟んできた。

「私はそれほど賛成というわけでは無いのだけどね。何より君たちに迷惑をかけてしまう。もっと別な方法もあるとは思うんだよ」

 しかしキャロンはすぐに答える。

「他に手は無いさ。あの人工魔石を盗むことはできるかも知れないが、あまりやりたくない。完全な犯罪行為になってしまうからな。それなら彼奴らの出方を読んで、被害を増やさないようにするべきだ」

 諦めたようにモンテスが言った。

「まぁ、分かったよ。では、今後製造しなくてはいけない三つの人工鉱石について私から説明すればよいかな」

「ああ、その材料を集めるのがまず私たちが行う仕事だ」

 キャロンがアクアたちを見た。


 モンテスは横に置いてあった箱から二つの石を取り出して作業台に置いた。片方は深緑色でもう片方は濃い青色だった。

「この緑の石はグレスタ湖の奥にある鉱山跡から採取できる鉱石だ。本当に必要なのは、この石の中にあるエキスのようなものでね。なかなか量を集めるのが難しい。しかも、この石は女性が触ると劣化してますますエキスが捕れなくなる」

「女が触ると劣化する。何じゃそりゃ」

 アクアが声を上げる。するとキャロンが答えた。

「嘘ではないぞ。この間私も触らせてもらったんだが、明らかな劣化を感じた」

「あら、キャロンでもダメなの」

 ベアトリスが茶化すように言う。

「何が言いたいのか知らんが、私は女だ」

「だったら、私たちに集めるのは難しいんじゃねぇか」

 アクアの短絡的な発言に、モンテスは続けた。

「まぁ、そうだね。グレスタの街も以前は採掘が盛んで普通に市場で手に入れることもできたんだ。でも今はギルドもなくなってしまい、なかなか集めるのは大変だ。色々と用途が広い石ではあるのだけどね」

「それでも今回の仕掛け作りには必要なわけね」

「そうなんだよ。それからもう一つの青い石だけど、これはグレスタ湖の海底にある」

「海底? なんでまた」

「それに関しては謎としかいえないね。おそらくは水の影響を受けて変質した鉱石なのだと思うよ」

 アクアが額に皺を寄せた。

「つまり湖に潜って取ってこいってことか」

 モンテスが苦笑する。

「以前は猟師たちがたまに回収してくる石だったんだよ。恐らくグレスタ湖には大量にあると思うのだけど、引き上げるのが大変でとても希少価値の高い石だ。そしてこれもやはりエキスをとるには大量に必要になるんだ」

「ただの採掘と思ったら、結構とんでもないわね」

 ベアトリスが感想を述べる。

「そう言うことだ。しかし、これは冒険者の仕事だからな、対応できないわけじゃない。具体的な方法は後で打ち合わせよう」

 そこでベアトリスが気がついた。

「そういえば、冒険者の宿を通した依頼にはしないの?」

「そのつもりだったんだがね」

 キャロンが代わりに答えた。

「そうしたいのは山々だが、モンテスさんの経済状況もある。手数料を取られるのはいたたまれない」

 モンテスは苦しそうに言う。

「奪われた本の料金が支払われたのだけど、本当に僅かな金額でね。採掘だけでも難易度が高い仕事で正規に払えるお金はないんだよ。ただ、今回を契機に私は町外れに引っ越すことにしていてね。今住んでいるところは家賃が高い。本もないのにあの大きな家に住む必要は無いだろう。あの家を売ったお金を今回の依頼料に当てるつもりなんだ。だが、もう少し待って欲しいかな。買い手が見つからないとまとまったお金が用意できない」

 アクアが肩をすくめる。

「何だ、そういうことか。仕方がねぇな」

「あらアクア、あなた、前金が無いと貧乏なんじゃなかったかしら」

 するとアクアはベアトリスの肩を叩きながら言った。

「いいんだよ。おまえたちにたかるから」

「何よ。それ」

 ベアトリスはアクアをにらみつける。

「確かに割のいい仕事ということではない。呼び出しておいて悪いが、折り合いが付かないならやめてもらっても構わない」

「キャロンはやる気なのよね」

 キャロンがにやりと笑う。

「魔法兵器を研究できる機会なんてもう二度と無いだろう。錬金術系の魔法は私もあまり知らないからな」

「それ、完全にキャロンの趣味」

 ベアトリスがむっとすると、キャロンは苦笑して続けた。

「前回と同じだ。最終的に金は馬鹿王子どもからかっさらう。今回の件はそのための準備といったところだ。モンテスさんにもらうよりもいい稼ぎになるだろ」

「先行投資しろって言いたいわけね。どうせここで断ったら後でもらった報酬は渡さないって言ってくるのよね。キャロンは」

「それはそうだろう。どうせ必ず馬鹿王子は手を出してくる。今、その時に使える武器を用意しているだけだ。準備に手を貸さなかった奴に金など払えん」

「わかったわよ。本当にキャロンは人をこき使うんだから」

 ベアトリスも渋々ながらうなずいた。モンテスは申し訳なさそうに口を開いた。

「申し訳ないね。他に手段が提案できればよいのだけど。私ももちろん全力で手伝わせてもらうよ」

「モンテスさんの仕事ってのはつまりその台座の改造だろ。そんなの私ができる分けねぇし、私は私がやれることをするさ。気にすんな」

 アクアは気軽に応える。

「アクア、本当に脳天気。金欠なのに」

 キャロンが顔を上げた。

「話の概要はここまでだな。そろそろ帰るか。帰りは馬車だ。今出れば丁度良いだろう」

 そして四人はモンテス城を後にした。キャロンたちはモンテスの家で夕食に誘われたが、断ってすぐにおいとました。三人で早めに打ち合わせをし終えたかったからである。打ち合わせさえ終わってしまえば、後は自由行動だ。いくらでも夜の街に遊びに行ける。

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