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第七章 皇帝の真意ー④


「困ったなあ。牢に閉じ込めていたはずの白賢妃がいなくなっていて、後宮内は大騒ぎだ。皆何か知っているか」


 夜、林徳妃の元へとやってきた劉銀。しかし今回も、御渡りとは名ばかりで、行方不明事件の相談をしていた時のように、室内には鈴舞と祥明もいた。


 劉銀の言葉は、いつもより間延びしており、白々しい声音だった。林徳妃と鈴舞は顔を見合わせて微笑む。


「さあ、私は何も存じませんわ。その時間は梁貴妃様とお茶をしていたので」


「私も何が何やら……」


 笑いを堪えながらふたりがそう言うと、何も知らなかったらしい祥明は察したようで、「恐ろしいことを考えるなあ……」とぼそりと呟いた。


 すると、劉銀は堪えきれなかったようで、はははは、と豪快に笑った。


「この面々だから言うがな。正直ほっとしている。白賢妃の命を奪う必要がなくなったことには」


「陛下……」


「彼女の心の弱さに俺はまったく気づかなかったのだ。俺にも責任がある」


 劉銀の微笑みはどこか自嘲的に見えた。白賢妃に対して、深い自責の念を抱いているのだろう。


「仕方ありませんわ。あの方はいつも凛々しくて気高くて……。あんなことを抱えているだなんてきっと誰も想像できなかったわ。陛下は、白賢妃様以外の女のことも気遣わなければなりませんもの」


「そうか……。林徳妃は相変わらず優しいな」


 劉銀は、林徳妃の髪を撫でながら艶っぽく見つめる。林徳妃は嬉しそうに頬を染めた。


「もう事件も解決しましたし。そろそろ本当の夜伽を待っておりますからね」


「ああ、近いうちに必ず」


 すぐそばで愛の言葉を言い合うふたりを見て、鈴舞は「事件の間はあまりそんな感じはしなかったけど、なんだかんだ愛し合っているんだな」と微笑ましい気持ちになった。


 ――おっと、いけない。劉銀に聞いておかなきゃならないことがあったわ。


「お取込み中悪いんですけど。あの、私の役目はもう終わりですよね?」


 うきうきとした気分で劉銀に尋ねる鈴舞。そう、女官の行方不明事件は無事に解決したのだ。もう鈴舞が男装して宦官をやる必要なんてないはず。


 林徳妃のことは好ましく思っているし、後宮での生活は思ったほど苦痛ではなかったけれど、早く道場で思いっきり稽古に励みたくて仕方がない。身体がうずうずしてしまっていた。


 ――しかし。


「え?」


 劉銀はなんのことなのかわらかない、といった様子で首を傾げた。


「だから。私はもう、林徳妃様の護衛でいる必要はないですよね? 事件も解決しましたし」


「え!? 鈴鈴辞めちゃうの!? いいじゃない、このまま私の専属の護衛で!」


 鈴舞の言葉を聞いて、林徳妃はうろたえながら主張する。


「そうおっしゃっていただけるのは嬉しいですし、林徳妃様と共に過ごすのはとても楽しかったのですが、父の道場を継ぐ身としては、早く戻らなくてはなりませぬので……」


「ええ……そうなの? 残念……」


 しょんぼりと林徳妃はうなだれる。心苦しい気持ちになるが、こればっかりは仕方がない――と思う鈴舞だったが。


「え? 詔令文書には任期は未定だと書いていたはずだが?」


 劉銀がさも不思議そうな顔をして言う。どこか、白々しい気配すら放っていた。


「いや……でもそれは、行方不明事件がいつ解決するかわからないから、そう書かれたんでしょう?」


「そもそも行方不明事件が解決したら任務が終わりとも、俺は一言も言っていないのだが」


「えっ……!」


 衝撃的な劉銀の言い分だった。しかし確かに思い返してみたら、そんな言葉は一切覚えがない。


 「女たちが行方不明になっている件で自分が駆り出されたのだろう。じゃあ解決したら終わりよね」と、鈴舞自身が思い込んでいただけで。


 ――えっ、で、でも! 困るんだって!


「い、いや、あのですね! それじゃあ、終わりってことに今できませんか!?」


「いやー、今回の鈴鈴の働きぶりはすばらしかったからな。実際、お前がいなければこうも早く解決しなかっただろう。引き続き、林徳妃の専属の護衛を頼む」


「え!? そんなの困ります! 私はそんなつもりは……」


「まあ、そういうことだ。む、そういえばまだ執務が残っていた。というわけで俺はこれで」


「ちょ、ちょっと! 陛下!? 劉銀ー!」


 叫ぶ鈴舞には構わず、劉銀はいそいそと林徳妃の寝室を退室した。「私は嬉しいわ!」と、林徳妃は鈴舞に抱き着くが、衝撃を受けている鈴舞は涙目になってしまう。


「鈴舞……まあ、頑張れ。俺も手助けするから」


 苦笑を浮かべながら祥明はそう言うと、劉銀の後を追うように部屋から出て行った。

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