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宮殿からの電話

第6章

 買い物が終わって別荘に戻って、沢山の毛糸と綿、布を目の前にして、孤軍奮闘のレノミンをダリアとシルキーはそばで見ている。


 「レノミン様、本当にこちらが欲しくて町に行かれたのですか?」


 レノミンは頷く、


 「こちらはどうなさるのですか?」


 レノミンはこの前、書いたネズミの絵を見せて、


 「こんな感じで作りたい…胴体と頭の部分に綿を入れてしっぽと耳を付ける予定だけど…胴体のわたの部分が上手く出来なくて…裁縫が…」


 「それなら、ダリアが作ります」


 「頭の方はシルキーが担当します」と二人が参加してくれた。


 グレースはまだ小さいので、手に持てる大きさ7cm位と決めていた。

 後はグレースと同じ大きさの物をつくり始めた。


 小さい方は何とかすぐ出来て、小さい物は何でも可愛く、グレースも喜んでくれた。

 舐めて、捨てたりもしたが、自己満足の世界に入れた。


 大きい方は流石に時間がかかって、グラデーションも使い、影の部分にも気を使いながら毛糸を編んでいった。最後に、「ギザギザのしっぽはどうしましょうか?」


 「グレース様、きっと、引っ張りますよね。それなら胴体に縫い付けた方が安全ですよ」


 レノミンもそう思っていた。そして、1ケ月位かかったぬいぐるみが出来上がった。


 トントン、

 「失礼します。レノミン様、おっと、これは凄い!!立派ですね。これはいい!!実はまた、絵の注文が入りました。本屋のショーウインドーに飾っているのですが、高額で購入する貴族がいまして…こちらのネズミ、もしよろしければ王都の方に飾らせてもらえませんか?」


 「え~~!!」流石に3人はびっくりしてバルトを見る。

 

 ダリアが、

 「これは、レノミン様がグレース様の為に作られた物です。駄目に決まっています」

 「そうです。やっと、完成しそうなのですよ」


 「今回の絵の注文はサイズが大きく、時間がかかると思われます。時間稼ぎの間だけでも、貸していただけるとありがたいのですが…」


 「今度の絵で、庭師2人分」とレノミンの耳元で囁くブラックなバルト!!


 レノミンは潤んだ目でバルトを見て、頷いた。


 「鬼・悪魔・人でなし!!」ここはダリアとシルキーは一致団結してバルトをののしった。


 バルトは出来上がったぬいぐるみを抱きかかえ、ひらりと去っていった。


 しばらく放心状態のレノミンは、

 「今日は先に休ませてもらいます」

 「レノミン様…」


 ダリアは怒りで体が震えたが、階段を駆け上り空に向かって、ここ最近では一番のののしりを行った。


 部屋に帰って、ベットにダイブする。


 (シングルマザーとして、グレースを養っていきたいと思っている。もしも、中身がレノミンと違うと知られてしまい、グレースと二人でその辺に追い出されるかもしれない、だから、収入源は必ず必要なのはわかっているけど…今回は少し凹んだ。)


 しばらく眠るとシルキーがグレースを連れてやって来た。

 「お乳の時間ですね。さあ、おいで…可愛いグレース…」


 「レノミン様、この後、あちらの部屋においでください」


 元気がなく、のらりくらりその部屋に移ると、部屋はこの前、訪ねた毛糸のお店そのものだった。


 「バルトが反省して、あのお店の物をすべて買い取ってこの部屋に運び入れました。ネズミの黄色は、より多く発注してあります。さあ、もう一度、私たちと作りましょう」


 レノミンは、口を押え嗚咽を我慢しながら頷く、レノミンを囲みダリアとシルキーも涙する。


 その日から日中はこの部屋で過ごすことになった。

 ポスターサイズの絵を描きながら、気が向くとぬいぐるみを作った。


 前世で、編み物を教えてくれた、周りの年寄りたちに、大変感謝した。


 結局、前回のぬいぐるみは、手元に戻ることはなかったが、今回のは手が慣れた事もあり、1週間で完成した。グレースの反応は最初はびっくり、パンチ、キック、そして、笑った。

 それでも、自己満足。うん、うん、良かったと思ったレノミンだった。


 そんなこんなで、毎日を過ごしていた、レノミンだったが、どうやら…?絵本は王都で爆発的な人気になったらしい…?


 多分、バルトの売り込みが素晴らしかったのだろう、それに合わせて、ぬいぐるみの注文が多くコチャ領に入った。


 前世で、偽物をつかまされて、イヤな思い出があるので、レノミンは、オリジナル商品に、気を付けていたのが功を奏した。

 

 本物はすべて毛糸製品。もちろん、Ⅼ葉のタグも今度は付けた。


 最初は3人で始めた事業だったが、到底、追いつかない、そこで、ギシが元の毛糸店の人脈をたどり、工場を作った。

 

 最初は皆、反対したが、別荘の敷地の一番端に建設して出入り口は1ケ所、もちろん、毎日のチェックは門番がしたが、木の上からも5人の誰かが安全を確認した。


 鍵針で編む編み方がこの領土には浸透していなかったので、最初はダリアとシルキーに教えたが、上手くいかなくて、レノミンも工場に出勤することになった。


 出勤するために、ダリアとジャルが付き添っていた。


 工場はすべて女性。みんな、やはり縫物は抜群に出来たが編み物は不得意だった。


 レノミンは大人しいが根気がある。何度も、何度も丁寧に教えて行った。最初は戸惑っていた女性たちは徐々に慣れたが、レノミンが最終チェックを行うと、これでは駄目だと言う物もあった。


 ぬいぐるみの中身は沢山出来るが、編み手がいない状態が続いた。クオリティが低い物は出したくなかった。


 そこで、先ずは最小サイズにした。慣れたらもう少し大きく、グレースサイズの大型はやはりレノミンが作る事にした。


 最小サイズは、結構出来上がり、別荘で検品をして、OKが出た物は出荷と言う形になった。一連の作業を見ていた5人は感心していた。


 「レノミン様は、真面目で、商売がわかっています。そうです、少しでもおかしい物は世にだしてはいけません。その後の注文が止まってしまいます。検品に時間をかけ、Ⅼ葉のタグをつけた物だけが、コチャ領の物です。その考えは素晴らしいです」


 「今は大量に生産できませんが…この調子で行きたいと思っています」


 「わかりました。何か他に欲しい物はありますか?」

 「……休みが欲しいです」


 「……」


 

 そして、あれから3年が過ぎた。


 グレースは、別荘の周りを駆け回り、いつも、ダリアを心配させていた。

 (この頃、ダリアは少し痩せた。)


 レノミンの出版の事業と、製造業は意外にも沢山の利益を、このコチャ領にもたらした。


 絵本は重版を重ね、王都から全国に広まり、ぬいぐるみは小さいサイズのみの販売になったが、たまにレノミンが作る大きな物は値段が跳ね上がり、プレミアの道を歩んでいる。


 あの後、Ⅼ葉商会をバルトが立ち上げ、全国にバンバン売り広めて行った。


 しかし、工場は最初の人数で行った、みんなが途轍もなく早く仕事が出来る様になったからだった。

 

 「お母様、今日も、絵本、読む??」

 「いいですよ。今日はまた違う話にしてみますか?」

 「イヤ、イヤ、食いしん坊の妃とネズミがいいの!!いいの、いいの!!」


 「グレースはこの本が大好きですね。では、また、読みましょう。はじまり、はじまり…」

 

 あれから何度も話を作り、まずはグレースに聞かせるが、反応は、イマイチで第2冊目の目途が立たない。


 その姿を周りも見ているので、勇気がなく第2の出版を進められない。

 

 ある時、きれいに製本した同じチーズの話の絵本を、ギシが作って来てくれたが、グレースに…イヤ~~!! と、言われ、流石のギシも凹んた。


 「グレース様、流石に検品が厳しいです。今回もダメです。レノミン様、もう一度、チャレンジお願いします」


 「頑張ります。ほほほ…」


 毎日、こんな日が続いて行くことだけを、願っていたが、バルトが突然、暗い顔でやって来た。


 「レノミン様、宮殿から電話です」

 「……」


 「もうすぐ、4歳になる皇太子さまが、Ⅼ葉様が書かれた 『食いしん坊の妃とネズミ』が、大好きらしく作者に朗読して欲しいと…、望まれています」



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