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アキノ

これはアキノが【金の島】に所属するまでのお話。


アキノとは名無しの権兵衛に初めて傷を負わせた【写し持ち】であり忍び。【金の島】に所属する前はただの忍びの一人として働いていたが名無しの権兵衛との殺し合いと文太の言葉をきっかけに忍び達とその長、関係者を皆殺しにした後に脱退。追手を殺しながら【合戦場】で【写し持ち】として殺し合いをしていた。


話はアキノが【血盟書】を手に入れたところから始まる。



◆◇◆◇◆



誰でも気軽に入れる某有名な飲食店の【合戦場】支店の中、アキノは席について待ち合わせをしていた。


「おまたせ。」


アキノがあいる席にやって来たのは天野。天野はアキノの向かい側に座る。


「いやー。今話題の【写し持ち】の君から声をかけられるなんて嬉しいな。」

「思ってもいない事をよく言えるな。」


にこにこと笑う天野にアキノは嫌悪の感情を隠さない。

アキノは懐から赤い紙を取り出して机の上に置く。まだ何も書かれていない【血盟書】だ。


「【血盟書】を持ってきた。今なら【写し持ち】でもこれを使って契約ができるのだろう?」

「できるよ。」


かつて【血盟書】は天野と契約できる唯一の手段であったが、それを使用できるのは【刀持ち】だけだった。しかし現在は天野が融通して【刀持ち】だけでなく【合戦場】に来られるものならば誰でも使用ができるようにされた。

理由は天野が


『誰も使ってくれない! せっかく用意したんだから使ってよ!』


と言ったからだ。


「それで? 君は何を願うのかな?」

「私が【刀持ち】にならないようにしてくれ。」


アキノの願いを聞いた天野はずっこけて椅子から転がり落ちる。

店内にいた客達は物音を聞いて何事だと視線を向けたがすぐにそらした。天野と極力関わりたくないからだ。


「え? え? 聞き間違い? 今、【刀持ち】になりたくないって言った?」

「そう言ったが?」

「なんで?!」


席に座らず前のめりになってアキノに詰め寄る天野。


「【刀持ち】になりたくないからだ。名無しの権兵衛から聞いたぞ。【写し持ち】が【刀持ち】を殺したら強制的に【刀持ち】になる事を。」

「そんな、どうして?! 確かにその情報は正しいけど、あっもしかして痛いから? でもそれさえ我慢すれば君は凄い力を手にする事ができるんだよ。」

「いらない。」

「どうして?!」

「あんな得体の知れない武器を手にしたくない。それに私は【写し持ち】のまま、【刀持ち】を殺したいんだ。弱者と見下していた【写し持ち】によって殺されると分かって絶望する【刀持ち】の顔を見たいんだ。」


慌てふためく天野に対してアキノは淡々と自分の願望を口にする。


「叶えないつもりか? おかしいな。これさえ持ってくればお前と契約できると聞いたのだが。対価を払えば願いを増やす事を除けばなんでも願いを叶えてくれると聞いたので期待して来たのだが。まさか叶えられないのか? お前が?」

「そんな言い方しないでよ!」


蔑んだ目で天野を見るアキノに天野は涙目で抗議する。


「…いいよ。分かったよ。君の願い、叶えてあげるよ。ただし!」


そう言ってようやく座った天野は不満そうな表情で両手を開いた状態でアキノに向ける。


「対価は前払いだよ。十人。君には【ツジキリ】で一対一の死合を十回やってもらう。オイラが選んだ【刀持ち】を計十人を殺したら君の願いを叶えてあげる。だけど途中で負けたらこの契約は無し。途中で一人でも殺していたらその人の刀を君に継承させる。どう?」

「構わない。その条件を呑もう。」

「言ったね。もう取り返しつかないよ。【刀持ち】はすっごく強いんだから。いくら君でも【写し持ち】じゃあ倒せないよ。」


そう言って天野は意地悪そうな笑みを浮かべて【血盟書】を持つ。すると契約内容とアキノの名前が自動的に書かれていく。


「じゃあ日付と時間はこれでいい?」

「いいとも。」


【血盟書】に書かれた【ツジキリ】の開始時間と日付を確認したアキノは頷く。

すると天野はすぐに自分の名前を【血盟書】に記し契約を完了させる。


「はい契約完了! 上には上がいる事を君に教えてあげるよ。」

「戦うのはお前ではなく他の【刀持ち】だろ。」

「高報酬で釣ればすぐに来てくれるよ! そしたらきみでもひとたまりもないよ。覚悟してよね!」


そう言って自信満々に胸を張る仕草をする天野。



◆◇◆◇◆



数日後。


「なんでぇぇぇぇ!!」


天野は膝をついて叫んでいた。数日前、あれだけ自信満々に言っていた姿はどこにもない。今は突きつけられた結果を見て衝動のままに叫んでいた。


「残念だったね天野。」


そんな天野に近づいたのはアキノ。傷の深さからアキノは重傷を負っていたが生きている。今にも死んでしまいそうだが、気力で立ち意識を保っていた。


「なんで勝っちゃうの?!」


そんなアキノを見て天野は叫ぶ。


そう。

アキノは【刀持ち】相手に十連戦して十連勝した。

天野が用意した舞台で。天野が用意した【刀持ち】と。多くの観客達に見られながらアキノは勝利した。

相手の弱点をついたり、隙を見て仕掛けた罠で仕留めたり、毒を使って動きを止めて殺したりしてアキノは【刀持ち】を全員殺した。


「お前が選んだ【刀持ち】の情報をあらかじめ頭に入れておいたからね。入念な準備もしてどうにか勝てたよ。」

「え? なんで? ぎりぎりまで【刀持ち】の情報は伏せてたよ。なのに、どうやって。」

「簡単な事だよ。可能な限り全ての【刀持ち】の情報を頭に叩き込んだからさ。」

「嘘でしょ?! 【刀持ち】五百人くらいいるんだけど?!」


アキノの攻略法を聞いた天野は目をまん丸にして驚愕の表情を見せる。


「このくらいできなければ【刀持ち】を殺す事などできないだろう。」


そう簡単に真似できない事をアキノは大した事ないように言い切る。


「さぁ。対価は支払った。私の願いを叶えてもらうぞ。」

「…分かったよ。契約は守る。」


不貞腐れた様子ではあるが天野はアキノが対価を払った以上願いを叶える気はあるようだ。


「今君に施してるやつを永続的にすればいいとして。ガマばぁの所で治療している間に終わらせればいいか。」


独り言を呟きながら天野はアキノと共にガマばぁのいる診療所まで転移していった。



◆◇◆◇◆



ついに願いを叶える事ができたアキノは治療を終えた後、一人で【合戦場】のあちこちを目的もなく歩いていた。


「こんにちは。」


そんな時、一人の男性に声をかけられた。

アキノには男性から敵意を感じなかったが、内心では警戒をしていた。


「何か用ですか?」

「そうだよ。君に話があるんだけどここで話すのもなんだし、あの店で話をしないかなアキノ。」


姿を変えているにも関わらず男性はアキノの正体を見抜く。


「…いいよ。」


罠の可能性も考えたが、アキノは男性の話を聞く事に決めた。いざとなれば罠ごと男性をねじ伏せてやろうと考えていた。


店に入った二人は席を挟んで向かい合って座る。


「まずは自己紹介からだね。俺は青桐。【金の島】て姫様の側近をやっているものだ。」


青桐はそう言って名刺をアキノに差し出す。


「姫様って珠珠 円寿の事かな?」

「そうだよ。俺達は姫様って呼んでるんだ。」

「ふーん。それで? 話とは一体何かな?」

「単刀直入に言おう。【金の島】に入る気はないか?」

「…へぇ。」


青桐の申し出にアキノはじっと青桐を見据える。


「理由を聞いても?」

「簡単だよ。君は強い。うちに来てくれたらとても心強いと思って勧誘しに来たんだ。今日行われた【刀持ち】との十連戦、見事だったよ。君のような強者が来てくれたら姫様もきっと喜んでくれる。来てくれたらいい待遇を約束するよ。」


青桐の話を聞いてアキノは少し考え込んだ。


珠珠 円寿。

彼女の事はアキノも知っている。

あまりの可愛さに素顔を見て気絶するものが多発してしまい普段は仮面をつけている。

可憐な容姿からは想像がつかないほど苛烈な強さを持つ【刀持ち】であり、実力で先代の【金の島】の将であった金字義 流魑縷から将の座を奪い取った。

求婚するものを悉く殺して断ってきた。

などなど。

有名人である円寿の情報は簡単に集まった。


しかし。


青桐の情報は全く出てこなかった。

円寿の側近である事はアキノも知っていた。

しかし、それ以外の情報は全くと言っていいほど出てこなかった。


「あ、もしかして夢花の所属だった事を気にしてる? 姫様も俺達もそういうの気にしないよ。」


けれど。

青桐はアキノの情報を得ている。

それどころか姿を変えているアキノの正体を見抜いていた。

青桐が卓越した存在であるとアキノは考える。青桐に近づくのは危険だとアキノの反応が告げる。


「それは嬉しいね。前向きに考えさせてくれるかな?」

「もちろんだよ。」


その上で。

アキノは【金の島】の加入を視野に入れた。

理由はそんな青桐を殺したらどんな表情を見せてくれるのだろうと興味が湧いたからだ。そのためには入念な準備と情報収集が必要と考えたアキノはその第一歩として【金の島】の加入を考えた。

アキノは危機感よりも欲望に従った。


後日。

【金の島】で下見を終えたアキノは【金の島】の加入を決意。青桐に連絡をとり何事もなく【金の島】の所属となった。

円寿の顔合わせが終わった後、青桐は改めてアキノの加入を喜ぶ。


「嬉しいよアキノ。君が来てくれて本当に良かった。」

「こちらこそ謀反を起こした私を受け入れてくれて感謝するよ。」


アキノと青桐。

二人とも笑い合っているが、内心何を思っているのか本人達にしか分からない。


「うふふ。二人とも、とっても仲良しなのね。いい事だわ。」


青桐は分からないがアキノが内心ドス黒い欲望を抱いている事を全く気がついていない円寿は少し離れた所で微笑ましそうに二人を見ていた。

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