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宮殿での出産

第1章

 毎日、毎日、図書館で過ごしていたからだろうか? 

 

 いつの間にか、図書館にベットや机等が運ばれ、彼女にとっての快適空間が常設された。

  

 「お嬢様、ご気分はいかがですか?召し上がりたい物がございましたら、おっしゃって下さい」との問いに、この言葉を発しない少女は、ただ首を縦に振る。


 この少女はレノミン19歳、唯一身内だったの父親が、死亡してから、口が利けない事にしている。


 口が利けないとは、防衛本能でそうなっただけで、聞き取れるので、多分、会話が出来る。転生のお約束なのかとも思っている。


 例え話せても、絶対に話したくない、それはもう一度、死にたくないから…、そう、前世で一度死んでいるから、死に対して怖くてたまらないのだ。


 そう、あの瞬間…私が、転生されたのはレノミンの父親が亡くなったと知らせを受け、そのまま昏睡状態に陥ったあの時、そして、日本に住んでいる、地味で、ネット小説やアニメが趣味な、存在感のないモブ女が交通事故に遭った時。


 その瞬間、空間が歪み、光が舞い落ちた…そして、レノミンは危篤状態、お腹の子供は絶対絶命だったが、奇跡的に回復して、現在6ケ月になる。


 目が覚めて周りを見渡すと、中世の貴族のような世界、これはよくある…悪役令嬢系なの?


 もしかして、破滅フラグを折って生きるしかないのか?そうだとしたら、良く良く考えて行動しなくてはいけない…そんな強迫観念にとらわれていたら…自然に、口が利けなくなった。


 幸い、自分のまわりの人は、とても役に立つ人たちばかり、ここ3ケ月、観察に観察を重ねての信頼関係、侍女は2人、ミンクとジャル、とても思いやりを持って、接してくれている。


 「お嬢様の読書好きが、きっと国王様の耳に入って、遠くの図書室に通う事が、不便に思われての事でしょう」


 ええ…スマホがないこの時代、情報は、今の所、この図書館で集めるしかないと思い、毎日通っていたら、ベットが運ばれ、室温は適温で、レノミンの関係者以外は入室を禁じられた。

 

 この快適図書館はレノミンの聖域と言える。


 なぜ?このような厳戒態勢かと言うとレノミンは代理母で、決して、王妃様ではない。


 隣の国の王女を娶った国王は、和平の為にも嫡子が必要だったが、王女は病弱で子供は望めずにいた。


 そんな時、へき地、借金地獄の領主の一人娘を遠征先で見つけた国王が、借金の返済と、その領地を女性であるレノミンに特例で継がせてくれる約束をして、代理出産を持ちかけてきた。


 そう…レノミンは隣国の王女にそっくり、正にうり二つだった。


 その話をお聞きになったお父様は、烈火のごとくお怒りになり、国王陛下にとても受け入れられないとお返事したのですが、父上の主治医から衰弱するお父様の体調を聞き、また多額の治療費の必要、まして、借金領地の経済の状況はレノミンでもわかっていた。


 しかし、レノミンが転生した時は、すでに妊娠3ケ月だったので、代理母の授精は、いかように行われたのかは不明だった。


 したのか?しないのか?現代の様に受精卵を戻したのか?他の方法もあるかは不明のままだった。

 

 しかも、全然会いに来ない国王は、本当の王女様を愛しているのか、夜這いにも来なかった。


 ましてや、実際、国王にお会いしたのも、危篤状態から目が覚めた時に一度だけ、安心したような顔でレノミンを見ている姿だけだった。


 ぼんやりする頭の中で、情が湧くのも困るが、顔がわからないのも困ると思い、そのお顔を記憶に留めて置こうと思ったが、また眠りに落ちた事を覚えている。


 そのたった一度きりの対面で、産まれたばかりの我が子を、手放す決心をしなくてはならないのは、いくらモブオタだとしても、辛いと感じ落ち込む日もあった。


 憂鬱な時は二人の侍女の優しさに甘え、出産と言う大事業を成し遂げる為に、健康に育って欲しいお腹の子の為にも、鬱にならないように散歩したり、本を読んでこの国の事を勉強し、栄養のある食べ物を選んで食べたりした。


 妊娠期間、熱心に取り組んだのは、絵本の作成だった。絵を描きながら、文章を添えてお腹の子供の為に1冊でも残せたらいいと思い作り始めた。


 それを見た、侍女のミンクは感激してくれた。

 「お嬢様、今、王都では、出版が人気です。こちらを売り込んではいかがでしょうか?」


 レノミンはしばらく考えて、「うん」と頷いた。


 自分に出来ることがあれば、何でもしておきたい。自分は、お腹の子を健康に産む事しか、出来ないと思っていたので、ミンクの提案はとっても嬉しかった。


 ミンクとジャルには宮殿の外に待機させている領土の使用人たちがいる。


 彼らはバルト、サンドロ、ギシといい男性らしい、領土からの侍女は2人と宮殿からの指示があり、その他の使用人達は、宮殿には連れてこれなかったが、まだ健在だった父が、宮殿の外にこの3人を配置してくれたようだ。


 そこで、ミンクたちはこの男性3人に絵本の売り込みを任せた。

 

 「お嬢様、絵本は高額で売れました。良かったですね。出版社が言うには、もしも、また素敵な絵本が出来上がったのであれば、持ち込んで欲しいとのことです」


 レノミンは、本当に嬉しかった、この子に、残して置けるのは絵本だけだと思っていたし、宮殿に残してもきっとレノミンが去った後には、処分されることもわかっていた。


 もしも、本当にこの世界で、出版されてるのであれば、母が子供を思う気持ちをこの本の中にでも残しておけると思った。レノミンが子供に残せる最初で最後の贈り物である。

 

 そして、その気持ちを、侍女2人はくみ取って、出版を進めてくれた事もレノミンはわかっていた。


 図書館では本を読み、最初に与えられた部屋では絵本の製作に力を入れていた。


 ある時、筆記で、ミンクとジャルに王都での売れ筋の本を聞いてみた。


 売れ筋は恋愛ものとやはり…色ものだった。


 その情報を元に、暇に任せて恋愛ものにも、取り掛かった。前世でオタクだっただけにスラスラと書けた。覚えている内容の物を再現するだけも良かったし、自分の好きな内容にもできて、楽しくて仕方がなかった。


 大体、男性の1号とヒロインは結ばれるが、2号が好きな読者も多く、レノミンの小説は2号と結ばれるように変更したりして、思い通りの小説に、ビバ!! ロマンス小説!! 心の中で何度も叫んだ。

 

 実は色ものも大丈夫だとは、二人にはさすがに言えなかった。前世の記憶をたどれば結構きわどい内容もOKだけど、それはヤメておこう。


 暇に任せて書いた恋愛小説も、また、外の3人に売り込みをお願いした。


 侍女2人は気を使っているのか、

 「お嬢様、今回も高額で売れました」と、笑って言ってくれた。


 絵本や小説を書く事で、気晴らしが出来て、心が少し軽くなり、健康も取り戻すこともできたようだ。


 転生時の危篤に陥ってからは、常に、医師が待機していたが、出産までは、特に何も起こらず、健康的で、明るい妊娠ライフを過ごせた。


 穏やかな時は流れ、出産予定日前に、陣痛は、やって来た。


 その日の朝、侍女たちに付き添われて、トイレに行った時におしるしがあり、出血したのだ。


 宮殿の中は急に慌ただしくなって、王妃様を扱うようにまわりの人たちが、入れ替わりやって来た。その中には、顔がはっきり見える国王もいた。これで二度目の拝謁だった。


 国王は、レノミンの手を握り、耳元で、 


 「出産が終わっても、最低1ケ月は、大事を取って、宮殿にいて下さい。もしも、体調が悪くなったりしたら、すぐに医師に見せます、その後、秘密裏に領土に戻れるようにしますので、安心して出産してください。また、何か不都合が発生した場合は、必ず、私に相談してください。それから…今回、本当にありがとうございました」

 

 国王は、誠心誠意、すまなそうなお顔をしながら話を続ける。


 「この国の為に、辛い思いをさせたことを、心に留めています。出産した後は皇子でも、王女でも、すぐにこちらに引き渡すことになりまが、私が大切に育てますので、心配はいりません。出産には万全で臨みます。大丈夫、安心して下さい。ここから先は、私は入れませんが、あなたの事は忘れません、ありがとうございます」


 「それから、女性領主の件は、すでに手続きが終わっています。しばらくは金銭的にも困ることはないでしょう。辛いでしょうが、気をしっかり持って、出産を終えて下さい。あの扉の向こうには、あなたの自由があります。頑張って!! 」


 レノミンは陣痛の痛さか、子供をやはり取られると思う母性なのか、それとも分娩室での、孤独と、恐怖なのかわからないが、国王が、握っていた手が離れる時、とてつもなく泣いていた。泣いて、泣いて、その後、頭の中でミンク、ジャル助けて! と叫びなから子供を産んだ。


 薄っすらと、「素晴らしい!皇子の誕生です。万歳!! 国王陛下、おめでとうございます」と聞こえたように思えた。そして、パタパタと足音が…・。


 その後、目が覚めたのは、よく知らない部屋。


 そして……


 「お嬢様、かわいい女の子ですよ。お嬢様そっくりです」とジャルは温かい赤ん坊を抱かせてくれた。



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