親子二人旅③
第39章
カタクリ王国の宮殿での生活はのんびりしている。
レノミンは、王妃や貴族の奥様たちと語らい、レース編みを教えて、お茶を飲む。グレースは国王とカタクリ国の国内を散策に出かけて、警備の人達をひやひやさせて、愉快に笑って過ごしている。
孫が多いカタクリ国王だが、女の子の孫は本当にいない。グレースと同じくらいの子供たちはすべて男の子だったが、グレースは遜色なく遊べる。今回、グレース推薦のお土産はキックボードだった。
国王が王宮の中で遊べるようにとエミリオに作って、グレースにもプレゼントしてくれた。
ブレーキが無いので少し危険だが、グレースにとっては、それもまたスリリングでお気に入りだった。危なくなると、誰かが来て止めてくれると言う信頼があってのことだ。
しかし、カタクリ国の皇子達にはブレーキを何とかつけて、持参した。
カタクリ国の王宮内の壁にはクッションを配置し、ツルツルした道だけで遊ぶのを皇太子から許可が出て皆で遊んでいる。もちろん、バルト、サンドロが常に警備にあたる。
初めの頃はどの皇子たちもキツク忠告されていたに違いない・・・小さい声で・・・
「こんにちは、グレース様・・・~~~~です。~~~~です。~~~~です」と、紹介されて、グレースも「よろしくお願いします。ごきげんよう」と挨拶をしていたが、子供は遊びだすと、
「グレース、もう一回、教えて、今度はこっち、押して、あっち行こうよ!!」
と、普通の友達の様に皆でキックボードをしていた。
しかし、食事やおやつ、外出は常に国王と一緒だったので、皇子たちは名残惜しいと感じていた。ある日、国王が・・・皇子たちに、
「グレースにケガをさせた者は2日間、食事なしだからな!! 自分たちはどんなにケガをしてもグレースだけはダメだ。わかったな!! 」
と、わざわざ、この広場にいらして事にびっくりして、・・・その非道な恐ろしさにも、びっくりした。
しかし、それでも、グレースと遊ぶことは至福だった。(へへへへ・・・・)
それを見た皇太子は王妃に
「自分たちはゴミのように扱われているのが、わからないバカどもなのか?」と話をすると、王妃は、
「それだけ、女性皇族はレアだと、子供ながらにわかっているのではないでしょうか?」
「もしも、私たちの王女が生きていたら・・グレースさんにそっくりだと私も想像してしまいます」
「王妃・・・・」
「---だから、私も、グレースさんには、いつでも遊びに来て欲しので、毎日、楽しそうにしていらっしゃるのを、拝見できてうれしいです。そして、もし、誰かがケガをする運命なら、グレースさん以外でお願いします。と、本当に神に祈りたい・・・悪い心を持っています」
「あっ!!実はそれ、僕も持っている。グレース以外が転んで・・くれ!! って、」
二人は顔を見合わせて笑って、皇太子は王妃をそっと抱き寄せた。
皇太子夫婦の王女は3日しか生きられなかった。その時の悲しみは今も癒えない。
―ーーグレースと王女は同じ年の生まれだった。
レノミンは毎日、王妃と過ごし、たまに、Ⅼ葉の出版に関して、こちらの商会と話し合いをする。
あれから、『肉球を探せ! 』はシリーズ化した、ハチ以外もイチ、ゴロ、ロク、の活躍と編み物のセット販売は、サンシン国ではすでに発売されているが、カタクリ国ではハチだけだった。
残りのシリーズを今回、発売する予定だ。橋が出来て、輸送が楽になった事も、大きな利点ではあった。
「今回は、イチを発売してみようと思っています。カタクリ国でもⅬ葉のお店を出せる許可を国王が下さって、本当に感謝しています」
「すごく可愛いお店だと伺っていますが、場所はそこで良かったの?」
「はい、とってもいい場所を探して貰いました。黄色いネズミのぬいぐるみなども置いて、可愛く飾っています。ありがとうございます。店員の方も探して頂いて、助かりました」
「それがあなたのライフワークですね」
「はい、領主としての仕事は、ほとんど5人が代行してくれて・・・本当はもう一人、物知りのギシがいたのですが、エミリオに、ついてもらっていますので、今は彼ら4人と家令が上手く領土を回してくれていて、助かっています」
「でもね、国王がいつもおっしゃっているのは、レノミンの力でコチャ領は成り立っている。だから、グレースも沢山の力をつけてから領主になった方がいいって、ご自分の後継者の問題も片付いていないのに・・・ね」
「ふふふっふふ・・・・・」
トントン、
「失礼します。王妃、レノミン様、国王が会議室でお待ちです」
「会議室???何かしら・・・???」
王妃とレノミンは、重厚な部屋に入って、国王と上層部のみんなが勢ぞろいで二人の到着をまっていた。何か会議で行き詰っているような空気が漂っていた。
「こちらに、おかけ下さい」
「すまない、レノミン、一応、二人の意見も聞きたいと思って・・・・・」
「実は、最近、S国からの入国者を監獄に収監していたのだが、収監して、2週間ぐらい経つと囚人たちは高熱を出して、皆、死んでいくんだ。そして、監視員たちも高熱を出し始めている。それは、ハナ国、グルガシ国、サンシン国でも始まっていて、4国王の見解として一致しているのは、S国が流行り病を持ち込んでいる。という見解になった」
「薬はハナ国のマルク医師とダリアが共同で作ってくれている。それが届くまで、マルク医師が言うには、薬がカタクリ国に到着するまで、レノミンの言う通りに予防策を取るようにと言ってきた」
マルク医師・・・・どうして・・私を?
・・・レノミンは、はっと、悟った。
マルク医師とは、そんなに深く話をしたことはないが、唯一、あるとしたら・・・・車で一緒だった時に・・・
イヤ、今はそんな事考えている暇はない!!!
レノミンは立ち上がり、国王に頭を下げる。
「国王、これは一大事です。本当に死闘の戦いが、始まったと考えて、私にそのお役目を下さいますか?国民を守るために非道な道も進めますか?」
その場にいた官僚たちはきっと、レノミンの声を始めて聞いただろう・・・彼女はいったい何者?
会議室はざわついていた。
国王はレノミンの目を見て、これは本当に、大変なことが起こっていると感じている。レノミンはそうゆう事が肌でわかる人間だとも、わかっていた。
国王は、バカな官僚たちへの説明をどうするか考えていた。その時に皇太子が、
「レノミンさんのいう通りにしないとどうなるのですか?」
レノミンは、
「その病は空気では感染しませんが、今、この換気をしていない会議室などでは直ぐに罹ります」
「換気をしてから、答えます」
窓が一斉に開けられた。
「国民の大半がその病にかかり、死亡するでしょう。今、この中にS国と接近していた人間は一番早く高熱が出ます。そして、その家族も、その人と話をした人も病気になります。病気を野放しにするか、ここで食い止めるか?二択です。それは、生か死かを意味します」
その時、国王が話を始める。
「反対する者は?」
二人の官僚がバカげていると反対した。急いで退出しようとしている貴族もいた。
「レノミン、どうするか?」
「はい、逃げだした人と、反対した人は、すでに病に罹っていると思います。2週間、誰とも接触しないように隔離して下さい。食事を運ぶ時も、誰も触れない。その食器は必ず燃やします。1週間?2週間たってから、私のやる意義がわかると思います。彼らは必ず一人で歩いて、誰にも接触してはいけません」




