霧が・・・
第13章
「切らないで・・・大切な話がある・・・エミリオはもうダメかも知れない・・・」
「えっ?-----どういう事ですか?ダメって?・・もしかして・・??」
「ずっと、守って来た。君からもらった大切な命を・・・・大切に育てる為に・・しかし、今日の誕生祝賀会で毒に当たって・・・・食べてはいけないと、言い聞かせていたのに・・・子供は・・・」
「---エミリオは今はどんな具合ですか?」
「・・医者は今夜が峠だと・・・」
レノミンは窓の外を見ていた。
「そのお医者さんは信用できますか?大切にエミリオを治療してくれてますか?」
「---わからない・・・誰を信用していいのか、情けないが、わからないんだ・・」
「------」
「国王!! 夜が明けるまでに、私の・・コチャ領に、私とグレースがいる、コチャ領に来ることは可能でしょうか?」
「え!! 」
「国王!! 私はあなたを信じます。あなたがもしも私を信じて下さるのであれば・・・どうか、どうか、お願いです。我が領土に、エミリオを連れてこちらに・・・・、でも、無理と・・・知っています」
「行けるかも知れない・・・少し前に隣国の国王より車を頂いたから・・・・」
「夜明け前に・・・こちらに、来れますか?」
「うん、何もしないで、エミリオの命を閉ざしたくない、会いたがっていた君とグレースに、会わせたい、じゃ、また」
「プープープー・・・・」
レノミンはしばらくその場で座り込んだ。
「アーサー!!!」レノミンはその場で大声で家令の名前を呼んだ。
「アーサー!アーサー!!」
夜勤の侍女が気が付いたのだろう、家令はパジャマ姿でレノミンの部屋にやって来た。
「レノミン様、どうなさいました?」
レノミンは、震え、歯がガチガチ音を立てて、家令の両腕を捕まえた。侍女がびっくりしてこっちを見ている。家令は侍女に下がるように言い、
「レノミン様、大丈夫です。どうなさいました」
「---エミリオが死にそうです。毒を盛られて・・・今夜が峠だと、国王から電話がありました。エミリオは、誰よりも幸せな男の子でなくてはいけないのに・・・そう、願って・・・毎日、私・・・」
「わかりました。ここに居て下さい」
「すぐに、5人を集めます」
ミンクはレノミンを支えていつもの部屋にやって来た。
「わかりました。国王は車でエミリオ様と共にコチャ領に向かってお出でですね」
レノミンは頷く、
「霧が・・・今晩は霧が・・出ているから・・・エミリオを助ける為には信用できる医者とこの別荘の庭が必要だと思って・・・・」
「・・・・・・」
6人は余り信じていないが、グレースが3歳の時に高熱がでて、肺炎になったことがあった。
その日はやはり、今日みたいに霧が、湖畔の庭を覆っていた。
現代社会と違い、子供の生存率がそんなに高くないはずだと考え、レノミンは霧に賭けた。そう、レノミンは萩村クリニックに、子供の頃、喘息で入院していた。萩村クリニックは川の近くにある小さな村の大きな病院でこども専門の病院だった。そこでは具合が悪くても、霧の出る夜は庭にでる。
遊んでもいいし、眠ったままでも大丈夫、子供の頃のことは、余り覚えていなかったが、グレースを産んでから萩村クリニックの事を思い出した。
あの場所は現代の日本では、聖域と考えてもおかしくない。マスコミや一般の人の入村を国が禁止しているのだから・・、きっと、何かある。
その答えはグレースが教えてくれた。病気のグレースをレノミンは抱いて一晩、過ごした。もちろん、ミンクはつきっきりで支えてくれたが、レノミンはグレースを抱き続け、体をさすって、大丈夫、大丈夫と囁き続け、次の日には熱が引いた。
「レノミン様は、別荘にお二人をお連れしたいのですか?」
「そう、霧が出ている間に、でも、ミンクにも助けてもらいたい・・・」
「もちろん、薬の手配もしてお待ちしています。領土内で起きることはどうにでもなります。私は、一番にエミリオ様を、診察したいので、関所の方で待ちます」
「車だと、どの位でこちらに来れるのでしょうか?」
「・・・・・・」
「とにかく、エミリオ様のお命が大切です。関所から別荘まではそんなに距離がありません。二手に分かれて待機しましょう」
レノミンは、まだ体の震えが止まらない。自分に出来ることは、エミリオを抱いて霧の中で立つことしが思いつかないのだ。
一方、宮殿では、国王が車に荷物と燃料を詰め込んでいる。シートは少し硬い、毛布でエミリオをくるんで、頭には沢山のクッションと水を用意しよう。
垂れ流しでもいい!! なんとしても体外に毒を出したい。これしかない!! 信じられるのはこの3年近くエミリオを笑顔にしてくれたレノミンとグレースしかいないと思っていた。
それに・・・なんだか彼女は自分と同じ感じがしている。なぜだろう・・・
それにしても、皇子が危篤なのにこの静けさ、吐き気がする。
ブオン、ブオン!!
「行けそうだ! エミリオ!しっかり、絶対に守り抜く! お母さんとグレースに会いに行こう! 」
積み込める武器と水、クッション、燃料だけを持って、国王はコチャ領を目指す。エミリオの頭を自分の膝にのせてなにがあっても大丈夫なように・・・頑張ってくれ、エミリオ。
「どうして、もっと早くに宮殿を脱出しなかったかと、お父さんを責めてくれ! ごめんな・・」
「出発!! 」
国王は宮殿の扉を開けさせる。
「国王、どちらに?」
「医者のところへ・・開けろ!! 」
何も知らない門番は門を開ける。門が開くと同時に猛スピードで加速する。この車・・意外にいい感じだ。ギアも滑らかで、スピードも出る。コチャ領までの道はこの3年近くシミュレーションしている。自分に何かあったらエミリオをレノミンに託すために・・・エミリオをグレースの様に、活発で明るい子供に育ててもらいたいと・・・まさか、こんな子供に毒を盛るなんて・・それも、誕生日に・・絶対に許せない!!
国王は王都が大嫌いだった。嘘つきばかりで、能無しがお金を握り、才能のあるものが借金に苦しむ貴族社会、自分の血筋が尊いと思いこんでいるバカたち・・・訓練もしない軍隊は、本当に使えない。
それでも、国王の車を追って、貴族の部隊が、向かってくる。人を引く事は、犯罪だと生まれた時から習ってきたが、この世界ではそんなことは無い!! 向かってくる近衛兵は武器を持っている。
国王に向かって武器だ。狂ってる!!
「国王!!止まって下さい。どちらにお出でですか?」
「止まったら・・・事故死あつかいか?」
国王はどんどん加速した。町の中の物を吹き飛ばし、向かってくるもには、わざとぶつかって行った。
やはり、腰抜け兵士たち、30分もするともう誰も、後ろにはいなくなり、少し安心できた。
自分でも狂っていると思う、こんな夜中に、死にそうな子供を車に乗せて、医者に診せるでもなく、ただ、ひたすらに、彼女の言葉を信じてコチャ領に向かうなんて・・・
コチャ領、
車のエンジン音で近づいてくるのがわかる。
サンドロが、花火で道しるべをつくり、エンジン音を消す。花火の光の中で車を確認できた。
国王もその花火を随分前から頼りにしていた。
「来ました。車と言う物がきました」
「開門しろ! 」
「国王!!止まって下さい。レノミン様から頼まれた医者です。ドアを開けて下さい」
ミンクとギシは車に乗り込みギシは道案内をして、ミンクは診察をした。
「間抜けな医師はどんな毒に当たったと言ってましたか?」
「毒とは認めない・・・解毒も処方されたかどうか・・・」
「コンチクショウ!! 」
「ここまで、皇子はどんな様子ですか?」
「意識は混濁して、解毒した方がいいと思い、水をずっと飲ませてきました。毛布にくるんで汗もかいて・・」
「熱が高いですね。急ぎましょう」
車のライトを頼りに、レノミンは駆け寄り、汚物だらけのエミリオを抱き、急いで薬草湯が入ったバスタブにそのまま入る。ジャルや家令たちはエミリオを清潔にして、次のバスタブに又レノミンと一緒に入れる。レノミンは何度も何度も名前を呼ぶが反応は帰って来ない。
「エミリオ、お母様よ、もう心配ないのよ。グレースも、あなたに会いたいと願っている。エミリオ、行かないでね。お願いよ」
「レノミン様、こちらに毛布に包んでマッサージしてますから、着替えて下さい」
レノミンは頷く、着替えが終わり、そのままエミリオを抱いてずっと湖畔に立っている。国王は
「どうして、別荘に入らないのか・・・このまま、エミリオを殺してしまうつもりか?」
「国王、どんな毒を飲まされたかわからないと解毒薬は劇薬にもなりえます。今はレノミン様を信じて見守ってあげてくれませんか?彼女の気持ちを信じて・・お願いします。エミリオ様を、とても、愛している方です」
「------」
「霧が・・・霧がすごく濃くなりました。まるでお二人を包んでいるようです」
「・・・・・・」




