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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第4章 喧嘩を売られたので返り討ちにしてみた
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(1)二年前-マリア

 淫乱で凄腕の戦士アクア、ベアトリス、キャロン。彼女たちは男や女をあさりながら放蕩な旅をしている。

 キャロンが住む城が乗っ取られ、キャロンは拘束される。キャロンはその後、集団に犯され続ける。そしてその頃、アクア、ベアトリスにも危機が迫っていた。美女戦士たちの力が試される一週間が始まった。

 アクア、ベアトリス、キャロンが王宮をピンク色の混乱に陥れ、最後にマリアを襲って出て行ってから二週間が経っていた。アクアたちは立ち直ったエドワード王子の命で追われたが、その頃にはダグリシアを去ってしまっていた。

 マリアは、すでに近衛隊を辞めることをジェイムズ総長に伝え、了承を得ていたので、後は除隊日を待つばかりだったのだが、肝心の除隊日が決まらなかった。アクアたちの残していった傷跡は大きく、ジェイムズ総長は毎日忙しくしていて、挨拶をするタイミングがつかめない。近衛隊の方もすっかりだらけきった空気が蔓延しており、サミュエル隊長に頼み込まれて立て直しを図らなければならなかった。マリアの所属する第一近衛隊はまだましなのだが、第二近衛隊と第三近衛隊はすっかりアクアたちの虜にさせられたみたいで、管理が行き届いていない。隊長、副長辺りから餌食になっているのだから目も当てられない。

 マリアは各部隊を周りながら、指導をしていた。部隊を越えた口出しは実際はかなり反発を買っている。多分それはサミュエル隊長もわかっていてのことだ。マリアがやめることは分かっているので、ちょっと強引な手を使ったのだ。

 二週間もすれば、隊長、副長たちもマリアに口出しされるのも嫌になり、やっとやる気を出した。もっとも第二近衛隊のジョン副長はアクアたちから逃げていたため、ふぬけにはなっていなかったが、それは彼に冒険者の経験があり、アクアたちの噂を知っていたからだった。とはいえ、ジョン副長は率先して隊を立て直すような気概はなく、自己鍛錬に精を出していたので、マリアにとっては同じようなものだった。


 マリアは、昨日、入隊式で新入隊員に向けて第一近衛隊副長として挨拶していた。本当は最も避けたかったことだ。何しろいなくなるのだから挨拶も何もあったものじゃない。しかし、新入隊員が入ってくる時期に当たってしまったのだから仕方がない。何食わぬ顔でいつも通り超絶に厳しい挨拶をした。

 入隊式が終わってやっとジェイムズ総長との謁見の予定が決まった。いよいよということで、マリアは朝からルーファス副長への引き継ぎを行っていた。ルーファス副長はなんとも言えない複雑な表情で、再度慰留を図ってきた。

「急すぎるだろう。昨日新入隊員に挨拶したばかりじゃないか」

「前から辞めると言っていたでしょう。昨日やっと謁見の日が決まったので、今日しか引き継ぎできる時間が無いのですよ。それに大部分の仕事はもう記録してあるので、後から読んでいただければ大丈夫です」

 ルーファス副長は大きくため息をついた。

「もう少し頑張る気は無いのか」

「殿下ににらまれていますからね。本当なら遅すぎるくらいです」

 マリアが言うとルーファス副長は諦めたようだった。苦笑いをしながら手を差し出す。

「マリア副長に幸あらんことを」

「ありがとうございます」

 マリアはしっかりとルーファス副長の手を握りしめた。


 マリアは挨拶回りをするつもりで、訓練場に向かった。そこで、マリアは騒ぎを聞いた。人が集まり、ざわついていた。

「さっそく新入隊員が馬鹿をやらかしたか?」

 マリアはそちらに走っていった。

「なんの騒ぎだ」

 マリアが大声で怒鳴る。すると第一近衛隊員たちが敬礼して間を開けた。

 新入隊員たちだけが反応が鈍い。第一近衛隊はマリアの鉄拳制裁を受け続けているので、かなり従順である。昨日の挨拶でも新入隊員たちはよくわからないという顔をしていたが、第一近衛隊員は震え上がっていた。マリアの言う事例が全て真実であると言うことを身をもって知っているからである。

 マリアが見たのは下着姿になった三人の女性近衛隊員と、その前に胸を張って剣を構える見知らぬ銀の鎧の女性騎士だった。

 女性騎士はマリアのことに気づいていないのか、笑いながら言った。

「ほら、まだ残っているわよ。負けたんだからさっさと全部脱ぎなさい」

 言われて彼女たちは目に涙を浮かべながら、下着に手をかけた。指が震えていた。

「やめろ、やめろ。私闘は禁止だ」

 女性騎士の態度に面をくらっていたマリアだったが、すぐに割り込んだ。

 女性の近衛隊員たちは体に怪我をしていた。そして恐らく自分から脱いだであろう鎧が下に置かれている。それで何となく自体が分かった。この女性騎士に挑まれて戦い、負けたということではないだろうか。

 マリアは落ちていた服を素早く拾って彼女たちに投げつける。

「あら、邪魔しないでくれるかしら。負けたら何でもするという約束の勝負よ」

 女性騎士は不快そうに言う。しかしマリアはひるまない。女性騎士に真ん前で彼女を見下ろした。マリアの方が圧倒的に背が高い。威圧感もあるだろう。

「第一近衛隊は私闘禁止だ。破った奴には私の鉄拳制裁が待っている。近衛隊に貴族の上下関係は通用しない。初めて見る顔だから許してやるが、私は女でも容赦しない」

 マリアには分かっている。近衛騎士が進んでこのような勝負を受けるわけがない。恐らくこの銀鎧の騎士の地位が高くて断れなかったのだろう。しかし平民のマリアにとってはどうでもいい話だった。近衛隊のルールは近衛隊で決める。公爵の息子ですらマリアは殴りつけた事があるのだ。もっともこの女性騎士は近衛隊ではないだろうから殴るわけにはいかないが。

「生意気な口を利くのね。あなた、誰」

 女性騎士は冷たい目でマリアを見た。かなり整った顔をしている女性だった。年は若い。恐らく十八歳くらいだ。マリアは学園を卒業したばかりで腕に自信のある公爵あたりの娘だろうと判断した。

 貴族が学園を卒業するのは十八歳だ。だから新入隊員も十八歳の子が多い。ただ、近衛隊というのは男なら貴族の次男坊、三男坊。女でもまだ結婚の予定が立っていない中途半端な女性たちが腰掛けで来るところだ。学園の成績が優秀であり近衛隊に興味の無い者は近衛隊を見下しがちである。

「第一近衛隊副長のマリアだ。あんたこそ誰だ。近衛隊では見た事がないな」

 わざとマリアは言う。暗にここは近衛隊以外は立ち入り禁止だと言っている。部外者が勝手に入って良いわけはないのだが、地位にかこつけて強引に突入したのだろう。

 するとその女性は笑った。

「私、そうね。少し迷っていたけど、ぜひ近衛隊に入らせてもらうわ。私の楽しみを奪った報いは受けてもらうわよ。マリア」

 そしてその女性は立ち去っていった。

 近衛隊に入るというのは意味が分からない。すでに入隊式は終わっている。だが、マリアは考えても仕方がないと思い、女性騎士たちを見た。彼女たちは必死に服を着ていた。

「男ども、背中を向けろ」

 マリアが言うと、囲っていた男たちはみんな背を向けた。


 マリアは彼女たちが着替え終わるのを待ってから言う。

「もういいぞ」

 すると男たちはマリアの方を向く。女性騎士たちも立ち上がっていたが、少しおびえた顔でマリアを見ていた。マリアは自分が近衛隊員に好かれていないことを知っている。平民出身であることはもちろんだが、全力ではないにしても女性たちを殴ったことがある。マリア自身、貴族の女性騎士や魔術師の有り様は好きではない。彼女たちは訓練に出てくるが、遠征には参加しないし、夜は規則で定められている宿舎に入らず、さっさと実家に帰るのだ。近衛隊員の一員ではあるが、近衛騎士や近衛魔術師と呼ぶのには抵抗がある。

「今後は軽々しく試合など受けないように」

 マリアはそう注意をしてから、彼らに背を向けた。

「あの、マリア副長・・・」

 その時一人の女性近衛騎士がマリアに声をかけた。マリアは少し驚いて振り返った。

「あの、ありがとうございます。ですが、大丈夫ですか」

 その近衛騎士はマリアの前に進みながら、声を潜めて言った。

「大丈夫?」

 マリアは怪訝な顔を向ける。何か心配されているらしい。彼女の顔にマリアを怖がっている様子は見えない。

「あの方は、その、今年学院を卒業された、ヴィヴィアン王女様です。学院でも武術には秀でていらしたようで、近衛隊の実力を知るんだといって乗り込んでこられたのです」

 その話を聞いて、マリアは一瞬で青ざめた。

「王女? 姫様だと? こちらに何の連絡も入っていないぞ」

 王女が近衛隊に来るというのは一大イベントである。当然、上層部に声がかかっているだろうし、そうであればマリアが知らないわけがない。そもそもあの女性騎士は一人だった。付き人なしで乗り込んでくる王女などあり得ない。

「恐らくですが、たまたま立ち寄っただけかと。入り口でなにかもめている声が聞こえました、取り巻きの方たちを制止して一人で入ってきたのです」

 マリアは震えそうになる声を抑えていった。

「なるほど。情報をありがとう。気をつけるとしよう」

 そしてマリアは足早にその場を立ち去った。


 マリアの痛恨のミスだった。以前エドワード王子と面会するときは決して粗相がないように、隙を見せないように事前準備をしっかりし、細心の注意を払いながら望んだ。ヴィヴィアン王女と会うのだって、初めから分かっていれば、一切抵抗せず、目立たぬようにやり過ごす自信はあった。だからこそあの対応はまずい。

 マリアは近衛隊を辞めたら速攻ダグリシアを去ることに決めた。指名手配される恐れすらある。

 マリアはすぐにサミュエル隊長の元を訪れ、先ほどあったことを伝えた。サミュエル隊長は頭を抱えた。

「マリア、君はヴィヴィアン王女の顔を知らなかったのか」

「知るわけがありません。姫様は去年まで学生だったのでしょう。しかし、そのせいで失態を晒してしてしまいました。申し訳ありません」

 サミュエル隊長はため息をつく。

「過ぎてしまった事は仕方がない。ジェイムズ総長との謁見を早急に行ってもらえるように伝えておく」

「ありがとうございます」

 マリアは頭を下げた。

「そして、謁見が終わったらできるだけ早く逃げろ。あの方にはあまりよくない噂がある。目をつけられると逃げられなくなるぞ」

 その言葉でマリアの顔はさらに青ざめる。

「よくない噂とは・・・」

「気にするな。とにかく、早くダグリシアを出るように」

 マリアはすぐに部屋を退出した。


 翌日、マリアは朝早くに私はサミュエル隊長と共にジェイムズ総長の屋敷を訪れた。マリアはジェイムズ総長の前で頭を下げる。

「今までありがとうございます」

 ジェイムズ総長も感慨深げにマリアを見た。

「私のわがままに付き合ってくれてありがとう。後継者ができなかったのは残念だが、女性であり平民出身でありながら、今まで第一近衛隊をしっかり鍛え上げてくれた。これからも苦難があるかも知れないが、マリア君ならしっかりやっていけると信じている」

 そしてマリアはジェイムズ総長としっかり握手を交わした。短いがこれで十分である。ジェイムズ総長も忙しいし、マリアも早急に逃げ出したい。マリアとサミュエル隊長は礼をして、ジェイムズ総長の部屋から出ようとした。


 その途端、部屋のドアが開いた。

「ごきげんよう。ジェイムズさん。朝からごめんなさいね」

 現れたのはヴィヴィアン王女だった。昨日と同じ豪華な銀の鎧を着ている。マリアとサミュエル隊長は驚いた。後ろからジェイムズ総長の執事が走ってきた。

「お、お待ちください、まだ来客中でして」

「いいのよ。その客にも用があるんだから」

 ヴィヴィアン王女は執事を手で制してずんずんと中に入ってきた。そしてジェイムズ総長の前に立つ。ジェイムズ総長は立ち上がって恭しく礼をした。

「これは姫様。わざわざ来てくださらなくてもお声をいただければ私から伺いましたのに。ご足労、誠にありがとうございます」

「いいのよ。私の用事だし」

 ヴィヴィアン王女は扉の側にいるマリアに一瞬目を向けた。マリアは弾かれたように言った。

「では、私はこれで失礼いたします」

 そして扉に手をかける。

「待ちなさい、マリア」

 ヴィヴィアン王女がマリアを見ながら言った。

「すぐに終わるから待っていなさい」

 王女に言われてしまってはマリアは待つより他にない。サミュエル隊長も苦い顔をしていた。

「ジェイムズさん。私、昨日、兄から近衛隊の統括権を与えてもらいましたわ。そこで早速、近衛隊を再編させていただきます」

「再編、ですか?」

 ヴィヴィアン王女は驚くべき事を言った。実際にヴィヴィアン王女は昨日中にエドワード王子と話を終わらせていた。

「ええ、そもそも女性と男性が一緒にいること事態がおかしいのですわ。間違いが起こって当たり前でしょう。女性たちは全員私の直属として配置転換させていただきます。ああ、私は実力主義ですので、力の無い方には近衛隊を辞めてもらいますわ」

「しかし、それは・・・」

 サミュエル隊長が口を挟もうとするがヴィヴィアン王女は続ける。

「昨今、風紀の乱れも激しいようですし、男女を分けるのは当たり前だと思いますけど? それから、近衛隊の編成も変えさせてもらいますわ。近衛魔術師と、近衛騎士は分けるべきですわね。町の警備と王宮の警備の人員が頻繁に入れ替わるのもおかしいですし、平民が近衛隊にいるというのも腹立たしいですわ。平民は不要です」

「今の編成は陛下が決めたものであり、平民を近衛隊に入れるのも陛下の発案です。姫様のおっしゃっている内容は過去の宮廷騎士団、宮廷魔術師団、宮廷警備団があった時代に戻すのと同じことになりますが」


 これは事実だった。もともと前王ヘンリーの時代には宮廷騎士団、宮廷魔術師団、宮廷警備団があり、それぞれが自分の役割を果たしながらダグリス王国の軍部を担い、治安を守ってきた。しかし、現王であるジョージはクーデターに近い改革を行い、全ての組織を解体した。

 その時の理由がそれぞれの組織の連携が悪く、いざ戦争を行うときに役に立たないというのと、彼らが平民に対し威圧的であり特権意識を持ちすぎている、というものだった。実際それらはただの口実に過ぎなかったが、そのような問題があるのは間違いないことだった。

 そこでジョージ王は騎士と魔術師の混成チームを作り、更にそのチームに警備も担わせることにしたのだった。つまり役割もメンバーもごちゃ混ぜにした。そして、平民の意見を吸い上げると言うことで、平民枠を毎年二名から三名用意することにしたのである。

 つまり、ヴィヴィアン王女の改革案というのは単にヘンリー王時代に戻すだけのことであり、違いは女性だけの部隊を作るというとこだけだ。ヘンリー王の時代の組織はすでに男女混成だったのである。

「かまわないでしょう。お兄様にはもう話を通してあります」

 現在ジョージ王は政務を行っていない。後宮で女に溺れて贅沢に過ごしている。なのでエドワード王子が政務を取り仕切っているのだ。ジョージ王が自らそうなったのか、エドワード王子がそう仕向けたのかはわからない。そのため、エドワード王子が部隊を過去の体制に戻したからといって、ジョージ王からのクレームは付かないだろう。

 そしてヴィヴィアン王女はちらりとマリアを見て続けた。

「早速ですが、このマリアは私の部隊に編入いたしますので」

 ジェイムズ総長は慌てて答えた。

「しかし、今彼女の除隊を許可したところです。すでに彼女は近衛隊員ではありません」

 マリアはぎりぎり逃げ切っていた。ヴィヴィアン王女が何を言ったところで、すでにマリアは近衛隊員ではない。そのため、新たな編成に加わる資格はないのである。マリアは胸をなで下ろした。一歩間違えれば捕まっていた可能性がある。

 ヴィヴィアン王女が悔しそうな顔でマリアをにらんだ。

「だったら、あなたの総長としての地位を剥奪します。だからマリアの除隊は無効です」

 ジェイムズ総長は青い顔をする。ヴィヴィアン王女の言葉は貴族にとっては絶対的なものである。さすがに公爵の地位の剥奪はできないが、総長というのは単に役割に過ぎない。王女が剥奪すると言えばその通りになる。

 しかし、すでにマリアの除隊は成立しているのだから、ジェイムズ総長の地位剥奪は単なるとばっちりというか嫌がらせに過ぎない。

 色々手を尽くしてもらったジェイムズ総長に不義理はできない。仕方がなくマリアは口を挟んだ。

「恐れながら発言させてもらってもよろしいでしょうか」

 ヴィヴィアン王女はニタリと笑みを浮かべてマリアを見た。

「いいでしょう。マリア」

 そのヘビのような視線にマリアの背筋が寒くなる。しかし、腹に気を込めて落ち着かせるといつも通り正論で突き抜けようとした。

「先ほど、新しい近衛隊には平民は不要だとおっしゃられておりましたが、私は平民です。当然私は姫様の近衛隊にいるべき人間ではありません」

 自分が先に除隊していたということを抜きにしても、ヴィヴィアン王女の提案には矛盾があった。マリアはそれを突こうと思ったのである。

「あなたは特別よ。そうね、じゃあ、男爵位をあげましょう。すぐに受勲の用意をさせますわ」

 マリアは丁寧に帰す。

「いえ、それには及びません。私は根っからの平民ですし、この年で貴族の素養を身につけることはできません」

「あら、嫌なの? わがままね。子爵がいいの?」

 しかし、ヴィヴィアン王女は話を聞こうとしなかった。マリアはエドワード王子よりも手強いと感じる。正論が通用しない。

「私は貴族にはなりません。ただの平民で結構です」

 しかしヴィヴィアン王女はねちっこい視線をマリアに向けた。

「まぁ、いいわ。現在近衛隊にいる平民は、形式上の貴族、そうね準貴族ということにしましょう。そもそも国に仕える近衛隊なのだから、そこにいる者がただの平民であって良いわけはないものね」

 また、ヴィヴィアン王女は新しい設定を持ち出してきた。マリアは頭を抱えたくなる。準貴族って何だ? 聞いたことも無い。

 マリアは別の部分を付くことにした。

「先ほど、姫様が作る女性の部隊は実力主義とおっしゃられました。しかし、ほとんどの平民は近衛隊としての実力を持っておりません。姫様が目指す新しい近衛隊には私たちのような平民は不要と考えます」

「もちろんそうね。だから平民でも貴族でも、私の方針に付いていけない者は辞めてもらうわ。サミュエルさん。今日の午後に近衛隊に所属する女性を全員集めなさい。私が自ら選抜します」

 ヴィヴィアン王女はマリアの話を聞こうとしていなかった。すでに決まった事という論調である。マリアは一旦説得は諦めることにした。

「ジェイムズ総長。私の辞表は取り下げます」

 マリアが言うと、呆然としていたジェイムズ総長が顔を上げた。すると、ヴィヴィアン王女は面白そうにマリアを見た。

「あら、優しいのね、マリア。いいわよ。だったら、ジェイムズさんの地位の剥奪は勘弁してあげますわ。ただし、先日の冒険者の件でお兄様はかなりご立腹よ。今の近衛隊の責任者たちには相応の罰があると覚悟した方がいいんじゃないかしら」

 マリアはため息をついた。

 キャロン、アクア、ベアトリスが起こしたトラブルに近衛隊は関係ない。エドワード王子が勝手に彼女らと契約し、王宮に招き入れ、そして起こったことだ。しかし、王宮にいた近衛隊は、誰もあの冒険者たちに対処できなかったのだから、責任がないともいいきれない。

 そしてマリアは逃げるタイミングを完全に失ったのだった。

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