二人の皇子
第43章
カタクリ国王は、国賓を迎える為の部屋でキュル皇子に接見する。
「キュル皇子におかれまいしては、いかように、カタクリ国に、急遽おいでになる用事がございましたか?」
カタクリ国王はとっても不機嫌だが、レノミンの4カ国の為の精神を思い、作り笑いで対応していた。
「はい、私は2日前にグレースに電話をしたら、ひどく、泣いていましたので、心配になり、急いで参上したしだいであります。グレースはまだ幼く、もしかして、カタクリ国の皇族の皆さんに失礼な事があったのかと心配しました」
「き!!!」
「国王!!」
王妃と皇太子が同席していたので、王妃が答える。
「少し、レノミンさんの具合が悪いので心配だったのではないでしょうか?」
すると、キュル皇子はびっくりして立ち上がる。
「ええ!!レノミンさん、まさか・・あの病に倒れたのですか?」
国王の顔が怒りで赤くなっていくのがわかる。皇太子が・・
「少し、お疲れて床についています」
「では、お見舞いに・・」と急ぐキュル皇子を、
「キュル皇子、我が国では誰もが2週間の面会を禁止しています。それはレノミンさんでも、キュル皇子でもです。ですので、グレースに会うには2週間、部屋で待機が必要になりますが、いかがなさいますか?」
「はい、大丈夫です。グレースの部屋の前で慰めるつもりできました。国王には1ケ月の休暇も頂きましたので、こちらに滞在させて頂きたいと思っていますが?よろしいでしょうか?」
王妃は、
「勿論、大丈夫です。今回の件で我が国は少し変わります。その為にねんごろな接待とはいきませんが、ごゆっくりして行って下さい」
「はい、ありがとうございました。取り急ぎ、海鮮と石油、塩、等を献上させて頂きたいと思います」
「グレースの近くの部屋は空いていますか?」
皇太子が、
「キュル皇子におきましては我が国の国賓となります。そちらの部屋にご用意してございます」
「ええ、ありがとうございます。グレースもそちらの塔に・・?」
「いいえ、グレースは我が皇族の一員で、家族が暮らす塔に住まわせています」
「・・・・・・」
「---はい、それでは早速、グレースに会いに・・・」
「キュル皇子!グレースはレノミンさんが少しお疲れで休まれているとは知りません。教えないで頂けますか?」
「はい、全力でグレースを笑顔にします」
キュル皇子が立ち去った部屋で・・
「国王・・・」
「ビル、私は、まだ死なないが、グレースを、グルガシ国に嫁がせる事は出来ない。断固反対だ!! そして、これは遺言である。後の事はわからないが、これだけは最後の命令となる。いいな! 」
「もちろんです。グレースも常々、立派な領主になると言っています」
「それもあるが、レノミンの湖畔の別荘は薬草の森に囲まれていて、常に霧が覆う、ナナ王女が、生きた場所だ、今回のレノミンの衰弱ぶりを見ると、彼女たちは、あの場所で生きる事が一番いいと思う」
「わたしは、あの二人には長生きして欲しいだけだ・・・ナナ王女とココ王女、もう一人の王女の為にも・・・生きて欲しい」
「御意! 」
「それと、レノミンの出席は出来ないだろうが、ビル国王の即位式を早めに行おう。内外はもとより、国内の国民は、今が、一番不安な時だろう、責任を取るなら早い方がいい・・これからは若い人の時代だ。私は間違った、王妃に辛い思いをさせた。これからは王妃とのんびり過ごす。罪滅ぼしだ。お前も、もっと子供が欲しかったら、レノミンの別荘に滞在するといい・・・王妃を泣かすなよ」
「はい、」
即位式の発表があり、国王の交代は内外に知らされた。S国の侵略者を探し出すのは各国共に今が大一番であり、グルガシ国のキュル皇太子が、すでにカタクリ国に滞在している事もあり、各国、国王の代理で次期国王が出席することと調整された。
サンシン国のエミリオは、通達から2日後にダリアを連れてカタクリ国の宮殿に入った。
「カタクリ国王、ご無沙汰して炒ります。この度は退位、そして、即位おめでとうございます」
「エミリオ皇子、遥々、即位式の為に悪いね。早速だが、ダリアをレノミンの元に渡してくれるか?」
「はい、お母様の具合はいかがでしょうか?父上も大変心配していますが、国内もS国退治で混乱している状態です。流行り病は、すでに収まり、私の周りでもここ2週間は接触者が出ていません」
「うん、我が国もここ2週間は何とか収まっている状態だ。安全対策が整った時期を見ての即位式の開催となる。ハナ国にも、無理な移動はしなくていいと通達もしてある」
「レノミンは、何とか食べ物が食べれるが、後は寝た状態が続いている。早く、別荘に帰してやりたいと思っている。レノミンをこんな風にしたのは、私の責任だ。すまない」
「いいえ、お母様はきっと、今回のことは、コチャ領の為にもなると判断したのでしょう。そして、ビル皇太子とお母様が、S国の人間はアルコールに弱いと発見した事で、各国はそれを手立てに侵略者の発見ができます。ありがとうございました」
「今回、国王の即位式にあたり、大量の火薬と花火、並びに自慢の生地等を持参しました。お納めください」
「ううん、わしはエミリオの顔が見れただけで、嬉しい・・・さあ、グレースが待っている。行ってやってくれ!」
「はい、それでは失礼します」
エミリオが立ち去って、
「父上、エミリオはあんなに優秀なのですか?まだ、10歳と聞きましたが・・・」
「ああ、私の小さい時とそっくりで、今では国の半分の政務は、エミリオが行っていると言っても過言ではない・・・父親が半分しかできないと言ってもいいが・・・」
「憎たらしい・・・キース国王、レノミンが産んだエミリオとグレースは余りにも素晴らし・・、しかし、彼が得られていないのはレノミンの心だ!! ふふふふふふ・・・簡単に我が姪を嫁にできると思ってもらっては困るからな!! まったく、どの国からも狙われて迷惑だ!! 」
「しかし・・・ココ王女は無理やり・・・・」
「------」
「・・・・失言でした」
キュル皇子は軽い感じの皇子だが、それでも最高の教育を受けて育っただけあって、今では素晴らしい青年に成長している。
それこそ、今では、国内のすべての政務を行っている程だ。若いだけあって、新しい物への順応も早い、マルク医師から教えを請い、石油を上手く製品化して、国を豊かにしている。
コロネ国王は相変わらずの心配性で、キュル皇子が早く結婚して、次の後継者を見ることを一番の楽しみにして生きている。喉から手が出る程、グレースをもらいたいが、王女から厳しく咎められているので、言葉にはしていない。
しかし、心の中ではキース国王との間に、もう一人、二人、子供が誕生すると、また、コチャ領に後継者ができると、内心は思っていた。
そして、キース国王がもたもたしていると、思っているのも本心だった。
グレースはキュル皇子が来てからは少しづつ取り戻していった。
キュル皇子はいつも電話でグレースとは話しているが、会うのはやはり3年ぶりだった。
マルク医師から教えて貰ったオセロや麻雀、手作りの人生ゲームなどをして、グレースと交流を持っている。もちろん、沢山の勉強を見てあげていたりもして・・・
「グレース・・・小さい頃からの勉強は大変だけど・・・君の教育係は、本当に高みを目指しているね」
「そうなの?高みって、どこにあるの?」
「はははは・・・グレース、高みって、お母様の様に尊敬される領主ってことだよ。こんにちは、キュル皇子」
「あっ!!こんにちはエミリオ皇子、早かったですね」
「ええ、お母様やグレースに、早く会いたかったので、今までありがとうございます。本当に助かりました、国内が少し落ち着いて、アルコールと言うヒントが無ければ、こんなに早く国を出ることが出来ませんでした。その為に、グレースには寂しい思いをさせました」
「・・別に寂しくないもん・・」
「いつ電話しても泣いていただろう・・・あれではお母さまも心配なさる」
「----グス・・・だって・・・」
エミリオはグレースの涙を拭いて、
「グレースと一緒に母上の所に行きます。また、後でご挨拶に伺います」
「ええ、ごゆっくり、グレース、また後で・・・・」
エミリオはグレースの手を引いて、時々、涙を拭き、頭を撫でて、レノミンの寝室に向かった。その姿はあまりにも美しい姿で、その場にいた使用人たちは、ただただ見惚れていた。




