親子二人旅②
第38章
レノミン達は少し休んで、夕食の時間になり、晩さん会へ招待された。
そこにはカラクリ国王の息子たちとその家族、カタクリ国の上層の貴族たちと家族がずらりと並び、レノミンとグレースに敬意を払い、晩さん会に臨んでいた。国王と王妃が並び、国王の隣にグレース、王妃の隣にレノミンの席が設けられた。
食事は静かに行われ、たまに、グレースが
「美味しいい!」と発すると国王は嬉しそうにグレースを見ていた。
その場ではもちろんお酒も出て、レノミンはこちらの世界に来てから、一度もお酒を飲んだ事がなかったが、大好きなワインだったので、手に取り飲む、そして、注がれて、飲む、注がれて、飲む・・・・、
ああ・・・・美味しい、やっぱり、私・・いくらでも飲める。
隣の王妃が
「レノミンさん、ワインがお好きなのですね」
「はい、お酒は、あまり飲んだことがありませんが、こんなに美味しいワインは初めてです」
カスター国王が大笑いする。
「レノミン、君は本当に我がメゼラ家の人間だ。ワインを初めて飲んで好きになり、いくらでも飲めるのであろう?それこそ、メゼラ家だ」
カスター国王は、上機嫌で笑いが止まらない。周りの人間にとってはそれは恐怖にも思える。
カスター国王は、お酒が飲めない下戸が大っ嫌いだった。だから、周りはお酒が飲める人間を使っている。
「そうですか?勉強不足で、カラクリ国はワインの生産が盛んとは知りませんでした」
「ワイン産出国とは言えないが、ワインの生産は国の指導の下で行っている。だから、今日のワインは上等の上等だともいえる。美味しいか?」
「はい、美味しすぎて何杯でも飲めそうです。困りました」
隣の王妃は
「今はいくらでも飲めると思っても、後から酔いが回ってくることもあります。気をつけないと・・」と話し、
国王は
「大丈夫だ、レノミンは健康だ。いくらでも飲むといい!!」
隣のグレースも隙を見て飲んでみた。
「ゲッ!!シブ~~~イ、そんなに美味しくない」
「これこれ、子供は飲んではいけない、これはお飾りだ。大人になったら、きっとお母様の様に美味しくて、どんどん飲めるようになる。カタクリ国に来たくなるぞ!」
「本当?」
「ああ、グレースはこれが好きなのか?もう一つ貰うか?」
「いいえ、食べ過ぎると、太っちゃうからもういいです」
「そんな痩せてて・・・ここにいる間は沢山食べて少し太って帰るといい・・・・帰らなくていいが・・・」
最後に本音が漏れるカスター国王だった。
食事の後はダンスを楽しんだり、お酒やお茶、お菓子などをそれぞれサロンで自由に堪能する。
レノミンの周りには沢山の人が寄って来て話しかける。
その中には子供がⅬ葉の大ファンだと話しかける貴族が居て、カタクリ国でも『食いしん坊の王妃とネズミ』と『肉球を探せ! 』は発売されていた。
あの後、大量に見つかったS国のスパイたちは収監されて、その時に、オオカミの肉球の烙印をつけられ、殺されるらしい・・・それはあまりにも印象に残り過ぎると、少し心配になった。
そして、今回は毛糸ではなくてレース糸の普及も行おうと思っているレノミンだった。
どこに行こうが必ず、王妃はピッタリ、レノミンに寄り添っていた。
サンシン国のキース国王の話では、王妃はココ王女の死ぬことを、受け入れられない状態になり、苦肉の策でキース国王の元に輿入れと言う形で、まだ意識があるココ王女に花嫁衣裳を着せてカタクリ国より送りだした。
カスター国王はその時、サンシン国には秘薬があると言う噂にも頼りたいと、思っていたのも本当の事だと話してくれた。しかし、秘薬はもちろん無く、ココ王女はお輿入れの途中で亡くなり、遺体は大切に王宮に保管していたが、ある日、国王の申し出で、カタクリ国に戻り、眠った。
だから、王妃は、もしかするとココ王女が健康になって戻って来ていると錯覚していると、少し心配なレノミンだったが、王妃が、
「お疲れでしょ、もしも、辛くなった時には、私や侍女たちに話して下さい。こちらの方は大丈夫ですので、グレースももうすぐ眠る時間になるでしょう。その時に一緒に部屋に戻る方法もあります」
と、いたってまともに話をしてくれた。
「そして、私は、あなたのお母様とお友達だったのよ。ナナ王女はあまり外には出れなくて、いつもベットに居て、私や国王と少しだけ面白い話をしたり、一緒にケーキを食べたりしたの・・だから、ある晩、ナナ王女が闇の中に消えた時の衝撃は、本当に大きかった。ずっと、ずっと、彼女の事を考えていました」
「昨日、あなたに会った瞬間に、あの日に戻ったみたいでした。本当に良かった。彼女は愛する人を見つけて、愛し合い、あなたを産んだ。それは彼女の夢だったのですよ。この国の負担になることを嫌い、愛する人と結ばれて、幸せに暮らすことが・・・。ココ王女には叶いませんでした。これはきっと、運命です。何年もかかり、私はやっとそう思える。国王のあんな顔・・・見たのは初めてです」
「国王の笑顔は、ココ王女の願いだと思いました。ココ王女はカスター国王に笑って欲しいのが夢でした。だから、サンシン国であなたとグレースさんに会ったって、笑顔で私に話した、その時、ナナ王女とココ王女の夢が一緒に叶った瞬間でした。ありがとうございます。レノミンさん、命を繋いでくださって、二人の王女の願いを叶えてくれてありがとうございます」
レノミンは思わず、王女に抱き着いた。
レノミンはこの世界に来てから、前世の家族の事を考える事を避けて来た。小さい頃から病気がちで、沢山心配かけて、兄弟にも沢山我慢させた。やっと、高校を卒業して、専門学校を出て、自宅から通える会社を見つけて、これから親孝行する予定だったのに・・あの日、東京に出かけなければ・・あの道を通らなければ・・何度も思った。何度も、両親や兄弟に謝って、許して欲しかった。
でも、王妃はすべて、いい方向にすべてを導いて考えていた。願わくば、田舎の両親もそう思って欲しい・・・違う世界で元気に生きているかもって、違う世界で子供を産んで、その二人は飛び切りキレイで賢い子供だと、王妃の様に・・・私の夢が叶っていると、思って欲しい」
「ごめんなさい、王妃にそのように、言って頂いてありがとうございます。なんだか嬉しくなって・・いきなり抱き着いてすいません」
「ううん、いいの、嬉しい、あなたは私の娘のようで、グレースは孫だと国王が言って、本当に、そんな日がくるなんて思わなかったから、沢山の時間を、あなた達と過ごすことが、今の私の願いです」
「ありがとうございます」
「お母様、眠くなって来た」
その一言で場内がざわつく程、周りの人は二人の行動に敏感になっていた。
「はい、グレース、おじい様にご挨拶して、来ましょう。お母様も一緒に行きましょう」
二人は国王、王妃、貴族たちに挨拶して、各々の部屋に戻る。その時には、どこからともなくお付きの4人が、しっかりとガードして廊下を進んでいく姿に、カタクリ国の人たちは感心している。
「いつ?侍女や従者がいたのか?どこに潜んでいたか?わからなかった・・・・」
それを見て、カスター国王はコチャ領の優秀さを改めて感心する。国家レベルの警備で常にあの二人を見守っている。心の中では少し羨ましいとも思って、見送った。




