揺れる橋
第24章
言葉がでないまま沈黙が続く、国王は困った顔のレノミンに、静かに話を続ける。
「---僕は前世で子供がいたんだ。丁度、エミリオ位の子供で、仕事が忙しくて妻や子供の事など考える暇がなかった。いや、無かったというよりも、別に、考える必要性もないと思って、生きていたのかも知れない。職業柄、女性には困らなかったし、浮気も沢山した。お金は十分すぎる程、渡していて、それで父親や夫の役目を果たしていると考えていたんだと思う。・・・傲慢だよね」
「------」
「そんな僕でも、家族サービスとして、3人で食事に出かけることにした」
「・・その瞬間はいつも突然来る」
「地下の駐車場で車を降りて、車の間を歩いていた息子が突然、走り始めた、車がぶつかる音がして、妻と子供は天に召された。一瞬だった。僕だけが、子供が走ったらどうなるか?駐車場内は、どんな危険があるかなんて気にもしないで歩いていた」
「ーーー妻は子供を抱いていた・・・・・」
「どんなに大切な人を亡くしたかを思い知るのは、しばらくたってからだった。妻と子をひき殺した犯人は僕が二人を道路に押したと証言して、僕はマスコミの餌食になった。すべてのSNSは炎上して、警察も捜査を始めて、葬儀は妻の両親が行った。子供の姿を最後に見たのは事故に遭って血を流している姿だけだった」
「それまでの自分を、どんなに悔やんでも、ふたりは帰って来ない。僕はどうしたらいいかわからないまま、ずっと家にいた。会社のマネージャーは、何度か訪ねてきたが、出る気にはなれなかった。妻と子供にもう一度あって謝りたいと思う事しか、その時は考えられなかった。しかし、二人に会う方法は死以外は無い事はわかっていた」
「---マナージャーが、ドア越しに無実が証明されました。と話してくれた時には本当に良かったと思えた。もう、誰にも迷惑がかからない・・・そして、もう一つは、二人の所に行って謝罪しようと、今度、生まれ変わったら、どうそ! 僕を避けて欲しい、僕みたいな人間に関わってはいけない、すまない・・・すまない・・・すまない・・」
「それから、家の中にあった、あらゆる薬を飲んで自殺しました。僕には心が無い・・人を大切にする心が無い・・・ごめん、ごめん、と思いながら自殺して、そして、今、この国の国王になっています」
「僕が外交に力を入れていたのは、二人もこの世界にいるかも知れないと思って、国王になってからは、とにかく探した。だから、コチャ領でレノミンさんも発見できた」
「おかしなもので、僕を避けて欲しいと思いながら死んでも、遠くからでも二人に会いたい。どこかで生きていて欲しいと思っている。相変わらずなダメ人間と自覚しています。---エミリオがもうダメだと思った時、助けてくれるのは母親であるあなたしかいないと思って・・・妻が、なんの迷いもなく子供を助けようとしたように・・・僕はズルい人間ですね・・・・」
「レノミンさんは僕には何も聞かない、妻もそうだった。何も聞かないのは、僕に興味がないのだとわかっています。僕はこんな感じで、だらしない国王だ。でも、レノミンさんと、初めて朝、少しだけ会話したのを覚えていますか?あなたはこう言いました」
「---あなたは本当に生まれてくる皇子を守れますか?」
「僕んの命に代えても守り抜く! と答えました。その時の決意は本心だった。その瞬間、僕には心があると自分で思えた。そして、その時のあなたの声を、覚えていました。前の職業柄、僕には声を覚える能力があった。だから、Ⅼ葉さんが最初に本を丁寧に読んでくれた時に、すぐにレノミンさんだとわかりました」
「エミリオは、本当に僕にいつもヒントをくれます。子供の生まれ変わりなのかとも疑っています」
「でも、きっと、違うでしょう。あんなに無邪気に接してくれるはずない・・・」
「あの時、まっずぐ、あなたの所に来て、本当に良かったと思っています。もう一度、子供を失うことは出来ない。エミリオを、本当に愛していると自分で思えました。その心は本当で・・上手く言えませんが、グルガシ国のコロネ国王の心がわかります」
「---レノミンさんは疑っている?・・・僕が、点数稼ぎの為に、あなたやあなたの霧を使おうとしていると・・・?」
レノミンは黙ったままだった。こんな決断を、たった一人でしなくてはいけない時が来るとは、思ってもみなかった。大体の事は、周りのみんなが片付けてくれて、ほとんどの時間はこの別荘のこの部屋にいれば何とかなった。モブなのに・・・・そこに漂っていれば生きて行けるのに・・・どうしよう・・。
それから30分・・・時間が過ぎた。その間、レノミンはずっと、外を見ている。おぼろげに、心を無心にして、グルガシ国の王妃の事を考えていた。きっと、エミリオが、死にそうな時と同じ気持ちだろう・・・今は、何が正しいかわからないが、霧が教えてくれた。
「1週間以内に霧が発生します。なるべく早くこの別荘に皇子を迎えて下さい」
「ありがとう。レノミン!」
「その時には必ず、王妃がご一緒にいて欲しいです」
「うん、わかった」国王は廊下に出て、すでに待機していた6人に告げた。
すでに準備は整えてあって、さすがの6人もこの件に対しては、レノミンの決断に任せたのだろう。そして、きっと、レノミンを信じていたに違いない。
「国王、ハナ国の車はグルガシ国にすでに到着しています。後は、シン国王と男爵が国王を説得できるかにかかっています」
「国王、カタクリ国の国王には許可が取れました。橋を渡すことも了解済みです。橋は現在まだ完成していませんが、コンパスのように遠心力を使って簡易的な橋を架ける予定です。建設中の物が、少しは役立ってくれるといいのですが、そちらもカタクリ国が手助けをして下さるようです」
「後は、グルガシ国王の決断次第です」
長い夜は明けて、「レノミン!!グルガシ国の皇子はこちらに向かい始めました」
レノミンは頷いた。
(そうそう、この感じに自分は慣れてしまっている。頷くだけで、きっと、すべての準備が整っている仕様・・・これからも、皆さん、よろしくお願いします。わたし・・モブがいいので・・・)
この4国は、やれば出来る4国です。
グルガシ国の国王は、後は、手立てがないと悟ると決断が早かった。
シン国王はグルガシ国に自分で出向き、説得して、カスター国王は、お見舞いを申しあげて、快く、通行の許可をした。
3日以上かかると思っていた皇子の移動は橋の手前まで2日で来た。
カスター国王は、キース国王がヘマしそうで心配になって、皇子に同行して橋の現場まで来ていた。
橋は、500人の兵士の力をこの時もフルに活用して、なんとか架かっていた。
何かあっては元も子もなくなると思い、キース国王がその橋をゆっくりとカタクリ国に向かって渡る。最初はみんな自分が行くと名乗り出てくれたが、それでは意味が無いと、サンドロと国王が馬車に乗って迎えに行った。
内心・・・その場のすべての人たちはドキドキして、心臓が止まりそうだった。
「こ、国王、こ、この橋・・・・結構、揺れますね・・・・大丈夫でしょうか?」
「君・・・そういうこと言う??止めて、集中して、馬のご機嫌がわるくなたらどうするの?」
「国王・・・・」
「あっ!本当に無理だから・・・話しかけないで・・・」
揺れて、揺れて、吐きそうだと国王は感じていた。なんでも、即席は信じがたい!!
「国王!! もうすぐたどり着きます」
国王は、目を開けて向こうをみると、沢山の車と馬車が見えて・・・・その後ろの怪しい大量の影も見えた。
「なんて、事だ!!! あれはどの国の部隊だ!!! 」




