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7月7日午前5時

第12章

 学園のすべての生徒、関係者はグレース・ファースト様とか、レディ・ファーストと、呼ぶようになったことに、グレースは戸惑いを隠せない。しかし、ティアが家令として再びグレースの元に戻った事が何より嬉しかった。


 誕生日会が近づくにつれて、5人は、死ぬほど忙しくなった。どのような感じで、行いたいのかは簡単に絵を描いてイメージを伝えた。


 「ちょっと、盛り込み過ぎですが、こんな感じです。花火とかは、あればいいなぁ~~位ですが・・」


 「お花は子供が動いて危なくない程度に、飾って欲しいと思います」


 「料理はお任せしますが・・・湖でとれた蟹は出来れば沢山、振舞って欲しいです。グレースは大好きなので・・・私も・・・・。お上品は方たちにはちょっと向きませんが、子供はもしかしたら食べるかもしれないですよね」


 「蟹は毎日のように探してストック出来ています」


 レノミンにとって、ある意味、目の前の湖は宝だった。


 食いしん坊の妃とネズミの森のようでもあった。なんといっても美味しい物がたくさん捕れて、しかも、周りの人達はあまり食べない。


 もしも、あなたが落としたのは金の斧ですか?銀の斧ですか?と聞かれたら、正直に銀の斧だと告げます。と、いつも湖に話かけている。


 それ程、レノミンにとってはかけがえのない湖だった。


 会場の設営はサンドロが担当するが、子供の誕生会を、どの子供よりも楽しんで準備しているようにも見える。ある日、バルトが火薬の購入の請求書の金額がおかしいとサンドロに話しているのを小耳に挟むと、盛大に爆発ショウを行う予定だと真顔でバロンに答えていたので、バルトは真っ赤な顔で怒っていた。


 「今回はグレース様の安全、招待客の安全が一番の指針です。爆発ショウなんてありえません。どうするのですか、この火薬・・・危険すぎる!!!」


 「でも・・・それが一番、グレース様が喜ぶと思うけど・・・彼女が目指しているのはジャルと僕だと思っているけど・・・違うかなぁ・・・?」


 「------」


 そうなのだ・・・勉強の面ではティアを目指し、運動能力と遊びごごろでは、ジャルとサンドロを尊敬している。自分もそうなれると、思っているのかも知れない・・自分が産んだのに・・・、足踏み昇降しかできないのに・・・その点は、大変、申し訳なく思っていた。


 7月7日、早朝、花火が盛大に上がった。町中がグレースの誕生日を祝う。


 昨日のうちに屋敷に戻っていた別荘の人たちは、早朝5時には仕事に取り掛かった。


 レノミンも昨日のうちに会場内の点検を行い、許可をだした。


 「今日は何人位、いらっしゃる予定ですか?」

 「生徒さんは50人ですが・・・学校関係者も招待していますので、300人程度だと思います」


 「入館の認証はどのようにしますか?」


 「はい、ギシが事前名簿で顔を確認して行きます。ギシの目で疑いのある方は、別室でお茶を差し上げて、話をしながらの確認を行う予定です。そこはミンクが顔色が優れない・・とか、言って、医者対応にする予定です。後、伝染病を会場に持ち込むことが無いよう、各所に手洗い場を設けてあります」


 「食事も、こちらからのサービス形式にしました。毒が一番の危険ですから・・」


 「アイス、ケーキ、お菓子、飲み物も、すべて小さなテーブルで、お付きの人と召し上がるマナーを徹底するつもりです」


 「大人たちの社交場は庭がメインになると思いますが、今日は流石にグレース様の誕生日だけあって、晴天です。すこし、熱さが心配ですので、噴水の近くにテントを設け、そちらで対応します」


 「飲み物はアルコールは控えて下さいね。使用人たちにも、グレースの誕生日会だと言う事を、徹底させて下さい。本当に・・・それが・・心配で・・・」


 「大丈夫です。子供が楽しむイベントが目白押しです。レノミン様が言ったネズミの人が入る着ぐるみは多分大人気ですよ。素晴らしい出来上がりですから・・・」


 「あれ?誰が入るの?」


 「いやだな~~~人が入るなんて・・・本物ですよ」


 「バルト・・・」


 レノミンが昔、使っていた部屋で、グレースと二人で支度をする。今日が初めての領主としての大仕事だ。


 「お母様、昨日、エミリオから電話があって、エミリオも今日が誕生日ですって、同じ日に生まれたんだよ。スゴイ!! 偶然!でも、私、最初に1歳年上って話してあるから・・・同じ年って言えなかった」


 「そうね、それはグレースのミスでしたね。皇子様も今日は盛大なパーティーが、開かれると思いますよ。でも、それに負けないグレースの誕生会にしましょうね」


 「そうだよね。でもね、エミリオは全然嬉しくないって、王宮が嫌いなんだよ。どうしてだろうね?家より立派なお城があるのでしょ・・・もっと、沢山のお友達も呼べるかも知れないのにね」


 「そうね・・・どうしてだろうね??」


 エミリオの話をすると、レノミンの顔が曇ることを、グレースは少しだけ気づき始めていた。


 「お母様、今日、私の為に本当にありがとうございます。すっごく、楽しみにしているよ。Ⅼ葉様の事は、絶対に秘密を守るからね。さあ! 一緒に、手を繋いでいきましょう。練習した挨拶するんだよね。お母様、頑張って!!今日のお母様、とってもキレイだよ」


 「ありがとう、グレースも本当に綺麗・・素敵なレディだね。お誕生日、おめでとう! 」


 10時には来客が、プレゼントを携えてわんさかやって来た。入り口でレノミンとグレースは一人一人に挨拶して、子供たちには特別バージョンのネズミ兄弟がくっ付いてる物をプレゼントした。


 大人も子供も着飾り、顔はつねに笑って、穏やかに時間が過ぎた。


 レノミンは領主として初めての挨拶を行った。とっても短い挨拶だったがその場には馴染んでいた。


 12時には、木から木へロープの上を、小ネズミたちが移動した。その後、特大の着ぐるみが現れると、子供たちは大喜びで飛びついた。上品なご婦人様たちも、抱き着いて癒された。


 「ねぇ、ホホ、どうして?机の下に隠れているの?」


 「グレース、お誕生日おめでとう。私ね、きっと、この中にⅬ葉様がいると思っているの!だから、こうやって、隠れて探しているのよ。だって、こんな盛大なパーティーが開けるのは、きっと、Ⅼ葉様のお許しが必要でしょ!!」


 「Ⅼ葉様に会ってどうするの?皆に教えるの?」


 「まさか・・私ね、病気がちの妹がいるの、その子がね、とっても好きなのよ。『食いしん坊の妃とネズミ』が、何度、読んでも嬉しそうで・・・だから、お礼が言いたいの、素敵な絵本をありがとうって、そして、ネズミのぬいぐるみは、この領土を救ったって、お父様がおっしゃっていました。だから、心からお礼が言いたいの・・後・・・図々しいけど・・サインも頂きたいな~~と思って、今日は、いつも妹に呼んでいる本を、持参しているの・・・」


「グレースは、Ⅼ葉様に会った事あるでしょ?」

「うん、あるよ。だから、今日は、来ていないのを知っている。でも、妹さんに秘密でサインを頼んでみるよ」


 「本当??」


 ホホは、急に立ち上がり、机の上の特大ケーキが地面に落ちてしまった。周りは騒然となり、グレースとホホはびっくりおののく・・・。


 その時、レノミンがケーキのクリームをグレースの鼻の頭につける。

 「グレース、お誕生日おめでとう!!」


 グレースはホホの顔にクリームをつけて、「ホホ、楽しい誕生日ありがとう!!」ホホは周りの友達にまたつける。

 

 子供たちは走り回り、大人は障害物をよけて行く、いつの間にかそこにいた50人の子供たちは皆で大騒ぎになり、せっかく仕立て屋で仕立てた服はクリームまみれになった。


 その時、木の上から、放水が始まり、またまた、大騒ぎに・・子供たちはより一層頑張って、遊びを謳歌した。大人たちは放水の前にレストランとカフェに移動して、その様子を楽しそうに見ていた。


 「今度の領主様はなんて慈悲深いお方でしょう」


 「久しぶりに子供の満開の笑顔を見た気がします」


 最初は、びっくりしていた招待客も、これは子供の誕生日会だと、気が付いて納得していた。


 ある程度、庭と屋敷が濡れたのを確認して、サンドロの小規模爆破ショウが執り行われた。グレースは想像より、ちょっと控えめだと感じながらも、ホホの瞳がキラキラして花火が映っているのを見て、なんだか嬉しかった。


 自分の誕生日を祝ってもらう事で、友達も楽しそうなのが嬉しかった。今日は最高に嬉しい!!


 最後の花火が打ちあがって、お開きになった。子供たちにはすでに黄色いネズミのTシャツが用意されていた。みんながそれに着替えて会場を後にする時に、グレースはホホを連れて、レノミンの前にやってきた。


 「お母様、友達できた!!ホホ! 」

 「初めまして、私・・同じクラスのホホ・サンドと申します。今日はケーキを台無しにして・・ごめんなさい」


 後ろでホホの両親は心配そうに見守り深く頭を下げた。


 「ホホ、グレースとお友達になってくれてありがとう。ケーキは大丈夫よ、まだまだ、沢山、作ってあるのよ。この後、この会場で働いてくれた人達と、これからまたお誕生日を祝うつもりだから・・気にしないでね」


 ホホは真っ赤になって、頷き、グレースと手を繋いで走っていった。


 レノミンが一番聞きたい言葉をグレースは今日くれたようだ。

 (友達ができて本当に良かった。)


 その後、もっとひどく、グレースたちは暴れて、バルトはカンカンに怒って、みんなは歌って、踊って、飛んで、食べた。


 別荘に戻る馬車の中ではダリア、シルキー、グレースは3人で抱き合い眠っていた。


 レノミンは毎年、この日は眠れなかった。


 別荘に着いて昼間の騒ぎが嘘のように思える。


 「お誕生日、おめでとう。エミリオ・・・今日はどんな一日でしたか・・・?」


 そんな時、部屋の電話が鳴る。


 「もしもし・・・・」


 「もしもし・・・レノミンさんですか?」


 「---国王・・陛下・・??」


 時が止まるとは、きっと、今・・・・。


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