初クエスト
考えてみれば、以前の僕の人生なんてろくなもんじゃなかった。
本当についてなかった。
僕自身に何かが不足していた訳ではなかった。
ただ――運がなかった。
僕はこんなもんじゃない。
でも、何をやってもうまくいかない。
成功体験がない。
自己肯定感が低い。
褒められない。
認められない。
必要とされない。
愛されない。
だから。
それで。
僕は。
「ご主人様って、冒険を始める前って何をしていたんですかぁ?」
町外れ、建物の壁にもたれて空を見上げる僕にミコが尋ねる。
いつも通り、がっしりとしがみつく格好で。
「何って――まあ、色々かな」
以前の世界でのことを口にする訳にはいかないから言葉を濁す。
「例えば?」
「研究したり、修行したり、商売に手を出したり、歌や芝居をしたこともあったかな」
僕の言葉が空虚に響く。
何一つ具体的ではないスカスカな体験談。
当たり前だ。
全部、嘘だからだ。
いや、嘘ではないのか。
ただ、何一つうまくいかなかっただけだ。
「しかし、何故拙者たちは外で待たされているのでござるか?」
少し横で剣の素振りをしていたコダチが話題を転じる。
助かった。
「言ったでしょ。ミコとコダチは冒険者登録してないから、基本ギルドには出入りできないの。僕は――ちょっと一悶着あって、ここの人と顔を合わせづらい。クエスト受領は代表者一人がいけばいいから」
岩山でミコ、湖畔でコダチという仲間を獲得した僕たちは再び町のギルドへと戻ってきていた。登録の時はバタバタして逃げ出してきてしまったけど、僕とセイジの冒険者登録はいきている。パーティーに一人でもギルド登録者がいればクエスト受領できるということで、晴れてパーティーを結成した僕たちは数時間ぶりにこの場所へと戻ってきたという訳だ。
ただ、今コダチに語った理由で僕たち三人は建物に入りづらい。そういった経緯で、こうしてセイジがクエスト受領してくるのを待っているという訳だ。
「代表者って、ご主人様じゃないんですかぁ?」
ミコがクリクリとした目でこちらを見上げてくる。
「どう考えてもセイジさんでしょ。年長者だし、頭もいいし、魔術も得意だし」
「ふゆぅ……アタシはご主人様の方がいいなぁ」
「ミコ殿はセイジ殿が苦手でござるか」
「苦手って訳じゃないけど……なんか偉そうだし、話長いし……」
「苦手なんじゃないかっ! そんなこと言わないで。頼れるし、いい人だよ?」
慌ててフォローを入れる。いくら僕が中心のパーティーと言えども、仲間間の空気はいいに越したことはない。
「――ラク殿は、優しい人なのでござるな。慈愛に満ち、いつも周囲のことを考えてくれている」
「アタシたち、すごい幸せだよね。こうやってご主人様に会えたんだもん!」
二人して凄い持ち上げてくれる。
悪い気はしない。
この世界では、この僕が本当だ。
前の世界の僕の方が、嘘になる。
何をやってもうまくいく。
絶対に失敗しない。
自己肯定感は勝手に高まっていく。
褒められて、
認められて、
必要とされて、
愛されて――
僕は。
「またせたね」
ギルドの建物からセイジが顔を出す。
「クエスト受領、完了したよ。割と近場を紹介してもらった。ただ吾輩の冒険者レベルのせいか、初っ端からなかなかヘビーなものを紹介されてしまったな」
「何ですか?」
「砂竜討伐だ」