ブラックエミリオ
第51章
王都ではまた国王の交代があると噂になっていたが、特段、驚かない。
しかし、王都にある無数の商会の人間は驚きを隠せない。いつもニース学者と一緒に来ている美しい少年は、皇太子でもうすぐ国王に即位するお方だ・・・・いつもは学者の連れている若くて飛び切り頭がいい少年としか思っていなかったのに・・・大事件と言ってもおかしくない程ビビっていた。
エミリオは即位式の準備をしながらでも、それぞれの商会に出向き、進捗状況の確認等をしていた。
「これは、これは、エミリオ様、お忙しいのにわざわざお越しくださいまして・・・今日はどのようなご用件で・・・・?」
「ええ、今日は先日依頼した道路工事の件で来ました。納期が遅れていて、オマケに街灯の位置が予定外の所に立っていました。従業員への賃金の支払いも遅れています。よって、その業務を別の商会に移行します。次の入札からはあなたの商会は入れません」
「そんな・・待って下さい。これには理由が・・・妻が病気で・・・助けて下さい」
「---あなたが建てた街灯は、あなたの愛人のお店の前です。奥様は先日お亡くなりになっています。奥様の為に最後通達を今日にしてあります。お悔やみを申し上げます」
店主は薄汚い格好で髭が生えていて、目が死んでいた。そして急に、
「コノヤロー、子供のくせに・・」
レノミンに襲いかかろうとした店主はギシに取り押さえられていた。
「あなたの商会は私たちが調べた時には、優良な商会でした。きっと、奥様がご病気になり、崩れていったのと推測できました。あなたは腕が確かです。もう一度、入札が出来る様に立ち直って、事業計画案を提出して下さい。今回の事は胸にしまっておきます」
そうレノミンが話すと店主はそのまま床に座ったまま泣いていた。ドアを開けて外の車に乗り込む、
「レノミン様、よろしいのですか?」
「うん、あの商会の奥さんは、本当に優しくて素敵な奥さんだった。奥さんの為にも立ち直るチャンスを上げたい。もちろん、次は無いけどね・・・さあ、次の場所に移動しよう」
「はい、」
「次はレノミン様が通っている学校ですが・・・・」
「図書館の件ですね。----まったく、どうしたものか・・・図書館・・・・・どうしたものか・・・」
「何度も言いますね・・・」
「はい、困っているのは本当です」
レノミンは国王が設けた飛び級制度を利用して、すでに、大学までの勉強は終わらせていた。
それ以上の資格試験となるともう少し勉強が必要なのは自分でもわかっていた。
その為、レノミンも良くこの図書館を利用していた。
王都には国王が教育改革をして、幼稚園から大学、資格学校等を集約して建てられた場所があり、この国立図書館はすべての人に開放されていて、職員も多く配置していた。それは、つまり、学生身分がなくても講座は開かれていて、知りたい知識を職員たちに教えて貰える。学びたい人間はここで、自分の知りたい事を教えて貰える。
「館長を呼んでください」と総合受付にギシは言いつけ、エミリオは専用の部屋にいつも通り入って行く。
館長は知識の塊のような人間で、ギシも憧れる程の物知りだ。
しかし、風貌はイマイチで、何度もギシに、小ぎれいしてくるように怒られている。しかし、ギシの大きな推薦のもと、この図書館の館長に抜擢された逸材だった。
そして、彼はシングルファーザーで、レノミンと同じくらいの女の子がいた。
その女の子は無類の本好きだ。彼女は本好きに留まらず、作者の癖を見つけるのが好きだ。例えば、夢小物さんは「・・・」が癖とか・・きっと、次の言葉はここにかかるとか、文章を分解して、また、組み立てる。おまけに雑食で、なんでも読む。知識はすべて本からで、母親がいない為に愛情も本から得ていると、レノミンは思っている。
「館長、何度もお願いしましたが、この図書館に色物を置くのはヤメて頂きたい」
「しかし、あの本は本当に人気があり予約が何か月も先までもあります。その予約だけでも叶えてあげたいのです。---それにしても、あの本の作者は突然、出版を止めてしまい、風出版は跡形もなく無くなっていて、本屋で売った形跡もありません」
「この図書館が開館してから、多くの問い合わせがあり、たまたま、娘が3冊も持っていたので分けてもらいました。あの本は色物ではなく純愛に近く、本当のラブストーリーではないでしょうか?」
エミリオは最近の一番の悩み事で、国王にもレノミンにも相談できない案件だった。
「---しかし、Ⅼ葉のコーナーに置くのはヤメてくれませんか?」
「あなたはすべての出版社にコネがあり、Ⅼ葉は誰なのかすでに知っているはずです。それなのに・・・母上が知ったら・・・困ります」
「---しかし、娘が言うにはⅬ葉様の文章の癖によく似ていて、絶対にⅬ葉様がお書きになった物だと断言しているので・・・いかがでしょうか?違う本棚に置きます。だから、この図書館から無くすのはしないで欲しいです」
レノミンはしばらく考えて、
「いいでしょう。今後、また、確認しますから・・」
「後、ロマンス小説も、もう少し避けて下さい。Ⅼ葉と名乗っていないと思いますが・・・」
「それが・・・やはり、娘が言うには・・・」
「館長、娘さんの話は結構ですので、お願いします」
仕事を終えて、宮殿にもどり、ゆっくりしていると、ギシが、
「エミリオ様、マルークさんがどうしてもお会いしたいといらしています」
「ええぇぇ・・・、」
「エミリオ様、明らかにそのような態度は・・・相手は女の子です・・」
エミリオは、実は彼女が苦手。自分と同じくらいの女の子はみんなグレースやホホの様に能天気で明るい子だと解釈していたが、マルークは違う。もしかしたら自分よりも優秀だ。
エミリオは気づいていないが、そこが苦手な所だ。
「皇子、お休みの所、申し訳ございません」
「お茶とお菓子をどうぞ、女の子が好きかわかりませんが、父上のアーモンドチョコです」
「ありがとうございます」
沈黙が続くが・・・マルークがアーモンドチョコを一口、カリっと食べるとびっくりしたように、
「美味しい!! 」と話した。
その後、チョコについて長々と話し、エミリオが、
「要件は別の事でしょ?」
「はい、---今日、父と初めてⅬ葉様が皇子のお母様とお聞きしました。---私が一番好きな作者様です。Ⅼ葉様のファンはこの世に沢山いらっしゃいますが私が一番だと思っています」
「それで、」
「それで、もう一度、お母様に、小説の続きを書いてほしいと思い、Ⅼ葉様の凄さをレポートにまとめて来ました。これです」
100ページくらいのレポートを差し出されたエミリオは、ため息をつき、
「僕の部屋に来て、」
エミリオの後をトボトボついてくるマルーク・・・
部屋に入り、整えられたチェストの上にナナネコが5体飾ってあった。それを見たマルークは、
「これ、これ、これ、これ・・・・◎✖▼※、◎◇・・・・! 」
これ、意外の言葉が出て来ない。
「そう、これは、ナナネコ、お母様が、3巻を売る売店に飾られていたナナネコ、僕の宝。どうして、3巻以降発売がないのかは、僕の為だ。きっと、僕の身分の為。偶然、その場所を通りかかって、声を掛けた。それ以来、僕とお母様の二人の秘密になっている。だから、どうか、そっとしておいて欲しい。できる?」
マルークは黙って、頷いた。
「わかりました。申し訳ありません」と言い、じっと、ナナネコを見ている。
「少しだけ、触ってもいいですか?」
「いや、駄目だから・・」
「それとこの件も秘密にして欲しい、父も妹も知らない、いいね。それから・・Ⅼ葉の一番のファンは君ではないと思うよ。その人は今度、お母様の護衛に抜擢されたから・・・」
その場で茫然とするマルークを見て、悪い顔で笑う・・・ここ最近のストレスのすべてが、解消されたようだと、感じているブラックなエミリオだった。




