宮殿の発表
第3章
次の家に移って、間もなくダリアはやって来た。最初のアパートみたいな所ではなく、ここは小さな白い家で産後10日も経っていたので、少し外に出たいと思っていた時に、ダリアは来た。
ダリアは、レノミンを見つけると、荷物をすべて投げ捨て、駆け寄り抱きしめた。
ダリアは、太っちょでレノミンは痩せていたので苦しくて仕方がなかったが、二人で抱き合い泣いていた。
その後は、侍女2人に、産後の大切さをくどくど話し、バルトが絵本の第2弾の依頼の件を話した時には、産後は目を、使ってはいけません。お嬢様がお仕事をすることはありませんときっぱり断っていた。
しかし、絵本や小説が生きがいだと説得し、納得してもらった。
ダリアは、ことのほかレノミンとグレースを可愛がり、食事も作ってくれた。ミンクとジャルは苦手なものはきっと料理だろう、その代わり、ギシは何でも上手に料理してくれた。
レノミンはもともと食が細く、食べ物に執着していないが、今日の夕食はギシが作ってくれたらいいなぁ〜とは、いつも考えていた。
移動を続ける旅の為、食料の確保が、一番、大変だったかも知れない、そんな時にダリアの登場で、6人はダリアを神と思った。
この白い家は、とっても気に入っていたが、町での食料の調達が上手くいったら、また次に移動することになった。
ダリアは、夜中になると泣いていた。きれいな星空を見上げて、まるで懺悔をするように、
「旦那様、どうかお許し下さい。私が至らなかった為に、お嬢様は…誰かの手によって、汚されてしまいました。どんなに恐ろしかったのでしょう、口も利けないほどの恐怖を…可哀そうでなりません」
「きっと、旦那様のご葬儀にも出席できない程のショックを受けたのでしょう。これからは、私が、ずっとお二人をお守りいたします。どうか、どうか、お許しください、旦那様~~」
どうやら、ダリアの中では、レノミンは、誰かに犯されて妊娠して、口が利けなくなったと思っているらしい、領土に帰ったら、周りの人達はどんな目で見るのだろと思うと身震いがした。
「レノミン様…」
飛び上がる程、びっくりして、振り返るとジャルがいた。まるで小動物の様に怯えてジャルを見る。
「ダリアの懺悔は今日はマシな方ですよ。この前なんて、私たち5人が無能でお嬢様がひどい目に遭ったとか、レノミン様を苦しめた輩をどうやって殺してやるとかを、お空の領主様に延々に語っていました」
「でも、彼女は本当に凄い女性です。あの家令から、レノミン様の居所を白状させて、たった一人でこんな遠くまで、レノミン様の為に来たのですから…尊敬に値します」
「……お嬢様の心配は大丈夫です。領土の方は、お嬢様は王室の方に嫁いで、ご領主様が亡くなった時は、妊娠中で、葬儀の時に、ご出席できなかった事になっています。その後もご不幸が続いて、結婚相手の方も亡くなり、ショックで余りお話が出来なくなった事にしてあります。亡くなった方が王室関係者だった為に、特別に国王陛下より、レノミン様が家督を継ぐことが許され、グレース様とお二人で、領土にお帰りになられた事になっています」
「しかし、いつも一緒にいたダリアには、そんな嘘はバレます。でも、彼女は一度もグレース様の父親の事を尋ねたことはありませんよね、彼女は前しか見ていないのか、レノミン様とグレース様しか、見ていないのか、わかりませんが、本当に、たくさんの愛が溢れていますね」
「ええ」とほほ笑むと、ジャルは、レノミンを抱きしめて慰めてくれる。暖かい……
「明日はまた移動します。早くお休みになってください」
王都から離れて、だんだん地方の都市になって行くのがわかった。
途中の道は、でこぼこで、たまにグレースが泣き出す。
その度に、ダリアが自分の腕の中で揺れないように抱える、その姿勢は本当に大変だと思い、レノミンが手を伸ばすがダリアはそのままで大丈夫だと言う。
ダリアが来てからは、日中、他の5人はどこかに出かけることが多い、もちろん、護衛の為に、1人は必ず近くにいる。
5人はダリアの能力の素晴らしさを称賛していた。
ダリアが来てから掃除、洗濯、炊事、子守等の負担がなくなったので、各々の仕事に没頭できるらしい、彼らが移動する場所で、何をしているのかレノミンは知らないが、きっと、領土の為になる事だと思う。
今度の家は森の中にあり、レノミンも、家の周りであれば外出の許可が出た。グレースは、まだまだダメだと、ダリアが言のでお散歩は出来ないが、レノミンは、いくらスマートな手足を持っていると言っても、産後のお腹は悲惨が状態で、少し運動がしたかった。
その為、外で少し体を動かしてみたが、前世通り・・鈍い動きで残念状態だった。走ったり、飛んだりは、まるでダメだとわかり、周りを見渡して丁度いい高さの石があったので、それを階段とみなして登って降りてを繰り返してみた。
(なんだか、いい感じで汗が出た。今度は腕も振ってみよう…)
1,2,1,2と繰り返して、登り降りを、毎日の日課にした。それを見ていたダリアが、
「お嬢様、いい感じです」と親指を立てた。
体が大きく揺れたのが子供には良かったのか、上り下りを繰り返しているレノミンを見て、グレースが大きく笑った。
その後、この森は安心安全だと判断したのか、1ケ月近くこの森に滞在している。
しかし、5人は、王都と領土の情報を常に集め、危険が少しでもある場合は、直ちに出発する予定だ。
そして、その日の夜、突然、会議が行われた、ダリアはいつもグレースと寝ていて、授乳の時にレノミンの部屋にやって来た。
たまにはゆっくり眠って欲しいと言っても、心配で眠れないと断られる。
ダリアとグレース、二人が眠ってから会議になる。
「今日、王都で発表がありました。王妃様のご逝去の発表です。私たちの予想よりも、早く発表されたのはきっと、隣国よりの使者が、生まれた皇子に、贈り物を持参し会いに来られるのでしょうか?」
「使者が来ても、産後の王妃に、会えないのは、当然ですが…まさか?お身内の誰かがもうすぐ到着するのではないか?」
「意外にカタクリ国の国王だったりして…」
「死因は、出産の影響でとかにするつもりか?どちらにしても、急いでお墓に入れることが出来ない、しかし、身内は一目だけでも、お顔を見たいはずだ。もしあちらの国王が直々に訪問となると厄介だろうな…」
しばらく誰も話さない…
「もしかしたら、やっきになって、レノミン様を探しているかも知れない、あの事故は誰かが仕掛けたと、国王が少しでも疑念を抱いたら調べるに違いないし、そしたら、宮殿内や隣国、そして、こちら側も疑うかも?」
「ゆっくりしている時間がありません!直ちに、出発しましょう。それには、二手に分かれて進むのがいいでしょう。ギシとジャルとレノミン様、と残りの者」
「グレースは…?」
「ご一緒でない方がよろしいかと思います」 その部屋の全員がレノミンを見る。
「そのようにしましょう」
レノミンは立ち上がり、眠っているグレースにお乳をあげて、残りのお乳も瓶に絞り出した。
(これ以外、グレースが助かる道はない…きっと、そうだ。そして、ダリアを信じたい。)
「お嬢様、どうなされました?何かあったのですか?」
レノミンは鼻をすすって、
「ダリア、グレースをお願いします。危険がやって来そうなので、私は一緒にいない方がいいのです。グレースを、お願いします」と頭を下げた。
ダリアはレノミンを抱きしめ、
「お嬢様、いい声です。大丈夫、ダリアに任せて下さい。さあ、行って!湖畔の別荘で待っていて下さい」
その夜、レノミン達3人は早馬で旅発った。初めて馬に乗って、お尻が痛いのと、胸が痛いのと、すべてが恐ろしく、何度も泣いた。
(グレース…ごめんね。不甲斐ない母親で、お腹が空いても、お乳はあげられない…)