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美女戦士ABCの一週間BGS  作者: 弥生えむ
第1章 思いがけず弟子を取ってみた
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(10)ベアトリスの弟子とり

 僕はずっと浴室でレクシアと三人のやりとりを聞いていた。幸いレクシアの望みは叶いそうにない。それはそうだ。僕らみたいなお荷物を仕事中の冒険者が連れ歩くはずはない。僕は三人の女性が外出してから、浴室を出た。

「レクシア」

 レクシアは服も着ないで、椅子に座って腕を組んでいる。テーブルの上には温かい食事があった。僕らのために取ってくれたみたいだ。

 レクシアは返事をしない。

 僕はベッドに置いてあった服を着て、レクシアの向かいに座った。

「レクシア、服を着なよ」

「良いの。私は裸でベアトリスさんを出迎えるの。きっと喜んでくれる」

「いい加減にしろよ。無理だってわかっただろ。僕らを連れて行ってくれるわけないさ」

「お兄ちゃんは関係ない。私は絶対にベアトリスさんの弟子になる」

 僕は腹が立った。でもお腹も空いている。僕はそれ以上何も言わずに食事を取った。レクシアもしばらくむすっとしていたけど、食事を取り始めた。僕らは食事が終わるまで一言も会話をしなかった。


 食事が終わって、やっと僕はレクシアに語りかけた。

「レクシア、これからのことを考えよう」

 本当は今のうちに逃げた方が良い。じゃないと、きっとひどい目に合わされる。また僕はレクシアとそういうことをしなくてはいけなくなるかも知れない。でももう夜だし、今ここを出ても行くところはない。今夜は泊めてくれるようにお願いするしかないようだ。

「明日、街で仕事を探そう。住み込みで働けるようなところがあれば一番良いんだけど」

 レクシアは返事をしない。

「ねぇ、レクシア」

「私はベアトリスさんの弟子になる」

 レクシアはかたくなだった。だから腹が立つ。

「いい加減にしろよ。さっき無理だってわかっただろ」

「お兄ちゃんにはわからない」

「もっと現実を見ないとダメだ。もうじきレクシアも十二歳になるんだぞ。いつまでもわがままばっかり言うなよ」

 レクシアは立ち上がってベッドに行く。

 そしてベッドの上に置いてあった荷物を片付け始めた。

「レクシア」

 ベッドの上が片付くと、レクシアはベッドの上に膝を抱えて座る。僕も立ち上がる。

「お兄ちゃんは来ないで」

「僕が頼りないのはわかるけど、無理なことはわかっているだろ」

「だからお兄ちゃんはわからない」

「何がわからないんだよ」

 するとレクシアは僕をにらんできた。

「私には魔法の才能がない。お兄ちゃんには魔法の才能がある」

 それは本当のことだった。僕は魔術師が魔法を使うのに必要な魔力循環というのを子供の頃から自然にできていた。お母さんが驚いていた。普通は修行をしないと身につかないらしい。それに僕には魔法の匂いのようなものがわかる。お母さんに聞いたら、血筋によるものらしい。お母さんはわからないらしいけど、おじいさんは魔法が色で見える人だったとか。でも僕はそれを嬉しいと思ったことがない。だって僕はお父さんのような戦士になりたかったから。お母さんだって僕に魔法を教えようとはしなかった。

「魔術師になれるチャンスは今しかない。お母さんから教わっても私は魔法があまり上手に使えるようにならなかったもん」

「教わる人を変えたところで、レクシアが魔術師になれるかわからないだろ」

 レクシアは魔力循環を身につけるのにとても時間がかかった。今でもたどたどしいみたいだ。そして、簡単な呪文なら発動できるけど、長い呪文になるとまったく発動できなかった。体にある魔力量もかなり少ないみたいだ。魔力量が多い方が当然魔法を使うのに有利だ。

「私は魔術師になるの」

 堂々巡りだった。僕はその後もレクシアの説得を続けたけど、結局何も変わらなかった。


※※


 居酒屋でキャロン、ベアトリス、アクアは今後の打ち合わせを行っていた。

「妙に好かれたな。ベアトリス」

 料理を食べながらアクアがベアトリスをからかう。ベアトリスはこめかみに指を当てた。

「どう考えても好かれる要素はないんだけど」

 むしろひどいことをしたという自信ならある。何しろ三人でよってたかってレクシアを○○したのである。

「魔術師らしいと思われたんだろう。アクアは魔術師に見えないし、私は一応魔術師っぽくはあるが、体格が戦士側だからな。レクシアは魔術師にあこがれがあるようだ。おまえの弟子になれば魔術師になれると思ったんだ。まぁ、間違いではない」

 魔術師になるためには師が必要だ。少なくとも呪文は教わらないと使えない。

「そうね。魔術師になるんなら、誰かに教わる必要があるわよね。でも、仕事中にそんなお願いされても困るわよ。それに十七歳の私が師匠ってあり得ないでしょ!」

「おまえもまんざらじゃなさそうじゃねぇか」

 アクアが続けるとベアトリスはむすっとした顔をした。

「まぁ、レクシアは可愛いからね。私、美形は好きよ。幼女嗜好って事は無いけど、一応あの子は許容範囲内ね」

「確かに成長すると美人になりそうだな。ログの方も整った顔をしている」

「でしょ。だからちょっと手伝ってあげたくなっちゃう」

 ベアトリスが身をよじる。

「ほだされてるんじゃねぇよ。まだオウナイの奴らも見つけてねぇってのに」

 アクアが突っ込みを入れるがキャロンは少し思案してから答えた。

「だったら、明日の調査は私とアクアでやるから、一日レクシアに修行をつけてみたらどうだ? その結果、使えないと判断して追い出せばいい。それならさすがに納得するだろう。あのしつこさは筋金入りだ。恐らく今もベアトリスのことを首を長くして待っているだろう」

「おいおい、いいのかよ」

「明日はバムを見つけて城まで案内させるだけ。オウナイがいても明日中に襲撃するつもりはない。調査だけだ。もしオウナイがいなければ、すぐにこの町を出ることになる。その時はベアトリスを呼びに行くとしよう。ベアトリスはグレスタの町の外で修行をしていれば良い。見つけるのもたやすい」

 ベアトリスはため息をつく。

「そうね。みんなには迷惑をかけるけど、キャロンの提案に甘えるわ。明日の行動は二人に任せて、レクシアに魔法を教えてみるわね」

「ま、キャロンが問題ないって言うならそれでいいさ。だが、十七で師匠って格好良いな。私も誰か弟子にしようかな」

「あんたに何が教えられると言うんだ?」

「そりゃあ、○○に決まってんじゃねぇか」


 その時、体格のいい男が三人そばに来た。

 全員がそちらを見ると、男たちは腕を打ち合って喜ぶ。

「やっぱりすげぇ美人」

「なぁ、一緒していいか」

「おごるからよ」

 アクアが彼らを見て口笛を鳴らす。

「やっぱりガキよりこっちの方が良いな。ログは譲るぜ」

 ベアトリスはジッと三人の顔を見比べていた。そして一番手前にいた男の手を握る。

「素敵なお兄さん。二人きりで飲み直さない?」

「おい、取るなよ。おまえにはレクシアがいるだろ」

「あん。良いじゃない。一人で三人を相手にするつもりだったの」

 キャロンは三人の男たちにほほえみかけた。

「いいぞ。だが、見ての通り私たちは食事を終えたところなんだ。場所を変えないか。夜は長い。楽しみはこれからだろ」

「よっしゃー」

「やったぜ」

「良い店知ってるんだ。行こうぜ」

 男たちが驚喜する。

「キャロンもかよ。私の取り分が減るじゃねぇか。なぁ、他にダチはいねぇのかよ」

 さっそくアクアが男の腕を取って体をこすりつける。

「お、おお」

 そしてアクアは男に耳打ちする。

「え、ほ、本当かよ」

「めちゃめちゃ楽しいぞ。はまるかもな」

 男はゴクリと唾を飲み込む。

「おい、何の話だよ」

「いやん。私だけ見てよ」

 ベアトリスも手を握った男の腕を引き寄せた。

 残った男がおろおろしている。

 キャロンが立ち上がってお金をテーブルに置いた。

「私じゃダメか」

 キャロンがその男にほほえみかけると、男はだらしなく相好を崩す。

「いや。最高です」

 そして彼女たちは夜の町に消えていった。


 レクシアはベッドの上に座ってベアトリスの帰りを待っていた。しかしいつまで経っても帰ってこない。

 ログとの言い合いにも疲れ、お互い無口になっていた。ログもレクシアと同じように起きていたが、さすがに眠くなってくる。

「レクシア。もう寝よう」

「私はベアトリスさんを待つの」

 レクシアはベッドの上で膝を抱えたままだ。ログも頑張ろうと思ったが、さすがにもう無理だった。ログはレクシアのいない方のベッドに行って寝転がる。

「レクシアも早く寝なよ」

 そしてログは眠った。


 夜も遅くになって扉がそっと開く。

「あら、私が一番かしら。あの二人。明日仕事があるのにちょっとはしゃぎすぎね」

 ベアトリスが魔法を解いて実体を表す。いないことになっているベアトリスは体を透明にして出入りするしかない。鍵開けは得意なので、キャロンたちがいなくても出入りはできる。ベアトリスはベッドの上を見てため息を付いた。レクシアが裸のまま膝を抱えて眠っていたからだ。ベアトリスが近づいていくと、レクシアが目を覚ます。

「あ、師匠」

 すぐに立ち上がろうとするレクシアをベアトリスは捕まえる。そして手で口を塞ぐ。

「まだログが寝ているわ。それに、何でちゃんと寝てないのよ」

 ベアトリスが手を離すとレクシアはしゃべり出す。

「お兄ちゃんは関係ありません。お願いです。私を・・・」

 ベアトリスはレクシアの額に手を当てる。

「いいから眠りなさい」

 するといきなりレクシアの力が抜けた。ベアトリスはレクシアをしっかりとベッドに寝かせる。

「こんな美少女にここまで懐かれると、さすがに悪い気はしないわね」

 ベアトリスはにまっと笑った。そして自分も服を脱いで裸になると、レクシアを抱きしめながら眠った。


 その後キャロンが帰ってきてログのいるベッドに入り、結局明け方までアクアは帰ってこなかった。

 アクアは明け方に部屋に戻るとすぐに風呂に入った。体中が○○で汚れていたので、文句を言われる前に洗い流したかったのである。昨夜捕まえた男に仲間を呼び出させ、大いに楽しんだ。そのせいで体を洗う暇がなかった。

 アクアが浴室から出てくると、キャロンも目を覚ましベッドから降りた。

「よっ」

 アクアが髪を拭きながら、キャロンを見る。

「あんた、もしかして寝てないな」

「いやー、興が乗っちまってよ。三人同時に相手すると時間を忘れちまうな」

「大丈夫なの、仕事があるのに」

 ベアトリスもベッドから降りた。ログとレクシアも目を覚ましたようだった。

「あれ、何で僕、裸」

 ログは自分が裸なのを見て驚く。

「寝るのに服はいらないだろ。ちゃんと剥いておいてやったよ」

 キャロンが笑う。

「おお、朝からしっかり元気じゃねぇか」

 アクアがログの股間を見て言うとログは手で隠した。


「師匠。私を弟子にしてください」

 ベッドを降りたレクシアは後ろからベアトリスに抱きついた。

「あら、そんなに密着されたらむらむらしちゃうわ。一緒にお風呂に行きましょう」

 そしてベアトリスはあっさりとレクシアをふりほどき、体を回すとレクシアを後ろから抱きしめる。

「あれ?」

 レクシアは自分が何をされたのかわからないまま浴室に連れて行かれた。


 アクアとキャロンは服を着た。ログも慌てて服を身につけた。

 その時ノックが鳴る。

「今度は私が出よう」

 皮鎧を着たキャロンがドアに向かった。アクアは剣をチェックし始めた。

「あの」

 ログがアクアに話しかける。

「ん?」

「ありがとうございます」

 アクアは首をかしげた。

「何が?」

「え、と。食事と泊まるところをくれたことです」

「ああ。キャロンとベアトリスが勝手に決めたことだ。私は関係ねぇよ」

「あの。僕、この町で働こうと思います」

 ログが勇気を振り絞りながら話すが、アクアは興味なさそうに剣の手入れを続ける。

「好きにすれば良いじゃねぇか」


 キャロンが戻ってきて朝食をテーブルに並べた。

 その時浴室で叫び声が上がった。浴室の扉が開き、勢いよくレクシアが出てくる。

「ちょっと、ちゃんと体拭きなさいレクシア!」

「お兄ちゃん。ベアトリスさんが私を弟子にしてくれるって」

 追いついてきたベアトリスがタオルでレクシアの体を拭く。

「え?」

 顔を輝かせているレクシアと対照的に、ログの顔は絶望にゆがんだ。

「今日だけよ。今日だけ。私は忙しいの。使い物にならないとわかったら、すぐに追い出すわ。場合によっては昼にはクビにするから!」

 ベアトリスは釘を刺すが、はしゃいでいるレクシアに通じない。

「何でもします。どんな言うことも聞きます。ありがとうございます。師匠」

「師匠はやめなさい。名前で呼びなさい。じゃないと教えてあげないわよ」

「わかりました。ベアトリスさん!」

「どうでもいいが。早く飯を食え。私たちも早く出ていきたいんだ」

 キャロンに言われて、レクシアは服を着るとすぐに席に着いた。

 二人が食べている間に、キャロンも身支度を済ませる。ベアトリスもマントをまとった。


 ログが掻き込むように食事を終えてすぐに立ち上がった。

「お兄ちゃん?」

 レクシアはやっとログの様子がおかしいことに気づいた。ログは黙って自分の荷物の方に歩いて行き、手に取った。

「お兄ちゃん。お兄ちゃんも一緒に・・・」

 レクシアは席を立ったが、ログはそのまま扉の方に歩いて行った。

「お兄、ちゃん・・・」

 ログは一度もレクシアを見ずにそのまま部屋を出て行った。

「おっと、彼奴が泊まっていたことがばれるとまずいな。私たちももう出るか。アクアが男を連れ込んだことにして金を払っておこう」

「私かよ」

「あんたが一番やりそうだ」

 キャロンとアクアがすぐに荷物を持って扉に向かった。


 レクシアはログが出ていった扉をじっと見たまま固まっていた。キャロンとアクアも出ていく。ベアトリスとレクシアだけが部屋に残された。

「後悔するくらいなら、追っていった方が良いんじゃない?」

 ベアトリスが言うと、レクシアはしっかりとベアトリスの顔を見た。さっきまでの喜んでいた顔ではない。もっと真剣なそして必死な顔だった。

「魔法を教えてください。ベアトリスさん」

 ベアトリスは肩をすくめる。

「ま、良いわ。じゃあ準備して出ましょうか」

 ベアトリスはレクシアと自分を結界で見えないようにしてから、部屋を出た。

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