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第五章 白薔薇の下にー①

 桃花祭の後、女官の行方不明事件への解決の糸口は掴めないまま、数日が過ぎた。


 林徳妃や女官たちは、じきに開催される百合節という催しの準備で大忙しだった。桃花祭が終わったばかりなのに、また宴が行われるのかと鈴舞は驚いたか、後宮では時節にちなんだ行事が頻繁に行われるらしい。


「だって、そうでもしないとここでやることなんてないもの。無理やり理由をつけて催しを開いて、女たちは暇をつぶすしかないのよ」


 なんて、林徳妃は祭り用の衣裳を選びながら言っていた。


 なるほど、そういうものなのかと鈴舞は思うと同時に、やはり自分は女として後宮入りなんてしていたら、一日だって持たないだろうなと苦笑を浮かべるのだった。


 その日の夜、劉銀が林徳妃に夜伽を命じた。月の障りはなかったが、普段とは異なる折らしく、林徳妃は「陛下、どうしたのかしら」と呟いていた。


 予想外の命に、夏蓮宮の女官たちは林徳妃を磨き上げることに大忙しだった。


 湯殿で隈なく磨き上げられた体には香油を塗られ、顔には念入りに白粉をはたかれた林徳妃。


 そして現在、最後の仕上げとばかりに、手先の器用な女官に御髪を複雑に結われていた。長時間されるがままになっている林徳妃の傍らに立つ鈴舞は、「相変わらず大変ね」と、こっそり憐みの目を向けていた。


「髪なんて、どうせ崩れるんだから適当でいいのに……」


「何をおっしゃいます! 寝所に陛下がご入室された時の、印象が大事なのですわ! そこで可憐だと思わせれば、また近いうちに御渡りになるに違いありません!」


「ああ、そう。うん、そうね。私が悪かった、うん」


 疲れた顔で愚痴を吐いたら、さらに疲れるようなことを女官に言われたため、反論する気は起きなかったらしい。林徳妃は投げやりに言葉を紡ぐ。


 そんなこんなで準備が整い、香を焚いた寝所に林徳妃は押し込められた。その扉の前で、帯刀した鈴舞は警護をする。


 薄い扉なので、この場所にいたら否応なしに情事の気配を感じてしまうだろう。しかし、いつ、何時、皇帝と愛妃が危険にさらされるなんてわからない。夜伽の最中の警護は、武官にとってはもっとも重要な仕事と言っても過言ではない。


「陛下がいらっしゃいました」


 女官のそんな声が響いた後、祥明を従えて、劉銀がやってきた。


 以前に執務室で会ったときは「祥明と俺だけの時は、かしこまらなくていい」と言われたが、現在は密室ではないので念のため鈴舞はその場で平伏する。すると、「鈴鈴、楽にしろ」との声が頭上から響いてきたので、言われた通りに立ち上がった。


「林徳妃様がお待ちでございます」


「うむ。お前たちふたりは、ここで警護を頼む……と、言いたいところだが。ちょっと、ふたりも一緒に寝所に入ってくれないか」


「えっ……!? なぜです?」


 劉銀の思わぬ提案に、鈴舞は驚きの声を漏らす。


「いや、先にお前に話しておきたいことがあるのだ。また執務室に呼びつけてもよかったのだが、最近後宮に渡っていなかったことを宰相に咎められてな」


「話……? あっ」


 ――たぶん、女官の行方不明事件に関わることだわ。


 察した鈴舞だったが、女官がうろつく廊下でそれを示唆する発言をするわけにはいかない。誰が聞いているのか分からない。


 祥明はあらかじめ聞いていたらしく、「早く御子をって、周りがうるさいからな。夜伽のふりして俺たちに話しておこうってわけよ」と、説明を付け加える。


「承知いたしました。では、ご一緒に入室させていただきます」


 劉銀を先頭に、寝所の中に入る三人。寝台に座っていた徳妃は、鈴舞と祥明の姿を見るなり、苦笑を浮かべる。


「変な頃合いだとは思っていたのだけれど。夜伽だけが目的じゃなかったのですね」


「すまない蘭玉。内密な話をすると周囲に悟られないためには、こうでもするしかなくてな」


「はいはい、大丈夫ですよ」


 皇帝と妃嬪のひとりという関係にしては、随分軽い話し方をする林徳妃。鈴舞よりも劉銀との付き合いが長いらしい彼女は、きっと鈴舞以上に率直な物言いをすることを許されているに違いない。


 四人は寝台の傍らの卓に付いた。

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