聖女ひとり旅②
第42章
扉を開けたのは7皇子だった。
「長兄・・・・」と言った、その瞬間に皇太子は剣を抜いた。
レノミン、ミンクはすでに池の小屋に出向いていたのでその場には居なかった。
「7番目、お前ひとりが来てもここの領民は助けない! S国の人間をすべて連れて来い! 」
「S国の人間は多分、今回のこの流行り病の件で一掃される。我が国だけが、甘く見られたのを国王は、一番嘆いている。国の恥だと・・・3皇子の時は、何とか誤魔化せたが今回は沢山の命を失っている。お前のせいだ・・!!! 」
その時、サンドロが医師と妹をこの場に連れて来た。その二人を見て、信じられないと言う顔でサンドロを見た7皇子は・・・・
「長兄、彼らは違うんだ。彼らの国はこの病ですでにみんな死んでいるんだ。この4国にたどり着いた人だけが生き残りで・・・わざと広めたのではなくて、きっと、体内に残っていたのが発症したと、そこの医師は・・・・」と、言う前に7皇子を切り殺した。
「領主、もう一度、言います。この二人だけですか?何度もカタクリ国ではS国の人間と小競り合いがありまいした。
その度に国王はS国の人間を差し出せと全国に通達したはずです。しかし、あなたは守らなかった、それは・・・・あなたもS国の人間だからですね」
「---ええ、そうです。わたしもオオカミの肉球をつけられて殺されるべきです。本当の領主を殺したのですから・・・どんなに誤魔化しても、どうしてもわかってしまうのは、本当にS国の人間の足跡のせいでしょうか?」
「3皇子と7皇子は、自分の為に戦う軍隊が欲しかった。あなたの様に・・・後ろには何千の部隊がいる。しかし、S国の人間の中には、この国を乗っ取って自分の国にしたいと思っている奴らも沢山いました。元気なうちに、海を渡ってこの大陸にさえたどり着ければ、生きられるとしたら・・・あなたはどうしますか?この国が欲しくなるでしょう・・・しかし、S国の人間の体内には病原菌が残っていて、どこに居ても発症することが分かったのは、本当に最近です」
「私は・・・・このままずっと、この美しい土地で生きたかった。妻を娶り、子供が生まれて、ただ、そんな小さい夢を見るだけでよかったのに、それも叶いません。ーーー皇太子、私が、S国の人間だとどうしてわかりましたか?」
「あなたはアルコールを触っていない・・・・ミンク医師が教えてくれました。この領土にはアルコールアレルギーの人が多すぎると・・・国王は常々、酒が飲めるのはカタクリ国の証だと、豪語していたが、それが、本当だと証明された瞬間でした」
「申し訳ないが、アルコールアレルギーの人間は治療には向かない。小屋には入れません」
皇太子は剣を振り、7皇子のそばを通り、医師と妹に告げた。
「7皇子には妻子がいた。どんな甘い言葉で騙したか知れないが、捨てられた妻子の事をあの世でも考えて欲しい・・・」
二人はどんどん血で染まって行く床を見て、叫んだ。
「3皇子も7皇子もあんたが一番、嫌いだって言っていた。正室の子供なのに、国王からの信頼がないってさ!! ばっか・・・・」
言葉が続く前に剣は振り下ろされていた。
サンドロが、
「皇太子・・・・・」
「S国の人間は気の毒だが治療できない、最後はここで・・・派手に爆破で送ってやってもいい。これが、最後だ・・・」
池のまわりには本当のブンカ領の人間が集められた。ここで病を食い止める為に病気の人間もまだ発症していない人間も池に集まった。
素直にここに集まったのは、領主の屋敷の大きな爆破音と、その後の死体を焼く臭いのせいでもあった。
中には怯えて震えている子供もいた。
レノミンはミンクの診察を手伝いながら、症状が重いお年寄りたちを小屋に入れて行った。
その前には必ず、アルコール消毒と問診を欠かさなかった。もしも、自分の国の人間が焼かれている惨状を目の前にして平常心でいられる人はそんなにいない、聞き取りで十分わかった。
レノミンはS国の人はある意味すばらしいと思った。この地に子孫を残していない・・・ただ、本当にここで、自分の生命を燃え尽きさせたいと、それだけだったのではないかと思った。
そして、あの素晴らしい、大工の姿はなかった・・・・
夜になり、松明が焚かれ、霧が出た。燻している薬草は霧に飲まれ始めた。
レノミンは怯えている子供を抱きあやす。重症のおばあさんの手を取りマッサージを始める。
それを見て、ミンクも始める。サンドロは木に登り町全体を見る。
皇太子には霧がレノミンに纏わりついているかのように見えた。レノミンが動けば霧が動く、レノミンがマッサージしたおばあさんがレノミンの手を握りかえした。
「か・彼女は・・・聖女なのか・・・・?」
その時、サンドロがレノミンに言う、
「この領土は森に囲まれています。今、領土全体が霧に覆われました。薬草の匂いが清々しいです」
レノミンが頷いた。そして、そのまま倒れこんだ。とっくにミンクはベットを用意してあって、そのまま、レノミンは池のそばで朝を迎えた。
今回は沢山の体力を消耗したのだろうか、気を失ったままレノミンは目を覚まさなかった。
ミンクとサンドロは死ぬほど心配したが、この領土には医師がいない為、皇太子にレノミンを託して王宮につれて帰ってもらった。
皇太子もレノミンを宝物のように大切に扱い、運転しながら、たまに手を握り、息をしているかを確かめ、寒くはないと上着を掛けたりして、大急ぎで戻っていった。
「頼む、死なないでくれ・・・今なら、国王があなたに着せた青い服と、王妃の涙の意味がわかるから・・・頼む、頼む・・・・」
王宮について、皇太子はレノミンを抱き駆け上がる。
「医者を医者を呼べ!!!」
国王と王妃は眠れない夜を過ごして、そのまま何時間も黙ってレノミン達の帰りを待っていた。
国王たちは急いでレノミンに診察を受けさせたが、レノミンは眠ったままだった。
国王は、
「すまない・・・すまない・・・レノミン、君を利用したんだ。目を覚ましてくれ・・」
医師が、
「レノミン様は、特に悪い所はありませんが、疲労が激しいので、何か召し上がってくださればいいのですが・・・後は、ゆっくり睡眠をとって、お休みになる事です」
「命は?命は大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。2、3日は安静にお願いします」
「うん、わかった・・・・」
「国王、申し訳ありません。僕が至らなかったせいです。彼女・・・」
国王は皇太子の肩をポンと叩いた。
「私も、今回の事は、レノミン以外には思いつかなかった。この国の為に・・・しかし、それは、レノミンはコチャ領の為だと、グレースに言ってくれた。視野が広いとはきっとこのような事を言うのであろう・・・」
「はい、」
「レノミンの霧の事は、4か国の国王と王妃しか知らない。言えない霧だ。私は今回の事で責任を取って辞任する」
「国王・・」
「カタクリ国、4か国、レノミン、グレースの事をお前に引き継ぐ、出来るな?責任は重いぞ!! 」
「はい、この命にかけて秘密を守り、カタクリ国、その他の国、私たちの聖女をお守りします」
「---聖女?」
「はい、ちょっと、いじけていて・・レノミンさんを聖女だと紹介してしまいました・・・大丈夫でしょうか?」
「---多分、大丈夫だろう・・・治療を受けた人間は何故かまったく覚えていないらしい・・霧の存在とレノミンの存在を・・・いい例は、グルガシ国のキュル皇子だ。あの皇子・・・グレースが命の恩人だと思っている。馬鹿者だ!!! 」
「国王・・・他国の後継者を・・そんな・・・・」
タッタタタタタ・・・・
国王に申し上げます。
「たった今、グルガシ国のキュル皇子がグレース様のご面会の為、到着いたしました」




