橋の爆破
第25章
「国王、あの後ろの影は味方でしょうか?敵・・・・?」
「全員がこの橋を心配して前を向いていて、虎視眈々と背中から襲い掛かるような味方って、いるのかね・・・・?」
「どうしますか?」
「どうしよう・・・」
「とにかく、橋を安全に渡ることに全力を注ぐ」
「着いたら、すぐに皇子の乗っている馬車に橋を渡るように伝えて、後ろに敵がいることをみんなに教える。いいね!」
「渡り切れるでしょうか?」
「多分、このゆっくり速度で計算して奇襲をかけるはずだ、1・2・3で、馬を思いっきり走らせよう。1・2・3行け!!!」
急に馬車は全力で駆けだした。対岸の誰もがざわつき始め、後ろを向いたシン国王が大声で、
「敵だ!!!カタクリ国王!どうゆう事です?」
「違う!!我が軍ではない・・・どこの国の者?」
二人は同時にグルガシ国の国王を見るが、グルガシ国王も首を振る。
S国が・・・・この場所はサンシン国とカタクリ国が塩を採取している場所から近い場所に位置する。海まではかなりあるが近いと言えば近いともいえる。
海はもちろん断崖絶壁で登るには大変な所になっている・・・はずだ・・・・スパイがどの国にも侵入していることは、明白だったが、海岸線を守る部隊は今までは考えていなかった。
4国だけを考えた布陣にどの国もなっていた。
ここまで、大量の人数で攻められるとは・・・・。
ハナ国は 今回、車の売り込みの為あり、車を大量に派遣してきた。
その中にはもちろん武装化された物もある。武器も豊富で一気に前に躍り出た。
カタクリ国は文武に優れた国で戦いを得意としていて、最近は戦いが無い為に軍の中でくすぶっていた者が我さきにと出陣した。グルガシ国の国王は前線に立ち、皇子の馬車を守っている。
「S国め・・・・こんな時に・・・よくも・・・」
サンドロはヒラリと馬車から降りて、皇子、王妃、男爵が乗る馬車を誘導する。
橋の事もあり軽量化してこの3人しか馬車には乗れない。馬車は一気に橋を駆け抜ける。サンドロはそのまま敵の陣地に入り、爆弾を爆発させた。
軍を持たないサンシン国には、サンドロの爆破技術が一番の先手になる。
最近は国王が大量の火薬の購入を認めてくれたので、今、思いっきり試してみようと考えていた。
「いや~~~~おお~~~~いいね」だだ、投げ込める距離は短く、敵の近くまで行かないといけない欠点があったが、いち早く、ハナ国の車が高く砦を組み上げた。何人もその砦に向うのが見え、そこに登り、爆弾を投げ込んでいった。
キース国王は橋を守っている。皇子の馬車がコチャ領に到着するのを祈りながら、サンドロの爆弾を手にしていた。
「この橋を守らなければ、S国の侵略を食い止めないと、自分の家族と国民の命が危ない・・・・」
橋の前に馬車を止めて、死んでもここを通すことはできない!!
一方で、全速力で橋を渡り切ったグルガシ国の馬車はレノミンの元に到着した。
家令が車の方に皇子達を誘導する。最初の計画では男爵が車の運転をして、皇子と王妃、レノミンが車に乗り、湖畔の別荘まで行く予定だったが、皇子の具合が一気に悪くなった。馬車が揺れすぎて、抑えていた毒が周り始めていた。
「レノミンさん、僕は皇子を診なくてはなりません。車の運転を教えますから、あ・な・たが運転してくれませんか?」
その時、川の向こうで爆発が起こり、橋が壊された。
流石のレノミンも馬車が急いで渡った事、橋が爆破された事などを考慮して、頷いた。
男爵の説明は一回で理解出来た。
男爵は後ろの席で、皇子を診て、王妃は中間の席に座り、ずっと、泣いていた。泣いて、泣いて、皇子の名前を呼んで手を握り、足を摩る。王妃はきっと、グルガシ国一番の美しいお方だろう、しかし、今は本当に皇子の事だけを考えて、必死に皇子をこの世に留めようとしている。
そのお姿を見て、レノミンの中の糸がプツンと切れて行った。
「大丈夫です、しっかり、つかまって、少し急ぎますが、道の整備は出来ています。長く時間はかかりません」
ーーーーーーキュルルルルル・・・・・ブオン・・・
レノミンは、前世の姿を隠している時間はないと悟った。手慣れて運転を始めた。それを見て、男爵は
「えええ・・・??!!エンジンブレーキかけながら、ドリフトしてる・・・ええええ~~」
レノミンは、前世で漫画を本当に沢山愛読していた。病院には最新の漫画がどこからともなく送られて来て、子供たちはそれをみんなで大人しく読んでいた。何度も何度も読んでいる間に、自分も健康になったらあれをして、これをしてと考える。
ただ・・・実際に行うかは別であるが、レノミンは読んだ漫画を再現する程、のめり込んでいた時期があった。特に車を買ってからはコップに水を入れて峠を駆け抜けたりしてみた。
水浸しになって帰って親に怒られたこともあった。
毎日の通勤で車を使って、山道を下る日課、少しだけドリフトとか試していた。
(こんな時に、役立つんだ・・・)
レノミンはシャフトが折れたら大変だと思いながら、ブレーキとアクセルを上手く使い、安定して運転でなんとか別荘に着いた。
王妃の気持ちに答えたのだろう・・・霧が少しずつ発生してきた。
「レノミン様、こちらです。薬草のお風呂が用意できています」
「男爵、みんなで皇子を運んでこのお風呂の中に入れて下さい」
エミリオが目覚めない時も、ダリアは薬草のお風呂を用意していてくれた。その薬草のお風呂が、本当に聞いたかはわからないが、前回と同じ毒であればダリアは、試してみたいと言ってくれた。
寝巻のまま薬草の風呂に入れられて、みんなでマッサージを行う、そして、違うお風呂、また、新しい薬草湯、霧が本格的に濃くなってきたときに皇子をお風呂から出してベットに寝かせる。
エミリオの様に立って抱ける程、皇子は小さくない、ベットで王妃にそのまま抱いてもらう。
周りのみんなはやれることは全力で行った。後は、天に任せるしかないと考えていた。
あれから何時間経ったのだろうか・・・遠くでグレースの鳴き声が聞こえた。
「グレース・・・・ここよ、グレース。どうしたの?お母様はここよ」
シルキーがグレースを連れてやって来た。
「すみません、レノミン様、国王もレノミン様も、そして、エミリオ様も、ずっとお帰りにならないので、グレース様が泣き出しまして、お近くにいらっしゃるとお話ししたのですが・・・多分、不安になられたのではないでしょうか?」
「グレース、どうしたの?お留守番ができないの?」
「グス・・・だって、エミリオが橋が爆破されてから現場に行くと言って、ギシやバルトも連れて行って、私はダメだと言うの・・・お父様もいなくて、お母様もいない・・・グス・・・」
「はい、皇子は、国王に代わり前線に立つと申されて、ご出発されました。コチャ領への侵略があれば対処したいと・・・ご立派な指導者でした」
「------」
「グレース、こちらはグルガシ国のキュル皇子です。エミリオと同じように毒が体内に入ってしまったの、だから、みんなでその毒が体の外に出る様にしているのよ。わかる?エミリオも辛そうだったでしょ。グレースも皇子の手をマッサージしてあげる?」
「うん、マッサージする。キュル皇子、はじめまして、私はコチャ領のレディ・グレース・ファーストです。皇子がお元気になりますように私が皇子の手をマッサージしてもよろしいですか?」
グレースのあまりにも可愛い声に王妃が
「レディ・グレース、ありがとう。おねがいしますね」と答えられた。
霧が濃くなりグレースには皇子の手しか見えなくなって、「お母様、いらっしゃる?」と何度も聞く、レノミンは何度も「ここに居ますよ」と答え、グレースは皇子の手を摩りながら、『食いしん坊の妃とネズミ』の話をしたり、学校であった他愛もない話をしたりして、霧の中で頑張った。
「あ!!! お母様!! 皇子の手が暖かくなって、私の手を握ったわ! 」




