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ウソツキ・ファンタジー  作者: たもつ
11/40

ボア・ソルテ!

「すごいすごいすごい! さすがはご主人様ですーっ!」

 ミコの声で我に返った。

「アタシ、もうほとんど諦めてました! もうダメだ、みんな死ぬんだって! でもスゴイ! まさか雷で倒しちゃうなんて!」

 ぴょんぴょん飛び跳ね、いつものように僕に抱きつく。

「さすがはラクだな。吾輩たちだけでは絶対に倒せなかったぞ」

 そう言う割にどこか得意気なセイジ。

 何だか急で、僕は面食らう。

「え、二人とも、今までどこにいたの……?」

「すぐ後ろにいたぞ。ただ、吾輩はほとんど砂に埋もれて気絶していたから見えなかっただろうけどな」

「アタシは王様と一緒に洞窟にいたんですけどぉ、あの王様、シスターが心配だって言って、制止したのに飛び出していっちゃったんですよぉ。アタシも一緒についていったら、ちょうど砂竜が酸を吐いたとこで、アタシの服もデロデロに溶けちゃうし、仕方なく洞窟に戻って修復してたんですぅ」

「また、ピンポイントで服だけ被害に遭ったんだね……」

 とにかく二人が無事で安心した。

 そう言えば。

「――コダチは?」

「ちょっと今は取り込んでいる。まあ怪我はないようだから安心してくれていい」

 

 おええええええ。


 後ろの方。四つん這いになって嘔吐しているコダチの姿が目に入る。

「……完全に死を覚悟したんだ。無理もない」

 苦笑するセイジ。

 それは確かにそうだ。

 僕だって、一時期は完全に諦めかけた。

 本気で、死ぬと思った。

 それがまさか《豪運》で雷を呼ぶなんて。

 

 あの時、確か砂竜の眼球にはミツルギ丸が刺さっていた。

 その状態で、あのバケモノは頭を天高く掲げた。

 だから――ミツルギ丸が避雷針の役割を果たしたのだろう。

 

 そんな偶然、あるか?


 あるのか。


 そんな偶然を引き寄せたのだ。


 僕の、《豪運》が。


「この焦げた砂竜を持ち帰るのも首を落とすのも難しいだろうから、今回は報告だけでいいだろう。いやぁ、ラクと組んで正解だったな。結果的に我々など何もしなかったし、できなかった。ラクが一人で倒したようなものだ」

「え、でもそれは雷が偶然落ちたからだし……」

「ラクが落としたんだろう?」

 その問いに対して、乗っかることもできた。

 全てを僕の手柄にしてふんぞり返ることも、できたんだ。


 でも、やっぱり――それって違うよね。


「偶然だよ。と言うか、全ては運がいいだけなんだ」

「運も実力の内と言うではないか」


「そうじゃなくて――スキルなんだ」


 僕は、転移者なんだよ。


 そこでようやく、僕は全てを話す。

 自分がこことは違う世界から転移してきた存在であること。

 女神から特殊能力であるスキル――《豪運》を付与されたこと。

 ゴブリンの大群がハチの巣に襲われたこと。

 受付嬢が下着を晒して金魚鉢を被ったこと。

 スライムが何度も岩の下敷きになったこと。

 オークが撒き餌で魚群に襲われ怯んだこと。

 強力な仲間たちと出逢い、信頼を得たこと。

 伝説な雷剣・フルミネに、認められたこと。

 強敵・砂竜相手に落雷により討伐したこと。

 全部、運がよかっただけのことを、話した。


「僕自体は何でもないんだ。ただ、運が物凄くいいだけの奴で――」


「最初から分かっていたよ」


 何事もなかったかのようにセイジが言う。

「賢者を見くびってもらっては困るな。ラクがスキル持ちの転移者であることぐらい、最初に会った時から分かっていた。ラク、空からゆっくり降りてきただろう?」

「……やっぱり怪しいよね」

「それ自体も怪しいんだが、それに対して、ラクはそういうスキルなんだ、と答えた。今ラク自身が語った通り、スキルというのは転移者が女神から与えられるものだ。我々にはない。その時点で、吾輩にはラクが我々とは異なる世界から飛ばされてきた、いわゆる『転移者』なのだと分かっていたよ」

「転移者って、僕以外にもいるの?」

「多くはないがな。時代の節目に時折現れるらしい。多くは特異な知識や技術、類まれな才能を発揮し――それがいわゆる《スキル》と呼ばれる代物なのだが――各方面で活躍するものが多いのだと聞く。白状すると、吾輩がラクを仲間にしようと決めたのも、転移者だと――スキル持ちだと見抜いていたからだ。ギルドの水晶玉は見抜けなかったようだが、なに、しばらく行動を共にしていれば、奇跡を呼ぶ男だなんてことはすぐに分かる」

 少し――と言うか、かなりこの賢者のことを侮っていたようだ。

 賢者の名は伊達ではない。

 最初から、全てお見通しだったのだ。


「スキルとか転移者とか、そんなのどうでもよくないですかっ!」


 僕にしがみついたまま、人差し指をズイっと突き出しミコが吼える。

「ご主人様はご主人様なんだし、別にそれでいいじゃないですか! スキルだか仕切るだか知りませんけど、アタシはご主人様だから好きになったんですっ! こんなアタシを拾って、必要としてくれた――アタシ、バカだしドジでトロいから、家では落ちこぼれだ出来そこないだってバカにされてて――そんなアタシを邪見にしないで、受け入れてくれた――それが、本当に嬉しくって……」

 最後の方は涙声で掠れている。

 今まで無条件で懐かれていると思っていたけど、そんな背景があったなんて。

 認められたい、評価されたい、承認されたい、愛されたい。

 そんなの、誰だってそうに決まってる。

 僕がそうであったように、この犬耳娘もそうなのだ。

 しがみつく彼女から、じわりと熱が伝わってきたような気がした。


「面目次第もござらぬ……」


 さっきまで嘔吐していたコダチが、今度は嗚咽を漏らしながら近づいてくる。


「拙者は、自分で自分が情けない……こんな、嘘ばかりで……」


 両目から大粒の涙をボロボロこぼしながら、つっかえながら言葉を吐く。あれだけ頼もしいことを言っておいて、結局逃げ出したことを恥じているのだろうか。いつもの凛とした女侍の姿はそこになく――何だか、普通の女性に見える。

 さっきの砂竜の一件を見る限り、コダチという女性は泰然自若のサムライなどではなく、死を目の前にすれば普通に恐怖し普通に逃げ出す、本当に普通の女性なのだな、と思う。

 そして、僕はそっちの方が人間らしくて好きだ。


 僕は、みんなが好きだ。


 この仲間に出会えてよかった。


 生きていてよかった。


 クソみたいな前世から一転、転移したこの世界では皆が皆、僕に優しくて、肯定して認めて評価して賞賛してくれる。


「さすがはラクだな」


「ご主人様、大好きです」


「全て、ラク殿のおかげでござる」


 皆の言葉が僕を取り巻き、それは熱となり光となり、僕を持ち上げ、僕を満たす。

 

 薄汚れて燻っていた僕の魂が音を立てて浄化されていく。


 瞬間――僕は大きな光の玉に包まれる。


 僕は、救済されたのだ。

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